第39話 吸血姫は下僕求めて一人動く。
それは〈常陽の刻〉の午後。私は〈黒銀のローブ〉姿のまま一人で粛々と戦闘こなす。
「シオンが嫌がるから気になってきたけど大した事ないのね? ま、弱点が分かってしまえばそんなものよね・・・」
私は不意に戦力増強としての仲間を選定を行う事とした。
「さて、次に蘇らせる者は誰にしましょうか」
それは使い勝手のいい者を用意する事にあるのだけど、今の仲間はスキル面よりも王族教育を主としているため、滅多に外出しないのだ。
いや、出てきても良いのだけど亜空間で過ごす方が楽というモノグサが増えたともいう。
「やっぱり、男手は欲しいわよね〜」
そう、男手・・・本来ならユーマがその人員だったのだが本人の意思により女となった事で奴隷・・・否、体の良い使いっ走りが用意出来なかった。
ユーマもユーコ同様になに気に可愛いしね?
ドSな私でもそんな子をアレコレと走り回らせるというのも気が引けるから。
あとはシオンを走り回らせるという手もあるけど、あれはあれで立場があるので、それは不可となったの・・・私としてはそっちの方が良かったけどね〜。
とまぁそんな人員を意識下で選定していた私は視界外から襲い来る魔物に対し──、
「いえ、男はしばらく不要ね。となると妹ちゃんを優先しようかしら? 妹ちゃんならシオン同様、好き放題いじくり回せるし・・・うるさいわね?」
「ギャウン!?」
飛空船やフライパンの金属で作った一振りの大太刀でもって一刀両断した。
単純に言うと首チョンパで鱗の薄い面から反対側に向けてザックリと切り落としたのだ。当然、血しぶきは浴びてないわよ?
これはユーコの〈隠し長杖〉やユーマに与えた刀と同じもので刀身に触れたものを焼きながら切るというものとしたの。血しぶきを浴びて衝動に駆られないための魔道具の一種ね?
「とりあえず、予定に追加っと・・・」
魔物を片付けた私は〈スマホ〉を取り出してリマインドした。私の足下には〈ゴールド・ドラゴン〉の亡骸が数体ほど転がっていた。
実は第六十浮遊大陸の開拓依頼をされるまでもなく暇つぶしの戦力分析に訪れたのだ。
あのシオンが戦いたくないとした災害級の魔物だし、どれほどの物か知りたかったのもあったのよね? でも戦った感じ魔法防御に優れているわけでもなく鱗の無いところを狙い撃ちすれば倒せるという魔物だった。
そう、私が数体ほど倒したドラゴンの亡骸の上で〈スマホ〉を見つつ呆けていると──
「一振りでドラゴンを狩っただと!?」
「あの黒髪の魔導士・・・いや、女冒険者は何者だ?」
「ドラゴンキラーかよ・・・」
開拓に来ていたAランク冒険者達だろうか?
ドラゴンの上に立つ私を見上げ口々に戦慄していた。まったく失礼な話よね?
こんな綺麗な女性に対してドラゴンキラーとか言って怯えるなんて。
「予想外に弱かったけど・・・ドラゴン素材は資金になるし全部持ち帰りますか」
私は引き続き襲い来るドラゴンだけを片付けた。そして地面に保管魔法の魔法陣を展開してドラゴンの亡骸を亜空間庫へと収めながら空間跳躍で、第六十五浮遊大陸へと舞い戻った。
その光景を見ていた冒険者達はというと──
「一瞬でドラゴンが消えた?」
「違うぞ!? さっきチラッと見たがあれは保管魔法陣だ!?」
「じゃあなにか? あの魔導士・・・消えた?」
「一体なにが起きたんだ?」
一同が茫然自失な様相となり、しばらくその場に佇んでいたようだ・・・知らんけど。
§
私はログハウスに戻り次第、善は急げという事で枝葉奏のみ復活させる事にした。それは生来の使いっ走り性質がある者という事で優先順位を繰り上げたのだ。
ちなみにシオンは、自室のベッドで眠っており、私が遠隔操作でシオンの心核本体から血塊を作り出してこの場に用意した。
再誕自体はシオン本人から同意を得ずとも行えるし、水圧浴を楽しんだ妹を起こすわけには・・・本人の意思を無視して機能を動かしたから真っ赤な顔でビクついてるけど。
それと今日のリンスはユーコ達四人と共に本国へと移動しており、あちらの依頼と社交界をこなしているのね? 王女殿下であろうとも民を護るという意味で優先的に依頼を受けているらしい。ただ、社交界はある意味で公務という事だろうけど。
ともあれ、私は舌舐めずりをしながら枝葉奏に話し掛ける。実はこの子との会話は入学式以降、一度もないのよね。
