第27話 吸血姫は女の幸せを垣間見る。
声を掛けた相手から精神的ダメージを受けた私は頭痛のする中で改めて二人に声を掛けた。
「ま、まぁ、それは置いといて・・・二人は今の状況、判ってる?」
当人達は〈封印水晶〉内で──、
『状況って言っても、身体の感覚が無いくらいだけ?』
『そうそう。触りたい気持ちはあるんだけど、身体が動かない・・・というか顔が大きいね?』
「顔が大きいというより、今は二人が小さいだけよ?」
隣同士で並べている状態なので会話は成立しているがお互いに肉体の感覚が無い事に戸惑いをみせていた。
私は顔が大きいと言われて若干のショックをうけながらも現実の一端を示した──
(というか私、シオンほど打たれ強くないから少々辛いのだけど? 絶望を味わう前に私が絶望しそうだわ・・・)
が、言われたことにクヨクヨする私だった。
いや、ホントね? 痛めつける事は大好きだけど自分の場合は苦手なのよね。シオンを通じて身体に感じる刺激は素直に悦びとして受け入れるけど直接的な言葉はグサッとくるわね。
シオンは羨ましそうな顔でこちらを見てるけど。
『私達が小さいの? でも・・・あれ? そういえば・・・』
『ここどこ? 日本だよね?』
「日本じゃないわ。小説みたいな話だけど異世界であるのは確かね」
『『えーっ!? 嘘でしょう!?』』
うん、これが本来のリアクションね?
このリアクションを洗脳で無かった事にしたのだから、やりきれぬ話だ。
するとシオンが業を煮やして会話に参加する。
「本当の話よ? それよりもカノンどうするの?」
「そうね? 素直に本当の事を言うと耐えられるか解らないし、悩みどころよね?」
私は二人の心が綺麗な状態だった事に困惑を示した。しかし、二人の関心は今の状況よりも私達の事であった。
『え? 巽さんが二人?』
『巽さんの姉妹さん?』
「姉妹であるのは確かね。生き別れの妹だけど」
「どうも、シオン・サーデェストと申します。カノン・・・カナデの双子の妹といえばいいかしら?」
私は話題転換として受け入れ、シオンと目配せしつつ紹介した。シオンも右側頭部をポリポリ掻いたと思ったら仕方なくドレスに換装しカーテシーを行いながら二人に挨拶した。
流石に家名のあたりでツッコミが入るとは思っていたわよ?
『え? 外国の方? というか家名が・・・』
『エスな方なのですか?』
「いや、私自身が外国人だからね? 帰化したようなものだし・・・まぁサディストなのは今に始まった事ではないけどね・・・今から本当の事を言うわね? 貴女達、死んだも同然だから」
だからこそ、これ幸いと私は告げた。
(ドSで結構! それが私だもの!! シオン、そんなシラけた顔で見ないで!!)
勢いで言ったからシオンからも呆れられた。正直、どう反応するのか謎なのよ。
過去の例だと発狂して消滅した者が一人だけ居たから。残りはあっけらかんと受け入れて使い魔として生を全うしたけど。
『『え?』』
「二人とも死んでるのよ。肉体の方がね? 今は魂だけ回収してこの場に居るの」
『えっと、つまり、身体の感覚がないのは』
『臨死体験みたいな物?』
「みたいじゃなくて死亡扱いね?」
その後も二人は魂の状態ではあるが事実確認を続ける。表情は見えない・・・いや、魂の揺らぎで大体解るけど絶望色ではないのよね。
すると、箕浦さんが呟き江草さんが言葉尻を繋ぐ。
『つまり異世界召喚されたのになぜか死んで』
『今は転生待ちと?』
「そういう事かもね?」
私はこれから行う事を先に言われてしまって、苦笑しながらどうしようかと思った。
『それって・・・あれよね? 願ってもない話だけど・・・好きなラノベと同じ?』
『ざまぁキタコレ! やばい濡れそう!! 身体無いけど!!!』
しまいにはフィクションな流れを持ち出し、自身が当事者となったと喜ぶ二人である。
(精神が強いというかなんというか・・・ならあれを見せたらどうなるのかしら?)
