第35話 女神様の羨望を放置する吸血姫。
「とりあえず蘇らせる者達は三組と九組の二人でいいわね?」
それから一ヶ月後。
私はシオンと共にログハウス内の錬金工房にて準備を行った。それは段取りとして、これから一ヶ月に一回、再誕の儀を行う事にある。
ユランスが隠れながらそばで見ている事は置いとくとしても勇者共の動向いかんによってはこちらも戦力を増強しないといけないのだ。
特に今は女が多く、力仕事は私達でも問題ないのだけど──居る必要ある?──と思うかもしれないけれど男手は確かに必要でね。
特に王城へと向かう際には執事が必要だという事を思い知ったのだ。手続き関連は部下にやらせよって意味ね。主人が行うな!
ともいうけど暗黙の了解でそういう仕組みが出来上がっていたのだ・・・ともあれ。
「ユーコは黙って見てなさい。フーコは二人への声掛けよろしくね?」
するとシオンの指示を聞いたフーコはニコニコと頷き、ユーコは一言申した。
「はーい!」
「なんで私だけ〜?」
「騒がしいからでしょう? ユーマの裸体を拝む事になるのだしぃ〜」
「それは・・・それでしょう!?」
そして、私が〈封印水晶〉を置く段階でまたも大騒ぎとなったが──、
「はいはい。黙りなさいな。貴女も黙れば美少女なんだから」
シオンの睨みで押し黙る。
「酷い!! あ、黙ります・・・」
私はユーコの反応を優しい微笑みで眺めながら、シオンに視線を移しユランスと目配せしつつ儀式の段取りを始めた。
(判るけどね。大事な家族が蘇るというのは)
なお、今回はテーブルに直ではなく床に新規で敷設した〈奥行き2メートル×幅2メートル×高さ20センチ〉の水場にて行う事とした。
これは桶を片付ける手間がなく、これから数回に分けて行う儀式用の水場だ。
普段は素材の洗場と併用し儀式前は清浄魔法で綺麗にしてから行う事になる。汚れを血塊に入れるわけにはいかないしね? 儀式を行う前の私達全員も一度湯浴みを行い空間を含めて御祓を済ませた。
「さて、フーコ準備はいい?」
「いつでもオッケイです!」
「時間停止解除!」
「二奈! ユーマ! 久しぶり〜!」
『『フーコ?』』
そして儀式前の下準備が開始された。
今の彼等には銀髪となったフーコの姿とフーコの声のみしか届かない。これは個人の会話として意思疎通が可能な者が行う事が常であり見知った者なら特にそのやりとりが重要になる。
二人の時は私自身が知ってる者だったから行ったけど、これから先は蘇らせる順番を考慮し次に関係がある者を優先して行う事とした。
今回で言えばフーコが、次は二奈かユーマのどちらかが声掛けを行い、互いの意思疎通を図るのだ。
ちなみに、声掛けを行われている当人達の認識は三ヶ月前の修学旅行から止まっており現状把握としては相当に厳しい事になるだろう。
ユーコ達の時・・・あれは例外ね。
受け入れが早い者は除くけど従来はもっと手間が掛かると思うから。
『えっ〜と、つまり、私が兎さんになって』
『俺が吸血鬼と?』
「そういう事ね。人間には戻れないのは仕方ない事なの。私も吸血鬼になってるしね?」
手間が掛かると思うと思った矢先、こちらも受け入れが早かった。類友というが・・・類友を優先させたともいうから仕方ない事であろう。
『ポロリのある衣装を着ずとも兎さん・・・いい! それいいわぁ!』
『コスプレではなくて種族的にですよ、二奈?』
『いやいや、レイヤーとしてこれほど嬉しい事はないわよ! 〈変化〉スキルも嬉しいし』
『まぁそうでしょうけどね〜、はははは』
「ユーコも居るし安心なさいな!」
『!? 姉さんが生きてた!?』
「おいおい・・・流石に生きてるでしょう? ねぇユーコ?」
二奈はコスプレを行う者だったのだろう。弟君は姉が存命だったとは思っていなかったらしい。フーコが呆れながらユーコを見ると「この弟は・・・」という感じで呟き、しょんぼりしていたから。
(というか、二奈の場合、〈変化〉スキルを使いこなしそうよね? それこそ、あれこれ色々な種族に化けて密偵向きとも言えるけど・・・)
その間の私はシオンと目配せしつつ、血塊を用意していた。魔力量はユーコ達と同じ。
炉に火入れを行った状態だからシオンも今は問題が無いようだ。あれから少しずつ蓄えた魔力を専用の器に個別保管していたからね?
