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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第十二章・異なる世界の休息日。

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第267話 吸血姫は神官に呆れる。


 地上の片付け終了とパーティーから数日後。

 この日の私達はログハウス内の執務室にて、


「さて、これをお母様もとい母さんに送って」


 最上層に向かう者達の選抜を無事に終えた。

 選抜というか全員になってしまったけれど。

 これは先日マキナと話し合った件の続きだ。

 今回はマキナも手伝ってくれたけどね。

 マキナの眷属達も連れて行くからだが。


「お母様? もしかして、あの子達の複製魂魄をお婆さまに送ったんです?」

「ええ、あの子達の名前以外の記憶を消した複製魂魄をあちらで数十年かけて運用するのよ」

「消した? 運用って?」


 それは該当者の戸籍を用意する重要案件だ。

 先ずは時間遡行して該当者の情報を元に作った憑依体、その家族をそのためだけに用意して元世界の生活をさせておく。頃合いを見計らって異世界に呼び寄せ、憑依体の複製魂魄と本人の魂魄を完全統合するのだ。そうすればいつでも宿って行き来が可能になる神の裏技である。


「ああ、あちらで全員が困らないように?」

「そうよ。前の肉体の戸籍は死亡扱いされているだろうし、物を売り買いするのでも、戸籍は要るじゃない。海外に渡航しようものなら」

「パスポートが必要だね?」

「私達も偽名を使っていたけど」

「有ってビックリだったもんね」


 実はこの魂魄統合には向き不向きが存在していて選抜前にマキナを除く眷属達へと統合因子を植え付けた。植え付け後、全員があっさり受け入れ呆気にとられながら魂魄複製を行った。

 これには驚いたわね。拒絶なら大変エロい事になるはずだったのに全員が受け入れたから。

 それは私達を除く九十二人の眷属達である。


「これだけの数があちらに住まう事になるから、母さんの苦労が忍ばれるわね」

「それなら、お婆さまにお土産買っていく?」

「買うよりも芋羊羹を作った方がいいわね」

「ああ、大好きだもんね。芋羊羹」


 私が母さん呼びとなったのは慣れるためね。

 あちらで「お母様」と呼んで怒られたから。

 ちなみに、彼女達の主な役割は最上層での仕事の合間に商会にて扱う品々を買い付ける、元の世界へと寄越すバイヤーだったりする。


「コウ達は『元世界を見せられる』って喜びそうだね。魔力無しの世界だから飛べないけど」

「内なる魔力を強引にひねり出せば空も飛べるけど研究者共に捕まる可能性が高いわね」

「ああ、それはあり得るね」

「生物学者とかいう神をも恐れぬ愚者共がね」

「お母様が言うと、妙に含蓄がある気がする」

「一度出くわして物理的に滅ぼしたもの。それよりも、今回も数が数だから最上層に向かう時は完全交代制になるわね」

「それで一回の渡航は何人の予定なの?」

「当人達の都合もあるから明確に何人とは言えないけど、最小で五人・最大で三十人かしら」

「私達を除く?」

「私達とナギサを除く、よ」

「ああ、我らが大神官は必要と」

「不本意ながら、必要なのよね」

「それで高所恐怖症共はどうするの?」

「目を潰してから連れていくでしょうね」

「おぅ。セツとウタハ、ドンマイ」


 それと今回の魂魄複製は最上層に向かううえで必須条件でもあった。それは最上層の特性が作用する話であり肉体が作り替えられた地底民では──死して転生する場合は除くが──最上層には昇れない不文律が存在するからだ。


