第263話 生き意地を奪う吸血姫。
カノンが地下神殿の封印を完全解除した事を把握した。どうも、久しぶりのユランスです。
(これにて地上の掃除も終わりなんですね)
本当に感慨深いです。まだ終わってない?
終わってなくても終わったようなものだと思いますが? ミカンスに笑顔も戻って昔のような喜怒哀楽が表に出てきてますしね。
あの平面胸だった頃のミカンスが。
⦅何を言ってるの? 平面胸だったのはつい最近まででしょ⦆
姉上こそ何を言っているのか?
本当に困った姉上ですね、三匹相手に股を。
⦅それをここで言わないで!?⦆
あれもお母様が統合した弊害でしたけど、あの時は大変でした。何度も何度も何度もお風呂で患部を洗ってましたね。憑依体に宿っている状態だったら患部がふやけていたでしょうに。
⦅それは言わないで!?⦆
ちなみに、現在の私は帝城の頂上にて見物中です。カラスに宿ったまま、のんびりと地上の様子を眺めています。
ミカンスだけは私に気づいていますが。
地上ではカノンの指示を受けた眷属達が〈希薄〉状態で侵入しているようです。淫魔族への〈変化〉は保険だったようですが必要無かったかもしれませんね。
そうして現場指揮はリンスが行ってますね。
それぞれの立ち位置は以下、
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総合指揮:リンス、ナギサ
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左翼前衛:タツト、クルル、ハルミ、ニナ
ナディ、ミズカ、コヨミ、カナ
中央前衛:サラサ、ラディ、ナツミ、レン
ワンコ、サエコ、シュウ、ミキ
右翼前衛:レリィ、コウシ、サーヤ、レイ
ショウ、マーヤ、トウヤ、ソラ
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左翼遊撃:マルル、メルル、シン、アキ
ウタハ、モモコ、レイキ
中央遊撃:リリナ、リリカ、ミズキ、シロ
ユウカ、ユウキ、トウカ、セツ
右翼遊撃:ユーコ、ユーマ、アコ、ココ
ニーナ、マサキ、マユミ
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左翼後衛:アルル、エルル
ルミナ、リュウ
中央後衛:ルーナ、マイカ、ケン
シロコ、クロコ、アナ
右翼後衛:フーコ、フユキ
サヤカ、ミーア
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左翼哨戒:アイミ、マリー、リョウ、ルイ
中央哨戒:ルー、キョウ、アン、ロナルド
右翼哨戒:ゴウ、コノリ、ラン、アオイ
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後詰め:ナツ、サヤ、アンコ、コウコ
ソージ、ナギ、タツヤ、シロウ
シンゴ、ケンゴ、アンディ
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最終兵器:カノン、マキナ、ミカンス
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今回は商会の十人も参戦してますね。
帝国からの断続攻撃で品が全て売れてしまって閑古鳥になったからでしょうね。商店も臨時休業してリンス達の補佐にまわっています。
包囲戦は帝城にある三方向の城門。
「各前衛、破城鎚の使用を許可します」
『了解』×3
その三方向から攻め立てて、破城鎚という名の杭打ち魔道具でタツトとラディとコウシが完全破壊を試み始めました。しかも全員が小銃所持のまま帝城内を破壊してまわるようです。
⦅あの杭打ちは魔力? 火薬?⦆
流石に火薬は使っていないでしょうね。
各自が身体強化を施して〈槍術〉スキルを利用して勢いのまま鋼鉄の城門を破壊しました。
『突破成功!』×3
「潜入班、先行して城内をかき乱しなさい」
『了解!』×12
次は元獣人族の十一人と隠れる事に定評のある元ドワーフが潜入を始めるようです。
しかも通常の〈希薄〉状態に〈隠密〉を適用して姿を完全に消しました。そのうえ熱光学迷彩魔法まで併用していてゴーグルを着けた者以外は何処に居るのか分からなくなりましたね。
⦅これは最新鋭の戦術かしら?⦆
皇帝は世界で出来る限りの戦術を考案する。
カノンは最新戦術を見聞きして取り入れる。
その差は歴然というものでしょうね。
熱光学迷彩も禁術指定としていますし。
人族が知る事は一生出来ないでしょう。
中央後方にて待機するリンスとナギサは地図魔法で城内の制圧状況を注視していますね。
