第247話 吸血姫は後始末を終えた。
それからしばらくして。
『なにこれぇ!?』×3
『なんだこれぇ!?』
王都内部に居るはずの狐獣人達、四人の大絶叫が〈スマホ〉越しに木霊した。
「今の声は一体?」
「何かあったのかしら?」
それは状況的にそろそろ解決する直前とショウ達の報告を受けた矢先の大騒ぎである。
私は何事と思いつつショウへと問いかける。
「何があったの? 問題でも起きたの?」
『シ、シオンさん! し、し、し、尻尾が!』
「尻尾がどうしたのよ?」
『ふ、ふ、増えましたぁ!?』
『私、私と姉さんは五本に増えて』
『俺とマーヤは三本に、これは一体?』
あぁ、そういう事。
おそらくカノンが空気を読まずに〈概念改良〉を行った結果だろう⦅失礼ね⦆あ!
(こちらの状況を見て頃合いと思ったと? アオイも気がつけば居なくなってるし)
カノンはアオイの転生を行っているようだ。
私はいつの間にか回収していた事に驚いた。
(回収と転生、改良を同時進行で行ったと?)
手の早い事で⦅それよりも危なかったんだから感謝しなさいよ⦆は?⦅神官に見える者が居るわよ⦆何ですって!?
どうも王宮内にある神殿で、あの子達の姿が見える者が居たらしい。
(ああ〈看破〉スキルを持った神官長が)
このままの騒ぎに乗じて神官長が臨時国王に報告したら作戦が失敗するから。
後始末という名の滅亡再興作戦がね。
狐獣人が入り込んで悪さをしている。
盟国の間諜が嗅ぎ取って潰しに来た。
大義名分を与え兼ねないから先んじて変化を与えたと⦅当たり前でしょう⦆作戦の穴を埋めてくれてありがとう⦅詰めが甘いのよ⦆うっ。
た、たちまちの私は騒ぐ者達を相手に何が起きたのか説明する事にした。
「落ち着きなさい。それは貴女達が進化したのよ。天神族の要素が組み込まれてね」
『進化!?』×4
「そうよ。天神族が持つスキルを得ていると思うから、それを有効化してみなさい」
『は、はい!』×4
そのスキルとは神官達が同族と判断する特殊スキルだ。使えないなら獣人族・使えたら天神族に似た種族という扱いになる。
『え? つ、翼が生えた!?』
『は、白銀の翼だぁ!?』
『ま、まさか、飛べるの?』
『あ、羽ばたけば浮いた!』
竜神族でもそうだが、神の眷属は大概が飛べるのだ。私を元にして創った吸血鬼族も劣化していたとはいえ空が飛べるしね。
「う、浮いたって?」
「先ほどの話の続きね。あの四人は神狐族として進化したのよ。今までは不死なだけの狐獣人だったけど、今回の一件から、ある意味でサラサと同じ種族に転じたのよ」
「ああ、そういう事でしたか」
なお、それが使えるのは王族に類する者だけになり平民は出せるだけで、飛べはしない。
他の者達も何らかの進化が伴えば、翼が使えるように⦅今は使えるわよ⦆全種族を改良したのね⦅何度も行いたくないもの⦆そうですか。
四人は翼を羽ばたかせ〈希薄〉したまま王宮へと向かう。
『こ、このまま作戦続行よ!』
『了解!』×3
この時点で神官長は目が点となり、巫女を通じてミアンスの神託を受け取ったようだ。
ただね、
『告げる。此度より、天神族は我が眷属ではなくなった。以降は銀毛を持つ者、生死神の加護を賜った不死なる眷属・神狐族となった』
巫女と神官長が愕然する内容の神託を降ろし報告以前の状態へと早変わりした。
知神に見放された噂が本当であると、飛び交う者達が知神の命を受けて滅ぼしに来たと、絶望色はそうとうな物よね。
カノンが居たらいただきそうなほど。
この神託は盟国にも伝わっており、
『彼の者達を崇めて祀ろうとすれば、即刻滅亡が訪れるであろう。浮遊大陸に住まう同様の種族として彼らを見守り続けることを我は願う』
国王を愕然とさせたのは言うまでもない。
(滅びって。誰も好き好んで滅してないわよ)
私が呆れたところで⦅それくらいの脅しは必要なんでしょう⦆カノンの念話が届き、受け入れざるを得なかった。まぁ似たような事がこの国で起きているから強ち間違いではないけど。
直後、私の隣に転生したアオイが届いた。
「あ! アオイさんが、はだ、か?」
「う、産まれたままの姿って。服ぐらい着せなさいよ」
届いたは良いが下着も何も着ていなかった。