「でもさ元世界に渡航するだけでなく上でも同じ条件が適用されるとは思いも寄らないよね」

「それだけこちらが特殊過ぎるって事でしょ」

「仕事は同じなのに面倒だね」

「分かっていても仕方ないわ」


 最上層での仕事は基本的に下界と同じだ。だが、最上層ではあまり過干渉が出来ないのだ。

 上空から直接罰を与える以外はね。

 主なる理由は最上層での魔術(主流)にある。

 詠唱が必須となる魔術。魔法しか使えない者達だけでは手が出せない。彼女達が出来る事は各地へと散らばり大惑星の隅々まで監視させて私に報告するだけだ。

 その世界の主なる基準は体内に保有する魔力と持ちうるスキルだった。

 この点は下界に蔓延っていた事案と同じだ。

 唯一違うのは自身の魂にある生命力を練り上げて魔力変換し、品質向上させる点だろうか。

 生命力を練り上げて変換するのはサラサ達も行っていた事だが、品質向上までは行っていなかった⦅向上度合いはバラバラだね⦆三女談。


「魔素吸引を行わないねぇ。元世界に戻っても問題のない身体が必要と。魔術行使の際には自身の生命力を正しく認識出来るかどうかが?」

「鍵になるわね。あの子達は私達が超高品質の魔力を流すから、品質向上自体は不要だけど、魔術行使には呪文を覚えさせるか魔道具で補うしか手が無いのよね」

「詠唱か。恥ずかしいね?」

「リンス達なら気にしなさそうだけど」


 一応、空間魔力を使う魔術もあるそうだがそれは魔道具として使うか、魔人および魔族くらいしか行わないという。なお、吸血鬼やら闇エルフは一括りで魔人扱いになっているそうだ。

 こちらのハーフはハーフのままって事ね。

 しばらくすると母さんから憑依体が届いた。


「で、これが魔術向けの憑依体であると」

「通常の肉体の方が効率が良いみたいよ」


 届いた憑依体は黒髪黒瞳の容姿であり体型は色々と抑えめになっていた。私達の憑依体もあるわね。黒髪黒瞳とか微妙に似合い過ぎるわ。

 今の憑依体は、この世界⦅のみ⦆との事だ。

 あちらへ渡航した時は銀髪碧瞳の憑依体だったから私達は二種類を使い分けるしかないと。

 なお、中身が居ない間は疑似魂魄が発生して眠るだけとなる。それは私とマキナも同様に。

 但し、日中は目が覚めてルーティンを熟す事になる。宿った時はその限りではないけどね。

 こちらの肉体も魂魄統合時に統合因子によって造り変わるので私達が対処する必要はない。


「それで〈変化(へんげ)〉は出来るの?」

「問題は無いそうよ。元々の種族に〈変化(へんげ)〉すれば最上層でも行動は出来るから。但し、鬼神族の元になったオーガ族は魔物扱いだから、常時人族姿となってしまうけど」

「あらら。なら、こちらに戻る時は?」

「魂魄統合は心体と呼ばれる幽体が発生するから私達のように身体を入れ替える事になるわ」

「ああ、出てびっくり素っ裸って事かぁ」

「そうなるわね」


 私は合計九十五体の憑依体を一度片付け、該当者を順番に呼び出した。今回も数が数だから説明が大変⦅〈スマホ〉の取説⦆それが出来たら苦労はない。個人の人格が左右するからね。

