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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第二章・気ままな異世界生活。

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第36話 女神様の微笑みに呆ける吸血姫。


 それから二日後。

 私はシオンやリンスと共にユーコ達を連れ立って王都の大使館へと向かった。


「異世界の街並みだぁ!?」

「本当に異世界なんだ!!」


 そんな街中では・・・お上りさんの様相(ようそう)の類友勢が大騒ぎとなった。

 今は〈常夜(じょうや)(こく)〉のため外を出歩く人族は少ないが、それでも街中では数多くの亜人や魔族が出歩いており、それを見たユーコとフーコは異世界である事に大はしゃぎし、ニーナに至っては大興奮で指をさしていた。


「見て見て! あれってエルフよね? 凄い本物だぁ!!」

「そういうニーナは兎獣人でしょう?」

「そうだった!」

「「おいおい」」


 それが可能なのも私が全員に〈隠者(いんじゃ)のローブ〉を与えているから誰何(すいか)はないし、下手に喧嘩をふっかけられる事もない。だから余計に大騒ぎなのだが。


「へぇ〜。本当に真っ暗闇なんですね〜」

「今日から三日間が〈常夜(じょうや)(こく)〉と言って私達が主に出歩く時期となるのです」

「そうそう。人族もこの時期は家で大人しくしてるから滅多な事では戦闘にならないのよ〜」


 大騒ぎの女共とは対照的に男から女に生まれ変わったユーマだけは一人冷静であった。今は隣を歩くシオンとリンスからアレコレ教わっており、私は最後尾から彼女達の動向を眺めつつ一人思案する。


(今日は同族の身分保障とニーナを含めた冒険者登録よね。ひとまず当初の予定通りという感じだけど全員のレベルアップには驚いたわね)


 そう、行う事は大体決まっていた。

 だが、冒険者登録に関係するレベルに関しては驚くことに私もそうだが全員のレベルが上がっていた。私とシオンが現在310に、リンスが90に、意図的なレベリングを行った四名が総じて85に上がり、私とシオンとリンスはともかく新規登録勢が(しょ)っぱなからAランク冒険者となる事が予測出来たのだ。

 これも亜空間から出た瞬間にレベルアップしていたのだから、あの場での様々な経験は蓄えるだけ蓄えると反映された瞬間に上がるという事が判った私であった。大半は私の経験値が眷属(けんぞく)に付与されたともいうけれど・・・ともあれ。


(紹介状の書類は昨日リンスが街に出た時に貰ってきてるし、内容に不備はないわね)


 なお、冒険者登録に関しては紹介状という形式で行われており、本人が登録したいからといって直ぐに登録出来るものではなかった。

 それは私とシオンが改めて登録しようと思った矢先にリンスから教えてもらった事ね?

 なんでもこの世界のギルドはレベルでの新規登録となるから技量もないのに登録して亡くなるバカがあとを絶たなかった時期があったそうで上級者からの紹介・・・一種の責任下の元に登録させる様式に変化したそうだ。


 それは互助組織として慰謝料やら保険料を支払いすぎて大赤字となった事が要因らしい。

 だから運営を行ううえで必要な資金不足を回避するために方針転換したとの事である。

 とはいえ技量無しでレベルアップするのか?

 という疑問もあるがそれは実戦と訓練の差という感じらしい。訓練で経験値取得が出来ても実戦となると心が弱すぎて戦いにならないそうだ。その結果、天狗(てんぐ)となった貴族家の者が死滅を繰り返したというオチである。

 私とシオンは本来ならば登録の必要は無かったのだけど、人族の兵やら騎士団とのやりとりにおいて技量無しと思われるような事にならないよう、一種の〈箔付け〉として登録する事にしたの。それは四ヶ月前・・・招待を受けて王城を闊歩(かっぽ)していた時に──、


『どこから入った!』


 という感じでね?

 新兵から呼び止めを喰らって危うく連行されそうになった。だから、その時に種族とは別のなにかが必要と思ったのね? 相手が人族なら吸血鬼族は敵対となる話を聞いたばかりでもあったから。そういう事もあって、リンスがAランクのギルドカードを示しながら──、


『私の随行(ずいこう)です』


 と返答してもらい事なきを得たのだ。

 本当は本国の招待客としていたのだけど、その点は内部に入り込んだ間諜によって新兵に話が及んでなかったのだから、やりきれない話となった。それもパーティー中に掃除したから今はそんな事には出くわさないけれど、それでも一種の技量示しが必要な場合もあるから翌日にリンスと共にギルド登録を済ませたの。


 一応、登録時も擦った揉んだがあったけど、技量を示すという意味で百匹ほど狩った〈イビル・タウロス〉の肉を十頭分買い取らせると、途端に(だんま)りしたのは言うまでもない。なんでもあれは一頭辺りAランクを四人用意して狩れる魔物らしいのだ。それを一人で狩ったと言えば喧々囂々(けんけんごうごう)となるのは明白である。

 ちなみに、シオンも同じ技量を持ってるため力を示すという事でその場でジャンプして、上空を飛んでいた〈スカイ・ドラゴン〉を狩ったのは・・・うん、災害級を一撃で倒したという事で一同は絶句していたわね?

