第34話 女神様の挙動が気になる吸血姫。
私はユランスと共に総勢十三名の捕獲を行った。ただ、第八十七流刑島・アブリィ〈フェアル王国〉からの斥候はなぜか第三王女だったため、別の意味で確保して魂は封印保管とした。これは追々作る魔道具の制御人格としても良いだろうというユランスの判断ね。なにを作るかはお楽しみだけど。
ともあれ、その後の私は兎獣人に宿りなおしたユランスもといユラと共に亜空間のログハウスに戻った。
「ただいま〜」
なんでも兎獣人の女の子は巫女という事で本人の大感激の元、使わせて貰ったらしい。
私が帰宅の挨拶をするや否やシオンがビックリ仰天な顔で私の背後を見た。
「おかえ・・・りぃ!? な、なんで?」
ユラはシオンのビックリ仰天な顔を見て優しく微笑む。
「どうも、お久しぶりですね〜」
シオンは普段から意識下でしか会話しない相手のためか、生身で居る者へと謙る。
「ユラ様がなんで!?」
「敬称は付けないでくださいますか? 今はしがない兎獣人ですから〜」
「あ、失礼しました。ユラさん」
だが、ユラの笑顔は直後より目が笑ってないものに変わり、粛々と呼び方を改めるシオンであった。本来なら対等な関係だけど、この場にはリンス達も居るしね? リンスはユラに対して軽く会釈だけを行い私に問い掛けてきた。
「それで所用はお済みになったのですか?」
「それは問題なくね? 問題は無かったけど別の問題に出くわしたから捕獲してまわったわ」
私は背後で微笑むユラを眺めながら答え、道中の出来事を口走る。ホント疲れたわね。
すると、ダイニングで寛ぐユーコ達まできょとんと反応した。
「別の問題に出くわした?」
「捕獲してまわった?」
私は疲れ気味に大まかな捕獲者を伝えた。
「ええ。第八十八の枝葉奏にね。本命の斥候として居たから捕獲して中身を入れ替えた肉体だけ放置してきたわ。港で船から降りてきたばかりの第八十六の絵葉翔子も居たから同じ措置ね? 他の管理島も同様に十一名が居たからそちらも捕獲と入れ替えで肉体放置ね」
ちなみに捕獲した魂と人格は現在ユラが確保して元通りに復旧中だそうだ。終わり次第、私の元に送るとの事で彼女達がどんな種族となるのか楽しみらしい。それと、今回の斥候とは別の第八十七を除く主力達は王城にてノラリクラリとそれぞれが身体を重ね合っていた。一部はBL的な者も居たが・・・おそらく斥候からの情報が得られない限り作戦を進める事が出来ないからだろう。
あの流刑島以外は敵対者だから。なにも知らずに昇る方が自殺行為なのだ。
私の報告を聞いたユーコはゲッソリしフーコは興味津々に聞いてくる。
「ここはカナブンとショウだけが昇ってきてたのね」
「それで斥候って事はなにをしてたの?」
「兵站のための市場調査ね。だから偽情報を与えるために中身を変えて傀儡としたのよ。こちら側のね?」
「「カノンさんパネェ!!」」
だから大まかな事情を伝えたのだけど、語彙力が亡くなったのか二人は唖然としたまま反応した。すると先ほどまで黙っていたユラが粛々と口を開く。
それは今回の処置に関係する報告だった。
「実は彼女達は既に人格・・・心そのものが崩壊していまして従来の人格に繋がる異世界人の記憶は名前以外が消され、命令に反応して動くだけの疑似人格を植え付けられていたのです。それを今回・・・カノンの魔法によって確保した疑似人格と魂を二人同様にある程度戻したのです」
「え? 心が崩壊?」
「記憶が消された?」
「はい。疑似人格を植え付けるまでは物言わぬ反応を示すだけの肉塊とされていたのです。頭の中身がほぼ空っぽという状態ですね」
「「ヒッ!?」」
ユラの報告を聞いたユーコ達は己が身に起きてたらと想像して震え・・・抱き合った。
流石に漏らしてはいないが顔面蒼白だった。
二人が助かったのは闇属性持ちだった事が功を奏したともいうが。
今は肉体が屈強な吸血鬼族の者でも心は未だに異世界人の女子高生だもの。その点で言えば奴らとは真逆の存在かもしれない。
身体は最強、心は脆弱。
身体は脆弱、心は最強。
そんなやりとりの間もユラは例外的な助言を行った。この場に女神様が居る事の方が、例外的な気もするけど気のせいよね?
