第256話 建造に着手する吸血姫。
『アナ、次の荷を上げてくれ〜!』
「りょうかーい、奥から順に開封していって」
「「はーい!」」
あれから三番船は平穏な空気の中、海上を進み、無事にルージュ公爵領の港へと到着した。
「そこぉ! 危ないから出ていきなさい!」
「きゃー! エロフのお姉ちゃんが怒ったぁ」
「エロフのお姉? それって姉さんでは?」
『おーい、起重機のワイヤーが揺れてるぞ〜』
「おっと!」
およそ三ヶ月の船旅で消費した食料は多少なりに残ってはいるが、次に寄港する港から余剰人員が増えるので、必要な事として再度補給を受け入れた私達だった。食料が残った理由はお母様からの焼き芋があったから、なのだけど。
『この運搬車が珍しいのかね?』
「そうかもね。手押し車ではないから」
『領の子供達も見に来る船、か・・・』
「遠くからも視認出来る大型船だものね」
『噂に聞く二番船よりは小さいとか?』
「ああ、あれは超大型船だからね。あれも追々だけど魔王国に引き渡すそうよ」
『へぇ〜。過剰兵力になりそうな予感がする』
「言えてる」
水耕栽培の野菜も無事に育ち、葉物だけなら水耕栽培で育てた方が高品質な結果となった。
それ以外にも船から降ろす品も、
「港湾へと続く線路を引く必要があるか」
「それなら途中の分岐点はどうする?」
それなりにあって今はケン達が責任を持って話し合いを行っていた。
ちなみに、私とマキナは領主の館へとお呼ばれされているので船長室で着替え中なのよね。
個々の会話は〈スマホ〉越しに聞いていただけね。これも外の音声を拾って問題が無いか把握しているだけだから。
するとマキナが私にコルセットを着せながら質問してきた。
「お母様? 二番船の件は初耳なんだけど?」
せ、背骨が、く、砕ける。
ではなくて、私は苦笑しつつ応じた。
「あー、うん。過剰兵装だけを省いて魔王国の防衛に使おうと思ってね。今はリーナを介してレーナと価格交渉中なのよ。物が物だから高額になりそうだけど、維持費を考えたらってね」
「ああ、国防のためと」
流石にお腹が締められる間は沈黙したけど。
それは、この三ヶ月の間に打診されてきた事案だった。私達の中では暇の一言に尽きたが魔王国やら楼国では対岸から攻めてくる帝国の対応に四苦八苦していたらしい。
(氷上の国に早変わりして領土欲しさに大暴れってね。自国の皇帝達が望んだ結果なのに、困った人族と魔族共だわ、ホント)
南側は平穏なのに北側は大騒ぎってね。
海賊共が南側に居なかったのも、荒稼ぎの可能な地域が北側にあったからのようである。
魔力密度も昔と同じに変化したから、少ない量で魔法も撃ち放題になり、マナ・ポーションの需要は計り知れないのだとか。
(帝国内は密度低下で魔法すら使えないけど)
それが他国への干渉と奪い合いに発展しているのだから、強欲というか、何というか。
(皇帝と女王が望んだ結果と流布してあげようかしら。自国の滅びは主が望んだ事だぞって)
まぁ、この程度の小競り合いでは女神達も危険と思っていないのよね⦅暇ですね⦆本人達は死活問題なのだが女神達の与り知らぬ話だから仕方ない話でもある。発展に争いは必須だし。
(ふー、苦しい。コルセットも楽ではないわ)
沈黙後の私はドレスを羽織り、続きを語る。
「あとは一番船と同等の船も受注しているわ」
「あ、あれも、なの?」
「まぁ還元ミサイルは載せてないけどね。価格が急激に跳ね上がるから。精々」
「例の主砲と艦砲まで、と?」
「流石に電磁投射砲は無しだけどね。人族達の動きが機敏過ぎるから必要だって願われてね、ルーナから戦闘情報が漏れたみたい」
「あの子ってば・・・」
「それで畏怖してもらえれば御の字でしょ?」
「そうだけどさぁ」
「魔法弾を撃たれても破壊されない金属船だから、領海内の防衛では役立つでしょ? 領海外に出ると練度不足で拿捕されるでしょうけど」
「だから拿捕されても乗り込めない罰付きを」
「小国連合での事も報告済み、みたいよ」
そんなルーナの大暴走で降って湧いた買い取り事案だが、魔王国を帝国に奪われる事だけは避けねばならないのは確かだった。
