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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第十二章・異なる世界の休息日。

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270/276

第270話 未来を予測する吸血姫。


 そうして最上層から一度、


「では今から繋げるわよ。あちら向けの身体に宿ってない子は即気絶するから注意してね」

「はい!」×87


 ログハウスに戻って最上層と書かれた鏡の前で眷属に注意を入れた。今回は初日ともあって希望者全員で最上層へ向かい内部を見て回った後に元世界へと戻る予定だ。

 私もマキナも黒髪黒瞳の憑依体に宿ってね。


「それと、今の肉体に宿ったまま地底世界に向かわないよう注意ね。即座に身体が造り変わるから、油断すると戻れなくなるわよ!」

「はぁ?」×86


 おや? これは戻れるものと思っていた者が多いようね。

 するとマキナが補足するように注意する。


「地底世界で過ごすには魔素吸引に即した肉体が必要だからね。心臓の隣に魔力源と呼ばれる器官が無いと詰むの。最上層と元世界では不要な器官だから、造り変わったまま異世界渡航すると最悪は肉体が死んで、不死属性を持った幽霊として彷徨う事になるよ。運が悪かったら叔父さんに討伐されてしまうかもね」

「叔父、さん? いえ、はい!?」×86


 そういえばマキナは、まだ会った事が無かったわね。あちらでは名前だけ頻繁に出していたけど、これも折を見て紹介してもいいかもね。


(弟が捕まれば)


 それはともかく、全員の同意が得られた事で私は最上層と書かれた転移鏡を開通させた。


「では、向かうわよ」


 ちなみに、本日は子育て組のみ居残りだ。

 大多数での移動に子供を連れていくと、大騒ぎの最中に何処に入り込むか分からないから。

 予想外の場所で発見されるなんて事もあるからね。子供等だけでかくれんぼして気密区画に居たとあっては大問題だし。

 元世界で自由気ままに駆け回って疑似羽根を出して飛び回るなんて事も起こりえるだろう。

 行き来用の乳母車を用意するまでの間は待機扱いになってしまうだろう。

 一応、班分けは終わっていて、初っ端から三十人態勢で動く事にもなった。眷属だから私の願いが断れないって事を忘れていたともいう。

 主な班分けは固定班として私とマキナとナギサ、ユウカとユウキの五人だ。残りの流動班は三班に分かれていて交代する事になっている。

 何はともあれ、コロニーへと到着した面々は普通に歩けている事に驚いていた。


「重力がある!? 身体が浮かない!?」

「本当にここは宇宙空間なの?」

「遠心力で外側に向かっているだけじゃ?」

「普通に重力魔法を使っているわよ」

「魔法!?」×86

「お母様? ここって魔術の世界なんじゃ?」

「そこは裏技を用いたのよ」


 これは重力結界魔法を魔術に変換して全体に行き渡らせているのだ。創った当初は刻印魔術を使って魔術経路を通していたが、一々刻印呪文に魔力を通すのは無駄と思えた⦅魔導書で何カ所も⦆試験した事が要因の一つよね。

 その後の改良で全体を結界膜で覆うようにしたので随分とスッキリした造りになった。

 もう一つの要因は子供等の行動にあるの。

 各所に刻印があったら⦅削ってしまいますね⦆それを回避するための措置ね。動作中に削られて違う呪文になったら大変だもの。

 マキナは私のネタばらしにただただ驚いた。


「裏技なんてあったんだ」

「いちから創ったからね」

「そ、そうなんだ」


 マキナには使い方を教えても良さそうね。

 他の子達は短杖(スタッフ)長杖(ロッド)に術陣を刻み込むだけでいいだろう。

 無詠唱で魔法行使する者が(ほとん)どだから不意に使って使えないって事が無いように短杖(スタッフ)長杖(ロッド)の所持を必須とするしかないが。


(血液認証で当人以外は使えないようにして)