 先ずは寝ぼけ眼のエロフがこの場に訪れた。


「ふわぁ〜。カノン、呼んだぁ?」


 エロフの服装は大変だらけた寝間着姿ね。

 旦那とハッスルしたあとのように思える。

 マキナはそんなエロフを見て笑顔で指さす。


「名実ともにエロフとなったユウカが来た!」

「私をエロフって呼ばないで!?」

「眠気も吹っ飛ぶ呼称になったわね」

「ふ、不本意過ぎる」


 言葉では言い表せぬ表情に変化したユウカ。

 怒りなのか情けないのか微妙な空気感よね。

 私はそんな微妙な表情のユウカに命じる。


「ふふっ。不本意ついでに魂魄を借りるわよ」


 そうしてユウカの体内にある心核本体。

 その内側に宿る魂魄のみを抜き出した。


「ふぇ? か、借り・・・」


 ユウカは唐突に力が抜け、マキナに身体を預ける事になった。ユウカの特大級の胸がマキナの背中へと押しつけられた。


「おっと。気のせいかな? おっぱいがすっごい育っているんだけど?」


 私はユウカから借り受けた魂魄。

 近くに浮かせた銀色の魂魄を凝視する。


「気のせいでも無いわね。どうも因子を与えてから、早い段階で心体が発生していたみたい」

「統合無しで?」

「無しで。これも称号の数が関係するかもね」

「ああ、なるほどぉ」


 現時点でのユウカの称号は七つ。

 エロフに類する物が(ほとん)どだけど。

 こればかりはユウカのみの特性だろうが。

 なお、その間のユウカは『どういう事なのか説明してぇ!』と素っ裸で怒鳴りつけていた。

 私はユウカに見えるよう憑依体を取り出し、


「最上層には今の肉体で向かえないの。そして最初の統合者に選ばれたのよ。ユウカが!」

『選ばれた? いつの間に? というか、妙に懐かしい容姿が寝転がっている?』


 困惑するユウカの魂魄に複製魂魄を押しつけて魂魄統合を行った。すると融合するように二つの魂魄が混じりあい、ユウカがきょとんとしている間に魂魄統合が完了した。

 心体姿で浮かんでいたユウカは首を傾げる。


『今の何。あれ? 過去の記憶が別物になってる? 阿住(アズミ)優果(ユウカ)? に、二十七才!? いつの間にそんな年齢に』

「戸籍の名はそれだから忘れないでね」

『こ、戸籍!? あら? 船舶免許まで取った記憶が。あ、あの学校も首席で卒業ぅ!!?』


 混乱しながら、大きな胸をブルンブルンと揺らしている。育っているのは胸だけみたいね。


「しばらくは混乱しそうだね?」

『両親は船舶事故で他界。ユウキと結婚した』

「こればかりは全員が通る道と思うしかないわね。一応、こちらの記憶は残しているから、うまい具合に」

『何かの拍子に異世界渡航して、戻る力を手に入れた? その数は集落の九十二人のみ?』

「ああ、噛み合うってことね」


 これも過去に私の実家がある小集落で一日だけ住人が消えた話があったそうだ。これは憑依体を保守した時の話で、外から来ていた役所の職員が夢でも見ていたと騒いだだけである。

 なお、コウ達の子供は個別に保守したらしいから、その中には入っていない。

 これは地元話だから新聞沙汰にはなっていないが母さんはこれを上手く利用したのだろう。

 今回は寝ている間に行ったから早々に統合して戻さないとね。子供等は寝てる隙に行うが。

 一先ずのユウカは黒髪黒瞳の身体に宿り、


「何か不思議な夢を見ていた気分・・・」

「夢でも何でもないけどね」

「このエロフを見たら分かるけど」

「ほら、この大きなおっぱいなんて」

「まさにエロフよね。揉み心地が凄まじいわ」


 エロフ胸が揉まれる姿を眺めた。


「何処を揉んでるのよ!? 何処を!!」

「「ユウカのおっぱい!」」

「な、何か不思議な気分だわ。私が胸を揉まれて一切目覚めないなんて・・・」


 するとユウカは私から聞いた手順により黒髪黒瞳の憑依体から抜け出て元の身体に戻った。

 私はその際に忘れていた事を伝える。


「そうそう、こちらに戻ると私達が胸に与えた刺激が瞬間的に脳髄へと届くから注意してね」

「!!!?」


 あまりの刺激に即出したユウカだった。


『そういう事は先に言って!? 敏感どころの話じゃないよ〜ぉ! 下着変えなきゃ・・・』

「「ごめんごめん」」


 その後のユウカは再度エロフに宿り直して、フラフラしながら自室に戻っていった。

 一応、次の者を呼びに向かうよう伝えたけど詳細は伏せそうね。同じ経験を得て頂戴的な。

 だが、このあとは少々反応に困る者達も居たりするのよね。


「この世界出身の子達の反応だけは私も想定外となりそうだわ。他はあちらの出身でもあるから、ある程度は受け入れてくれそうだけどね」


 それを聞いたマキナは苦笑しつつ思案する。


「それなら長命種故の忘却が発生しそうだね」

「忘却で済めば御の字かしら?」

「なら、異世界転生した事になりそうだね?」

「ああ、戻る力を手に入れて帰るぅって?」

「うん。そんな気がした」

「私もそんな気がしたわ」


 気がしたのではなく確定未来が見えた。

 実際に統合を済ませると、


「臣下が嫌だったんですぅ! 帰りますぅ!」

「私も元の世界がいいです。王家は嫌いです」

「女王とか本音では嫌でした。今は男ですが」


 三人揃って想定通りの反応になった。

 心体発生は案の定、ユウカだけだった。

 これを見ると⦅全員、異世界転生ですよ⦆本物!?⦅記憶は消えてましたけど!⦆あらら。

 リンス達が冒険をしたがるのもそれが要因のような気がした。出奔したアオイ達も含めて。

 ちなみに、肝心のナギサはというと・・・。


「「主様の御力は大変素晴らしいです!!」」


 ナギサ臭(信仰心)が悪化しただけだった。

 それとナギはナギサの未婚の息子扱いになったが、親子揃って同じ反応を示していた。


「「おぅ」」


 その後も連続で眷属達を呼び寄せ大感激と唖然呆然を喰らう事となった私とマキナだった。


「「疲れたぁ〜!」」





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