第31話 吸血姫は現実逃避する。
ひとまずの私はきょとんと呆けたユーコ達に対して簡単な事情を明かした。
「実は今回の召喚って、一組を除いて全員が巻き込まれてるのよ」
「「えぇーっ!?」」
案の定、目を見開いて驚いていたけどね?
するとユーコが突然思い出したようにアタフタと問い掛けてきた。
「じゃ、じゃあ、ゆ、佑麻は? お、弟は?」
私はユーコの動揺に引き気味になった。
そして宥めながら続きを促す。
「落ち着きなさい! まさか弟が居たの?」
というか身内が同学年に居たことの方が驚きよね? 普通は余程の事がない限り一緒にいる事は無いしユーコが留年したという記憶は私には皆無だもの。年子でも余程両親が頑張っていない事には同学年になる事なんてないしね?
ユーコは急にモジモジしつつも──、
「う、うん、九組にね? 二卵性だから似てないけど・・・弟が、居るの」
恋する乙女のように事情を打ち明ける。
フーコはなんというかしたり顔でニヤニヤしていたけどね?
(なるほど・・・それならあり得るわね?)
私は事情を察しつつ亜空間庫内に収めた〈封印水晶〉からユーコの波長に似た魂を拾い上げ〈鑑定〉を用いて所属先を曝いた。
「九組ね。第八十四から昇ってきてた中に・・・居たわね」
「じゃ、じゃあ!」
ユーコは私からの報告を聞き、嬉々とした表情に変わった。
「ええ。既に回収済みだから・・・」
私はそんなユーコの表情に若干引きつつも、ひとまずは受け流す事にした。今は順番的に不明者を優先したかったという事もあるからね?
彼の性別がどちらなのかという単純に知りたかったから・・・ともいうけど。命をどうのという感じは今の私には関心が無いのだ。元々が有象無象という他人事の範疇だったのだから。
「お願いします! 助けてください!」
だったのだけど、懇願されちゃうとね?
ユーコは私の足下に跪き、懇願した。女神様でも拝むような素振りで、それこそ典礼の時を思わせる姿である。
私はユーコの素振りとフーコのニヨニヨ顔の温度差から、どうしようかと困惑したがシオンとリンスが苦笑して頷き溜息を吐きながら注意だけを伝えた。
「そ、それは、そのつもりだけど・・・血縁自体が完全に無くなるわよ?」
今までは血縁があった。だが今回は死亡時期が異なり個別に転生するのだ。そこでかつての関係性が無くなるのは当然の事なのだ。それぞれの記憶には前世の姉弟関係であったという情報しか残らないのだから。
それを聞いたユーコは一瞬は戸惑うも俯きながら呟く。
「か、構わないわ。無事でさえ居てくれたら」
するとニヨニヨ顔のフーコがなにやら意味ありげな混ぜっ返しをした事で空気が変わり、愛くるしい普段のユーコが戻ってきた。
「ブラコンだしね? 物理的に重なる事が可能になら良かったじゃない〜」
「そ、それは言わないで! そもそも極小だから・・・そうじゃなくて!!」
「成長するかもよ?」
「だから!! 冗談でもそれは言わないで!」
会話が少々アブノーマルな関係であったのは聞かなかった事にした。双子が繋がるとか薄い本じゃあるまいし・・・という感じではあったが。最後はユーコが本気で怒ったのでフーコは軽く謝りつつも困った顔の私に対して問い掛けてきた。
「ごめんごめん。それで他は誰と誰がいるの?」
「もう!」
ユーコは説教を誤魔化されたとして怒るが、私はフーコの問い掛けを優先し苦笑したリンスにお願いした。
「はいはい。落ち着きなさいな・・・リンスちょっと貸してね?」
「はい。どうぞ」
私は管理石板を受け取りながら伝える。
「詳細は・・・七組の石嶋豪、十三組の白鳥香、十二組の観山瑠衣、十一組の安達由加、四組の佐藤可南照・・・また居たのね? 十組の綾小路令、五組の嘉手真奈美、三組の蜷川二奈、六組の亀田釛、八組の冷水聖・・・は想定通りね」
以上の順番で昇ってきた流刑島を読み上げると、第七十七、第七十九、第八十五、第八十、第八十三、第七十八、第七十六、第八十六、第八十二、第八十一で該当者なしの第八十七と弟君の第八十四を含めて十二島に。
そこに二人の居た第八十八を含むと十三島という事になるの。流石に〈カナデ〉がもう一人居た事には呆気にとられたけど。
ただねぇ?