 私は思案しつつ室内を見回す者達を眺める。


「ウタハとセツは窓際に行かないようにね」

「「言われても行かないよ!?」」

「まぁ生活区画に窓は無いけど」

「「ふぁ?」」


 私が窓際云々と言ったが、あるのは極一部の部屋のみである。それはコロニーの最上部だ。

 私達、固定班が過ごす船長室と副長室。

 来客が過ごす貴賓室と薬草室だけだ。

 全三班の各個室は中程に存在していて上界の景色を窓ガラスに映し出すようにしている。

 仕組みは⦅月と太陽の真逆ですか⦆そうなるわね。これも偶々思いついた方法だけど。

 そうしてコロニー内をある程度見て回ると、


「では、次はこちらの鏡を通り抜けるよ」

「私達が呼ぶまで待っていなさいね」

「了解!」×86


 元世界へと繋がる本題の登場である。

 先ずは私とマキナが通り抜ける。


「無事にログハウスが出来ているね」


 私達が出てきた場所は大きなログハウス内にある休憩室の一つだ。このログハウスは亜空間にあるログハウスと異なり少々大きいけどね。


「ええ、完成しているわね。あの子達の家は周囲にあって、私達は裏にある実家で過ごすと」

「というか、お母様? あれは?」


 するとマキナがきょとんとしつつ指をさす。

 そこに有ったのは〈神月(カヅキ)公民館〉と〈神月(カヅキ)診療所〉の大きな二枚の看板だった。

 私は困り顔になりながら、


「これは仕方なかったのよ。土地を見繕って用意したまではいいけど建てる資金が無かったからね。土地の購入費用はカノン・サーデェスト名義の海外口座から捻出した物だけど、この建物だけは八女が経営する医療法人に手伝ってもらったの。そのまま土地を含めて売却して今があるのだけどね?」

「そ、そうだったんだ。だから診療所とも」

「ええ、書かれているわね」


 マキナには語っていなかった経緯を語った。

 実は以前から海外で投資していて、そこそこの利益が出ていたのだ。その中から定期的にその国の税金が差し引かれていたけど、微々たる量だった。それを管理していたのは私の弟だ。

 そこから費用を出して買ったはいいが、何処かの為政者共が意味不明の戦争を押っ始めたせいで材料費が高騰した。

 結果、手出しが出来そうになくて原因共を殺しに向かおうとしたら、母さんに止められた。


『神罰は私が行うから! だから待って!?』


 結凪(ユナ)に相談したら手伝ってくれる事になって留守を預かる名目で全て売却して今に至る。

 私達はログハウス内を見て回り、


「まぁ私達の本拠地は異世界だから」

「こちらに居ない事が多いなら仕方ないと?」

「それにここが公民館兼診療所なら・・・」

「ああ、ユウカ達も仕事が行い易いと」

「そういう事ね。しかもきっちり医師免許まで取っているとは。エロフもバカに出来ないわ」

「侮り難しだね、あの〈爆乳のエロフ〉」

「また称号が追加されたかもね」

「こちらでも可能なのぉ!?」

「可能なのよ〈爆尻のエロフ〉とか」

「そんなぁ〜」

「統合するなら〈エロフの女王〉よね」

「ああ、愕然としていそうだね?」


 ユウカへと統合した称号を与えながら休憩室に戻った。私達が鏡から顔を出すと案の定だがユウカが愕然とした表情で固まっていた。


「増えて減って、統合された・・・なんで?」


 これは黙っておいた方がいいわね。

 今回も私とマキナが原因だから。

 その後は二人から三人一組で休憩室へと向かってもらった。一度に大多数が休憩室に向かうとごった返すからね。そこそこの広さを有していても小集落の住民が集まれば大変だから。


「改めて思ったけどタツト、老けたよな」

「うるさい、シロ。お前だって老けてるだろ」

「違いない」

「セツのおっぱいが小さくなったわね」

「クルルだってそうじゃない」

「不思議よね。あちらでは大きいのに」

「そうね」

「お、俺もあんな感じに老けるのか」

「あれはたまたまだと思いたい・・・」


 なお、それぞれの憑依体は戸籍を用意するうえで困らないよう、上は四十八、下は十七才。


(ナギサを除く子供付きは全て三十六才ね)


