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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第二章・気ままな異世界生活。

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第33話 吸血姫は敵戦術を知る。


 私は亜空間のログハウス内から第六十五浮遊大陸・ジーラ〈ライラ王国〉の王都にある路地裏へと扉を開け王城近くにある〈知神殿〉へと訪れ挨拶を行った。


「おはようございます。今から礼拝は可能ですか?」

「おはようございます。可能ですよ・・・ですが早朝ともあって神官が出向いておりませんので、お布施を(いただ)く事になりますが」


 応対したのは入口扉に立つ教会騎士だった。

 彼は終始ニコニコと笑顔ではあったが、私は余りにも想定外な出来事に呆気(あっけ)にとられた。この世界は割とモノグサ坊主が多いらしい。だから神官不在の保険として管理費のようなお布施の提供を求められたので私は逡巡したのち、早朝礼拝の相場を調べ騎士である彼に手渡して内部へと案内された。


「そうですか。でしたら大銀貨一枚・十万リグを寄付させて(いただ)きます」

「お預かり致します。ではこちらへ」


 ちなみに、神殿のお布施は最小価値で銀貨から扱われており、銀貨なら商人・大銀貨なら貴族が主に出すそうだ。これは吸血鬼族が神殿内部に入らないようにするための迫害的な意味も含まれているらしい。私達姉妹と眷属(けんぞく)は意味ないけどね?

 これもある意味で聖域として護られているとの事だ。これは案内する教会騎士の説明ね?

 私の姿がパッと見、お上りさんの冒険者に見えたようだから・・・ともあれ。


「ではこちらで礼拝を行ってください。私は入口前におりますので・・・では」

「お手数お掛け致します」


 騎士からの案内は簡潔に終わり、私は祭壇前に案内された。ここから先は亜空間結界を神殿内部に張り、私は女神様の名を呼ぶ。


「ミアンス!」


 普通は神殿内部で魔法を検知すると捕縛結界が反応するのだけど、それは(そら)属性と光属性以外の魔力に反応するそうなので、外は光属性・内を(そら)属性で指定した。

 この複合属性の同時行使は今のところ私しか行えないそうだが。

 すると亜空間結界を張った神殿内に白い僧衣を着た金髪碧瞳の美女が顕現した。


「待っていましたよ。カノン」

「今度から本名呼び方なのね」

「そちらの方がよろしいでしょう? それともカノちゃんの方が良かったかしら?」


 顕現したが凄いフレンドリーになっていた。

 しかも本名呼びであり某御仁の呼び方まで真似したので私は苦笑するしかなかった。


「あの人と同じ呼び方はちょっと・・・」

「ふふっ。それで、これが例の?」


 その後は主な使い方を説明した。


「異世界の通信機器を模した魔道具ね」

「へぇ〜。姉上(・・)が見たら懐かしいとか良いそうだけど・・・凄い軽いのね?」

「ええ。現物は血液登録としてるけど献上品は神力登録でいいわよね?」

「助かるわ〜。なるほどね〜〈地図魔法〉を四角いボタンに紐付けしたのね?」

「大まかにはそうね?」


 私は詳細を事細かく伝え、知の女神様への献上会は滞りなく終了した。今回は現物を手渡しに来ただけだしね。登録方法は通常とは異なるけど、これもある意味で私達しか扱えない力だが、私やシオンが使う事は希なので割愛する。

 一応、色々積もる話もあったから女神様尋問・・・質問会を行って本日はお開きとなった。

 すると、お疲れ気味の女神様が神界に戻る前・・・不意に頭を下げた。


「それと・・・斥候(せっこう)に連れ出された子達を救ってくれてありがとう」


 それは未だに管理島上空に浮かんだ者達の事であろう。中に居る者の内、数名は遺体となっているが。


「どういたしまして。でも他の変質者は状態に依ってはどうにもならないわよ?」


 私はなにを今更という素振りでお礼を受け取った。外の教会騎士が見れば傲岸不遜(ごうがんふそん)ともとられるが。

 女神様もその点は気にしておらず苦笑しながら──、


「ええ、それは判ってるのだけど・・・でも、呼び出した手前、ね?」


 呟いたので私は女神様から言質を取るための言葉を告げる。


「責任ある立場ね・・・仮に消しても文句はないって事でいいわよね?」

「本来であれば外敵への抑止力だもの。それが機能不全を起こして戻らないならどうしようもないわ。それに私としてもその方が助かるし。契約上・・・直接的には動けないからね?」