「たちまち治せるとすれば、脳髄部分を最上級ヒーリング・ポーションで回復させるという事でしょうか?」
私は真面目な顔でユラの意見に賛同を示し、転送魔法で王城にて重なり合う者達の頭上へと最上級ヒーリング・ポーションを振り掛けた。
「処置した斥候達同様、それが無難でしょうね? ということで全島に早速送ってあげたわ」
「「早っ!?」」
ユーコ達からは呆れの視線を戴いたが・・・一応、実況中継をしてあげた。
「案の定、回復した途端に疑似人格でも抑える事の出来ない欲望塗れに戻ったわね。今は肉欲に塗れて王寺が姫様をこれでもかってくらいに・・・」
それを聞いたユーコは呆れ、フーコが陰で言われていたアダ名で応じた。
「弱小外道が地の外道に戻ったのね〜」
「恐怖も戻ったからコバンザメ王寺の再登場ね?」
「そうね〜。平穏で育った私達異世界人がそのまま戦いに出られるわけないわよ」
「まぁ私達は論外としても、これで行動が遅れるなら万々歳ね?」
その後も二人の王寺に対する罵詈雑言は続く。余程、自分達の肉体に行われた行為に怒りが溜まっていたのだろう。二人としても王寺に犯されたくなかった事が本音らしいが。
すると、そんな二人の会話の最中──
「確保した者達の復旧が終わりましたね」
ユラが不意に空を見上げ報告を入れてきた。
「速いわね? ああ。流石は・・・ってことかしら?」
私は他の者が居る手前、ユラの立場を表に出さず確認するとユラは苦笑しつつも行った処置と願いを打ち明けた。
「そうですね。一応全員が停止状態として保管庫に移しました。今後の段取り次第で良いので出来る限り昼の者を多めに用意してくださると助かります」
それは、おそらく眷属の事だろう。今は夜の者が殆どなのだから、昼の者を多くという事は──、
「他の種族にも満遍なく力を分け与えて欲しいのですよ。今のままだと夜はいいですが、昼に攻められれば勝てませんので」
私はユラの言わんとする事を即座に察した。
「確かにね。私も基本は夜の住人だから昼間に行動するのはそこまでじゃないもの。日照耐性があっても基本は引きこもりだしね。それもこれも前回の例があっての事よね?」
日照耐性があっても万能ではないのだ。
異世界ならともかく、この世界は特にね。
それは日中・・・二つの太陽が出ている時間帯は私といえども拒否したくなる時間帯である。
私が出歩くのも基本は亜空間の中であり、外の時は〈光耐性結界〉を自動的に張るのだ・・・ユーコ達にも無意識下で張るよう心核本体に付与してるし、リンスは無意識に張るよう自分で行っているそうだ。
ちなみに光精霊が持つ光は全属性持ちでも肌がカサつくという影響を受ける。流石に嘗てのリンスのような灰化はしないが乾燥は継続するのだ。
ユラは私の問い掛けに対して首肯を示しシオンを心配そうに見た。
「そうですね? 敵は夜の住人が弱る時期を狙ってくるので」
「前回・・・私がボロ負けしたって事よね?」
シオンはそれだけで察しユラはシオンに近づき抱きしめた・・・心配するように。
「そう、なりますね」
私はそんなやりとりを眺めつつも今後蘇らせる者達の段取りを打ち明けた。
「ひとまず、獣人族を筆頭に亜人と魔族の一部を順に行えばいいわね。ユーコの弟だけは同族とするけど構わないわよね?」
実は他種族の情報を斥候回収中に〈鑑定〉して全情報を得たのだ。
「はい。それで構いません、比率で言えば半々が希望ですが・・・」
「なるべく昼を多めにとるわよ。夜は私達が居れば事足りるしね?」
「そうね? 夜は静粛性を求めているし・・・今以上に統制がとれないと流石に困るから」
そう、シオンが言う通り〈黙れば美少女〉の二人だけで充分だ。やたらと騒がしい者が増えるとたちまちバレてしまうから。ユーコの弟は同族としないと面倒という理由もあるけれど。
「それでお願いします。敵の行動は他の島も同じですが・・・作戦と呼ばれるモノの起点は第八十八の者達のようですから。今日の事で作戦自体は相当遅れるでしょうね。それに第八十七はほぼ敵前逃亡ですし。斥候も」
「本能を戻した段階で・・・再度壊すのにどれだけ時間がかかるか・・・よね?」
「そうですね。最上級の場合、壊した矢先に治癒するので影響が消える頃合いを含めると最小で半年でしょうか? ただ・・・途中で治癒魔法を施すと治癒効果が延長しますので最大の場合は限度知らず・・・ですがね」
そう、ユラは最後に人の悪い笑みを浮かべて微笑んだ。
(なんとまぁ、ユラも相当なものよね?)
ちなみにユラ自身は〈召喚契約〉には関わっておらず姉神を騙した事の神罰は可能だが、祀る者が異なるためにそれが出来ない。
だが、間接的に神罰代行者へと協力する事で神罰対象者へとジワジワと罰を与えるあたり相当に頭のキレる女神様である。
こうして、ユラとの話し合いもそこで終わりユーコ達と共に色々と話し合っていた。その後のユラは巫女の身体を集落に戻し、客間に居座りながら楽しんでいた。ただね?
ミアンスが妙な羨望の眼差しをこちらに向けている気がするのは気のせいかしら?




