第28話 吸血姫はラノベ好きを甘く見た。
ひとまず、再誕したクラスメイト兼眷属が全裸のまま抱き合っていたが、気持ちが落ち着いたのか今度は自身の身体を触って感触を楽しんでいた。
でもね? そのままだと私にとっては目の毒で百合心が刺激されてきたのね。
そう、生まれたてのそれが目に入ったから私は視線をそらして二人のサイズにあった下着を錬金魔法で用意したのだ。
「さて。二人も裸のままだとあれだから下着を・・・用意したわ」
「「!!」」
すると、なぜか驚きの顔を向けられた。
私は怪訝な表情で二人を見ると──、
「? 下着は見慣れてるでしょう?」
二人揃って魔法に感激していた。
「「本物の魔法だ!」」
「ああ、そっちの驚きなのね」
私は驚きの意味を察して苦笑した。
その後の二人は感激したまま下着を受け取り、慣れた手つきで着用していたが、二人の目前でシオンがフムフムという様子で付け方を学んでいた。
(シオンには付け方をあとで教えないとね? 未だにノーブラだし)
この子も三ヶ月経ってようやくCカップまで育ったから。二人が下着を着用し終わると私はこちらの世界の洋服を用意して手渡した。
一応、二人も身分登録すれば最初は平民となるだろうが称号にリンスと同様の〈真祖姫の従者〉が出てるから当人達の知らぬうちに系譜の祖として王族扱いになりそう・・・と思うだけで今は言わないでおいた私達である。
二人が服を身につけて互いに褒め合ってる頃合いに私は以前の事を打ち明ける。
「まぁ再誕前までは二人も使えてたけどね」
「「え? そうなの?」」
が、記憶に無いのか二人は呆けた。そこで私は魂からの再誕だった事を思い出し──、
「まぁ・・・洗脳されていたし当時の記憶も前の身体にのみ残るから」
あっけらかんと事実を述べた。
すると、江草さんが疑問気のある表情で問い掛ける。箕浦さんもきょとんとした顔になっていた。
「せんのう? そ、それって・・・」
私は大まかな行いだけを教えた。
「認識を書き換えて罪悪感を消したうえで、人殺しを平然と行える者にする術ね? 例えるなら王寺の変質化・・・いや、あれは地ね」
ただ、唯一の変質者を例に出すのだが、よくよく考えると地だと気づき江草さんもそれには苦笑しつつ同意した。
「うん。王寺は地だと思うけど、どういう事をさせられていたの?」
そのうえで詳細を問われたので私は使い魔からの記憶を読み出しながら──、
「そうね・・・過去二ヶ月前の事だけどレベル上げで魔物の生肉やら臓物を食べさせられてたわね? 今なら平気だけど人族が生で食すと毒だから最初の内は吐きまくってたわね?」
「うげぇ」
詳細を教えると箕浦さんはゲッソリした表情に変わった。しかし江草さんだけは冷静さがあるのか時期を察し私に問い掛けた。
「え? 待って? 二ヶ月前? そんな期間、こちらに居たの? 一体いつから?」
それこそ召喚と死亡と再誕だから戻れない事は気づいているが自身の覚えのない期間が何日あったのか気になるのだろう。
私は江草さんの問い掛けに対し、大まかな時期を思い出しつつ亜空間庫に仕舞いっぱなしのデイパックからスマホを取り出した。
「(というかシオン? なんで凝視するのよ?)・・・実際には修学旅行の最終日。教会から始まってるから」
ただ、この場が時間停止した亜空間だった事を思い出した私はスマホ自体が動いてないと気がつき〈鑑定〉スキルの日付から日数を把握して教えた。
「スマホの日付を・・・あ、時間が止まってるから大まかな日数で三ヶ月は経ってるわね?」
しかし二人の視線は私が手に持つスマホに注がれツッコミが入った。
「「スマホ、持ってたの!?」」
「私だって持ってるわよ!! それより日付の事はいいの?」
私のツッコミ返しはともかく呆れながら話を戻す。すると江草さんは思い出したように時期を察し下腹部に手を添える。
「そうだった! なら三ヶ月間も・・・ということは時期的に」
それには箕浦さんも気づいたのか怖気のある表情で江草さんに問い返す。
「始まってない? 生理?」
江草さんは顔面蒼白となりつつ前の肉体を哀れんだ。
「うん。身体があの状態なら、そうなるよね?」
ここで私は二人が安心する一言を告げた。
「それは大丈夫よ。貴女達が再誕した段階で肉体の方は腐敗が始まってるから。それに、今の肉体だと本気で子供が欲しいと思わない限り、一切来ないから安心していいわ」
「「え! 来ないの!!」」
驚いた二人に対してシオンが微笑みつつも補足説明を行った。
「ええ。間違いなく来ないわよ。それが吸血鬼族の女性の特徴ね?」
実際に私達がそうだもの。私達の場合はそういう意味での機能じゃないけどね?
すると二人は大感激で抱き合った。
不老不死と知り、亜空間の事まで知り──
「「夢にまでみた世界だった!」」
そう、大感激で何度も何度も抱き合った。
私とシオンを間に挟んで・・・なぜに?
