第275話 魔王に丸投げする吸血姫。
事態が動いたのは地上の調査を開始してから四日後の事だった。私が自室で玩具を拵えている最中、総合監視室にて情報の取り纏めを行っていたマキナから報告が入った。
「は? 今、何て?」
流石に驚き過ぎて玩具が足下に落ちたわ。
それまでの間は噂程度の情報しか上がってこなかったのに、突然上がってきたから私の驚きは半端ない事になったわね。
「該当者が見つかったかもしれない話だよ」
「ゴミ共の居所がようやく判明したと?」
「うん、地底世界の合国圏。地上の国名で言うと公国と呼べばいいかな? その王宮内に該当者かもしれない者達が居るとの話だよ」
「そ、その公国というと、確か・・・?」
「例の問題国家だね。監視密度が高い場所でもあるけど、尻尾を掴んだのは数時間前だって」
それは人族に扮して現地調査を行っていた〈縮小化〉スキルを持つナミル夫妻と〈聞き耳〉スキルを持つシロコからの報告だった。
この夫妻は時に自動伸縮を付与した衣服のまま〈縮小化〉して入り組んだ建物に入り込む可愛らしい夫婦だが、ここに来てその無駄スキルが活きた瞬間でもあった。リュウも『嫁の中に入る時しか使えない』って愚痴っていたもの。
これで役立つ事が判明したなら、諜報員として働いてもらうことも検討するべきだろう。
(それはともかく、事態が変化したなら玩具を創っている場合ではない⦅玩具?⦆身に着けるだけで魔法陣を魔術陣に自動変換する指輪よ)
もう一つは時空神の力を倍増させる指輪ね。
どれも偽宝石に⦅神器創ってる⦆玩具よ。
私は床に落とした二つの指輪を右手中指と薬指に着けてマキナと共に総合監視室に向かう。
「勇者召喚の魔術陣を玩具の如く使いまくる困った国家で数時間前に該当者達を発見と」
状況が分からない事には指示も出せないし。
「おおよその想定はしていたけど、何処に潜んでいるかまでは不明だったからね」
「そうね。他にも潜んでいそうだから」
「他国にも調査員を送っているもんね」
それらは地底世界で猛威を振るった凶悪な病原菌みたいなゴミ達だ。地底世界と同様に一国に拘らず他国に潜んでいても不思議ではない。
転生時は地底以外にも割り当てられているが、惑星が両世界共に同じのため同じゲームと思い込んで悪さをしていてもおかしくないのだ。
幸い、地底と違ってこちらでは経路が露出していないから魔力密度の低下は起きていない。
低下自体は起きてはいないが、
⦅一人のみの制限を入れているのに何故か対応してきて単発の召喚を人数分連発してきます⦆
ユインスの泣き声が聞こえてきそうなほど意味不明な勇者召喚を、何度も何度も実施しているのだから頭痛以外の何ものでもないだろう。
あまりにも自分勝手が過ぎてね。
ともあれ、今のところは問題国家のみで該当者の発見が叶いそうなわけだけど・・・。
「それで該当者の名前は分かる?」
「そこまではまだ分からないって」
「という事は噂程度の話ってこと?」
「ううん。噂よりは信憑性が高いみたいだよ」
噂よりは信憑性が高い、か。
これも初期段階だから仕方ない話ではある。
これから裏取りと確証を得て、他国の人員をそこに送り込む段取りを行わないといけない。
「今は耳を隠したシロコが種族特性の〈聞き耳〉スキルで盗み聞きしている最中だって」
私はマキナの報告を聞きながら総合監視室に足を踏み入れた。
すると、
「該当者達の人数が判明、数は十五。該当国家の宮廷魔術師として勤務している者達です!」
「続報、王族には該当者なし」
「全て平民出身の魔術師です」
更なる詳細情報が得られた事を知った。
(問題児は召喚を推し進める者達であるのは確かか。レベルの概念が無いから、こちらで魔力を増やして、あちらに戻って猛威を振るうと)
これは〈聞き耳〉と〈縮小化〉のスキルを存分に使い〈無色の魔力糸〉を伸ばして記憶を戴いた結果だ。
それは該当者の記憶を偶然得てしまった結果だろう。名前も含めて得られたので片付けるなら直ぐにでも動くべきだった。
だが、
「該当者達の居場所が不味いわね」
「うん、外だったなら片付けも容易だけど」
「王宮内から出てこない可能性が高いわ」
動こうにも隠れ潜む場所が不味かった。
そこらの街中なら転移での行き来は可能だが王都内は一種の迷宮と同じであり⦅地底と同じスキル制限があるよ⦆許可無き者の安易な出入りは不可となっていた。それこそ私の創った指輪を全員に持たせる必要が出てくるわね。
転移魔法陣を転移魔術陣に変換するから。
それであっても、魔道具の利用制限も有りそうなのよね。許可の無い物は使えない的な。
それを知った私は思案し、ブツブツと呟く。
「そうなると私達が直接動くよりも、動いてもらう方がマシかもね。ここで下手に関わって他国での調査の邪魔をされても困るし・・・」
それは拵えながら考えた腹案の一つである。
するとマキナがきょとん顔で問いかける。
「お母様? 動いてもらうとは?」
私はタブレットを取り出して、
「この世界の魔王によ。幸い、近くにルーナ達が居るし、過干渉にならない程度に召喚過多になっている事実を教えてしまえばいいってね」
この世界の魔王の名前を画面に映す。
年齢は一万となって⦅例の世界から呼び寄せました⦆それで世界の年より老けているのね。
(私達よりも年上だから驚いたわ・・・)
それこそ父さんの弟と同じくらいよね。
母さんや父さんほどではないにせよ、人族にとって一番敵にしてはダメな部類の老獪な魔王である事が判明した瞬間でもあった。
「でも、お母様? この魔王の趣味が」
「それは見なかった事にしてあげて」
「いや、でも、よ、幼女趣味って・・・」
「丁度、見た目的に問題無いルーナが居るし、言われたとおり乗せられそうな気がするわ」
「聞いてないし」
一応、聞いてはいるわよ?
でもね、問題国家毎、問題児を消し飛ばすなら、彼ほど丁度良い戦力は居ないもの。
私はタブレット越しに撤退指示を出す。
「たちまちは問題国家に居る人員を戻して」
「ルーナが訪れたからといって、直ぐに動くとは思えないけど?」
マキナは未だに懐疑的だったが、おそらくこれも妹を駒にしているからだと思う。何だかんだとルーナを愛しているからね。
私は否定するマキナに悪いと思いながら、
「それでもいつ動くか定かではないからね」
「巻き添え回避ってことね」
ルーナにも指示を出した。
なお、ルーナからは『おっけー、あそこは旧王都と同じだから、逃げ道から入って教えてくる〜!』という少々軽い感じの返信が届いた。
それを見たマキナが頬が引きつっていた。
「あの子は・・・」
「まぁマイカ達が護衛に付いているし」
「ケンが壁でマイカが」
「攻勢に出る側ね。仮に戦いになった時はだけど」
そうして、その後の私達はルーナ達の動向を上空から静かに見守った。結果はどうなるか、それは何となくだが、分かっていたともいう。