 言質を取ったはいいが、別の意味を告げられたため、私は本来であれば受ける事のない使命を負わせられた事に気がついた。


「はぁ〜。神罰代行ってわけね?」


 今や本来の使命も後任が引き継いでるため、ある意味で自由だったのだが。これは受け入れるしかないようだ。騙した者に対する利害は一致しているのだから。

 すると女神様はいつもの威厳のある顔立ちから本来の素顔を魅せて微笑んだ。


「理解が早くて助かります、〇〇」

「さ、流石に、むず(かゆ)いわね?」


 しかも私達と女神様しか理解出来ない言葉で呼ばれてしまい背中が(かゆ)くなった。


「ふふっ。では戻りますね、〇〇。私達は引き続き見守ってますから」


 最後は私達でしか理解できない言葉と共に最大級の笑顔で神殿から姿を消した。


「最後くらい名前で呼びなさいよ! 全くもう」


 流石の私も最後はツッコミを入れるが、(すで)に帰った者へと言っても意味がない事を知り拝む姿に戻りながら周囲の結界を解除した。




  §




「あ、この洋服とかフーコに似合いそうね〜」


 礼拝を終えた私は教会神殿から王都の目抜き通りに出て洋服店を見て回った。それはユーコ達の普段着を作る際の見本として〈鑑定〉するためだ。まぁ異世界の洋服からすれば一言で言って地味なのだが平民の衣装とは等しくそういう物なので身分登録前の二人の衣装を用意するにはそれが手っ取り早いと感じた私である。


「生地は・・・シルクは無いのね。(ほとん)どが綿や麻と羊毛ね」

「いらっしゃいませ。なにかご用ですか?」


 私は服などのデザインはともかく素材が気になり洋服店の外から主な素材を調べた。

 すると、外に出ていた店主だろうか?

 店主が私に対して声を掛けてきた。


「いえ、見て(・・)いただけですので」


 私はその言葉を聞き流しながらも店内の商品を〈鑑定〉して回った。だが、この世界にはウィンドウショッピングという行為は存在しないのだろう。私は店には入らず窓の外から〈鑑定〉していただけなのだ。

 だが、その行為すらも店主には不快となったようで私の言葉を聞いた瞬間に怪訝なものに変わり機嫌が悪い素振りで振り返り──、

 

