第266話 吸血姫は眷属に呆れる。
三番船はそのまま第六十五の停泊区画へと無事に到着した。その間に船内での最後の夕食をいただき、三番船からの下船時は思い思いに今回の長旅を振り返る者が多かった。
先ずは上界から下界に降りた者達が語る。
「ナディ事案から始まったんだよね」
「ナディがもちもちのおっぱいを得て」
「ふっくらお尻を得て色々と急成長して」
「最後の最後でまた急成長を遂げて!」
「デデーンと、今に至ると!」×3
「こらぁ! 人の体型ネタで遊ばないでよ!」
「きゃー、ナディが怒ったぁ!」×4
「ぼ、棒読みで逃げるなぁ!?」
それは当時を知るユーコとユウカ、フーコとニーナだ。片や番が出来てウキウキな者達と、そのままガチ百合を続ける者という少々変わった関係になってしまったけどね。
番である、ユウキとフユキは苦笑しつつ背後から付いていき、マサキはマユミに抱きつかれたまま、ニーナ達の後を追った。
追いかけるナディの背後からは困り顔のカナと無表情のレーコが付いていく。
「姉さんと共に私も育ったんだけどな〜」
「・・・」
「反応くらいしてよ、レーコ?」
「申し訳ございません」
最初期は誰もが百合だったのに、この長旅での変化は相当なものだった。最後の最後でユーマとアンディの件では誰もが驚いたけど。
「アンディ、今晩もする?」
「そうしようかな」
「訓練の後で、だよ?」
「もちろんだとも」
なお、ユーコとリリナはガチ百合を続けるそうで私に同性でも子供が作れるよう依頼してきたわね。出来ないことはないからユーコとリリナの心核を弄ってあげた。
今では八人しかガチ百合勢は居ないけれど。
そのガチ勢もユーコの後から付いていく。
「そうそう、帰ったら姉さんが頑張ろうって」
「ああ、私達の子供が、欲しい。だっけ?」
「うん。産むのは姉さんだけどね〜」
「まさか同性出産まで可能だったとは」
「制限を取っ払ったとか言っていたよ」
「そんな制限があったんだね」
「何でもカノン達がマキナを産んだ時って同性出産だったらしいよ。相手はあちらの世界のシスターだったそうだけど」
「そ、それで、経験が無いのに子を産んだと」
「なんと!? わ、私も、お願いしなければ」
「「リンスが食いついた!?」」
「私もお願いする! 妹達とハッスルする!」
「「ハルミまでぇ!?」」
どうも、私達の経験をユーコが語っていたようだ。それを聞いたサーヤとサヤカは困り顔のまま話していた。それにリンスが反応して、のちほど制限解除を願い出てきそうな気がした。
諦め半分だったのに可能と知ったものね。
「リリカも頑張ろうね?」
「ね、姉さん、私は普通」
「頑張ろうね」
「う、うん」
そんな騒ぎの中も船員達の下船は続く。
私とマキナは滑走路上から下船してログハウスへと転移していく者達を眺める。
「お母様? 私って、同性出産だったの?」
「そ、そうね。前はほら、出来なかったから」
「ああ、それで。光景は想像したくないかな」
「そ、想像はしなくていいわ。気まずいから」
この後は兵装の施錠前に空賊の殲滅があるのだ。それを終わらせてから私達も三番船を下船する。下船というか〈ティシア王国〉の国軍へと寄贈するので私達が持って行くだけになる。
船内の各種設備も全て取り払っているため、従来の広さを持つ船体になってしまった。
取り払ったあとの設備は亜空間庫にて浮いており、後日打ち上げる代物にあてがう予定だ。
なお、大型偵察機などは引き続き使うので格納庫から亜空間庫へと移動済みだったりする。
私達は全員が転移した事を把握すると、
「これで全員が降りたわね」
「私達以外は、だけど」
「それならタラップを戻して魔力充填開始」
「事前に照準を合わせていた空賊の住処と」
「各地で猛威を振るう空賊共を消しますか」
滑走路に居ながらタブレット越しに指揮所機能を完全稼働させた。照準はユランスが⦅許可と共に自動照準と自動追尾してますよ〜⦆行ってくれていたので助かった。
そうして周囲の職員に気取られぬよう、熱光学迷彩と完全遮音を還元ミサイルへ付与して一斉に発射させた。今回は散弾が殆どだから、あっさりと一掃されるだろう。
ただ、唐突に暴風が吹き荒れたから、カツラが飛ばされる者などが港付近に現れたけどね。
私はタブレットを眺めて状況を注視する。
「これで空賊は一掃だね」
「それで追尾状況も見る?」
「見る!」
そしてマキナと共に各所の状況を把握した。
「照準された拠点は・・・流刑島が五つか」
高度を上げている際に空賊が襲ってきたのも丁度、第八十五流刑島を過ぎたあたりだった。
船団規模で襲ってきた理由は、流刑島内へと想定外の犯罪者共が巣くっていたようである。
これも流れ着いた⦅元正規兵ですね⦆犯罪者ではないが犯罪者予備軍的な者達だったのね。
「あとは、第十と第二十六にもあると?」
「流刑島はともかく、第十って言えば?」
「ええ、第零の属国だった国ね」
度し難い事に第十の空賊の裏には第零の王族が居た。第二十六は純粋に食うに困った一般人だったが第十だけは装備から何からが違った。
「まぁ、これで消えるから」
「しばらくは上界も平穏でしょうね」
「第零がまた属国欲しさに動きそうだけどね」
「そうなったらミアンス達が罰を下すでしょ」
「知神の顔も三度までって事?」
「仏は居ないけど、そうかもね」
