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第25話 吸血姫は勇者よりも鍋が好き。


 あれから三ヶ月ほど経っただろうか?

 私達は第六十五浮遊大陸にてひとときを過ごした。当初は急ぎの旅と思っていたのだけど、リンスのお母上の症状が緩和したと報告が入ったからだ。


 それは三ヶ月前の社交界の時に素材だけを(いただ)いて私が自身の飛空船(ひくうせん)の中でヒーリング・ポーションを錬金した。実はその時に試しとして制御してない血液の一滴(ひとしずく)を含ませた事で最上級となる物が神級の物となってリンスのお母上の壊れに壊れた器が修復されたようだ。


 それというのも例のマナ・ポーションには光属性魔力と共に銀が含まれていた事も起因するようで私の血液下にある聖耐性と銀耐性が一時的に肉体を補強した事が主なる要因だった。

 ただね? あの後のシオンは荒れた荒れた。

 連日の夜戦でシオンが乱れたわ〜。これ以上はシオンの名誉のため言わないけどリンスも呆然となる状態になったわね。この時ばかりは溜まりに溜まった精神負荷は恐ろしいと思った。


 ともあれ、そんな結果を出した私は──夜戦ではないわよ──囲われる事はないが流刑島管理を担う各王家から褒美として各浮遊大陸内部にある未開領域の一つ、計十一カ所を授けられる事となった。


「シオンちゃ〜ん? 畑はどう?」

「んー? ぼちぼ〜ち?」


 そして各未開領域を結界で(おお)い、農作業に従事していた。今は第六十五浮遊大陸の畑区画で作業着姿のまま活動中ね?

 他は他なりに亜空間のログハウスを通じて行き来しているの。それは牛肉や兎肉はあるのに野菜が少ないという理由でね?

 スパイスやら野菜の種子を手に入れて土壌改良を行いながら素材を用意していたの。


 ちなみに第六十五から七十五まで育てている食材は、六十五が青野菜、六十六が果物、六十七が各種スパイス、六十八がポーション用のリンゴで管理はリンスが行っているわ。

 そして六十九が媚薬的な物でシオンの管理下ね・・・他意はないわよ?

 あとの七十から七十五は王家用の素材として花やら米、ブドウ等の素材を揃えているの。

 主に酒や香水、シャンプーやコンディショナー等の素材を育てているのね。

 とりあえず前置きはこのへんで。


 あとは本題となる勇者対策という物もあって、仮に勇者が触れると目印を付けていつでも生命力と魔力と経験値の召し上げが可能となる〈変質結界魔道具〉を設置したの。

 それというのも各流刑島から中央大陸に直接浮上するには管理島上空を抜けねばならず、それ以外はドラゴンが出没したり商船が行き交い局所的に渋滞するルートしかないため、奴らの動きで言えば一点突破しかなく、その一点に網を張ったのだ。

 そして魔道具の管理は主に私達が行うため、畑仕事の合間に美味しく召し上がるという風にしたのね? 今のところまだ網に掛かった様子はないけどね〜。

 直後、様子はないと言った矢先に網に掛かった事を私は把握した。


「流石に早すぎない? そんなに早いと腐れるわよ?」


 いやはやどうして。それこそ驚きの速さでレベルアップしたのね?

 現状では60そこそこという感じだった。

 三ヶ月で30は上がったという事になる?

 〈遠視〉した限り肥っただけで熟成の進んでいない未熟という印象があったけど。

 すると、(くわ)を持ったシオンが水まき中の私に声を掛ける。


「カノンどうしたの?」


 私は結界から上がってきた情報をシオンに伝え、上を飛ぶ船に水刃を飛ばした。


斥候(せっこう)が今、通過したわ。丁度・・・北東の・・・あの辺かしら? 他は・・・まだね? 八十八だけが動いたようね?」

「ん? あー、偽装船なのね〜」


 シオンは水刃が迎撃された事を察し、それが通常の船ではないことを看破した。それは偽装を行った軍船だったのだ。

 ある意味で軍事行動の最中なのだろう。

 私は上がってきた情報から船籍を調べ商業登録がない船だと察する。


「拿捕して良かったわよね? 商船登録自体が無かったし」

「拿捕しましょう。不法侵入と同じだから」


 というより、この空域は真祖域と呼ばれ今や侵入禁止なのだ。それは商業ギルドからも通達が出ており、山脈の中心部から直径10カル(km)の領域は上空を含めて侵入禁止エリアという扱いになっているのだ。

 ちなみに、商業ギルドには不意に入らないようにする魔道具を提供したので命召し上げにならないとして大変喜ばれた。

 仮に勇者が紛れ込んでいたら対応はとれないけれど、軍船という大規模行軍だけは止められるから烏合の衆は遭遇地点で簒奪(さんだつ)しようという話で合意したのだ。

 ともあれ、そんな烏合の衆の内・・・斥候(せっこう)の一隻が航路が空いているとして不法侵入したようだ。こちらからすれば張った網に掛かったバカ達ともいうけどね?

 すると私達の背後から楽しげな声が掛かる。


「私が()ってもいいですか?」


 それはグラマラスな水着姿で巨大魚の魔物を背負ったリンスだった。先ほどまでは近くにある湖に居たはずだが結界の異常を察知したようで急いで戻ってきたらしい。

 リンスは私達の返答を待つ間に巨大魚を自身の亜空間庫へと片付けていた。

 実際に調べた感じ本当に斥候(せっこう)という意味合いがあったのね?

