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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第十一章・ゴミ掃除は前途多難。

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第251話 予測で遠い目の吸血姫。


 一先ず、操車場の設備の設置を終えた私は、


「アオイもお疲れさま」

「いえ、大して手伝えませんでしたが」

「気にしないで。アオイは居るだけでいいの」

「い、居るだけ? ですか」


 ホーム上で座り込む者達を眺めながら、きょとんとした表情で首を傾げるアオイを労った。


「ええ、目の保養には丁度良いってね」

「目の保養?」


 私が目の保養としたのは、ニーナを含む服飾班への褒美の意味もあったのだ。


「目の保養でーす!」×5


 アオイは人員達の作業中、ゴスロリ姿のまま指示を出す私の隣に浮いていたからね。

 両翼を出してフヨフヨと付いてきただけ。

 偶像のような存在だったけど服飾班にとっては創作意欲に繋がるような存在だったらしい。


「新しい衣装案が思いついたよ!」

「巫女服もいいけど天使服も似合いそうよね」

「でも、これだけ気品があると」

「生地選びが大変かもね?」

「ああ、元であれ王族だもんね」


 作業を終えて疲れているはずなのにきょとんと佇むアオイを眺めて衣装会議を始めたから。

 一方、他の人員達は、


「サラサ様とラディ様ってどういう関係?」

「もしかして、お付き合いしていたとか?」

「「気になるぅ! 是非聞かせてほしいわ」」

「ちょ、ちょっと! 一度に問いかけないで」

「・・・」


 新しい仲間となったサラサとラディを囲んで質問攻めにしていた。それはクラスに入ってきた転校生に対して行う洗礼めいたものだった。

 それとラディが沈黙しているのは、女が多いからだろう。女尊男卑の国家で生まれ育った経験則から囲まれたら黙るを行うようである。

 一応、中に同性が三人居るのだが気づいていないらしい。一人はスカート姿に戻ったけど。

 私はそれぞれの作業場所を視察して回り、


(貯蔵タンクへ繋がる樹液ポンプも問題なく稼働するわね。採取後は樹液投入口から入れて必要量だけタンク車に収めると。とりあえず、最後に小舟向けの樹液封入場だけ設けて・・・)


 残りの建物を設置し終えた。

 樹液封入場とは岸壁の上。

 桟橋に舟を横付けする形で樹液を流し込む管を通した建物だ。必要数の貨幣を投入すれば自動で数リットル分の樹液が流れ出る仕組みね。

 樹液が必要以上入らないセンサー付である。

 そのうえ銀が容器内にあれば、作動しない防御機能付だ。そこで燃えては堪らないからね。


(次はタンク車をこちら側に並べて終了ね)


 一通りの作業を終えた私は客車に移動して十両のタンク車を引き上げ線へと収めていく。

 タンク車との連結を外して客車の向きを変え、二両ずつ押し込むように配置していく。


「ポイント切り替え、場所は四番線」


 なお、この操車場の転てつ機と信号は半自動式であり、魔力を練りつつ専用鍵言を呟く事で目的場所までの経路を自動切り替えするのだ。

 一応、緊急用の手動レバーも使えるけどね。


「最後。ポイント切り替え、場所は五番線」


 ここの操車場ではあまり人手を割けないので自動機能を持つ転てつ機と信号は一部の場所しか置いていないのだ⦅上界の地下鉄駅⦆とか。

 あちらと魔王国の操車場は鉄オタ共の要望で完全手動となったけど。信号の意味を覚えさせるとか、何とか言っていたわね、知らんけど。

 最後の二両を収め終えた私は、人員達の座るホームへと移動して、客車の扉を開けた。

 私は続々と乗り込む者達を眺めつつ、


「お疲れさま。このあとは一日だけ、完全休息日とするから、休める者から休んでいいわよ」

「りょうかーい」×39

「「承知しました」」

「分かりました」


 全員が乗った事を把握すると扉を閉めた。

 ポイントを切り替えて神殿側に戻る経路を抜けていった。トンネルを抜けて、神殿裏に到着すると、マキナがホームに佇んでいたけれど。

 私が到着したホームとは違う奥のホームね。


(何かあったのかしら?)


 私は全員を降ろして車庫へと客車を戻す。

 すると運転台下にユランスの手紙があった。


(必要とあらばこれで上界へ向かえば良いと。地下駅は全浮遊大陸に設置済み、か。そうなると、この国が最重要拠点になってしまうのね)


 ユランスの手紙を読み終えた私は、


(客車の出番はしばらく先になりそうね。仮に乗るとしても商会員達だけになりそうだけど)


 車庫のシャッターを全て閉じ、マキナの佇む駅舎側のホームへと移動する。駅舎といい他の建物の全てが施錠済みになっているわね。


(侵入する者が居ないとも限らないから?)