そして頃合いとして、
「次いで遊撃班、問題児達を殲滅しなさい」
『了解!』×22
潜入班から得た情報を元に遊撃と称する殲滅部隊を投入するようです。相手もそれ相応の武装を所持しているので積層結界の展開も入念ですね。死にはしませんが痛みはありますから。
しかも全員が全員、自身の心核を亜空間庫に保管してますしね。弾が突き抜けて修復不可能になるのを避けているようです。但し、現物はモザイク物なので私は見ない事にしましたが。
⦅うわぁ。これはグロい⦆×5
姉上達が現場に見に行って引いてますね。
見られている事に気づいた者だけは顔が赤面していました。リンスとナギサ、ナディとショウだけで⦅触れちゃった!⦆それで、ですか。
すると内部の堀へとリリナとリリカとミズキが飛び込み、水中からの支援を始めました。
遊撃班達は三人から装備を届けられるとそれを用いて各自の得意な戦闘を開始します。
三人は水中へと攻撃をされないよう逃げる瞬間に全面を積層結界で覆って回避してますね。
残りの者達は城門から出てくる問題児達に応戦しています。全員が〈希薄〉を解除して人族に〈変化〉したのちの応戦です。
魔法戦ではなく銃撃戦となりましたが。
「哨戒班、戦場が入り乱れ始めましたから、上空より敵陣の目印付与を行って下さい」
『了解!』×12
いよいよアオイの初参戦となりました。
私の目の前を勢いよく通り過ぎるアオイ達。
その羽根は大変綺麗ですね。私も各攻撃が当たらないよう積層結界で防御しましょうか。
途中より〈隠密〉スキルで隠れましたね。
「各後衛、市街地への流れ弾が届かないよう物理防御結界を展開なさい」
『了解!』×14
指揮所前にて大魔力を練り上げるのはマキナにそっくりなルーナでした。物理防御結界を総勢十四名が層展開して、帝都の平民達を護っているようです。積層結界でも護れますが、規模を考えると物理防御結界が無難なんですよね。
これらは局所展開だけでいいですから。
それと共に問題児達の逃げ道を塞いでいますし。それは当然、地下水道への通り道も。
「ユウカさん達が事前に敷設したブツを使いましょうか。隠形して逃げ出した者が居ますし」
「了解!」×11
次は地下水道へと樹木を張り巡らせました。
「ぐわぁ!?」
逃げ出した者達が地下水道へと駆け込み、真下から伸びてきた蔓によって貫かれましたね。
これはユウカに〈樹医のエロフ〉とでも名付けましょうか。
称号が付きましたが致し方ありません。
⦅それってどういう意味の称号よ?⦆
樹木の扱いに長け医療が得意なエロフの意。
ユウカにとっては不本意な称号ですがね。
称号が追加されて通知が入ったようです。
「ちょ! なんなのこれぇ!?」
ユウカは戦闘中にもかかわらず大絶叫を発して、怒りのままに問題児達を滅し始めました。
手榴弾にも似た還元弾を、多方面へと放り込み、自身の持つ小銃で乱れ撃ちを行ってます。
「てめぇらが悪いんだぁ! 消えてしまえ!」
その乱れ撃ちで還元弾のピンを弾き飛ばし各所で滅殺の爆発が発生しました。
積層結界で護られる味方にまで被害が及び、
「ユウカこわっ」「姉さんが恐い」
シロとユウキが怯えるほどにユウカの激怒は半端ない事になりました。ご、ごめんなさい。
そんな中、問題児達の数が激減したのでしょう。上空より轟音を響かせてカノン達が飛んできました。今回は隠すつもりなど毛頭ないと。
その異形を視認したナギサは慌てて命じる。
「総員撤退せよ。繰り返す、総員撤退せよ!」
『りょ、了解!』×72
ユウカもこれだけは避けたいのか脱兎の如く熱光学迷彩で覆って城門へと向かいましたね。
その直後、地上に落とされたのは浮遊魔法を与えられた戦車でした。姉上の代物ですかね。
ユウカとユウキはきょとんとする。
「え? 戦車? 爆撃じゃないの?」
「だ、誰が乗ってるんだ? あれ?」
どうも全員が知らなかったようです。
五台の戦車は城壁内へと進み、
「あ! 地下道から何か来る?」
地下道が開いたと同時に砲撃戦が開始された。
「あちらも戦車を投入してるのかぁ」
迎撃されるものとは思っていなかったのか、皇帝の焦りは相当なものとなっていますね。
一体何処の勢力なのかって焦りですが。
「だから落としたのね。カノン達は上空を旋回したままね。音は流石に消したけど」
空飛ぶ黒銀の三角形。
皇帝は部下の声を聞いて上部より顔を出す。
「俺の獲物はっけーん!」
自身の状況が悪くとも欲したようですね。
しかし、皇帝が顔を出した瞬間に上空より何かが落下してきた。それは皇帝の乗機、顔を出した皇帝の頭頂部に、ねっとりと絡みつく。
「ぐほっ」
絡みついたのち、口やら鼻やらから内部へと侵入していく。スライム? スライムかな?
