表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第十二章・異なる世界の休息日。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

273/276

第273話 吸血姫は回避策に乗る。


 時は少しだけ遡る。

 実は最上層の惑星監視に入る前、ちょっとした不都合が生じていた事が、発覚したのだ。

 本格始動時は改善されたが、これを見過ごしていたら、どうなっていたか頭痛がするわね。

 それは休暇中の出来事だった。


「ねぇ? カノン・・・」

「どうしたのよ、ユウカ」


 私は本土へと買い出しに向かったマキナ達に代わり、ユウカと共に公民館へと詰めていた。

 その際にカルテを整理していたユウカが、


「数日後からあちらでの仕事に入るじゃない」


 雑誌を読んでいた私に問いかけてきた事が発端だ。


「そうね。それがどうかしたの?」

「予定では初日から一週間、こちらの日数で数えると二週間あちらに出突っ張りなのよね?」

「そうね」


 あちらとこちらの週感覚は同じ七日間。

 違いは一日が四十八時間という長さにある。


「それだけの長い日数を全員参加で監視するとなると、かなり不味くならない? ユウキとも話し合ったんだけど、私達はともかくナギとソージは仕事柄、時間を空けられないよね? 分校生徒の半数は私達の関係者だとしても、残り数人の後輩達(・・・)は一般生徒だよ?」

「・・・あ、それは不味いわね」


 ユウカの問いかけの問題は一点だけだ。

 それはある意味で困る時間的な制約だった。

 あちらの感覚で一週間出突っ張りとなる。

 その間にこちらの時間も倍進む事になる。

 それを問われた私は先の事案を思い出す。


(大規模失踪事件の勃発だけは不味いわ)


 あの時は一日だったから夢で終わったが、二週間の間に住民が居なくなるのは問題だった。

 何人かは役場に勤務している者も居たりするから、その点において失念していた私である。

 するとユウカはカルテの整理を止め、


「それならさ、希望者のみにしたらどう?」


 真剣な表情で私に提案してきた。

 エロフがこの瞬間だけは消し飛んだわね。

 今は人間の肉体だからエロフではないけど。

 それを提案された私は思案しつつ唸る。


「う〜ん。希望者のみ、かぁ」


 雑誌を読む気力すら消えたわね。

 ユウカはきょとんとしつつ首を傾げる。


「ダ、ダメなの?」

「当面は、実務で慣れてもらうつもりだったのよ。監視と地上偵察は大体一週間で身につくからね。あちらはレベルの概念やら経験値の概念が無いから、限定的に割り込みをかけたけど」


 そう、割り込みという名の〈概念改良〉で限定反映させる事は出来たが、実際に経験とするには地底世界へと降りなければならないのだ。

 ユウカもそれを察し、


「ああ、こちらと同じって事かぁ」


 表情が少し暗くなる。


「同一経験を得させるためには研修が必須だからね。ズレが生じると士気にも影響が出てしまうでしょう。希望者以外に希望者が得た手続き記憶を特別にあてがうと文句が出るだろうし」

「ああ、それをすると私も私もってなるね?」

「ユーコが『なんでぇ!?』ってなると思う」


 私の考えでは同一タイミングで始めて、互いに助け合って、身に付けていって欲しいのだ。

 だから希望者のみの選択は採れないでいた。


「食事で得られる各種経験値はあくまで地底のみで数値的にレベルアップさせるに過ぎない代物よ。最上層の経験とは別枠扱いとなるから」

「経験を得られても経験値は得られない、か」


 こういう面だけ元世界と同一の仕組みを導入しなくてもって思うわよね。こればかりは某三女の性癖に依るものだと思っているけれど。

 私はユウカの呟きを聞きながら思案する。


「それこそ私やマキナのように三体目・・・」


 するとユウカが驚いたように目を見開き、


「それだ!?」


 私を指さして叫んだ。

 私はあまりの叫びに目を白黒させた。


「そ、それ? それってどれよ?」

「三体目だよ!? こちらの身体はそのままにあちらで活動する身体があればいいの!」

「あっ」


 私もそれを聞いて盲点だったと察した。

 何も一体だけあればいいわけではない。

 各世界毎に憑依体が一体あればいいのだ。

 眷属達も地底世界に一体が眠ったままだ。

 この世界の肉体は現在宿っている物だが。

 そこに最上層向けを一体用意する。


(それこそ最上層に最適化された体がベストよね。私とマキナも含めると四体目になるけど)


