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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第十一章・ゴミ掃除は前途多難。

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第255話 吸血姫は眷属達を養う。


 その日の夕食時、私はコウ達にお願いした。


「「「購買部!?」」」

「食堂の隣にシャッターが出来ていたのは確認済みだと思うけど、あの中に売店が出来ていてね。店内には・・・見てもらった方が早い代物を売っているのよ。そこは船員向けの店舗と思ってもらったらいいから」


 元々はアンディを置こうと思っていたのだけど、アンディは喋らないから店員として不向きとなって今回は見送りとなった。自我が目覚めているから喋らそうと思えば喋ると思うけど。

 それもあって子育ての合間の暇つぶしでお願いしたのだ。給金も通常より多めに出すしね。

 今後は非番員にも行わせても良いだろうが、現状ではこの三人以外は居なさそうなのよね。


「今までの給金に、金貨二枚を上乗せするし」


 これも本来ならば命令で了承するのだが、


「う〜ん? 給金が増えるのは嬉しいけど〜」

「船員向けって時点で、売れるのかな〜?」

「それってどんな物を売っているの?」


 私は余計な不和を避けたいので、お願いするだけにした。隣のマキナは苦笑中だけどね。

 食事を終えた者達も興味深げに会話を聞いているからあまりおおっぴらに言えないのだ。


「言葉にするとあり得ない代物と思われるから、見てもらった方が早い代物とだけ、ね」

「「「あり得ない代物?」」」

「サ、サプライズ目的だから、ね?」

「カノンのサプライズ〜?」

「船員達を驚かすもの〜?」

「それって血生臭い何か?」

「ぷぷっ」


 実に酷い言われようだ。

 マキナも噴き出してないで交渉してよ。

 そう思ったらマキナがようやく口を開き、


「お母様、論より証拠ですよ。三人に見せたらどうですか。知らないまま売るよりはいいし」


 私に提案してきた。


「それもそうね。三人とも付いてきてくれる」

「「「はぁ?」」」


 私はきょとんとなる三人とマキナを連れ立って食堂の隣に移動した。

 そうしてシャッター前でタブレットを取り出し、中が視認可能となるように水晶シャッターに施した幻惑結界を部分解除した。


「たちまちはコウ達の〈スマホ〉に認証を」


 それは関係者以外は中身が見えない結界だ。

 私とマキナの〈スマホ〉は常時解禁だけど。

 瞬きした直後に店内が露わとなり、


「「「!!?」」」

「驚いたでしょ? 今はこれしかないけどね」


 私とマキナのサプライズは成功した。

 知っているレリィ達は除外するとしても、店員候補だけでこれなら他も似たり寄ったりね。


「こ、こ、これは!」

「どういうことぉ!」


 間延び発言勢ですら口調が正され、反応に困っていたミュウも大興奮していた。


「売り切れるでしょ、これぇ!?」

「マキナが言った通り、今はこれだけしかないのよ。数量限定販売と言えば、いいかもね?」

「それでどうする? 店番を行うだけだけど」

「「「やります! やらせてください!」」」

「決まりね。それなら全員で中に入って」


 私はそう言いつつシャッター脇の鉄扉を開いて、マキナを含む四人を店内に入れた。


「これらの魔道具の使い方を覚えましょうか」

「「ああっ! なんでここに!?」」

「急に近代化してるぅ!」


 そして自動預払魔道具やら決済魔道具の使い方を教えた。船員達が聞いてきたら即答出来るようにね。

 コウとクウは自動預払魔道具の上に自身の〈スマホ〉を置き、自身が所持していた貨幣を投入して〈給金決済〉で残高を確認していた。