 駅舎内に居たナギサ達も船に戻っているようだ。マキナだけは何かあるのか待っていたが。

 するとマキナが私に気づき、


「お母様、魔王国からの調査報告書が積み荷の中に入っていたって」


 慌てて駆け寄り、私に報告した。

 だが私は、その真意を測りかねてしまいマキナにオウム返しした。


「調査報告書?」

「うん。とりあえず、これを読んで。お母様宛だから私達は読めなくて」


 私はマキナから書類束を受け取り、誰が送りつけてきたか察した。


「私宛? リーナからなのね。シオンは」


 一応、シオンも対象なのだけど、


「分からないから、お母様に丸投げするって」

「ああ、読んだけど理解不能っと」


 ここ最近のシオンは下界からすっぱり手を引いているため、上界へと出突っ張りのシオンでは理解が出来なかったようである。

 私は調査報告書に目を通して、頭痛がした。


「ま、まさか、こうくるか」

「何が書かれていたんですか?」

「セイアイは外敵とあるわ」

「セイアイが外敵?」

「ええ、元々が帝国領内にあるから大体のところは予測出来たけどね。新皇帝を裏で操っているのが、セイアイ魔国の女王との話よ」

「じょ、女王が? で、では?」

「淫魔族は全て敵って事ね」


 ホント、頭痛のする事案よね。

 この調査報告を受けて魔王国ではセイアイ魔国との国交を完全に断絶した。国内に巣くう淫魔族の内、漏洩に関わっていた者は処刑、漏洩に関わっていない者達は全て国外追放とした。