 ともあれ、大使館に着くや否やガイア大使と職員ことミューズ補佐が待ち構えており、リンスは王女殿下の態度に変貌して命じ、それぞれの種族登録を行っていた。


「「姫殿下、お待ちしておりました」」

「この方達の身分保障を」

「「は!」」


 ただ今回、リンスの身分をこの場で初めて教えたからか──、


「「「「姫様だったのぉ!?」」」」


 種族登録しないニーナをはじめ、種族登録する三人は大絶叫していた。リンスは絶叫を聞いて相貌(そうぼう)を崩し、苦笑していたけれど。

 私はム〇クの叫びの四人の内、血液登録中の三人に対して事情を打ち明けた。


「姫様という点はこの際置いといて、三人もある意味で同じ扱い受けるから、今日からの王族教育は覚悟しておくようにね?」

「「「え?」」」


 (ほう)ける三人は私とリンスを交互に見つめ、苦笑気味のリンスの首肯をもって余計に混乱したようだ。

 すると、無関係な扱いを受けた兎獣人(ニーナ)(ほう)けつつも質問してきた。


「王族教育って?」

「私達の眷属(けんぞく)でも吸血鬼族だけは一族の祖という事になるのよ。だからリンスも本国の王家の者である前に一国の祖として女王という扱いになってるの。三人は意図せず王家の者となるから王族教育が必要というわけね。ニーナも一応、祖になるわ」

「そういう事ですね。それと国を興すための浮遊大陸も、あと三十二大陸が残ってますから、そのどこかが開拓出来次第、一国という扱いをうけるのです・・・まぁそれの奪い合いも日常茶飯事で起きていますが」


 そう、私とリンスが(ほう)けるニーナに対して苦笑しつつも質問に答えた。

 なお、リンスの話は主に吸血鬼族だけに限らない話であって祖となりうる我らの眷属(けんぞく)であれば〈ミッドラン〉と呼ばれる三十二個の〈未開大陸〉を開拓する事も可能だそうだ。

 この〈ミッドラン〉には先住民がおらず、居るのは属性ドラゴンや魔物、食用植物だけであり、係留地点として一部の崖に人の住まない簡易港が開かれているだけだ。

 肝心の未開大陸内部を行き来出来る者は主にAランク冒険者のみでレベルが80を超えない限り侵入不可という領域になるらしい。

 但し、開拓完了するまでという縛り付きね?


 ちなみに本国やら中央大陸がある計三十二個の浮遊大陸の事は〈セントラン〉と呼ばれ、先代勇者の末裔や人族やら多種族が住まう比較的安全な島々らしい。逆に管理島から下・・・流刑島は外敵が真っ先に来る事で有名だそうで、ある意味で危険物が多い事から物を売りたいとする商人以外は立ち入る事のない大陸だそうだ。

 だからだろう・・・ユーコとニーナは絶句しすぎて言葉に出ず、フーコが驚きながらユーマが冷静さを(よそお)いながら問い掛けた。


「私が王族?」

「いえ、私達が?」


 私はそんな四人に対し真面目な顔で、この世界の者との大まかな違いを示した。


「四人は元異世界人だったというだけであって私達の眷属(けんぞく)として祖となりうる資質はあるわよ? この世界の教育と比べて異世界の高等教育を受けた者が(ほとん)どだし、先代勇者達からしたら相当な知識違いもあるらしいからね?」


 知識違いという話も知の女神様が教えてくれた事であり、発展に繋がるならありがたいとも言われた。


(この世界の王族教育は異世界の令嬢教育と大差ないから問題無いと思うけどね?)


 私の内心はともかく冷静さを取り戻したユーコは心配気に物申す。


「出来るのかしら?」


 リンスが優しく微笑みながらユーコ達を安心させる一言を伝えた。


「問題ないと思いますよ? 食事作法とか私以上に出来ておりましたし」


 私もその場で自信なさげな者達に対し──、


「一人を除いて全員が()令嬢だったのだから出来ない事はないでしょう?」

「なにか含みのある〈御〉だと思うけど・・・そうね。出来ない事はないかもね?」

「うん。ユーマも家を継ぐという事で社交界に出てた経験があるし・・・私達もね?」


 自信を付ける一言を告げると言葉の意図を察したニーナが怪訝に見つめながらも自信を取り戻した。ユーコもユーマを見つめながらフーコに話し掛ける。


「そうね? 普段通りやればいいって事でしょう?」


 するとフーコはユーマに視線を移しユーマは私に問い掛けたのだ。


「そうなのでしょうか?」


 私はユーマの問い掛けに対し例外という意味で教えながら及第点を伝えた。


「ユーマは子女の動きが出来るような教育が必要だけど、テーブルマナーに至っては問題ないわね」


 それはそうだろう異世界の数倍も遅れている世界で、ある程度出来ていれば問題ないのだ。

 出来すぎと言えばユーコが天狗(てんぐ)になるから言わないけどね?

