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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第二章・気ままな異世界生活。

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第38話 吸血姫は眷属を人知れず裁く。


 それから数日後。

 時期は〈常陽(じょうよう)(こく)〉。

 私はこの日・・・とある用事を思い出した。


「少し出てくるから課題が終わり次第、ユーコ達はギルド支部に行くなりしてスキルを磨くかしてね? 装備品もそれなりに用意してるし、なにかあっても対処は可能だろうから」


 私は外出する準備を行ってダイニングでリンスの課題をこなしているユーコ達に注意だけ行いログハウス外で待つリンスの元へと急いだ。

 するとユーコとフーコは興味深げに問い掛ける。


「カノンどっか行くの?」

「一人だけで?」

「私だけじゃないわよ? リンスも同行するし・・・シオンは滝行に行ってるから追々戻ってくるでしょうけどね?」


 私はリンスが待ってると思いながら、ドMをこじらせ水圧浴に向かった妹の事を伝えるだけにして慌ててローブを羽織った。

 するとユーコは私の焦りを感じたのか興味失わせつつも意識を課題に戻す。


「ふーん。わかった〜」


 だがここでフーコが──、


「ところで私達の行動制限とかないの?」


 眷属(けんぞく)の自由を質問をした。

 私は無い事もないが不用意に縛るものでもないため必要不可欠な注意だけに留めた。


「一応でも全員がAランク冒険者だし、不用意にSランク相当の魔物に近づきさえしなければ問題はないわ。たまには街を彷徨(うろつ)く必要だってあるでしょうから」


 それはスキルを磨かねば退化するという意味に他ならないからだ。Aランク冒険者としての依頼数をこなすという事もあるだろう。

 今のままでは登録抹消だってありうるから。

 フーコは私の意図に気づいたかどうかは知らないが敬礼したのち、手を振った。


「りょーかい! 気をつけてね?」

「私を誰だと思ってるのよ・・・まぁその配慮だけは感謝するわ」


 私はフーコの素振りに苦笑しつつも、軽く手を振り返し玄関から外に出た。




  §




 私はリンスと共に第六十五浮遊大陸・西部の港街を歩く。今は昼間の時間帯で街中は人族が(あふ)れかえっていたが私達には関係ないため気にせず街中を闊歩(かっぽ)する。

 するとリンスが私の右腕に抱きつきながら、今日の予定を聞いてくる。


「それで、今日で良かったのですか?」

「あー、まぁね? ユーコ達も時にはそれぞれ楽しむ時間が必要だと思ったしね?」


 私は時期的なものもあったが一同への配慮を伝える。それは私個人がいつまでも引きこもって居ると眷属(けんぞく)達も意図せず引きこもる可能性が高いと思ったからだ。

 シオンはこの世界に住まう期間が長かった分、自由きままにあちこち行ってるけどね?

 だが、あの三人が行き来出来る時期が夜限定という事もあり、少しは外を見て欲しいと思う私だった。これも昼の住人であるニーナには関係ない話だしね?

 しかし、リンスは私の配慮に納得しつつも時期に関して怪訝な顔をする。


「なるほど。それでこの時期に?」

「たまたまね? どのみち飛空船の停泊場所を登録しておかないと場所が無くなる可能性だってあったし」


 私は苦笑しつつも苦慮していた事を思い出す。実際にどの程度かは知らないが空きがなくなる可能性があると〈魔導書(アーカイヴス)〉に(しる)されていたのだ。

 しかし──、


「それは大丈夫だと思いますよ? Sランク冒険者向けの区画ですし、基本は・・・ね?」


 リンスは苦笑しながら私を安心させる言葉を吐いた。そして到着した区画の前で両手を大きく拡げて問題ない事を示した。

 私は区画の状態を把握し焦る必要がない事を知った。


「確かにスッカラカンね? 船持ちの冒険者が居ないという事もあるでしょうけど」

「基本的に飛空船持ちは貴族が(ほとん)どですし、この区画は商船も停泊しませんから気にするだけ損ですね? すみませーん!」


 リンスは私の焦りが杞憂(きゆう)であると示し、近くに立つギルド職員に声を掛ける。

 ちなみに、この世界の飛空船の(ほとん)どは船という(てい)ではなく飛行船のような大きな気球を付けた物やら、ヘリコプターのような物、実際に飛行機的な物等が大まかな見た目として存在している。

 これも先代勇者が広めた物らしく船体が大きくなるにつれて貴族でいえば爵位が比例するように大きくなるそうだ。

 大きな物・・・飛行船めいた物は王族や公爵・侯爵の船であり、小さな物・・・気球等は騎士爵の船となるらしい。そして中堅の飛行機的な物は伯爵位やら子爵位の者が持つ船となる。

 リンスに呼ばれたギルド職員は私が停泊場所に設置した飛空船を見て場所を指定した。


「大きさは小型と。それにしては・・・見た事のない形状ですね?」


 しかし、船の大きさはともかく形状を見て怪訝な顔をされた私である。見た目はただの三胴船(さんどうせん)()を張るポールも無ければ操船部がチョコンと上に乗っただけの船である。

 私は実にあっけらかんと思いつくものとして問い返した。


「船といえばこんなのしか思いつきませんでしたし」


 必要以上に異世界を強調するものではないが小型でありさえすれば奪われる事もないらしいから。それでも必要以上の防犯設備と強度を持つ特殊船だけど。


「そうなのですか・・・いえ、ではこちらの最後尾の区画にお願い致します」

「最後尾・・・前の区画に船が入るのですか?」

「ええ。侯爵家の方ですが持ち船が巨大過ぎて・・・たちまちこの区画を借りられた方なのです。本来は出来ない話なのですがギルドに支援してくださる代わりとしましたので」

「そういう事ですか。わかりました」


 だが、区画に空きがある・・・そう思った矢先、(すで)に借りられた後だと知った私とリンスだった。


(巨大過ぎるからSランク冒険者の区画を借りるとは。金持ちはどこの世界でもいるのね?)