「金貨三枚が三百枚に増えた!」

「私も! 百五十枚に増えた!」

「次は出金、三枚だけ出せた!」

「私も! 二十枚だけ出せた!」


 普段は亜空間庫に収めているみたいだけど、この子達も結構な金額を蓄えていたわね。

 子育ての合間に依頼を熟していたようだ。

 ミュウも同じように残高を増やして、


「もしかして、商品の一つ一つに?」

「そうよ。少々手間だったけどねぇ」

「見た目は万引き防止タグに見えるけどね?」

「一応、未決済では外に出せない制限付きよ」

「ほへぇ。盗るようなバカな真似をする者は居ないと思うけど何があるか分からないから?」

「ええ、来客が見て回る事だってあるからね」

「なるほど、それを考慮していると」

「それに亜空間庫にもこの状態だと収められないしね、ほら。入らないでしょ?」

「ホントだ!?」

「それと、このタグには事前に設定した金額を記録しているんだよ。それをレジ台に置けば購入金額の合計がレジに出るの」

「ホントだ! 鉄貨一枚って出てる!」

「これは日本円換算で十円だけどね」

「〈スマホ〉を同じマークのある板に置いて」

「あ! 残高が減った!!」

「決済後の商品はタグが消えてるでしょ?」

「凄い! びっくりだよ、これは!?」


 商品を手に取って決済していた。

 私とマキナは驚くミュウの相手をしつつ、残りの二人の状況もミュウに示した。


「似たような方法で、籠に収めて購入する事も出来るの。あんな感じで」

「は、販売する前になくなりそう・・・」

「ふ、二人はチョコレートが好きだったのね」


 籠にチョコレート菓子が盛られていた。

 計算しつつ買ってもおつりが出るわね。


「ちょ、チョコレートならまだ予備があるから大丈夫だと思いたい。店舗の裏に商品棚があるから、数が減ったら出す必要があるけどね?」

「わ、分かりました!」


 ちなみに、シャッターを閉じている時は自動預払魔道具も隠れている。これは営業中だけに使える物としているから仕方ない対応なのだ。

 今のところは一台しか置いてないしね。

 コウ達も大量のチョコレートを買ってほくほくしていた。まだこの世界にはチョコレートは無いものね⦅帝国にありますよ⦆あるの?⦅といっても異世界品には劣りますが⦆なるほど。

 私はそのうえで重要な案件を伝えておく。


「それと商品の内、医療品などはレジ台の下にあるから、希望者が訪れたら売ってあげてね」

「「「い、医療品ですか?」」」

「三人は子持ちだから教えておくけど、レジ台の下には避妊具を収めているのよ。男性用の」


 それは怒りに狂ったミアンスではなく、四女に相談に乗ってもらって、用意出来た代物だ。

 最初はルミナの不満を解消する名目だったけど割と上質な品が出来て安心した私だった。

 一応、創造用の呪文は存在していたのよね。

 これは〈魔導書(アーカイヴス)〉に載せるような類いではないから、ミアンスも載せていなかったようだ。最上層の魔法神に聞いて知るって微妙な心境だったけど。

 すると子持ち共は何故か顔を赤く染めた。


「あっ・・・」

「なる・・・」

「ほど・・・」

「そ、その沈黙はなんなの?」

「ああ、ムッツリが三人っと」

「「「うっ」」」

「図星!?」


 マキナは驚くがこれはこれで仕方ない。

 酒に酔って襲った者達でもあるからね。

 私は真っ赤になる三人を相手に、


「一応、種族ごとに分けてあるから間違えないようにね。といっても、元オーガ族だけが異なるからパッケージを見たら直ぐに分かるけど」


 平静を保ちつつ注意だけ行った。

 私だって恥ずかしいものは恥ずかしいわよ。

 でも、それを言葉には出せないしね。

 マキナを産んでいても経験は皆無だし。

 ともあれ、その後の三人は店番のローテーションを考え、クウとコウとミュウの順番で行う事になった。棚卸などは私達が行うから在庫が切れかけた時に報告を入れる事もお願いした。