最初は上枝の付き人とは思わなかったから味見・・・否、可愛いなって事で濃厚なキスをしたの。でも後になって面倒な輩の付き人と知って極力関わるのを止めたのね。
ただ、この子はどちらかと言えばノーマルではなくてシオン寄りだったから、私の嗜虐心をタップリと刺激したので定期的に気絶させて──血は吸ってないわよ?──反応を見て楽しんだという事もあるけど。
「久しぶりね?」
『タ、タツ、タツミさん?』
魂状態の枝葉奏は私の姿を見るや否や、呂律の回らない口調で問い掛けた。私はその反応に寂しく思い、酷いわという素振りで問い返した。
「そんなに怯える事ないでしょう? 何度もキスしたり関係を結んだ仲なのに」
『怯えてないわよ! というかなんの事よ!? 後、ここはどこよ?』
すると枝葉奏は私の言葉に猛烈な反応を示し場所を問う。パッと見、ログハウスのひと部屋なだけに異世界とは思えないわよね? だが、ここで嘘を言うわけにはいかないので本当の事を伝える。
終始苦笑をしながらだけど。
「異世界って言えば早いかしら?」
『へ? 日本じゃないの!?』
「日本ではないわね。この通り・・・魔法が使える異世界という事よ?」
私は本国にて魔物討伐中のユーコ達を例の魔力壁に示した。
『え? ユウコ? なんであの子達まで銀髪に?』
「あの子達も貴女と同じ立場だったけど救い出したのよ」
『救い出した? 貴女が? なんで?』
それ以降は宣告めいた話をした。
それはこの世界に来た時期、そして理由。
私が人間ではない事など。
まぁそれでも中々信用しないのよね?
これが本来の反応だと思う。
ユーコ達が例外だったのだ。
だから助けた後の本人の姿を映し出した。
今は市場調査で王都を闊歩し、生の芋虫を何匹も食べていた。
タンパク源としては最大級のものよね?
あの世界ではゲテモノの類いだけど。
『私の身体だけが動いてる? 苦手な虫まで食べてるのに味がしない?』
「そうね? 元々・・・ユーコ達もそうだけど召喚時に洗脳されてたのね? 貴女は特に脳髄が無くなるという外道な措置を受けていたのよ」
そう、ユーコ達とは違いこの子達は更に非人道的な対応が取られていた。ここは異世界だから、あの世界の価値観でいう人道も非人道もないけどね? でも人という枠組みを外されたも同然な傀儡とされたのだ。だから思うのは──
『え? それって死んでるんじゃ』
死んでいる・・・それがあの世界の認識であろう。実際に今も魂だけで会話してるから臨死体験中なのだけど、それは言わぬが花である。
私はそのうえで異世界の常識、可能性を示した。
「普通ならね? でもこの世界には魔法があって自由に操れる肉体と動かすための魂だけを欲したみたいなのよ。本人の人格や記憶は不要として消し去ってね?」
『な、なら、上枝様やバカ兄は?』
「既に手遅れで救えないの」
すると、枝葉奏の心は徐々に恐怖で真っ黒に塗りつぶされていく。
ただ、その渦中にありながら恐怖とは別物のなにかが彼女の心に溢れている事を私は感じとった。
ちなみに〈魔力糸〉は既に〈封印水晶〉にあてがってるので濃厚な恐怖を私は味わっているのだけど、その中の快感めいた反応が出たので本格的にシオンと同類だと知った。
あと、バカ兄というのは本音では大っ嫌いだという嫌悪感が表れてるのね? 身体を触られる事も嫌という忌避感が感じ取れたともいう。
『バカ兄はともかく、上枝様は無理なの?』
「ええ。人格といい記憶といい彼女を形作る全てが存在しないらしいから。王寺に依存しすぎた末路ね?」
そう、上枝の記憶・・・知識は大した事がなくミアンスもバカっぽいという理由で記憶複製を行って無かったらしい。
これはまったくもって酷な話だが上枝を構成する要素の全てが王寺に依存しすぎており、全てが〈馬鹿〉になっていたのだ。
ある意味でダメ男に惚れた末路ともいう。
『そう・・・だからあれほど、王寺に依存するなと注意したのに。バカに染められるなんてあんまりだわ』
「貴女は嫌いだったのね?」
『嫌いも嫌いよ! あの変態のどこが良かったのか』
それはある意味で同族嫌悪だったのだろう。
王寺はドSのようで言葉責めな刺激を求めるドMだったから。その後は余り馬鹿な話をしても時間の無駄なので私は本題に入った。多分、本人からすれば甘い誘惑のように聞こえるかもね?