(これだけの人員が増えるとなると、色々大変だから追々で蘇らせるしかないわね?)
そう、人数が人数なのでどこかしらで調整する必要に迫られた私である。それこそ男を優先してどこかしらで護衛にするのもありだと思った程だ。女子は増えすぎても二人の挙動から少しばかり大変になると思ったからでもあるが。
報告を終えると私は管理石板をリンスに戻しリンスとシオンを先にダイニングに戻して二人の部屋から出ようとした──、
「二奈が居た!! それに、瑠衣もだ!」
「あとあと! 香と令も居たね!!」
のだけど、ユーコ達が凄い嬉しそうな顔で見つめ合い誰かしらの名前を呼んで叫んでいた。
それこそ報告した際にいた面子の誰かだったので私はきょとんとしつつも問い掛けた。
「知り合いなの?」
「家同士の付き合いで幼馴染だったから」
「うん! それと文芸部の仲間なの!」
二人は大興奮のまま関係を明かす。
いやはやどうして──、
「類は友を呼ぶ・・・いえ、そういう事ではないわね」
類友とは言うが惹かれ合うなにかがあるのだろう。私は流刑島の王族から素行不良と呼ばれた者達に少しばかり興味を持ってしまった。ユーコ達もそういう意味では素行不良共の範疇に入っていたけれど。
§
友達の再誕見込みがある事を知ったユーコ達は、その後もなにやら話し合いをしていたが、時間も時間だったので二人の部屋をあとにした私である。今は自室で横になりながらシオンと今後の事を話し合う。
「一人頭、一千五百万・・・それを一回につき、二体が無難よね?」
ちなみにリンスは私の隣で夢の中だ・・・。
ある意味・・・イッた状態で眠っていた。
今日は少しばかり激しくしすぎたようだ。
てへぺろ!
「シオンの〈魔力炉〉が最大稼働に達してない状態だと、それが限界よね?」
「うん。一日のアイドリングで増やせても精々百万だからね? 使わずに居るなら問題ないけど眷属との繋がりがある以上、誰かしらが大規模魔法を使ったら、こちらが減るのは確かだしね〜」
実はユーコ達を再誕させた直後、とある理由により私達の生来スキルが戻ってきており、スキル運用について話し合っていたの。
これは知の女神様が疲労困憊の原因となった底知れずの器に関係するスキルで私もこれが戻ってきてからは魔力量の上限値が無い意味を思い出したほどである。
シオンの場合は吸血鬼族そのものが眷属である事から現状で直接的な眷属が三人しか居ない私と比べると扱える魔力量に差が出るのだ。
供給量が一人頭で一としても誰かしらが膨大に使うと補填するための魔力がそちらに流れるのだから、ある意味生命線を眷属に握られているともいう状態である。
そのため純粋魔力である保有魔力とは異なり外部用と供給用の割当魔力を〈魔力炉〉で増やしておく必要があるので──
「だとするなら、焼べる生命力をなるべく多く摂取したいわね? 眷属が行う魔法の使い方によっては最悪保有魔力まで回さないとだめだから」
「そこよね〜。今のところ戦闘には至ってないけど追々どうなるか判らないし」
「流刑島の者達がどう出るかよね? 今は斥候に出した者からの返答待ちだろうから、こちらが斥候を捕獲している内は・・・」
「行動に及ばない・・・といいけどね?」
「そこなのよね〜、行動方針が不明過ぎるからどこで動き始めるか謎だわ」
変質者達の動向を探りつつ、どのタイミングで復活させるかを話し合う。ようは・・・こちらの戦力を増やしながら敵の戦力を如何に削るかがカギである。
(というより・・・私のスローライフや旅の時間はどこに行ったの?)
勇者召喚に巻き込まれ無視して旅しますと思った矢先に巻き込んできた者達の時間に拘束される・・・悲痛な現実に哀しむ私であった。
せっかく飛空船を作ったのに乗る機会が無いままなんだけど〜!?