 私はシオンと目配せし──、


「いいんじゃない? ねぇ? シオン?」


 リンスに処分許可を出した。


「そうね? 操舵手以外は片していいわよ? 船が落ちないよう気をつけてね?」

「了解です!」


 勇者と名は付いているが、名も無い学生達が船に乗って上空を移動していただけだ。

 例えるなら・・・私を気持ち悪いとか嫌な奴と言ってた誰かだと思う。それこそ勇者(オウジ)本人ではないのは確かで九班の内の一班が現れたようだ。

 そのレベルは60に上がったばかりの者達のようで、おそらく第八十六流刑島の者達と切磋琢磨したのだろう。それでも頭打ちで外に出るしか無かったようだが。

 リンスは〈遠視〉を用いながら亜空間の結界内へと奴らを封じる。


「いきます! 人数は六名ですか・・・操舵手は一般兵ですね・・・確保!」

「へぇ〜リンスも腕をあげたじゃない」

「湖に住まう魔物相手よりは楽でしょうね? 動かない雑魚(ざこ)なんだもの」


 シオンはリンスの腕を褒める。

 私はまだまだという印象があったが、リンスの頭を撫でてあげた。

 リンスは撫でられながら気持ちよさげな表情をし〈触飲(ドレイン)〉を行使しながら疑問気な表情へと変わった。


「生命力はそれなりですけど・・・魔力が(よど)み過ぎてて気持ち悪いですね。正直この魔力は欲しくないです」


 私とシオンもその言葉を聞き、停止した勇者達の生命力を味見した。うん、確かに薄いわ。

 シオンも微妙という表情であった。

 魔力が気持ち悪いと言ったので、私が把握したのだけど案の定腐っていたが──、


(この二人は面白いわね? 不完全が良い意味で作用してるわ・・・でもこれはダメね?)


 少し気になる状態を発見した私は思案する。

 そのうえである方針を固めた。その間もリンスの気持ちを(おもんばか)ったシオンは嫌そうに指示を飛ばす。


「それなら操舵手の魔力を使って循環させたらいいわ。送り先はランダムでね?」

「経路分離・・・変質者達の魔力源に再接続・・・循環路解放・・・結界解放!」


 リンスはシオンの指示通りに操舵手の魔力を用いた〈無色(むしき)魔力糸(まりょくし)〉を操り、繋げ直しを行った。

 ちなみにシオンの発した指示はある意味で報復が起きないための措置でもあった。

 それは誰の魔力か判別する(すべ)があるのだ。操舵手の魔力は利用する分には問題ない(よど)み方だったようだ。

 おそらく以前リンスが食したコウモリの魔力と同じくらいの(よど)み方ね。例えるなら発酵と腐敗の差という感じかしら?

 操舵手が発酵で勇者達が腐敗って感じ。

 その間もリンスは勇者達の肉体間を個別に繋げ循環するように組み直していた。

 これは本人達が気づくまでは永遠に循環し続ける経路であるため、結界から解放されるや否や、操舵手以外の勇者達は総じてレベルと経験値を失って突っ伏し──、


「おぉ! 悶えてるわね! イッ・・・た者まで居るわ」


 シオンは悶える者を〈遠視〉して(羨ましい)と思いながら大騒ぎした。私はシオンの尻を右手で勢いよく(つね)りながら〈遠視〉で状況を観察する。


「他者の魔力は属性によっては毒になるもの。それに・・・」

「波長が合わないから吐き出してるわね〜、男から女へは最悪みたいね? 逆はイッてるけど」


 シオンは私の言葉尻を繋ぎ(つね)られた尻に関しては愉悦の表情であった。それでも雰囲気は楽しげな様子で実況中継を行っていたけどね。問題の船は腐敗が目立っていたので拿捕はせず、私自らが第八十八流刑島の王城庭園に飛ばしてあげた。これは亜空間を経由したので転移扱いにはならないし、ちょっとした細工もしたしね?

 すると、リンスが発酵していた者から〈魔力糸(まりょくし)〉を解放し亜空間庫から巨大魚を取り出して私に質問した。


「ところで、洗脳は放置です?」


 しかし、リンスの質問に答えたのは私ではなくシオンだった。


「今のところは()がすのは無しね? 下手に対策を採られでもしたら不味くなるから、風味が」


 これは私が異世界で対策を採られたときの記憶から風味を再現して味あわせたのね?

 その時のシオンは不味そうな顔をしながらだったけど内心では悶えてたのよね〜。

 それはドMの反応だったけど、そんなシオンでも風味を優先する事にしたらしい。


「そうね。風味が損なわれるのは止めたほうがいいわ。今のところ薄味のまま変化なしね」


 私もシオンの意見には同意見であり味見の感想を率直に述べた。シオンは思い出したようで、またも微妙な顔をする。


「確かに薄味だったわ。異世界人ってみんなこうなの?」

「そうね〜、二度の大戦前までは濃かったけど、そこから先は薄味ね? 吐き出してる女の子が若干()いいから彼女は悪女だったのね〜、人は見かけにはよらないわね?」


 私はシオンが居なくなったあとの事をあっけらかんと打ち明けた。そのうえで上枝(カミエ)の取り巻き・・・箕浦(ミウラ)江草(エグサ)が船に居た事をあっさりと流し、その風味から股の緩い女子高生であった事を私は知った。清純そうで中身がドエロとか誰得なのだろう?

 第一陣の斥候(せっこう)部隊を片付けた私達は畑仕事を片付けながら、リンスの獲った巨大魚の下拵(したごしら)えを始めた。


「今日は鍋がいいかしら? 丁度よい感じで白身魚みたいだし、大根があったから、みぞれ鍋がいいかしら?」

「鍋って?」

「あー、シオンは欧州から先は知らないんだっけ? 極東の島国料理よ?」

「へぇ〜気になる〜!」

「私も気になります!」


 うん、今日の食事は鍋で決定である。

 具が大きいから大鍋と皿を複数人分(・・・・)用意しないといけないわね?





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