第271話 吸血姫は恥を垣間見る。
実家でのひとときを終えた私はマキナを連れてとある世界を訪れた。それはいつだったか妹達が案内しますと言っていた父さんの世界ね。
「本当にここが、あれの世界なのぉ!?」
「あれって言葉に濁さなくてもいいじゃない」
「いや、だって、酔った勢いで、聞かされて」
「そういえばマキナちゃんは生娘だったわね」
「こういう時だけちゃん付けって、お母様!」
「はいはい。しかしまぁ、父さんの自慢話は相変わらずだったわね」
実はこの世界、惑星だった頃に私も訪れた事があるのよね。今の変態的な形状になってからは二度と向かう事は無いと思っていたけれど。
そして今は、
「母さんの背格好の世界ってある意味で私の背格好だからね。主な造りが背中側であっても」
「それって私の背格好も含まれるよね?」
「そうね。それを住人達に見せているわけで」
「は、恥ずかしい」
「真っ先に示された母さんがノーコメントだから、あまり意識しない方がいいわよ」
「う、うん」
神体のまま、この世界の神界と呼ばれる場所を見て回る。あの子達が言っていた通り、道路が有ったり、線路が有ったり、ビルやマンションも有るわね。ショッピングモールは無いが。
ただ、ここだけが無駄に近代化しているわ。
当然ながら、この場所にも当たり前に海があって端には反応に困る代物まで置かれていた。
ミサイルランチャーや迫撃砲、浮かんだままの大型ロケット弾と大型潜水艦まであった。
「三女のやらかしの原因はここにあったのね」
「ミアンス叔母さんのやらかしも?」
「ええ、知神の恥はこの世界で起きたのね」
「それで、その三匹はどうなったの?」
「さぁ? 私もそこまでは聞いていないわ」
「そうなんだ」
マキナは可能なら片付けようとしたのかも。
私はしょんぼりするマキナを一瞥しつつ、
(そういえばユランスから顔写真だけ示された事があったわね。確か、あー・・・)
過去を思い出す。それは異世界召喚の前に私が戴いた男達だと気がついた。あの時点で何らかの因果が絡みついたのかも、しれないわね。
その因果にミアンスが捕獲されて以下略。
私がミアンスに捕まって今に至ると。
(ミアンスは大事に扱わないとダメかもね)
それは私なりの反省だった。
思いつくままに戴いた結果がミアンスの恥に繋がったのならね。しかしまぁ、異世界に来てまで女の子を犯すとか本当に勇者なのかしら?
何はともあれ、その後の私達は下界には降りず、ミアンスが戻ってきた時に分かるようちょっとした玩具を創って実家へと戻っていった。
「気に入るといいけどね」
「あれを気に入らない者は居ないよ」
「むしろ欲するのは母さんでしょうね」
「ああ、うん。お婆さまなら欲するかも」
「可能なら母さんにも創ろうかしら?」
「当然だけどガチガチに制限を入れてからね」
「そうね。マキナが産まれちゃったからね」
「恥ずかしい事を思い出させないで!?」
その玩具とはマッサージチェアである。
玩具としたのは機能制限しているから。
制限解除するとミアンスが乱れるから。
それは全身を揉み上げる機能を搭載していて揉みくちゃコースを終えた後は、恥ずかしい状態のミアンスが産み落とされてしまうのだ。
マキナもそれで恥ずかしい目に遭ったしね。
すると私達の〈相互念話〉に声が届いた。
⦅あら? 私の名前が書かれてる椅子が?⦆
⦅なんというか豪華な椅子ですね、これ?⦆
⦅座ってみて? どういう代物なんだろ?⦆
⦅姉上、もう少し慎重になってもいいのでは⦆
⦅あ、これは、き、きくぅ〜、癒やされるぅ⦆
⦅ああ、姉上がとろんとした表情に変わった⦆
おっと、いつの間にやら戻ってきていた。
「あの部屋とこちらも専用経路があるのね」
「ああ、そこから頻繁に出入りしていたと」
今は椅子に座ったミアンスが疲れを癒やしている最中のようだ。
その際にユランスが要らん所に触れていた。
「ああ、揉みくちゃコースに入った・・・」
「ミアンス叔母さん、南無・・・」
ユランスも姉達と同様に知欲があるらしい。
制限した制御部に触れて、最大までツマミを回して、ミアンスが酷い状態に変化したから。
⦅あ、姉上が、椅子に取り込まれた!?⦆
⦅あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ・・・⦆
ミアンスの幸運値は確か、69だったはず。
幸か不幸か快楽に身を委ねる結果になった。
しばらくすると、アラームと共に恥ずかしい姿のミアンスが、足下から放出されてきた。
神装がボロボロになって裸としてね。
⦅あふぇぇぇぇぇ・・・⦆
⦅姉上!? あ、これは機能制限だったんだ⦆
ユランスが気づいた時には遅かった。
慎重になるのはユランスも同じよね。
放出後は浄化される優れものだけど。
「これに懲りて安易に解除しない事を望むわ」
「お母様、それはフラグでは?」
「ああ、三女が使って同じ事になるかもね?」
「うん、そんな気がした」
その後、実家に戻って制限をガチガチに固めた物を母さんに手渡すと大いに喜ばれた。裏の離れに置いて定期的に座るとまで言っていた。
「これって娘の贈り物だから?」
「多分そうだと思う」
但し、制限だけは機能的に気づいたのか、
『絶対に外さないわ!』
そう言っていたが誰かが外してそのままになるような気がしたのは気のせいだと思いたい。
そうして実家を出た私とマキナは早朝の空気を感じながら公民館に向かう。
「そういえばナディの家は漁師だったわね」
「なら海上に出ていても不思議ではないね」
「今は人間で猫神族ではないけど?」
「でも猫の特性は生きているかもね」
「ああ、その可能性はあるわね」
「うん、公民館に着いたら」
そう、着いたら、巨大なマグロを頭上に掲げたグラマラスな女性が立っていた。
「マグロ、獲ったどぉ!?」
誰も居ない公民館の前で叫ぶ女性。
私とマキナは即座に回れ右して話し合う。
「誰だっけ? あれ?」
「体型的にナディじゃない?」
「ああ、言ったそばから?」
「私達が公民館に住んでいると思ってるとか」
「言ってなかったかしら? 実家があるって」
「聞いてないだけじゃない?」
「な、なるほどね」
すると公民館の扉が開き、
「朝からうるさいよ、カナブン!」
「カナブンって言わないで!?」
中から寝ぼけ眼のユウカ達が出てきた。
ああ、ここが診療所でもあるから二人だけは住み込みなのね。昨日は貸家に荷物を取りに戻っただけで、あの後に戻ってきたと。
ユウキは私に気づいていたようで指をさす。
「カノン達に見せたいなら後ろを見たら?」
「え? 後ろ?」
そして私達とナディの目があった。
「「おはよう、カナちゃん」」
「あ、あぁ、その、おはようございます」
ようやく自分の行いに気づいたナディ。
台車にマグロを降ろして恥ずかしそうにお辞儀した。この分だと最上層でも釣りしそうね。
なお、戸籍上のナディの名前は幹巴夏奏である。かつての名前が使われていると知って、身悶えたのは言うまでもない。それは私の偽名でもあるけどね。