 ある意味で助かったともとれる話である。

 時期を逃すと停泊すら出来なかったから。

 相手が支援すると言えば空きすら無くなる・・・そういう世界なのだろう。




  §




 それから二日後。

 夕暮れ時・・・暮金(くれきん)の午後。

 とある問題が勃発した。


「カノンさん! 大変ですぅ!!」

「どうしたのよリンス?」


 私はギルド支部にてユーコ達と共に依頼を物色していたのだけど、なぜかリンスが支部長室に呼び出され大慌てで出てきた。


「侯爵家の船が・・・」


 リンスは半泣き状態であった。

 私はリンスを(なぐさ)めながら理由を問う。


「あぁ。それがどうしたの?」

「カノンさんの船にぶつかって破損したと」

「なんでぶつかるなんて真似になるのよ?」


 その答えは・・・(なんでそうなる?)という状態だった。するとリンスはしょんぼりした表情のまま(うつむ)き私に理由を話そうとする。


「それは・・・」

「私から説明させて頂けますか?」

 

 しかし、リンスの声は背後からの野太い声で()き消された。それは見るからに同族であり、小肥り者だった。

 リンスも立場上は侯爵より上だが今は私やユーコ達と同様に黒髪姿という偽った状態であるため、大っぴらな行動は出来ない。

 私は声の主に向き直り、怪訝な表情のまま問い掛ける。


「貴方は?」

「船の持ち主で御座います。今回は破損した船の請求に(おもむ)いた次第でしてね?」


 侯爵は相手が誰であれ高慢な態度に出る。

 私を相手に請求と(のたま)った。

 私は流石の言葉に鼻で笑う。


「自分から、ぶつかっておいて請求とは?」

「小さすぎて見えなかったのです。仕方ないでしょう?」


 鼻で笑われた侯爵は一瞬だけ眉根がピクリと動くが、私の言葉に対する皮肉を飛ばす。

 小さすぎるという点では私も認めるが──


「それで? 夜目(よめ)の効かない侯爵様がなにか御用ですか?」


 一応、言うべきことは言った私。

 流石に同族でそれが効かないのは問題ありなのだから。しかし、侯爵は態度を変えず同じ言葉を発するだけに留めた。


「だから、請求と申しているでしょう?」

 

 支援者としての立場と下手に力の放出が出来ない事情があるため擬態(ぎたい)を維持しつつも私に問い掛けた。

 だが私は理由になってない理由から更に侯爵を(けな)す。リンスを(なぐさ)めながら。


「それは当たり屋の言い分ですね? では本音を伝えなさい(・・・・・)・・・自分達の区画に余計な船がいるから、小さいなら壊してしまえ・・・そう命じたのね? なのに逆に壊れたから許せないとして怒りと衝動を抑えてギルド支部を訪れた?」


 私はそう侯爵に命じ、隣に立つシオンの経路を通じて流れてきた記憶を洗う。これは本人の意思を無視して流す・・・主人に従うという吸血鬼族の本能的なものである。

 だからだろう・・・教えてもいない本音が私に伝わった事で侯爵は狼狽(ろうばい)した。


「な、なぜ、そのことを!?」


 私はニコニコと微笑みながらアタフタする者を相手に告げた。


「相手を見て判断するべき事案ね? 四ヶ月前・・・貴方も王城に居たでしょう?」


 もちろん同族のみに本来の姿を見せた。

 それは当然、ユーコ達やリンスの偽装解除も連動しているため、侯爵の目前には本国の姫君がしょんぼりした状態で現れた。

 今はシオンも居るのでその姿を見れば一目瞭然(いちもくりょうぜん)である。

 すると侯爵は一瞬で顔面蒼白へと変化し、そそくさとその場を離れた。


「!? あ、そ、それは、し、失礼、しました!」


 自分の始祖を相手に喧嘩を吹っかけたのだ。

 下手をすれば一族郎党皆殺しもあり得る事案でもあり、四ヶ月前に見た事案を知る者なら理解が及ぶ話でもある。

 ただ、その逃げ足はとんでもない速度となったのは言うまでもない。素性を隠すという行為すら忘れるのだからこればかりはどうしようもないであろう。


「今のなんだったの?」

「カノンに喧嘩を吹っかけて返り討ちにあったように見えたけど?」

「カノンに勝てる者なんて居ないし、気にするだけ損よ」

「それもそっか・・・シオンさん、この依頼とかどうです?」

「一家粛正か・・・ん? それドラゴン討伐だから、四人はまだまだ先ね」


 ちなみに連れ立って居たユーコ達は一部始終を黙って見ていたが、シオンだけは侯爵に手を合わせ、苦笑いでニーナ達の言葉に応じた。





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