アオイは金毛ではなく銀毛かつ、童女のような身長に変わっていた。
レベルは最初から330へと引き上げ、胸がそこそこ大きくなっていた。
おそらく⦅マキナの服でいいでしょ⦆ああ、アオイもあれが気になっていたから着せろと。
私は仕方なくパンツとキャミソールを着せた。続いて、色違いの衣装も着せていく。
今は尻尾が三本に増えているから、サラサが手伝ってくれたので助かったけど。
「白もいいですね」
「髪はマキナっぽくツインテールでいいわね」
「あれ? 今は違う髪型では?」
「昔はルーナみたいな髪型だったのよ。顔立ちが似てるからって変えていたけどね」
「ああ、姉妹っぽい顔立ちでしたね」
姉妹っぽいというか、私を若くした顔立ちなんだけどね。リーナが私の生き写しだから。
すると今度は、
「あら? 今度は男の子?」
「こちらは穿かせてるのね」
「着せてますね。見た事のない服装ですが」
追加で番の男の子も送られてきた。
名前はアキラ。レベル330だった。
名字はこの国が滅びるとの事でミリアと名付けられていた⦅懐かしい名前ですね⦆ユランスが何か言ってる⦅番では無いわ⦆え?⦅国王で寄越したのよ⦆ああ、そういう。
ただ、服装だけは少々特殊だけどね。
「狩衣っていう、あちらの世界の衣装ね」
「あちら?」
「あとで教えるわ」
「はぁ?」
おそらく⦅ニーナが隣に居たのよ⦆一目見て着せたのね。この分だと⦅巫女服もあるわよ⦆やっぱり。今回はゴスロリが好みって事で着せなかったと。この国も普通にドレスだものね。
そして最後に、
「!? ラディ!!」
「ん? ひ、姫様!?」
褌一枚の美丈夫がこの場に送られてきた。彼が〈竜化〉したまま二枚おろしされた⦅武人ね、説得は任せる⦆は?
私のきょとんを余所にサラサ達は抱き合う。
「逢いたかった!」
「私もです、姫様」
「と、ところで、何でその姿?」
「え? あ、お見苦しい物を・・・」
サラサは離れたと思ったらそっぽを向いた。
肉体関係はあっても恥ずかしいのね。
一先ずの私は適当なローブを手渡した。
「とりあえず、これ着てね」
「あ、どうも・・・!? あ、あの時の!!」
ようやく気づいて殺気を飛ばしてきた。
心地よい殺気だけど、間違えないでよ。
「違う! 貴方を倒したのは私の姉!」
「あ、姉? だ、だが、その面妖な姿は」
面妖って、単に〈亡者のローブ〉を着た魔導士風の格好しているだけでしょ。
多少なりに匂いが漏れない代物だけど。
私は応対するのも面倒だったので、
「はぁ〜。いい加減、鑑定して慄きなさい」
神力結界を解除した状態で鑑定を促した。
この状態で見たら気絶すると思うけどね。
サラサは通過儀礼と思って沈黙中だ。
「か、鑑定? え? い、いち、ま」
「それが現実。言っておくけど姉も同じレベルよ。手加減されて二枚おろしね。手加減なきままなら、魂魄諸共世界から消滅していたわね」
「・・・」
「あら?」
「あ〜、立ったまま気絶してますね。多分、二枚おろしのあたりで、落ちたのでは?」
「カノンってば振り抜く時に殺気を解放したのね。それを思い出して。急に止まらない者は」
「お、おろされるだけですからね」
「なら、サラサ、神の件は貴女が伝えてね?」
「分かりました、シオンさん」
人外中の人外、それを示してからどういう種族であるかを知らせた方が良い。喧嘩を売る気が起きないように、徹底的に心を折るってね。
何はともあれ、ラディが回復すると同時にショウ達から報告が入った。
『陥落しました。臨時国王達の処遇はどうしますか?』
「不要だからいただいていいわ。終わり次第空間跳躍で昇ってきて。最後の仕上げを行うから」
『了解!』×4
サラサはラディに対してカノンと私、マキナの素性をこんこんと明かしていく。美丈夫が地面に正座させられる姿は少々シュールだけど。
「水神様の姉君・・・」
「そうです。世界には七柱の神が居られますが、その上に君臨する御方が生死神なのです」
君臨は少々違うと⦅カノンは君臨でも通用すると思う⦆そんな事を言うとお尻ペンペンを喰らうと思うわよミアンス?⦅ユ、ユランスやめてぇ! 痛い!⦆ああ、罰代行を頼んだのね。
まぁ私は死神だから実質的な生死神はマキナなのよね。カノンも生神かつ⦅時空神!⦆でもあるからね⦅こら、マキナ!⦆私は違うけど。