どちらかと言えば知神の恥は三匹で終わったけど⦅カノン!?⦆いつまでも引っ張るとミアンスが拗ねそうなのでここまででいいかしら。
各地の空賊を滅した事を把握した私はタブレットを操作して三番船を離岸させた。
「登録を〈ティシア王国〉軍に切り替え。船籍も〈ティシア王国〉に変更して固定。船体偽装を完全解除。船体色を銀に変更して固定っと」
「あ、職員達が敬礼した!」
「軍属になったからね。私達も敬礼で返して」
「うん!」
船橋は封じているが、このタブレットを用いれば常時操作が可能なのだ。この遠隔操作機能も寄贈後は一時凍結するけれど。
離岸後は船体の向きを変え、
「このまま第二十二浮遊大陸に移動開始!」
最微速前進で加速を開始した。
私達は滑走路脇に座りつつ〈ティシア王国〉の港に到着するまで、紅茶を飲む事にした。
「凱旋パレードが起きそうな気がする」
「先に戻ったリンスが留めているでしょ」
「それよりも制限解除を願ってくるのでは?」
「それはここに居ながらでも出来るわよ」
「ああ、そういえばそうだったね」
私はそう言いつつリンスとハルミの制限を解除する。解除直後はビクッと反応するけどね。
そして反応したのかタブレットへと、
『カノンさ〜ん。びっくりしましたぁ』
『突然、姉さんが泡を吹いたんだけど』
リンスとナツミからメッセージが届いた。
リンスは公務中に刺激をくらい、ハルミは自室で横になった瞬間に刺激をくらったようだ。
「あらら。リンスは550に上がっているからギリギリで耐えられたのね。ハルミは480だから耐えられずに沈黙したと」
「沈黙というか刺激が強烈だったのね」
「直で本体に触れるって事だもの。本人の心と魂魄に直接触れるのと何ら変わらないからね」
それを聞いてマキナは引いていた。
「ああ、それは耐えられないね」
一先ずの私はリンスとナツミに返信して事情を語ってあげた。するとリンスは歓喜しナツミは何故か願ってきた。
『ありがとうございます! カノンさん!!』
『私もお願いします!』
「分かったわよ。少し待ちなさい」
願ったので解除すると返信中に突っ伏した。
『やったぁ! あ、こ、これは・・・』
段階的に刺激が襲ってきたものね。
三箇所ある制限を全て解除したのだもの。
異性制限・性別制限・受入制限。
異性制限は男性のみを同性のみにした。
性別制限は生まれる者を同性のみにした。
受入制限は卵子のみで行えるようにした。
性別制限は淫魔族と同種の代物だけど。
マキナはそんなナツミの根性を称えた。
「突っ伏す事になっても願うとはね。凄いよ」
「ガチ勢の願望でしょうね。マキナも望めば同性と出来るわよ? 私達に制限なんてないし」
「私はまだ、そんな気にはならないかな?」
「ああ、恋愛脳ではないものね」
「今はそれより・・・」
そうして話題は後に続く予定の件になった。
マキナは真面目な顔になり紅茶を飲み干す。
「後の事が気がかりかな」
「上の話?」
「それと上に置く代物とか。生身で渡るの?」
私が成層圏に置く予定のブツの事ね。
私はマキナからの問いに率直に答えた。
「それは出来ないわ」
「え?」
「界渡りだけは生身では無理なのよ」
生身渡航、それが出来たらどれだけ良いか。
召喚陣では魔法的な要素で包み込んでくる。
次元の狭間に落ちる場合もあるが、あれは落ちたら最後、体内の全てが作り変わるから、元の世界に戻る事は実質不可能となるのだ。
私は前回の界渡り時にマキナに語った内容を改めて語る事にした。
「先日、あちらで魔素の件を話したけど」
「確か、食品や大気から魔素を取り込む話?」
「ええ、それね」
私達はともかく、一般的な魔力源なるものは取り込んだ魔素を元に、魔力へと変換する。
この魔素は私達の力⦅神素が⦆大元であり魔素もといマナの少ないあちらの世界では低酸素症と同じ状態となって、最後は・・・。
「作り変わった身体では最悪、死ぬと」
「ええ、不死者といえど呼吸困難になって気絶は確実よ」
「ああ、だから憑依体を作る事になる」
「ええ、それもあって人選が必須なの」
「なるほど」
ちなみに以前のナギサ達は⦅取込不要⦆となっていて、魔素を口にしても排出されていた。
今は取り込みと変換、魔力経路を通じて神素変換した高純度魔力を直に得ているけどね。
私も今では生命力が貯まり過ぎていて消費が出来なくなり〈魔力炉〉もアイドリング状態のままである。これも結局は神力変換の使い過ぎともいうけれど。ただこれも界渡りしたら使えるパッシブスキルではあるのよね。
こちらでは無用の長物と化していても。
仮に私とマキナが界渡りした場合⦅姉上達の複製神核から⦆眷属達へと魔力を与えるようになっているの。何故か私達の複製神核がこちらの神界にあったのよね⦅お母様が置いていきました⦆でしょうね。あの人ならやりかねない。
何はともあれ、長々と話していたら、三番船は〈ティシア王国〉の軍港に到着した。
「お待ちしておりました。カノン様、マキナ様」
到着したら〈ティシア王国〉の軍人達が勢揃いしていた。タラップが繋がる場所から左右にずらりと兵が並び奥に苦笑するリンスが居た。
「あー、帰っていいかしら?」
「ダメだと思うよ、お母様?」
「ですよね〜」
その後は歓待の儀、という名の大変長ったらしいパーティーが続いたのは言うまでもない。
((頬の筋肉が引きつりそう・・・))