§
私はシオンと二人を伴い、錬金工房からダイニングに移った。この場は時間停止空間ゆえに外の状態は変わらずだが〈遠視〉で外を見ると夕方だったので、そろそろ夕食の用意をせねばと思う私であった。
ただ、その前にリンスに報告すべき事案が出来たので──、
「とりあえず・・・二人の名前は変えた方がいいわね。前の肉体は死亡扱いだし」
「なるほど・・・なら私はユーコ・ミラーでいくわ! 前のと似てるけどペンネームでもあったし!」
「なら私は、フーコ・エクサね! ペンネームが本名になるなら、これほど嬉しい事はないわ!」
二人に名付けの提案を促し、本人達も納得した名前を即座に決めた。それを聞いたシオンはニコニコと微笑みながら名前を呼ぶ。
「じゃあ、ユーコとフーコね?」
「シオンと・・・巽・・・さん?」
フーコが返答という感じで名を呼ぶが同じ名の者が居たため困った顔をした。
私はその反応からもう一匹の名をあげる。
「・・・枝葉は存命だものね」
そう、名をあげるのだが・・・まだ死んでいないため使うのは憚られた。
だって似た名前で悪さされたくないしね?
魔導士だから変装されでもすると面倒だし。
すると、シオンが私の困惑を余所にあっけらかんと宣った。
「ならカノンでいいでしょう? 偽名よりも本名を使わないとね?」
「「偽名!?」」
直後、偽名と知った二人は気になりますという風になった。以前なら完全無視を決め込めたけど今は勝手知ったる仲という流れなので私は事情を打ち明けた・・・本名の由来は教えてないけど暇潰しで入学したことも含めて。
§
その後、リンスと二人のご対面となった。
「カノンさーん? あら? どちら様ですか?」
「「可愛い!!」」
実はリンス自身は早々に戻ってきていたが、空気を読んで湯浴みをしていたのだ。
そしてダイニングの騒ぎを聞きつけ、全裸のままではあるが顔を出し二人の百合的な琴線に触れたため、更なる大騒ぎが勃発した。実際、凄いうるさいのよね?
これが本来の二人だと考え──、
「二人って猫被ってたのね・・・」
「カノンもじゃない? 黙り姫って言われてたし」
「そうそう。喋った時は驚いたもの!」
ボソッと呟くと二人からツッコミが入った。
なんというか既にフレンドリーな感じだが実際にクラスメイトだった事もあって、余計に歩み寄りが早いともいう。
リンスは突然の騒ぎに驚き風呂に戻った。
ある意味で王族よりも庶民の雰囲気だもの・・・この二人も一応、誤令嬢だけど。
「清純派じゃなかったのね? ユーコって」
「私ってそんな風に見られてたのね〜」
「単に校則を額面通りに受け入れてただけよね? 実際に上枝のバカが染めた時には唖然としてたし」
「あー、あったわね? 地毛が黒すぎるからってね?」
ただこの時、二人の会話から私はある点で疑問に思う。もしかしたら私の勘違いがあるかもしれないからだ。
「二人って取り巻きだったんじゃないの?」
「取り巻きは枝葉の双子だけよ? 一応、家の関係で関わってただけだし」
「そうそう。あんなの親の付き合いの延長だったもの。実際は私達の家の方が上で、あれの家は下だったしね? 旧家だっただけで」
「そうそう。没落した家でね〜? 仕方なく様付けしないと青海険が喧嘩を吹っ掛けてきたもの〜」
肝心の返答はケラケラ笑う二人言葉と本音が流れてきたので嘘ではないと判る私だった。
眷属化したお陰で本来は裏表のない人物だと判ったのは皮肉だけどね?
だからこの時の私はある事を思い出し──
「あー、一度・・・自滅するように見せかけて伸したら・・・睨まれるようになったわね〜」
「「カノンさんパネェ!」」
あっけらかんと語ると二人から尊敬された私であった。いやいや、これで尊敬されたらレベルとかどうなるのよ?
「そうだったわ! 二人のレベルなんだけど通常だと1なのよ」
「「え? それって最弱?」」
二人にレベルを教えると絶句した様子であったので私とシオンで行った措置を告知した。
「ええ。でも、そこからレベル上げをしていく事が本来の道筋なんだけど再誕時に私とシオンのレベルから39だけ複製してるから、二人の現在のレベルは意図的なレベリングで79あるわね? 再誕前は60ね?」
「「!!? い、一生ついていきます!」」
ま、驚くわよね?
実際に経験値も複製してるから生まれながらにしてチート的な存在である。流石にそれを聞いた二人は下僕の様相を呈したのでシオンがあっけらかんと真相を語った。
「いや、既に一生ついて行かざるを得ないけどね? 真祖の眷属だし」
だが、そこはラノベ好きが功を奏したというか、この場には真祖の意味を悟った者が二人おり──、
「ん? 真祖?」
「それって神から遣わされた者なんじゃ? 生まれながらの精霊よね?」
「う、うん。まぁそんな時代もあったわね」
私は真相に辿り着いたという事でバツの悪い顔をした。
シオンは絶句で固まってるけどね?