 その間の元世界では個々に活動する身体が残る。記憶も宿れば本人にあてがわれるしね。


「それなら時間的な空白も消えるよね?」

「そうね、それなら・・・」


 問題は起こりえないだろう。

 こちらの生活は並行で行われるのだから。

 本人の戻りの時だけ公民館へと来てもらってその身体に宿ればいいからね。最上層の憑依体はコロニー内の自室に寝かせておけばいいし。

 私は急遽だが今居る一室に結界を展開した。


「・・・ユウカ、外に出て」

「え?」


 ユウカは展開直前にカルテを落としていて、空中に止まった紙束を見て目が点になった。


「ここだけ時が止まってるぅ!?」


 私はユウカを無視してネタばらしした。


「この場だけ限定的な魔術を作用させたのよ」


 そうして診療所のベッドの上に素っ裸のユウカこと真新しい憑依体を創って横たわらせた。


「この世界にも魔術ってあったの!?」

「それはあるでしょ。魔法は無いけど」

「この世も十分にファンタジーだわ・・・」

「私達の存在そのものがそれでしょうに」

「ああ、そういえば、そうだったわ」


 この時、自身が不死者である事を思い出すユウカだった。あくまで中身が不死者であって憑依体であれば、死は当たり前に訪れるけどね。

 中身が外に放り出されて彷徨うだけだから。


「外に出て、こちらに宿ってみて。疑似魂魄も宿らせているけど、今は寝ているだけだから」

「い、いつの間に・・・?」

「ユウカが驚いている間にね。一応、記憶同期が必要だから今から宿ってね。空っぽだから」

「う、うん」


 ユウカは頷きながらもう一つのベッドへと横になる。そして私が教えた手順で今の憑依体から外に出て、新しい肉体に宿る。

 私はその際に忘れていた事を伝える。


「そうそう言い忘れていたけど、貴女達の心体ってね、口から摂取した食物を全て生命力に変換させるから憑依体および元の肉体に宿っても排泄不要になっているからね。これは疑似魂魄も同様だから仮に薬を飲んで促しても作用しないから注意してね」


 ユウカは起き上がりながら怪訝(けげん)になる。


「はい? そ、それって、どういう意味よ?」


 私はユウカの問いに対して応じ、


「どういう意味も何も、種族特性としか言えないわね。私もマキナも同様に排泄不要だからトイレに行くフリして出してないからね。体内の清掃作用でも全て生命力に変換するし・・・」


 ユウカの憑依体に触れて調べた。

 これも正確に言えば神力に変換するから体内には何も残らないだけね。亜神と化したこの子達は生命力あるいは魔力に変換されるけど。

 ユウカは身体に触れられながらも問い返す。


「はぁ? でも、以前は行っていたよね?」

「以前は周囲を誤魔化すために機能させていただけよ。本人が望めば限定的に機能するけどあまりオススメは出来ないわね。形があるだけだから肥料を作って、病気を拵えるだけだから」


 新しい憑依体も無事に機能しているわね。

 免疫も必要に応じて機能するから問題ない。

 病原菌すらも生命力に変換するだけだしね。

 なお、会話中のある機能は完全停止状態だ。

 だが、ユウカは医師としてか困っていた。


「じゃ、じゃあ、先日飲んだ薬って?」

「何の薬なのか知らないけど、意味無いわね。薬も含めて生命力に変換されてしまうから」

「そんなぁ〜。トイレでの数時間を返して!」


 違った医師ではなく個人的に困っていたと。

 まぁ集落の中には一般人も居るようだし、ユウカ達の仕事が無くなるような事は無いわね。

 一般人も分校教師やら公務員が(ほとん)どだけど。

 私は裸で叫ぶユウカを一瞥しつつ、


「それなら試しに自分で検査してみたら? 道具も丁度あるし。何も無いってなるけどね?」


 近くのとある道具を手に取り、白衣を着たユウカの憑依体のスカートを盛大に脱がせた。

 ド派手な赤いパンツが視界に入り、黒いストッキングだけは脱がせる事に成功した。


「それは止めておく。というか、こちらでパンツの中身が見えているから別にいいでしょ?」


 だが、ユウカの制止により赤いパンツまでは脱がせなかった。惜しい!


「そ、そんな悔しそうな顔しないで!?」

「同一に作ったと思うけど違ったら困るし」

「同一になっているから問題は無いよ!?」

「それなら脱がしたうえで確認するわね」

「ま、待って!? あぁ脱がされたぁ・・・」

「というか、ユウカってまだ百合気質が残っているの? 何か見られて嬉しそうだけど?」

「うっ、か、完全に消えるわけないじゃん!」

「そうだったのね。見た目は問題ないわね」

「こ、これは、あとで覚悟しておこう・・・」


 ともあれ、そんなひと悶着もあったが、その日の内に二人でコロニーへと移動して、数日後の準備に取りかかった。それは人数分の憑依体を私が用意する事になったからだ。


「これはこれで一苦労だわ」

「カノンは文句言わない! 私に強烈な刺激を与えた罰だよ!」

「はいはい」


 ユウカはあのまま新しい憑依体に宿って来たので公民館内の診療所には医師としてのユウカだけが残った。私だけは外出中となったけど。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