「さて、そんな貴女に死ぬことのない新たな生が与えられると言ったら・・・どうする?」
『え? それって、ユウコ達みたいに?』
「そうなるわね? あの子達・・・ニーナ以外は私と同族となったけど基本は死なないから」
『・・・い、生きたいです。まだ色々やりたいこともあったし』
生に執着してるようだけど、この子の〈やりたいこと〉とはシオンと同類な話ね。私はその旨、意識しつつも再度問い掛ける。
「仕える者は居ないわよ?」
『いいわ、それでも』
仕える者・・・以前であれば上枝だった。あれも私的には同族嫌悪があったから関わらないようにしたのよね?
でもこの子なら他の者を探し出してでも仕えるだろう事が判る話でもあったので──、
「そう。それなら貴女は私に仕えなさい。どのみち眷属だから仕えるのは変わらないけど、主を欲するのなら与えてあげるから。貴女が求める欲も含めてね?」
立場を明確にして上から目線で指名した。
実際に私は立って〈封印水晶〉のこの子は私を見上げる形となったけど。
『え? そ、それって・・・まさか・・・?』
求める欲・・・その一言で枝葉奏は気づいたようだ。私は舌舐めずりしつつ、満面の笑みで(落ちた)と思った。
「ふふっ。私は上枝以上にドSだもの。求めるものがなにかくらい判るわよ?」
『!? よ、よろしくお願いします!』
「交渉成立ね?」
『はい!』
その結果、身も心も私の物となった完全なる下僕を手に入れた。シオンが寝てる時に遊べる子が出来たもの普段はともかく今後が楽しくなりそうだわ〜。
「それと前の貴女は死んだから、今後の貴女は〈ナディ・エダハ〉と名乗りなさい。カナデだともう一人が被るから。それと私はカノンと呼んでね?」
『はい! カノン様!』
こうして、いつも通りに再誕の儀を執り行い私の目前には裸の銀髪ショートヘアな猫獣人が現れた。なんで猫かって?
身体が柔らかいし猫耳を撫でると悦びそうでしょう? 顎の下とか背中とか・・・それ以外は隠密性に特化してるから忍び込んで情報を得る事にも向いてるからね?
特に厳しい任務ほど燃え上がりそうな気がするし。普段は猫耳メイドとして働かせるけど。
私はナディが目覚めた矢先ではあるが鏡で姿を見せながら──、
「これが私?」
「そうね。尻尾が弱点だから握られると・・・」
「ひゃん!? にゃ、にゃにこれ!?」
「ビックリでしょう? 今は握った場所から魔力を注ぎ込んであげたのよ」
色々と反応を楽しんだ。
ちなみに諸々の大事な話や注意事項を伝えるとフムフムとその場で理解していた。転生しても地頭が良いのは変わらずで生理が来ない事もなぜか喜んでいたのは言うまでもない。
おそらく元々が重かったのだろう。
それは吸血鬼族以外の眷属達も総じて同じ扱いになるのだから仕方ない話だけどね?
私は本能で顔を洗うナディのメイド服と下着を用意しつつ最初の命令を下す。
「てことで、ナディ? 今からドラゴンを解体するから手伝ってね?」
「へ? ドラゴン?」
「そう。ドラゴン。さっき狩ってきたから」
「ドラゴン・・・」
命令を下したのだけど、絶句ののちに固まったわね? なお、ナディのレベルは70で留めておいた。ランク的にはBランクだけど余り高すぎても変人に目を付けられるからね?
現に第零の王太子が高レベルな猫獣人を囲っているとの話をギルド支部で聞いたから。