「オープンは今から二時間後の交代時ね」

「「「はい!」」」


 三人はそのまま託児所に戻っていった。

 大量のチョコレート菓子を持って、子供にもあげるんだって、笑顔で話し合いながら。

 扉を閉じた私とマキナは三人を見送りつつ、


「三人は職場復帰前のパートの気分かしら?」

「子持ちの母親的な? 三人は母親だけど」

「それでも二時間足らずの開店時間だけどね」

「深夜と早朝だけど、早朝の方は心配かも」

「その時はシオンを蹴り起こしましょうか」

「腹を蹴られるシオンお母様乙」


 この後の予定を話し合った。

 一応、プレオープンは私とマキナで行っていたが誰も来なかった。凄い暇だったわねぇ。

 これも通知無しで開けていたからなのよね。

 だから今回は少しだけ考慮する事にした。


「先ずは各部の責任者に通知しましょうか?」

「それがいいかもね。ごった返すと捌き切れないし。ルミナには私から・・・絶対に買うって」

「あらら、切羽詰まっていたのね?」

「まぁ不満解消になったならいいんじゃない」

「それもそうね」


 そして責任者に通知すると面白い反応が届いた。


『駄菓子ですか!』


 ナギサは歓喜の声をあげた。

 甘い物が好きだものね。


『で、調味料は?』


 コウシはどうあってもプロよね。

 一応「手に入り難い、牡蠣醤油」と返した。

 歓喜のスタンプが届いたけど。


『キャットフードは要らないわよ?』


 ナディには冗談交じりで送って、生真面目な返答が届いた。返信は「つまみになりそうな小魚菓子がある」とだけ伝えたけどね。


『絶対に買いに行くわ!』


 クルルも避妊具を欲していたようだ。

 不満は無いと回答しつつも本音は別と。

 それは他の責任者達も似たり寄ったりだが、


『避妊具の呪文が知りたい!』


 ユウカだけは明後日の方向の返答が届いた。

 こういう事を発するからエロフと言われるのだけど、本人は真面目だから言えないのよね。

 可能とあらば色々改良して売り出しそうだ。




  §




 そんな船内でのひと悶着もあったが、


「森林国の大地から出て二ヶ月が過ぎたわね」

「だね〜。チョコレート菓子、うまうま」


 時が巡るのは早いもので、あっという間に、二ヶ月が過ぎた。購買部の売上はそこそこ出ていて魔神殿と知神殿に寄付金を収めながら、要望書と記された注文書を、何度か届けたわね。