⦅スライムですね⦆
ミカンスが知っているのか教えてくれた。
それでも呼吸が出来ているのか命令だけは発していた。
「た、たかだい、に、い、いどう、せ、よ!」
「了解!」
高台から角度を付けて狙い撃つつもりなのだろう。しかし、その行動を無視するカノンではなかった。全車の総攻撃で皇帝の乗機を完全に消し去った。地面に投げ出される乗員と皇帝。
「ぐわぁ!」×3
他の戦車も消し去られていてスライム塗れの皇帝以外の兵士達は全員が白旗を振っていた。
⦅これで戦闘は終わり?⦆
⦅あっけなかったわね?⦆
⦅もっと続くと思ってた⦆
⦅ミカンスもそう思う?⦆
⦅さーてどうでしょう?⦆
⦅なんか意味ありげね?⦆
私もこれで終わりだとは思えない。
あ⦅離れなさい⦆って念話が来た。
どうも私の事に気づいていたようだ。
私はカラスの身体を使って空に飛翔する。
リンス達は物理防御結界から積層結界に切り替えて帝城以外の全てを覆った。
それは地下にある迷宮門を含む。
五台の戦車は亜空間庫へと戻り、
⦅バカ皇帝も覆ってっと!⦆
カノンがにやりと笑った姿が見えた。
そして何百本もの還元弾が落ちてきた。
なるほど、帝城だけを空爆すると。
絢爛豪華な帝城は一気に消え去り、地下を含む全ての施設が露わとなった。その施設も消滅していき、最後は迷宮門が残る広場になった。
カノンは皇帝を迷宮門の上に移動させる。
「な、な、なん、だ」
そして皇帝の魂魄をごっそり分割した。
「ぎゃー!?」
微々たる量の魂魄だけを残して回収した。
生きながらに魂魄が分割される苦痛。
それは相当なまでの生き地獄だったようだ。
黒々とした髪が白髪に変化するほどに。
半死半生の状態となった皇帝、
「て、て、てん、せい、して、次こそは」
執着のままに転生魔具を起動させた。
カノンは皇帝へと最後通牒を送った。
⦅させるわけないでしょ。バカなのアンタ?⦆
なるほど、そういう意図があったと。
皇帝から反応が返る前に拒否したカノンだった。
直後、皇帝を中心に大きな樹木が発生した。
⦅肉体があったら鉢植えになるはずでは?⦆
これは先ほどのスライムにヒントがあるのかもしれない。こればかりは戻ってきたミカンスから聞くしかないでしょうね。
帝城跡地はあっという間に大木が植わった広場に変化した。迷宮門も大木に取り込まれた。
通り道は上部の洞からのみとなったようだ。
するとカノンは上空から全員の、
『全員、お疲れさま。帰還したらごちそうよ』
ゴーグルへと労いの一言を入れた。
ごちそうの一言で全員は大いに喜んだ。
「やったぁ!?」×85
『それとアンディ、喋られるなら喋りなさい』
「は?」×83
「・・・」
えっと、これは?
私も含めて全員がきょとんとなった。
その問いに答えるように苦笑したアンディが顔を出す。
「あ、えっと、はい、すみません」
「はぁ!?」×83
「・・・」
これは驚きですね。
常に無表情を貫き通し、何があっても無言の従者が、最後の最後で反応したのですから。
ユーマなんて茫然自失となってますね。
「・・・」
おや、ユーマの顔が少し赤いですね。
というか知っているっぽい?
するとユーコが訝しげに問いかける。
「ユーマ、どうしたのよ?」
「あ、えっと、はい。大丈夫れす」
「大丈夫じゃないでしょ?」
「大丈夫れすよ。アンディがボロを出したから驚いただけれすし。これでは交際してい、あ」
「ほほう。皆、聞いて! ユーマはアンディと交際中だって!」
「『なんだってぇ!?』」×83
「ね、姉さん!?」
『おめでとう、とだけ言っておくわ』
「カノンさんまでぇ!?」
ああ、一緒に居る事が多いですもんね。
何かの拍子に繋がる事もあると。
本当に恋愛とは奥深いですね。