「見て? ご用が無いなら・・・あれ? 居ない? 買わないなら店を(のぞ)くな!」


 私が〈希薄〉してそばに居るにも関わらず居ないものとしてきょとんと(ほう)け、怒鳴りつけた。


「ウィンドウショッピングが不可能な世界なのね。買い物前提でないと入店も叶わないとは。買えない事はないけど余りに地味なデザインばかりで欲しいとは思えないわよ」


 私はそんな素振りの店主を眺めながら異世界との常識違いを改めて自覚した。その後は洋服店巡りを止め食材を買うために市場に向かったのだが──


「あれは?」


 市場に着くと顔見知りが居た。


「見た目を白髪に(いつわ)ってるけど・・・枝葉(シヨウ)妹よね?」


 そう、例の変質者の一人が市場でアレコレと商品を物色していた。魔導士としての〈灰色のローブ〉の格好で買い物をしていたともいう。


「・・・本人に間違いはないけど・・・中身が男?」


 私は〈希薄〉スキルを行使しながら枝葉(シヨウ)妹を〈鑑定〉する。しかし、その結果が女ではなく男だった事に違和感を覚えた。


「魂と肉体は・・・女よね」


 改めて〈詳細鑑定〉すると、枝葉(シヨウ)妹の異常は人格面だけが男に変じていた。

 私は〈無色(むしき)魔力糸(まりょくし)〉を伸ばして記憶を味見した。

 生命力の味としては薄く・・・若干腐っていたので余り味わいたくなかったが仕方ないとして戦術を把握した。


「うーん? 斥候(せっこう)? 第二陣の者達か・・・ユーコ達が第一陣で第二陣は商船で(のぼ)ってきたのね」


 それは、やはりというべきか戦術として第一陣が捨て(ごま)という(てい)大仰(おおぎょう)に動き第二陣が隠密行動で状態を把握するために来たようだ。

 どうも、こちらが本命の斥候(せっこう)であり、あちらは(おとり)とされたようだ。


「これは確保ね。中身が熟成とは別の方面に移行しているけど」


 私は目の前で彷徨(うろつ)枝葉(シヨウ)妹を遠隔確保した。それは路地裏に移動した頃合いに〈遠視〉の俯瞰(ふかん)により亜空間結界で捕縛したのだ。

 他にも誰か居るならそちらの確保も必要と思ったが王都中を調べた限り枝葉(シヨウ)妹しか居なかった。


「やはり他は居ないわね? 連絡手段は・・・第八十八に戻る前提ね」


 私は確保した枝葉(シヨウ)妹を亜空間に移動させて裸に()き、奴らの行為を把握する事に努めた。そう、生きながら止まった枝葉(シヨウ)妹を検査したのだけど──、


枝葉(シヨウ)兄の疑似人格が宿ってる? 妹の疑似人格は〈封印石〉の中?」


 〈詳細鑑定〉を進めると目前に立つ者の人格に異常がある事が判った。そして装備品の中にあった光属性の魔石を鑑定し中身を把握した。


「大元の疑似人格をこちらに移す魔法ね? ある意味で乗っ取りだけど元々が一卵性双生児だから可能なのかしら? 兄の身体は・・・第八十八流刑島に封印中ね・・・」


 なんというかこれも・・・安全策なのだろう。

 勇者の一組を(おとり)とし、本命を一人だけ送り込み、状況を把握する方法だ。

 私も本来なら殺す相手だったが──、


「兄の疑似人格は〈封印水晶〉に移して、魂は〈魂魄(こんぱく)回帰(かいき)魔法〉でスキルが一式リセットしたわね。〈隷殺(レイサツ)〉スキルで削りに削った魂も(けが)れが無いのは中心核だけみたいね。やっぱり中心核には光属性の加護があるのかも。妹の疑似人格も〈人格回帰(かいき)魔法〉で修学旅行中に戻ったわね・・・記憶が無いから最初から育てるしかないけど」


 意図せず目前に現れたため、私の気まぐれで救ってしまった。兄はゲスとして永久封印となるだろうが妹の方は色んな意味で好みだったので、なんらかの措置を(ほどこ)そうかと考える私である。偽名的に他人事とは思えないとも言うけれど。


「この魂の大きさ的に妖精かしら?」


 すると私の背後から声が響き──、


「それでしたら、私に預けてくださいますか?」


 振り返るとユランスが立っていた。

 私はユランスの姿を認めるときょとんと(ほう)けた。


「あら? 降りてきて大丈夫だったの?」

「この場は私の空間そのものですから問題ありません」

「そういえばそうだったわね。でも預けるって?」

「その子の正常化した魂と人格ですね。記憶は姉上が複製保管している物がありますから召喚直後までなら戻せますので。それに助けたのなら最後までという事で」

「そうなの? それなら助かるけど」


 流石は女神様という事なのだろうか?

 一応でも記憶を複製保管をしている辺り、なんらかの意図があるように思えた。元々が勇者召喚された者の知識だろうから、それを欲したともいうけれど・・・ともあれ。


「それで、こちらの肉体はどうされますか?」

「人格と魂は除去してるから肉体の状態異常を除去して前の二人と同じ措置を(ほどこ)して使い魔でしょうね。兄の方の人格を〈複製回帰(かいき)魔法〉でリセットして中に埋め込んで使えばそれなりに使えそうだし」

「なるほど。内部から作戦破綻を目指すと?」

「出来るならそれが一番ね? 今回も市場調査という(てい)で入ってるから通常よりも高額となるよう嘘を伝えさせましょうかね? おそらくこれも・・・」

兵站(へいたん)ですか」

「ええ。最悪、この島を乗っ取って兵站(へいたん)とするくらいはやってのけそうだもの。それなら資金不足という意味合いで遅らせる方が良いでしょう?」

「なるほど。軍資金不足という扱いですね? だとして・・・他の島はどうなさいますか?」

「あぁ、そっちにも居たわね・・・たちまちは該当者を全て回収して同じ措置でしょうね」

「手伝いますよ。どのみち、それをやらないと厄介(・・)な事が起きそうでしたから」

「厄介? まぁいいわ手伝ってくれるなら助かるわ」


 私はユランスと共に敵対者の思惑を壊す事に合意した。知の女神様自らが動く事は不可能だが魔の女神様が動く事には問題がないようだ。





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