 それを届けて数時間後に、ユランス便という名の鉄道便がログハウス前へと届いたけれど。

 まさかログハウス前駅を拵えていようとは。

 それはともかく、その二ヶ月間に進んだ航路上は至って静か、そのものだった。


「周囲は青い海だらけ。海賊にすら出会わないのは暇過ぎるわね」

「熱光学迷彩で隠しているからじゃない?」

「隠していてもすれ違いが起きているでしょ」

「それを言われるとそうかも」

「定期的に哨戒と偵察機を出しているけど、海賊船の一つも見当たらなかったしね」

「た、確かに」


 この二ヶ月間に一体何が進んでいるのやら。

 時には海上と上界を行ったり来たりしたけど、これといって変化は無かったのよね。


「あの子達も警告が一切無くて平穏だって」

「言ってたね。嵐の前のなんとやらかも?」

「それは私も思ったけどね」


 変化があって欲しいような言い回しになるのは暇過ぎるからだけど。あまりに暇過ぎるからマキナと一緒に元世界に行った事もあったわ。

 何を行うために向かったかと言えば、


「それでお母様? 最新式のタブレットを見て来て、新しく創った感じはどう?」


 家電やら最新機器を見てきただけだった。

 それらの家電は魔道具の見本になるからね。


「ペンが使えるようになっていたのは新しい発見ね。今までは指先だけで描いていたから」

「それで水晶を細長く加工してペンにするお母様も大概だよね?」

「別にいいでしょ? お陰で押し間違いが起きなくて済んだし絵心は無くても絵が描けるし」

「あとは希望者のみに、といってもミーアだけに〈最新スマホ〉を手渡したりね?」

「あれは仕組みも含めての試作品だけどね。結果を聞いて改良しないといけないし」

「まさか専用のOSまで創ってしまうとは」

「そ、そこは三女の手伝いがあった、から」


 ちなみに今は緩りと進む三番船の滑走路脇にてマキナとのお茶会である。

 本来なら私達も仕事を行うべきなのだけど眷属が増えた関係でほぼほぼやる事が無いのだ。

 シオンみたいに託児所で子供の面倒をみてもいいけど安易に船から離れるわけにもいかず。

 シオンが私の代わりに責任者として船に残る場合を除いては、この場に固定されるのよね。


「この船旅もあと少しの辛抱、か」

「普通に見たら年単位での辛抱だけど?」

「私達にとって年単位は誤差でしょうに」

「いや、まぁ、そうなんだけどさ」


 茶を飲みつつ異世界の菓子を食べ、進みの遅い歩みで海を眺める。ちょっとした戦いでも起きれば、速度を跳ね上げさせる事も可能だが、今は至って平和の一言に尽きるのよね。

 進路左右にある魔王国と楼国(ろうこく)内のゴタゴタは置いといて。


「海賊でも出たら多少なりに・・・」

「願ったとして出て来ない不思議」

「これも幸運値が悪い意味で影響していると」

「戦いを求める者にとっては不運だよね」

「平和を求める者にとっては幸運よね」


 何はともあれ、そんな茶会を行っていると、


「もうやめてぇ!」


 アオイが翼を拡げて飛び出してきた。

 後部甲板から私達のテーブルに向かってね。

 しかも格好が純白の下着姿のままだった。

 後部甲板にはニーナ達も居て、アオイが着せ替え人形地獄に遭っていた事が判明した。


「あらら、マキナが通った道をやっぱり」

「通ったねぇ。あの愛らしい姿がそそると」

「た、助けて下さいぃぃぃ!」


 アオイは私とマキナの背後に隠れた。


「こんなの聞いてませんよぉ!」


 シオンが事前に「覚悟」と言ったのにね。

 それをアオイは忘れてしまっているようだ。

 それでもニーナ達は気にせず追いかける。


「次、これ着よう?」

「こちらもいいよ!」

「白も似合うけど紫も試しに着てみよう?」

「こちらのアクセサリーも付けようよ!」

「これもフリルが付いてて可愛いよぉ!」


 そんな亡者共の姿に呆れた私は仕方なくアオイに助け船を出す事にした。


「はいはい、貴女達。そんな古いデザインよりもこちらを試してみたらどうよ?」

「古いデザイン?」×5

「ええ。先日買ってきた服飾雑誌とか、コスプレ雑誌なんだけど、これを読んでみない?」


 それは元世界へと一緒に出向いた、ポンコツ女神達のオススメ書店で買った品物である。


「ざ、雑誌ぃぃぃぃい」×5


 私の予想通り服飾班の面々は驚いた。

 一応、一点物として買ったので大事に使ってもらえるよう結界魔法を付与してあるけどね。

 別名、問題の先送りかもしれないが十冊の雑誌を受け取った五人は食い入るように読み始めアオイの事など眼中になかった。


「えー、今はこれが流行(はやり)なのぉ!」

流行(りゅうこう)は巡るっていうけど油断出来ないわね」

「ほほう。こういう小物も流行(はや)っていると」

「そういえば長いこと化粧してないね?」

「化粧が不要なぷるぷる肌だからだけど」


 しかも隣のテーブル席に座って、騒ぎながら菓子を取り出して、読み始める始末である。

 こういう面は女子高生・・・だったわね。

 アオイは反応が消えた事できょとんとし、


「い、一体、何が?」


 苦笑する私に問いかけてきた。

 私はマキナと目配せしつつ、異世界で買ってきた洋服を取り出してアオイに着せてあげた。


「尻尾穴を開けないといけないかな?」

「ローライズだから気にするだけ損よ」

「ふぇ?」

「ああ、だからそれを選んできたと」

「ショウのお願いだっただけね。あの子達も」

「尻尾が多いと履くものが限られるもんね」

「ここでもぉ!?」

「トップスはキャミソールだけでいいわね」

「うん。上に羽織る物だけ着せて」

「うぅぅぅぅ」


 やっている事はニーナ達と変わらないが下着姿で飛び回るよりは良いだろう。個々の種族は異なるとはいえ野郎共も船には居るのだから。





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