第269話 高い空を眺める吸血姫。
魔王国での一件から数日後の午後。
「こちらの気候も似たり寄ったりね。北極と聞いて寒いと思ったけど、そうでも無かったわ」
「そうですね。こちらは地底と大差ない造りになっておりますので」
「なるほどね。大きさはこちらが大きいけど」
「ええ、地底の倍以上はありますね」
「倍以上ね。それで、あの月と太陽で光量を」
「なんとか稼いでいますね」
私は通常の身体、銀髪碧瞳の憑依体にて最上層の北極・氷の大地へと防寒着無しで訪れていた。北極の案内はユランスのような紫銀髪セミロングの四女である、ユインスだ。
顔立ちからしてユランス達とは別物よね。
どちらかと言えば私に近しい顔立ちだわ。
後々に聞かされた妹達でもあるのだけど。
そんな案内の最中、ロケットの打ち上げ地点を探していたのだが、不意に気になった事が出てきたのでユインスに問うてみた。
「というか、地底の月と太陽が似ているのは気のせいかしら? 月のクレーターもよく見ると個々に合致しているんだけど?」
それは地底での旅で何度も見てきた天体の形状だった。円形なのは何処も同じだが、地表から見える大きさとか、周期が同じだったのだ。
するとユインスは視線をそらしながら、
「あ、き、気づかれて、しまいました?」
やってしまったというような表情になった。
この表情は隠し事がバレた時の表情よね。
私は怪訝になりつつ、タブレットを取り出して、写していた写真と見比べる。
そのうえで周期を算出し違和感に気づいた。
「気づかれてって・・・まさか!?」
それは太陽フレアが鏡映しのように左右対称となっていたからだ。三つの月は本当に存在するから気にする必要はないのだけど、太陽だけは別だった。そのうえ地底に映し出されると誤魔化すようにぼやけていた事にも気がついた。
つまり、この惑星の太陽は一つだったのだ。
大きすぎる惑星をカバーするように魔術的なご都合主義で空間的に分割して補っていたと。
常陽や常夜も補っていた弊害で発生したと。
「地底に衛星やら太陽は無いの?」
「ええ、ミアンス達には黙っていて下さいね。表向きには、地底に月と太陽があるように見せかけていますから」
「ああ、そちらが真実だったのね」
ユインスは案内を続けながらネタばらしの要領で口走っていく⦅バレちゃった⦆五女が頭を抱えてそうね⦅姉上のお尻を抱えてる⦆はぁ?
「元々は同じ惑星を運用する事になっていたのですが、神が多すぎるのは争いの火種になりますでしょう? 誰が唯一神で、誰が邪神だと騒ぎ立てて、仲の良い姉妹なのに仲が悪いように決めつけられる。まぁ私達もミアンス達も既に似たような事になっていますがね」
「そ、そうなのね」
「ですので、地底を空間的に分割して運用する事になったのです。この惑星の核を空間的に凝縮して地底空間を創りだし・・・」
擬似的に核が存在するよう管理神器を部分改良した。凝縮した核を地底の星として造り換えて人々が住める大地と海を創りだした。その時に出た余剰土などを用いて浮遊大陸を拵えた。
拵える際に余剰土の中へと埋まっていた生きている化石もとい拾い者にも手伝って貰った。
(それがシオンなのね。化石扱いされていた)
そんな諦観の面持ちにも似た暴露話を聞いた私は先の事例を思い出す。
(ああ、だから更新は自分達でやると)
部分改良していたから、それを適用させないといけなくて、時間加速結界を展開したうえで更新していたのだろう⦅当たり!⦆地底より速く終わらせないと月と太陽の件がバレるから。
管理神器の主従関係があったなら納得だわ。
「と、ところで時間の方は?」
「地底と同じで一日が四十八時間ですよ」
「ああ、そこは同じなのね」
まぁ不慣れにならないなら助かるか。
とはいえ一応は、伝えておかないと。