 そのうえ同じ動きは楼国(ろうこく)内でも起きていて、淫魔族の住まう港街ではちょっとした騒ぎになっているらしい。


楼国(ろうこく)の淫魔族はセイアイ魔国から逃げ延びた者達との話だから、国家に従順な者は残し、反発する者は追い出すと・・・」

「ああ、だから私達の船に乗せていけと?」

「そういう事でしょうね」

「そうなると、何処に乗せるか、だよね?」

「イカダを引っ張るしかないわね。船内には入れないし、隠し武装に触れられても困るしね」


 反発する者が帝国の犬だと分かったら、即滅すると分かってて依頼してきたって事だもの。

 一応⦅第二十三浮遊大陸・ルティー〈シアント王国〉の淫魔族は無関係ですよ⦆ユランスからも報告が入った通り、上界は無関係だけど。

 私は報告書をその場で還元し、マキナと共に駅舎から三番船が停泊する岸壁へと移動した。


「なら、屋根付のイカダでも用意するの?」

「今は何人居るか分からないから、現地で確認してから、用意するしかないわね」

「ああ、数百人規模の場合もあると」

「可能性の範疇ではね。到着後は全て、セイアイ魔国もとい、帝国領で降ろす事になるから」

「頑丈な代物は造れないね?」

「棄てる前提の代物でいいわ」


 酷い扱いとなるが、こればかりは仕方ない。

 たかが魔族と亜神族は違う種族なのだから。

 たちまち、本日は停泊としているから、


「翌日から対策に乗り出さないとね」

「うん。今日くらいは休ませないとねぇ」


 翌日より頑張る事にした。

 とはいえ、私達の外敵だと判明した以上は緊急で行う仕事が出来たのよね。

 私はマキナと後部のタラップを登り、途中にある後部上倉庫の入口へと入る。

 ここにはゴミ同然の代物が収まっているので先に片付けるつもりで立ち寄ったのだ。

 補給物資そのものには異物は居なかったようだけど積み荷の中には居るからね。

 私はマキナと共に、セイアイ魔国行きの積み荷の全てを取り出して、依頼人を確認する。


「ゴミ掃除が中々終わらないね」


 改めて積み荷の中身を確認すると、対応に困る代物もあった。例の荷物以外にも存在していたわね。亜空間庫行きとしていて正解だった。


「どれも帝国の間諜が多数ね」

「外敵か。これだけでも十分過ぎる結果だね」

「困った事に、これが現実なのよねぇ」


 どうもこいつらは、必要とあらば二番船を奪うつもりで積み荷として侵入を試みたらしい。

 箱の中身は武装した者達が多数だったもの。

 亜空間庫ではない場所に居た者は内部への出入りが出来なくて右往左往していたようだが。


「依頼人がセイアイ魔国の商会だったから、賠償金は不要ね。商会主達も処刑後だったし」

「それなら、積んでおけないゴミ箱は消す?」

「ええ、魂魄だけは拾って残りは魔力還元ね」

「還元魔力も全て回収して、餌としないとね」

「誰の餌よ?」

「血統書の猫神達」

「それならナディとカナ以外に与えてね。あの子達は、あれ以上育つと辛そうだから・・・」

「うん、分かった!」


 三番船に最大積載量は存在しないが、これにて余計な運搬業務が終わった事になるだろう。

 残りは楼国(ろうこく)から運んでいく予定の淫魔族だけになるだろうが。

 片付けを終えた私とマキナは一旦別れ、


「猫達の面倒をよろしくね」

「はーい」


 私はシオンの待つ船長室へと向かう。

 アオイも一時的に船長室預かりなのよね。

 一等船室は掃除後ともあって封印中だから。

 そして船長室に入り応接椅子に座ったのち、


「では、地下へと死神殿を設けて、そこから更に深い場所に地下鉄の駅を設置していたと?」


 シオンからの報告を聞いた。

 一つはあの子達のサプライズについてね。

 全浮遊大陸に地下鉄駅が存在する事はシオンも知らないみたいだけど。


「その駅がどういう代物なのか知らないけど地下に大空間と、二つ並んだ長い鉄の棒が複数組あったのは確かね・・・」

「その大空間が駅そのものなのだけど。まぁいいわ、シオンとの知識に差があるのは今に始まった事ではないし」

「ぐ、ぐぬぬ」


 残り一つは後始末のあとの詳細だ。

 アオイは沈黙したまま私の動向を見ていた。


「・・・」


 シオンはミアン国改めミリア国の対応をアオイの分割体であるアキラに丸投げしたが、それ以外の対応はシオンが終わらせてきたらしい。

 天神族の殺処分と神狐族への種族改変。

 アオイを連れてティシコ王国へと赴き、国王と臣下に対して、滅亡に至った経緯を伝えた。

 アオイの背後に四人の神狐族を引き連れて。

 報告の本題はこちらだけどね。


「腹に据えかねる事情があった、と」

「・・・」


 主にアオイが親殺しに至った経緯の説明ね。

 祀られた事で、王族や民達は行動の自由を失い王国としての体裁も徐々に瓦解していった。

 見世物として観光客に自身の姿を示す事はあっても自身が外に出歩く事は許されなかった。

 ティシコ王国内を歩き回るアオイは、お上りさんかと思うほど、大興奮だったらしいしね。

 やりたい事が出来ないから憤慨した、か。


「それでティシコ王国の言い分は?」

「そのようなつもりは毛頭無かったそうよ」

「無かったのなら、行動範囲を狭める必要はないわよね。見世物とか祀る意味が分かっているのかしら? 神域として囲う事もそうだけど」

「危険だから拐かされると思っていたって」

「は? 国王は赤子か何かと勘違いしてない」

「それは私も言ったけどね。そんな事は無いと反発して必要とあらば戦争だと宣って・・・」

「ショウが国王の首へナイフを突き立てたと」

「頭を潰せば理解は容易いって脅しながらね」


 しかも国王の首を獲って、マーヤ達と蹴りまくっていたらしい。サッカーボールのように。

 それを見て、怯えた臣下達は児戯にも等しい行為に、ただただひれ伏したとか。

 その後のシオンは不死を与える事はせず国王を生き返らせて、古い身体を国王に手渡した。

 古い頭も国王の腹に向かって飛ばしてね。

 それはシオンが神だと示したも同然だけど。


「それを知ると神託で脅して正解だったわね」

「何処に居ようが簡単に潰せると示したもの」


 命を扱う事に長けた姉神が妹神の眷属に加護を与えて新眷属とした。そこで粗相したから見せしめで国王を斬殺した。これで滅亡かと思えば姉神がその場で生き返らせたから滅亡にはならなかった。心を折る事には成功したけどね。


「しかしまぁ、考える事は何処も一緒ね」

「何処も? 何かあったの?」

「ん? こちらでもねぇ」


 私はシオンに対して下界で起きた事を語る。


「ああ、同じような事が起きていたと」

「脳筋故に当然と思っていた弊害よね」

「唯一の違いは武勇とみるか」

「その容姿から愛玩とみるか、よね」


 戦いに於いて最強に近しいとされた竜神族。

 その見た目に於いて美しいとされた天神族。

 周囲の反応次第で祀り方もそれぞれよね。

 報告を聞き終えた私とシオンは席を立ち、


「当面は不干渉となれば幸いね」

「そうね。恐怖を感じている内は、だけど」

「え? え? え?」


 座ったままのアオイに近づき左右から両脇へと腕を突っ込んだ。


「とりあえず、それは後日に話しましょうか」

「そうね。先ずは親睦を深めないとね・・・」

「え? え? え?」


 左右からアオイを抱えたまま廊下を進み、エレベーターを使って降りて、風呂場へと入る。

 実はこれから、親睦会ならぬ後始末のお疲れさま会を風呂場で行うのだ。食事時でも行うけど、同性だけで過ごす事も必要だからね。

 なお、服を脱がせるのはショウ達である。


「ゴスロリ衣装を脱がせて」

「え?」

「全ての下着を剥いで」

「あ?」

「バスタオルを巻いて」

「ん」


 三人がバスタオル姿で待機していたのよね。

 他の者達は風呂場の中で寛いでいるけれど。

 なお、男風呂でも野郎共が(ふんどし)姿でラディが来るのを待っていたようだ。


『ま、負けた・・・』

『おいおい』×3





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