 その間のシオンは完全放置され一人で感じていたのは言うまでもない。




  §




 大使館を出た私達は冒険者ギルド・ライラ支部へと向かった。


「Aランク冒険者になったどー!」

「ユーコうるさい!」


 新規登録に関しては滞りなく進み、私やシオンの所属支部という事もあってAランク冒険者が増えたという事で支部長は大喜びとなった。

 そのうえユーコまでもギルドカードを受け取るや否や大興奮だったので、フーコがユーコの股間をスカート越しに勢いよく裏拳で殴り、物理的に黙らせていた。


「ウッ! フーコ、そこだめぇ・・・」

「流石に周囲の目があるから、少しは子女として振る舞ってよ」


 ニーナとユーマは同じく股間を隠しながらフーコから距離をとり、ピクピクと突っ伏すユーコを可哀想な目で眺めていた。


「あ、相変わらずね・・・」

「やっぱり、フーコだけは怒らせたらダメですね」


 それは私やシオンでも拳速は見えていたが、回避は難しいと思った程である。


(女でもそこはダメよね・・・シオン、殴られたいと思うのはダメよ?)


 予測可能回避不可能というやつである。

 これは元より徒手空拳をやっていたというフーコの技量によるものなのだろう。

 ユーコ達姉妹は剣術を主としていたらしいし、ニーナも長刀術を学んでいたそうだ。

 どうも一同の技術は一種の(たしな)み程度のものらしいが実戦的な技能でもあるため、生来から使えるスキルという(てい)で登録していた四人であった。


 これは私やシオンが使える生来スキルと同じようなものよね? 例えるならフーコは〈殴り魔導士〉として身体強化を行いながら、拳や脚に魔法を宿して戦うという近接戦闘が可能な魔導士となった。それというのも、本人のスキル〈催淫(さいいん)〉は用途としてかなり局所的なスキルであるため人族を相手としない場合は殴る方が早いという事だろう。

 亜人や魔族には効かないスキルだものね?

 ひとまず、その後の私は突っ伏すユーコの周囲に居る三人を苦笑しつつ眺め、酒場の椅子に座るシオンとリンスに話し掛ける。


「当初の予定はこれで完了ね」


 リンスは私が手渡した〈スマホ〉を取り出しながら首肯を示し、リマインダーにチェックを入れていた。


「そうですね。依頼を見た限り・・・今のところ大した依頼はありませんでしたし」


 そして入口そばにある掲示板の事に苦笑しつつも触れた。シオンも(あき)れながらではあるが、同じく見ていた依頼の事を口走る。


「まぁね? あるとすれば常設依頼の・・・開拓人員募集だけみたいだし」


 それを聞いたリンスは内容を思い出し──


「第六十浮遊大陸の開拓ですね。〈ゴールド・ドラゴン〉の居る大陸ですし、すぐにすぐ済む話ではないですが・・・」


 隣島の話を行いだした。

 それは第六十五浮遊大陸・・・この大陸のすぐそばの〈未開大陸〉の事で、主にドラゴン討伐を依頼する物であった。

 しかも、Aランク冒険者を百人程を寄越して欲しいとあり、他の管理島でも同じような依頼が入るそうだ。魔族のAランク冒険者でもドラゴンは忌避する魔物なのにね?

 私はシオンが登録時に行った事を思い出しながら揶揄(からか)ってみた。


「シオンが一人行けば数日で討伐完了しそうだけどね?」

「流石の私でもそれは勘弁したいわね〜。〈ゴールド・ドラゴン〉は堅すぎるし魔力の通りも悪い、魔力遮断の(うろこ)()いでもすぐに生え替わるし効率が悪いのよね〜、あのドラゴン」


 その揶揄(からか)いをシオンは真に受け真面目な表情のまま嫌そうな気配を漂わせた。

 私はシオンの気配を察しながら、引き()りつつも問い掛けた。


「まさかだけど・・・戦った事があるの?」

「一度ね〜。攻略方法が物理的に殴るだけだったから、魔法戦を得意とする者にとっては辛いだけの戦闘だったわ〜」


 シオンは当時を思い出しながら・・・(二度と戦いたくない)・・・と思いつつ嫌そうに教えてくれた。私は「殴るだけ」と聞き・・・ついさっき見た事を思い出す。それは殴る事にかけて最大級の技量を持つ者が居たからだ。


「物理的に殴るだけねぇ?」

「殴るだけ?」

「それって・・・あれよね?」

「ですね?」


 流石にリンスも同じく察したようで、突っ伏すユーコの尻を()っつく苦笑いのフーコに視線を向けていた。フーコは話題の中心に上がっている事には気づけないでいたが。


(フーコがSランクに上がりさえすれば討伐人員として可能ではないかしら?)


 私は一人・・・そう思った。

 なお今回はユラも同行しているがこちらはニコニコと微笑むだけでフーコの姿に動じる事はなく、楽しそうな雰囲気のまま眷属(けんぞく)達を眺めていた。





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