「まぁどのみちバレそうな気もするけどね」
隠し事が出来ない時期が来た事を。
「え?」
「極軌道上に打ち上げる予定だから」
「あっ!?」
私が空に打ち上げて軌道上に住み着けば必然的にユランスもコロニーへと顔を出すからね。
あちらの肉体で船内を闊歩すると思うのよ。
⦅そうだった!?⦆×6
頑張って言い訳を考えなさいな。
すると五女が何かを思い出す。
⦅あ、ニナンスにはバレてる・・・⦆
⦅は? はいぃぃぃぃぃい!?⦆×5
そういえば先の件で上に居たわね。
「ま、まぁ、その時になったら姉上、いえ姉さんが、お尻を差し出す事になるでしょうね」
「そ、それでいいの、貴女は?」
「姉さんが総責任者ですから」
「な、なるほどね」
ともあれ、そんな身内しか分からない話し合いの後、私は丁度良い場所が有ったので、その場所へと例の中型船舶を浮かせた。
そして暴風が吹き荒れる事を予測して周囲に積層結界を張ったのち打ち上げ準備に入った。
するとユインスが疑問に思ったのか、
「ところで姉上? あれは魔法ですか? それとも魔術ですか?」
タブレットを持つ私へと問いかけてきた。
私は魔力充填を開始してユインスに答えた。
「魔法よ。魔法を魔術に変換する術陣を噛ませているの。先ごろ戴いた魔導書を解析したら私が創った術陣の記述があったから、改めて創ったのよ。まさか私の魔術理論を使うとはね?」
「ふぇ? 解析ですか? というか理論って」
「言ってなかったかしら? 私も元々は魔術師よ? そうでないと一括拒否術は渡せないし」
「あっ、そういえばそうでした」
魔法ありきになっているから分かり辛いが私は魔術を使っていたのだ。母さんも使っているはずなんだけど割と知られていないみたいね。
ユインスは乾いた笑いを浮かべながら、
「だ、伊達に時空神ではないと」
私の事をそう呼んだ。
もう訂正するのも面倒だわ。
実際に未来視までも出来ているしね。
ただこれも、滅多な事では使わないけど。
なお、魔力充填はあと少しで完了する。
今は待ち時間の間に主要項目のチェックを行っているが。
「それでもいいわ。今はシオンも居るし、マキナが立場を代わってくれているし」
「二代目ってことですね」
「どちらの二代目なのかは知らないけどね。それこそ京を超える歳を重ねないと無理でしょ」
「か、母さんの歳を話すのは不味いのでは?」
「誰が母さんなんて言ったのよ?」
「あっ!?」
自分の発言で墓穴を掘るポンコツ女神。
ユインスも割とポンコツだったのね。
ちなみに、母さんの実年齢は垓である。
割と知らない者が多いのよ⦅そんなにババアじゃないわ!?⦆あ、本人が来た。
何はともあれ、魔力充填が完了したので私は上の騒ぎを無視しながら発射させた。
「案の定、吹き荒れるわね〜」
「近隣の民には寄りつかないよう言っていて正解でしたね。飛ばされてしまいますし」
タブレット上では打ち上がったロケットが予定通りの軌道を進んでいる様子が映っていた。
途中からは⦅こちらで引き継ぐよ〜⦆三女のお尻を抱えたままの五女が交代してくれた。
抱えるって何の事かと思えば空間的に隔離していたのね。いつぞやのミアンスのように。
それこそ⦅私の腰を返して!?⦆椅子に座れなくて突っ伏している様が予見出来た。
「せ、積層結界が無かったら私達もね」
「そうですね。ところで姉上」
「はいはい、これが例の陣ね」
「ありがとうございます」
その後は魔法魔術変換陣をユインスに提出して禁書登録され私と眷属以外は使えない代物にされた。これも地底から転生したゴミ共が残る以上は必要な措置だった。
(コロニーも無事に軌道に乗ったみたいね)
後は亜空間のログハウスから行き来する経路を繋げるだけである。母さんが顔を出したのはコロニーからの経路を繋げるためだと思うし。