ともあれ、私達の儀式は始まった。
再誕までの期間はユーコ達の時より早く、少しばかり慣れが出てきたのかもしれない。
おそらく復元自体を余り行わなかった事の弊害が最初に出たのだろう。
「うそぉ!? 裸なのぉ!! ユーマ、見ちゃ・・・極小が無い!?」
「二奈は私のどこを見てるんですか?」
「ユーマがユーコ似の女の子に!?」
「どういう事!? 弟が妹に変態したの?」
「え? あぁ! ついに!! 来世に期待していた事が叶った!!」
「いや、来世という意味での再誕でしょう? これ?」
「そうだった! 二奈やりましたね!」
「私ではなくてユーマがでしょう?」
「あ! そうでした!!」
「「「おいおい」」」
そう、再誕は無事に済んだ。
両者とも育った育った。
二奈は私と同じ大きさの胸で銀髪が美しいグラマラスな兎獣人として。
弟君はユーコにソックリな容姿の女の子に変じていた。一体なにがあれば性別が変わるのか謎だったが、これも彼が望んだ姿なのだろう。
そういう意味で二奈を含むこの場の全員が絶句していたのだから。
ま、まぁそのあとは二奈達の名前をその場で決めてもらい自己紹介を行った。
今はユランスも居るけど、こちらはルンルンとした様子で眺めているため放置し、リンスを含めて紹介したのである。
ただ、喋らない事で有名だった私は驚かれたけどね。これから何度も同じ事が起きると思うと・・・慣れるしかないようだ。
若干、精神的にはくるものがあるけれど。
ちなみに、蜷川二奈は〈ニーナ・ナーガ〉へ。箕浦佑麻は血縁こそ無いが義姉妹という体で〈ユーマ・ミラー〉と名付ける事になった。
「とりあえず、全員の下着類と・・・部屋割を変えたからユーコはユーマと同室ね。ニーナはフーコと同室でいいでしょう。今やどちらも同性だし」
「姉弟から百合姉妹〜良いわね〜。それよりも私はこっちが凄い嬉しいわ! モフモフ〜」
「・・・・・!? ・・・・・?!」
私は実の姉弟から同性関係に変わったことで妙に鼻息の荒い元弟達に牽制を行った。
「尻尾いじりはほどほどにね。それよりも、ここで盛らないでね? ミラー姉妹、ハウス!」
その間のフーコはサムズアップして悦び、ニーナの下着を着ける手伝いを行っていた。主にニーナの丸い尻尾をモフモフしてニーナを悶えさせているともいうけれど。
「いきなりはやらないわよ!!」
「えーっ! 姉さん、やらないの?」
「真っ昼間から出来るわけないでしょう! それよりも下着つけなさいよ!?」
「といっても今日はずっ〜と真っ昼間だけどね〜?」
「フーコも混ぜ返さないで!!」
大騒ぎよねぇ〜。リンスも苦笑してその光景を眺めていた。なお、獣人族の身分保障は大使館では行っておらず、主な扱いは冒険者ギルドが亜人達の身分管理を行っているそうで折を見て登録させようと思った私だった。これから亜人となる者が増えるのだ。
ただ、オーガ族や有翼族は大使館へと行く必要があるみたいでね? こちらは本物の魔族だから本国を通じて登録申請を行う事とした。眷属として不死者には変わらないとの事だし。
するとリンスが勢揃いしたと判断した──、
「でしたら、翌日以降にでも大使館へ向かいますか?」
ようで、私も時期的に大使館へと出入りする事の危険性を察してリンスの提案に同意した。
「それがいいでしょうね」
今は〈常陽の刻〉だ。明後日の〈常夜の刻〉でなければ意味がない。
それは吸血鬼族の大使館に日中から出入りしていれば関係者とバレるから。その点での身バレは避けなければならないのだ。
その後はニーナが半裸の状態で突っ伏したので私は片付けを行いながらフーコを叱る。
「それはそうと・・・モフモフしない! ニーナが落ち掛けてるでしょう!?」
「あ! ごめん、ニーナ!!」
「きゅ〜」
「弱点なんだから、ほどほどにしないと」
シオンもヤレヤレという様子でフーコを諭し、この場での騒ぎはひとまず収まった。
§
一方、神界でポツンとした知の女神様は──
「いいなぁ」
こちらの様子を羨ましそうに眺めていた。
妹神はノホホンとこの場に居るからユランスに対する羨望もあったようだけど。




