第4話 吸血姫は城を出る。
その後は私という魔族を放置して建物内から一切の人族が居なくなった。
存在感が薄い状態で待機していたので気づかれる事は早々ないのだけど魔力の無い世界ならともかく、魔力や魔法の有る世界ですら私の生来スキルで回避出来るというのは凄く微妙な気分である。
ともあれ、そんな中──、
(ふむ。周囲から人気が完全に消えたわね? 一応、この床面にある魔法陣だけは壊して差し上げましょうか。今後も被害者というか加害者予備軍を作らないために・・・)
足下に残る魔法陣を見た私は天井に記された従来の召喚陣とは別に敷かれた物と無意識に察してしまう。これも女神様の意図なのかもしれないけどね?
(壊れた壊れた。魔力が霧散して陣はそのままに隷属機能だけは消滅したわね! 全く勇者召喚とは名ばかりの殺戮者を呼ぶ目的だったとは女神様も散々よね〜)
そう、足下に残る魔法陣は闇属性の隷属機能を持った物だ。そこに闇属性魔力と相反する光属性魔力を充がい、ぶつかり合う反発力を用いて破壊した。
この陣も完璧とは程遠いものだったが、異世界人の心を書き換えるくらいならこれでも問題ないという事なのだろう。例外は魔族の私だけが頭痛というレジストが起きただけだ。
外に出る前に建物内の様子から建物外の様子を〈遠視〉スキルで把握した私は──、
(さて、建物の中でも見てまわりますか。なにか面白い物はあるかしら? あるといいわね。魔法といっても私が使える物は錬金術に関係するもの・・・以外も使えるのね? ふーん? 空属性だと亜空間庫もあるのね? デイパックの中身とか全部こっちに移しましょうか。スマホもそうだけど、この世界にはない物品を持ち歩くといろいろ面倒だし、この派手な制服も・・・私服に着替えた方がよさそうね)
改めて自身の掌を眺めながら〈スキル鑑定〉を行い、必要な着替えを先に行う事にした。
異世界人という風貌だと、あの勇者達と同列視されかねないという事でもあるしね?
(私服は動きやすいTシャツと短パンだけど、レギンスは穿いておいたほうがいいわね? 下手に素肌を晒すのはよくないみたいだし、上も長袖を羽織っておけばいいかしら? あとは資金が手に入り次第、この世界の服を見繕うのもありね)
私服に着替えた私は水色のセーターと白いブラウス、緑のブレザーと赤いタータンチェックのプリーツスカート等の制服をデイパックに片付け亜空間庫へと収め、着の身着のまま建物外へと出た。
一応〈遠視〉スキルで外を把握したところ、扉脇に衛兵が居たので壁面越しに生命力と魔力を戴いた。
一時的に昏倒はするだろうけど下手に誰何されるのも面倒だもの。
あとは、お腹も空いてたしね?
食べずに生きていくには生物の生命力が一番でしょう?
(なにげに味が濃いわね〜。うん! もう少し悪意のある者だったなら、甘みが増したかもだけど、現状だとこれが精一杯でしょうね〜)
そう、悪意有る者の生命力だと甘みが強く、悪意のない誠実な者ほど塩味なのだ。
異世界人の場合は、それに加えて魔力という味付けがあるから蜂蜜を垂らしたような濃厚な風味となった。これが同じ世界から来た者なら悪意があっても凄い薄い甘味なのだ。
ちなみに私の称号欄にはやはりというべきか〈悪意喰らい〉が書かれていたから、女神様が気を利かせたのかもしれないけどね〜。
それは生来の〈触飲〉に〈魔力触飲〉が追加されていたのだから。
§
ひとまず例の召喚場を出た私は存在を〈希薄〉としたまま建物内を見て回った。
すると、訓練場だろうか?
「へぇ〜。いきなり頑張ってるわね〜」
その場には王寺輝明などの勇者パーティーの面々がレベル上げに勤しんでいたのだ。
まぁ〈鑑定〉する限り、レベルは1のままだが経験値が徐々に取得され、少しずつだが〈剣技〉スキルやら〈体術〉スキルなどが身についていた。
「王寺は勇者、上枝は神官、枝葉兄は・・・槍術士かぁ。妹は・・・魔導士ね。残りは変態青海は魔剣士と。脳筋パーティにはおあつらえ向きなメンツよね? 神官と魔導士の違いが判りづらいけど戦闘が妹で、支援が上枝かしら?」
私は戦闘訓練を行う者の目前に陣取り、その様子を眺めた。今は誰からも誰何されないし他の面々も素通りしていたから。
気づかれたのなら、なにかしらの話し掛けがあるからね? それすらもないのだから不思議な話よね。そう思ってたのもつかの間、私は建物の中を歩んだのだけど・・・油断だったのね。
(あ! 扉が壊れた!?)
そこは魔法使いの居る区画だったのだろう。
私はそこをチラ見するために触れた扉がガタンと大きな音を立てて崩壊したのだ。
だからその瞬間、内部に居た者達は愕然とし、扉の前にガヤガヤと集まった。壊れるってよっぽど脆い建物だったのね?
そう思ったのだけど実際は──
「魔力封じの扉が破壊されただと!? しかも内部に宿る魔力ゴッソリ削られてる・・・」
おそらく扉自体に魔力を纏わせていたのだろう。それを私の無意識下の〈魔力触飲〉がゴッソリ食べてしまいました。味わうつもりがなくとも自動吸引なようで適度なところで魔力鍛錬しようと思った私である。今のままだとただの災害でしかないのだから。
(うーん? 手当たり次第見て回ったけど、魔法使いの居た場所以外だと、これといって珍しいものはないわね〜。異世界とはいえ基本はあちらと大差ないのね。がっかりだわ)
扉破壊のあとの私は、いろいろ見て回ったのだった。それは謁見室だったり国王の居た場所だったり、近衛兵達ともすれ違ったけど気づかれる事はなく色んな意味でがっかりした。
建物内を見て回り、くだらないと思いながらの私は・・・下品な顔をした騎士に遭遇した。
(あ! この人、美味しそうな匂いさせてる! えっと? ほほう。侵略案を出したのはこの者ね?)
遭遇した瞬間、私にしか判らない嗅覚が作用し、お腹が・・・鳴った訳じゃないわよ・・・鳴ってもおかしくないほどの甘い薫りがしたので、すれ違いざま腕を突き、摘まみ食いしたの。
すると騎士の記憶が流れこんできて、首謀者だった事に気づいた。
だから私は満面の笑みで──
(悪意の塊みたいな方ね? 摘まみ食いでなお結構なお点前だから、残りはどんなお味かしら?)
「ぐわ〜!?」
背中から心臓付近に掌をあてがい、死なない程度の生命力を召し上げさせて戴いた。
男の身分は軍部のお偉方な感じだったけれど、倒れる時は扉脇の衛兵達と同じだった。
この男も顔面蒼白のまま突っ伏したのだ。
(一ヶ月も寝れば目覚めるでしょうから、そのときにまた出会えるようなら戴くとしましょうか? 凄い美味でした! ごちそうさまでした〜!)
ともあれ、その後の私は泡を吹いて突っ伏す騎士の背後にて頭を下げたあと、彼の生命力と闇属性魔力を味わいながら建物を後にした。
「あと、気づいたけど・・・ここって城だったのね? 地味に狭い城だったわね〜。学校が広いだけかしら?」