しばらくするとショウ達が戻ってきた。
「経験値がウマーでした!」
「伊達に八百八十八才ではないですね」
「他にも美味な爺が居ましたね」
「あれは魔導士長的な爺さんでしたね」
「それなら褒美としては上々ね」
「はい!」×4
私は事前に選別していた善人だけを選択して回収し、亜空間の中で種族改変した。
これは転生とは違う段取りだけどね。
一度に死亡させて転生させると手間だし。
私はそのうえで一握りの中水晶を取り出す。
そして残りの悪人共を相手に、
「私達の糧になりなさい」
カノンではないけどミアン国全体を特殊な結界で覆い、肉体を魔力還元する魔法陣を展開した。これは魂魄の記憶と経験値と魔力を搾り取り私の手元にある中水晶へと注ぎ込む魔法だ。
知識の類いは別の記録水晶へと送られて⦅いただきました!⦆ミナンスが持っていった。
ミアンスは⦅お尻が痛いのぉ⦆だからね。
そのまま魂魄の漂白と転生処理も同時に行われ、誰も居ない国土だけが出来上がった。
「最後に神狐族となった者を元の位置に戻す」
「こ、これが、生死神の御業・・・」
「シオンさんもやっぱり」
今は反応しないわよ? 後処理の最中だし。
「で、アキラだけを王宮へと送り込む」
アキラは眠ったまま王宮の玉座に座った。
するとサラサがアオイを一瞥して問いかけた。
「ア、アオイさんは?」
「国王とすべきはアキラよ。親殺しの記憶を消して、アオイとしての思い出も改変したしね」
そのうえで侮られないよう異世界の治政知識を植え付けたとカノンが追加報告してきた。
改変したと言えば何故か慄かれたけども。
「「え? 改変?」」
「そうよ。親殺しを覚えている者は覚えているもの。もしそれで騒ぎが起きても困るし、不死だから処刑する事が出来ないでしょ。それならって事でね、カノンが処置したのよ」
「「ああ、なるほど」」
今回はそれが最適解だ。
アオイはそのまま他の国を興して、その時に別の番を用意すればいいだろう。
ただ、カノン曰く⦅亜神族は魂魄分割の番化は受け入れないわ⦆との事らしい。
各亜神族の要素を組み込んだ種族故に、他の眷属達とは異なるのだろう。
もしかすると⦅〈概念改良〉後の眷属達の魂魄分割は今後一切出来ないわね⦆あらら。
そうなると?
「将来的にはトウヤが全員を受け入れたらいけると思うわよ? 良かったわね、ハーレムで」
「は?」×4
「うむ。男の甲斐性が試される婚姻制度だな」
「我らの中ではあり得ない制度ですが」
そういえば竜神族は一夫一婦制だったわね。
女が男よりも強いからというのもあるけど。
(それはそうとラディも今は受け入れてる?)
ああ、説教と先ほどの光景が効いたのね。
私は神獣族となった男女を一瞥しつつ、
「一人は童女だけど、受け入れる事ね」
浮かせたまま寝かせているアオイをトウヤへと推しておいた。
すると女三人が呆然と顔を見合わせて己が利き手を手前に出して左右に振った。
「いや、ないない」×3
このないないはどちらの意味かしら?
結果を知り四つん這いで項垂れるトウヤ。
「ぜ、全会一致だと」
神狐族唯一の男として愕然としていた。
国王として追放したアキラは別口だけど。
だが、
「いや、そうではなくて!」×3
トウヤの反応を眺めた三人は同時にツッコミを入れた。
「はへぇ?」
四つん這いのまま三人を見上げるトウヤ。
ショウを始め、ソラとマーヤは恥ずかしげに物申す。
「別にトウヤがイヤとかじゃなくてね」
「もう少し、こう、育ってからの方が」
「変態ぽく見られなくていいかなって」
ああ、幼すぎるアオイの容姿にあったのね。
私は仕方なく現実を教えてあげる事にした。
「今の容姿は仕方ないわ。まだ産まれたばかりだし。そもそも、この子の年齢はこの中で四番目に年上よ?」
「はい?」×4
「私が一番上、次いでサラサとラディね」
「あ」×4
今になってラディの存在に気づく四人。
ラディは苦笑しつつ会釈しただけだった。
個々の自己紹介はまた今度って事で。
「十才の見た目だけど、六百才でもあるから」
「なっ! 合法ロリ!?」×4
「「「???」」」
この合法ってどちらの意味かしら?
この世界は実年齢が物を言うけれど。
若い容姿で固定化する者が多いもの。