森林国もとい上界へと繋がる亜空間線路が南にあるからね。人族共は通れないけど何を仕出かすか分からないのが、例のバカ皇帝だから。
(今一度、昔創った禁忌物のリストを貰う必要がありそうね)
種族改変的な代物があると⦅あーっ!⦆何その反応?⦅あるよ!⦆はい?⦅一度限りの品だけど⦆あ、あれか!〈変化神器〉! 今更ながら思い出すとはね。
禁忌物ではないが遺物として残ってはいた。
ミアンスの叫びで思い出した私は、今更だがセイアイ魔国の女王を鑑定してみる事にした。
皇帝は情報を得ているが女王は無いのよね。
タブレットを取り出して例の神器を経由して、管理神器で付けた目印の主を鑑定した結果、
(うーん、この真実は想定外だったわ〜)
まさかそうくるかぁ。
それが私の最大級の頭痛の種になった。
パーティーの前に途方に暮れたわ。
「あー、そういうこと?」
「お母様、どうしたの?」
入口で待機していたマキナが問いかけるが、
「セイアイ魔国の女王は元上界の人族、男よ」
「はい?」
私は真実を思い知ってそれどころではなかった。それが相手ならユランスでも不明だろう。
⦅な、な、な、なんだってぇ!?⦆×7
元が魔族なら対応も可能だが元人族だから。
ミアンスを祀る者、地上ならミカンスだ。
(それがどのような経緯で地上へと降りたか)
私は鑑定結果を沈黙したまま読み漁る。
マキナはきょとん顔で見つめるだけだ。
空賊か。墜落して無事だった者が居たと。
(落ちた時期は年齢から察するに、二千年前)
元々が裁かれるべき犯罪者、
「上界出身者なら戻りたいと動いていても不思議ではないわ。淫魔族に落ちているのは性犯罪を行ったからでしょう。それが許せないから皇帝に力を貸したとするなら大罪に値するわね」
「え?」
性犯罪で淫魔族に落ちて長命種として生き延び、セイアイ魔国の建国に至ったと。この建国には少なからず帝国も関与しているようね。
女王は従来の淫魔族と異なり、子を宿せない代わりに人を率いる手腕だけはあったみたい。
口が上手い空賊の首領だったようだしね。
無知の異世界人を操るなんて造作も無いと。
⦅そうくるかぁ⦆
⦅原因はゴミ共だけでは無かったと⦆
⦅二柱共、ポンコツを受け入れようか?⦆
⦅⦅不要な国家は滅しちゃってぇ!!⦆⦆
⦅姉上達、どんまい⦆
⦅これは帝国だけ、やり直しですね。はぁ〜⦆
元を辿れば上界の尻拭いだった件。
この瞬間、私の中で腹が決まった。
「可能なら両国共に滅しましょうか」
「え?」
「どうせ死にたがりが向かってきているし」
「お、お母様?」
「魔神と土壌神からも許可が下りたし」
「ま、魔力が溢れ出てますって!?」
「え? ああ、ごめんなさい」
怒りで船長室の魔力密度が引き上がったわ。
まぁ食文化とか、どうしても残したい物だけはあの子達に動いてもらって⦅承知!⦆その後始末だけを私達が行うという事で。
女王以外の淫魔族は⦅不死化させちゃって下さい⦆精に溺れる亜神族が出来上がるわね。
(魔力源を消して、精だけで魔力変換させたらいいか。精を吸った分だけ魔法が使える種族)
餌のゴブリン族も居るし丁度良いでしょう。
大魔法だけはどうあっても使えないけど。
一先ず、その後の方針は決まったので、
「帝国領の更地化と沈没と、どちらがいい?」
「魔力が戻ったら大地が蘇るから、更地化で」
「そうね。旧合国とも陸続きだし、沈没だと」
「楼国内を揺らす事になるね」
下船して馬車にて領主の館へと向かった。
怒りに我を忘れてしまうとは私も若いらしい⦅御年⦆はぁ?⦅何でも!⦆シオンが逃げた。
§
何はともあれ、華やかなパーティーの後は、
「ミサイルの補充弾頭は散弾だけでいいわ」
「はーい。通常弾は?」
「徹甲弾で。帝国の城壁を全て穴だらけにしてあげましょう」
「りょうかーい」
ケン達の線路敷設が終わるまでの間に亜空間の造船所に移動した私とマキナは各種準備に取りかかった。これらは帝国と魔国を同時に滅ぼすために必要な大切な準備ね。
一応、通常弾だけは補充済みなのだけど何が起きるか分からないので、少し多めに追加する事にしたのだ。やるなら徹底的に、ってね!