 夫婦関係を前提とした割り当てを行った。


(復元組の九人が子供で十七才、分校生徒と)


 時間遡行してから、住人を住み着かせ、違和感が無いように、徹底的に準備を行ったのだ。


(ソウジが分校の教員として赴任中っと)


 母さんは焼き芋片手で行ってそうだけどね。


⦅バレた!?⦆


 やっぱり焼き芋片手に行っていたのね。

 それと共に私とシオンは四十五才。

 マキナは私の子供なので二十六才。


「この容姿で二十六才?」

「可愛いわよ、マキナちゃん」


 最年長はゴウで、恐縮していた。


「俺が年上でいいのだろうか?」

「気にするだけ損ですよ、ゴウ君」

「そうなのでしょうか、ナギサさん」

「これはあくまで肉体年齢ですから」

「ああ、そういう事ですか」


 そんな騒がしい公民館も本日開館だ。

 小集落の住人として各自の家屋へと戻る者達を見送った私とマキナは裏の実家へと向かう。


「これから定期的に戻る者とこちらに住み着く者が行き交うわけね」

「ええ〈スマホ〉のメッセージを使えば、こちらとの連絡が簡単に取れるからね」

「そんな事まで可能になったんだ」

「母さん様々よね」


 その道中、マキナが疑問気に問いかける。


「となると、ユウカ達はどうするの?」

「どうって?」

「コロニーで憑依体に宿ってこちらに戻る。コロニーに戻って最上層を探る。コロニーに戻って憑依体を出て上界に戻る。こちらの生活もあるから上界の王族云々はどうなるのかなって」


 マキナの疑問はそれだったのね。

 私は伝えていなかった事を思い出す。

 そしてあっけらかんと教える事にした。


「ああ、そんな事?」

「え? そんな事って?」

「こちらでの生活はあくまで、つなぎよ」

「つ、つなぎ?」

「そうね、どう説明すればいいかしら?」


 私が暇つぶしを願う事と同じなのだけど。


「なら、眷属達の寿命を思い出しなさいな」

「寿命・・・あ!?」

「分かったでしょ? 私達の年齢もあるけど」

「うん、それで、つなぎなのね」

「長く生きるには必要な事でもあるのよ。母さんみたいに、焼き芋に精を出す者も居るけど」


 こちらの生活はあくまで異世界の休息日だ。

 あちらで頑張ってこちらで休む。休みの合間に余所で買い付けて、あちらで売るってね。

 あとは近い将来、異世界へと必ず移住しなければならなくなる時が来るから、それまでの間に、こちらでの生活と執着に区切り付ける思惑もあったりする。


「それが何年先の話になるか分からないけど」

「明確にいつとは見えていないんだね?」

「母さん以外は、ね」


 私やマキナのように記憶を奪ったうえで居座る事も可能だけど、ここに大多数が訪れると齟齬が発生し易くなるのよね。外との繋がりがあると余計な齟齬が発生して面倒になる。

 そういう意味では母さんは上手くやっているのよね。伊達に垓まで生き延びていないわね。

 年齢の事を言うと焼き芋が飛んでくるので、


「入口の社務所が見えてきたわね」

「お、お婆さまへの手土産を出して」


 私とマキナはデイパックから手土産を取り出して左手に持った。私はその際に手土産の数が足りなかったのでマキナに問いかけた。


「あら? 父さんには持ってきていないの?」

「あ、お爺さまも居たんだっけ?」

「おぅ。忘れ去られた父さん、ドンマイ」

「そ、それで、お母様は?」

「焼き芋の焼酎よ。父さんって飲兵衛だから」

「なるほど」


 ともあれ、私とマキナは久方ぶりの実家の地に足を踏み入れた。





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