私は二人の精神力に脱帽した。
だが、それはこれから見せる物で怒るか絶望するか判る話でもあった。
この時・・・私の表情が凄い笑顔に変わっていたのだろう──、
『どうしたの? 凄い不安になるんだけど?』
『うんうん。これからなにがあるの?』
先んじて読まれてしまい私は困った顔でシオンを見る。シオンは苦笑しながらも私を揶揄う。
「カノン? 一本取られたわね?」
「これは表情筋、鍛えようかしら? 流石に今更な気もするけど」
「今更よ。吸血鬼がそんな事でうろたえてどうするの?」
「それもそうよね? 無駄に三千年を生きたわけではないし」
そうして今更感のある話を行ったことで私はいつも通りに戻った。だがここで、ファンタジー好きな者達の前で、存在そのものがファンタジーな私達が余計な事を言ったため──、
『吸血鬼ぃ! え? でも寮の屋上で日光浴を頻繁にしてたわよね?』
『うん。日々、ロザリオを持って教会で祈ってたし!』
大興奮な状態に早変わりし、創作と現実の違いを思い知っていた。私は話が進まないため、あえて二人に問い掛けた。
「本当の話よ。それはそうと話を戻すけど・・・二人の身体の状況見たくない?」
『身体の状況? それって局所解体されたゾンビ的な?』
「ゾンビ? ああ、リビングデッドではないわね? カノンが一応、代わりの魂を入れてるから一応、生きているわ」
『肉体だけで生きてるの? だとするなら・・・犯されまくってる? 王寺とか頻繁に女子寮の下着盗んでたし!』
『それはあり得るわね! 奴ならなにをやっていても不思議ではないし!』
二人の反応を受け私は動揺した。
(どうしよう、ネタバレされてるんだけど!)
絶望を味わうのは彼女達ではなく私だった事に。実際に彼女達の言ったことを王寺はやってのけている。多少は彼女達の想定の方が緩いかもしれないが。
ともあれ、絶望と恐怖を味わう状況は芳しくないが、私はあえて脅しながら伝える。
「ま、見たら判るわよ。二人の前に私の使い魔の視界を映すから・・・気絶しないでね?」
『『う、うん』』
§
『あり得ない! 外道! 非道! 誰がそれを望んだ!』
『そうよ! せめてマトモな者に犯させてよ! それが私達への供養でしょう!?』
ひとまず上映会終了後の二人は激怒である。
いや、この場に私の望んでた絶望は無かったわ・・・私が絶望しそうだし。
ちなみに、先ほど箕浦さんからネタバレされたので肉体状態は割愛するわね?
そのあとの王寺の所業で激怒し・・・今の状態へと変じたのだ。
それは──、
『豚国王の慰み者とかふざけるな!』
『デブの臭そうなモノを入れるな!』
勇者でありながら、飽きるほど犯したあとはポイ捨てし豚国王に献上したのだ。
「レベル1の役立たずですが、最後くらいは美味しく召し上がれるよう開発しました」
という言葉を述べてね?
外道だ非道だという言葉は奴のためにあるのかもね? だからだろう──、
『転生するなら、王寺を同じ目に遭わせて、ざまぁね!』
『そうね! 絶対、同じ目に遭わせてやる!』
絶望よりも恨み辛みの方が大きい。
これはこれで美味しいけどね?
ただ、私の好みではないのよね。
これはむしろ、シオンの好物だから。
「・・・美味しそう」
『ヒッ!』
『な、なにが?』
シオンが涎を拭いながら二人の〈封印水晶〉を眺めていた。見られていた方は恐怖で怯えるのよねぇ?
私は苦笑しつつも二つの〈封印水晶〉に〈魔力糸〉をあてがう。
シオンも同様にあてがい私は事情を二人に打ち明ける。
「シオンの好物が貴女達が発した恨みや嫌悪なのよねぇ。私は絶望とか恐怖の方だけど」
『あ、怒りが消えた・・・』
『ほんとだ・・・怖いって気持ちも?』
「「ごちそうさまでした」」
結果オーライで私達は望んだ通りの餌にありつけました。目論見は全て潰えたけど最後はなんとかなったので良しとした。
(ラノベ好き恐るべしね? とりあえず・・・)
私は二人の反応を見る事なく、有無を言わさず種族を固定化した。
「これから転生術を使うけど、もれなく種族は吸血鬼族だから我慢してね?」
他も選択出来るが今は情報不足なのよね。
一度でも会えば詳細を〈鑑定〉で読み解くのだけど会ったのは同族だけだから。
但し、人族は脆弱過ぎるから却下で!