その分、忙し過ぎて目が回るけど。
「忙し過ぎてアキの手が欲しい!」
なお、他の船員達は、
「アナも欲しいけど離れられないからね」
「全員の装備を造り換え中だもんね」
「ええ、ミキとコノリが持ち込んだインゴットで絶賛創造中よ」
「私達は?」
「耐えられる物を三女が拵え中」
「禁忌物にならない事を祈るよ」
「それは同感ね」
レベルの急上昇もあって、採寸と創造を同時進行で行っているのだ。待機人員と交代しつつ一人一人に合った装備やら武器をいちからね。
そして提供予定の艦船は私が建造している。
「基本スペックは一番船と同等でいいわね。艦橋と指揮所の簡略化も済ませて、武装を副砲である艦砲と、光線銃の主砲で統一して・・・」
今回は軍艦扱いなので三番船と同じ呼称は使っていない。使うとごっちゃになるからね。
「動力源は鹵獲対策で三番船と同じにして」
二番船だけは最後に改修する予定である。
今は動力源以外は色々と穴だらけだから。
三番船に完全移設した各種設備を中に持ち込まないといけないしね。一応、弾薬関係だけは改修して内部へと運び込まない仕組みとした。
鹵獲されて利用されたのでは堪らないから。
それは偵察機も同様で、載せない事とした。
二番船の主な用途は動く海上司令基地だ。
戦闘に参加するのは一番船を模した護衛艦。
陸の基地から飛び立った各種偵察機である。
私達が降りられるように滑走路は残すけど。
「大型機の弾頭は?」
「時限式の還元弾頭でいいわ。広範囲にばら撒くから、散弾でなくても構わないわよ」
「りょうかーい」
武器弾薬の創造を自分達で行わなければならないのは仕方ない話だけどね。下手に余所へと丸投げしたらハズレ品が届く場合もあるから。
それで不発を喰らってしまえば大事である。
解析されて同一の代物を造られるというね。
還元術陣だけは何が何でも護らないとだし。
そうして一通りの準備を終えると、
「おまちどーさま!」
「「は?」」
亜空間の造船所に笑顔の三女が現れた。
ただね、何を思ったのか無限軌道を取り付けた砲台に乗ってきていた。俗に言う、戦車ね。
運転席に見えるのは笑顔の五女だけど。
多分、中には⦅私も居ます⦆四女も居た。
私達の呆然を余所に三女は語る。
「必要ならこれも投入していいよ〜」
「まだ導入するとは言ってないけど?」
「お母様から必要だからって言われて」
「用意したと? まさか、これが必要になる戦闘が行われるとでも?」
「そのまさかみたい」
「「え?」」
そ、そこまでの代物を国内だけに?
ああ、鉄鉱石をやたらと集めていたのはそれもあるのかも。鉛弾だけのためではないと。
(外には出さないが内だけに用いる兵器?)
いや、外に出すつもりがあるから二番船を欲したともとれるか。超大型の金属船だものね。
私は呆然としたまま皇帝の意図を測りかねてしまった。
「一体、何が目的なんだか」
「惑星の覇者なんじゃない」
「世界征服? そんなお伽話みたいな事を?」
「願っていても不思議ではないよ。元のゲームの続きを見てきたでしょ?」
三女はそう言って、先日の出来事を思い出すよう促した。確かに最後はそんなオチだった。
その時は六女の娘のスマホを借りてシナリオの続きを読ませてもらったのだ。
「あ、ああ、それで、か」
「ゲームオーバーは帝国の消滅でしたね」
「成功したら全ての魔族が根絶やしにされて人族の勝利ってね。手を貸した淫魔族も滅殺されて上界の全てが奪われる・・・クソゲーだね」
「あー、そういえばシナリオライターを打ちのめしたくなったわね。お前のせいか! って」
「相手は作り話としか思わないけど」
私はマキナのツッコミを受けて冷静さを取り戻し、戦車を受領する事にした。一台しか無いのはここから複製しろってことだろうけどね。
「とりあえず、五台だけでいいかもね」
「最終局面で使う事になるから、十分だよ」
「それだけでいいと?」
「うん」
「なるほどね」
そうなると、帝国は虎の子を出してきて、私達の船で通用するか試そうとしているのね。
通用したら増産して各国に攻め入ると。
通用しなかったら改良して再度、面倒臭い。
「いっそのこと空爆で片付けようかしら」
「無理だと思う。地下深くに隠しているから」
「ああ、ゴミ虫の如く這い出てくると」
「度し難いけど、これが」
「現実、かぁ」
いや、もうね。頭痛が酷いの。
こうなったら徹底的に潰して心を完全に折るしか無いわね。戦意喪失しても潰しまくって。
三女達は私達に手渡すと上に戻っていった。
一先ずの私とマキナは戦車に乗って、
「あ、中にある弾が還元徹甲弾だわ」
マキナの運転で戦車を移動させたのだが、据え付けた弾を見て呆気に取られてしまった。
「貫通させて消し去る弾頭だぁ」
「あの子達も煮え湯を飲まされたから怒りが相当なまでにあるわね。姉が出張るくらいには」
「これで全てが終わればいいけどね」
「・・・マキナ、それはフラグよ?」
「あ! フラグ、建てちゃった!」
「あ、亜空間だから無効と思いましょうか」
「そうだね、うん。そう思っておこうかな」