すると、二人は声を揃えて質問した。
『『メリットは?』』
私はこの質問が来ると思ってたのでシオンに目配せした。
「シオン!」
「おーけー! 二人は眷属という扱いになるけど私達が持つ〈変化〉スキルが追加されるから・・・こんな風に別の種族に化ける事も可能ね?」
するとシオンは二人の目の前でドレスから裸になり、この世界には居ないが居たらいいなという人魚の姿を模した。
その後は次々と化けて最後は有翼族に〈変化〉し、元の姿に戻った。その様子を見ていた二人は私に対して素直に願い出た。
『『お願いします!』』
確定した事を把握した私とシオンは心核本体より血塊を二つ生成し、転送で〈封印水晶〉の置かれた二つの桶に配置する。
これは彼女達の心核の元となる物質ね。
主成分は企業秘密なので教えないわよ。
私は混合魔法で私の血塊とシオンの血塊を桶の中で混合させた。
『なにが・・・』
『凄い・・・』
二人は〈封印水晶〉の中から自身が浸かる血溜まりを見つめるが、ここからが本番である。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
私は意識を集中しシオンは魔力補填の補助にまわる。必要魔力は闇属性で量は私達の保有魔力の半分だ。
一人頭が一千五百万という感じで。
私は陰詠唱でラテン語のような言葉で祈るように詠唱を始める。これは秘術が含まれるため翻訳させない暗号化を行っており端から聞けば、意味不明の言葉になる。
当然文法も完全無視の状態になる。
すると、二つの桶の中で赤色の魔術陣が生じ〈封印水晶〉を囲う形で血溜まりが纏っていき内部の〈封印水晶〉やら魔術陣を巻き込みながら魔力還元を引き起こす。そして複数の魔術陣が時計回りに回転を始め・・・数分ののち心核が完成した。
心核の初期形状は心臓ね?
「完成したわね・・・とりあえず桶は取り除いて・・・」
シオンは二つの心臓が拍動を打ち始めた事を確認すると血が残ってない桶を片付ける。そのままだと座った矢先に二人の尻が桶に嵌まる恐れがあるの。
多分、尻が桶と同じくらいの大きさになると思うし。
私は二人の心臓に向かって命令を下す。
「二人とも、そのまま自身の姿を思い出しなさい」
すると、二人の心臓から血管が再構成され魔力経路や骨、臓器が作り出された。
この流れ的にはシオンの完全再生と同じね。
それからしばらくすると全裸状態の二人がテーブル上に浮かぶと同時に心核が表層核と入れ替わり本体の場所が分割して移動したわね?
一応、眷属と主人の本体位置は似て非なる場所とだけ言っておくわ。
術が完了すると同時に私は二人を浮かせながらテーブルの上に座らせた。
「「再誕、おめでとう」」
私達は生まれ直した二人の前で微笑みながら祝福した。
すると箕浦さんは目を開けてすぐ、身体を抱き胸の感触に酔いしれる。
「え? 身体がある! 胸が大きくなってる!!」
江草さんが箕浦さんの容姿を見て驚愕を示し、隣同士でありながら互いの裸体を抱き締め合っていた。
「ユウ! 銀髪碧瞳よ!」
「フウもよ!」
私達はそんな二人を苦笑しつつ眺め──、
「私達の眷属という扱いだから、同じ容姿になるのは仕方ないわよ?」
「そうね? でも幸せそうね」
「ええ、ホントに」
喜ばれるという状況に安堵した。
§
一方、同じ頃の神界では──、
「再誕の秘術・・・姉上とは違ったアプローチですね?」
「そうね? 魔術と言ったかしら? あちらのあれとは違ってこちらは神秘に近いのね」
「これは同列視出来ませんね。姉上が見たら解明したいと騒ぎそうですが」
「確かにね? 言いかねないわ」
女神様達が誰か知らないが姉と呼ぶ者を肴に紅茶を飲んでいた。それはまるで懐古的な雰囲気だが、女神様達にも家族が居るのだろう。
締めは知の女神様の苦笑で終わったが。




