第246話 悪化を捕食する吸血姫。
姉上達がミカンスの憑依体を創り始めたのでここからは私、ユランスが代わりに進めます。
今は私の視界内でミカンスの骨やら筋肉やら臓物やらが置かれておりますが。
『姉上! そこで創るのは止めて下さい!?』
『いやいや、ミカンスちゃんの成長度合いを調べながら行わないとねぇ? ミアンスちゃん』
『そうそう。おっぱいもお尻も育ってるわね』
『丸見えにされて恥ずかしいんですってぇ!』
それはともかく、シオンとサラサは魂魄状態のアオイを連れたままミアン国内を闊歩する。
「ところでシオンさん?」
「なーにー?」
「この子、いつまでその状態なんです?」
「いつまでって、カノンに引き渡すまでね」
「引き渡すって、シオンさんも創り出せると聞き及んでおりますが?」
「ええ、いつでも創り出す事は可能よ。でも」
「でも?」
「種族情報無きままは流石に無理ね。このままの状態で他種族に転生させるとね? 魂魄との不一致が起きて転生体が酷い状態になるのよ」
「ひ、酷い状態ですか?」
「ええ、魂魄が拒絶反応を引き起こして、体型に即した肉塊をその場に拵えるわ」
「え? 肉、塊?」
「これが人族からの転生だと、そういった反応は起きないけどね。どうしても亜神族だけは漂白させない限り、魂魄が肉体を受け付けない状態になるの。サラサの時は遺体が側にあったから、そこから種族情報を得て転生させたのよ」
「ああ、だから、無事だったのですね、私」
闊歩の間に魂魄の処遇をサラサに解説したシオンだった。浮遊する魂魄は、どういう意味なのか、分かっていなかったっぽいですが。
『幼女にそれを望むのは間違いよ』
『六百年は生きているのに幼女?』
『見た目年齢が十才だからね、あの子。精神も見た目に即した幼さを残しているわ』
長命種故に六十年で一つ年を取っていると。
『ああ、だから暴発したと。経験不足で』
『ところで巫女から問いかけは無かったの?』
『うっ! い、色々と忙しくて忘れてました』
ほぉ。これはのちほど、姉上へのお尻ペンペンを追加しないといけませんね。
『ユ、ユランス、素振りはやめて!?』
気のせいでは?
それはともかく、上界では、
「でもね、可能であっても生の扱いが苦手で失敗する確率が高いのよ。カノンと違って、ね」
「そうなのですか?」
「基本は死を取り扱う者だから。漂白は得意でも記憶やら何やらを残したまま転生させる事はカノンよりも下手くそよ」
シオンの自嘲めいた話が続いていた。
二人と一人は王宮の見える高台から様子見していますね。これは何処から片付けようか思案中でしょうか? カノンなら潜入作戦を敢行しそうですけど。シオンは〈スマホ〉を取り出して誰かと連絡中のようです。
カノン以外の誰かであるのは確かですね。
「でも、普通はそうなのでは?」
「普通は、ね。でも、もしよ? もし・・・」
するとシオンは考え込みながら問いかけた。
「愛する人が死して、蘇るとしたら、どう?」
「え?」
「記憶を残してもらうか、記憶を消して別人としてもらうか、サラサならどちらを望む?」
それはカノンが蘇らせた婚約者の事だろう。
今はカノンに殺された時の衝撃で目覚めてはいないが神獣族の雄として蘇ったのは確かだ。
サラサは真剣な表情のシオンに問われ、
「わ、私、なら」
逡巡したのち己が願いを口にした。
「の、残して、もらいたいです」
「でしょうね。色々と愛し合っていた仲だと聞き及んでいるもの」
「・・・」
ふむ。愛情はまだあると。
頬を染めるサラサを見たシオンは苦笑した。
そのうえで真実という爆弾を投下した。
「私は、もし、と言ったけど、下界では私が言った通りの出来事が、起きていたみたいよ?」
「い、い、一体、何が!?」
今度は別の意味で大興奮ですね。
シオンは表情を改めてサラサに示した。
「女王の命令で特攻させられて瞬殺された」
「え? しゅ、しゅんさつ、ですか? ラ、ラディは簡単にやられるような、武人ではないはずですが?」
「相手が悪かったとしか言えないわ」
これはラディの方が可哀想ですよね。
レベル150の者が、レベル1000の手加減した者に倒されたも同然ですから。
「カノンに槍の穂先を向けて突っ込んできた」
「!?」
「切り結ぶ事なく、船の手前で斬殺された」
「・・・」
「これを聞いて、どう思う?」
「相手が悪かったとしか思えません」
「カノンが憎くないの?」
「憎いのは命じた母です。父もそうですけど」
おや? このやりとり、何処かで見覚えが。
シオンはサラサの背後から〈無色の魔力糸〉を伸ばしたのち笑顔になった。
「そう。でももう、必要ないわね」
「え? い、怒りが消えていく?」
きょとんとしたサラサは己が感情の変化に戸惑った。
「ごちそうさま」
ああ、シオンはわざと怒らせたと。
以前、カノンが言ってましたね。
シオンは恨みと嫌悪が好物だと。
カノンは絶望と恐怖が好物だと。
そんなやりとりが行われている中、二人と一人の背後から、四人の狐獣人が姿を現した。
「おまたせ」
「しました」
二人は戦闘メイド服を着た銀狐。
二人は漆黒の忍装束を着た銀狐。
今回は砲手の人員をあえて呼んだと。
「ここが金弧の里?」
「一応、国家だろ?」
船での戦闘では活躍しなかった者も少なからず密偵として呼び出せる技量を持っていると。
「手筈通りに潜入して引っかき回してきて」
「了解!」×3
「お、俺、初任務なんですが?」
違った、狐だからって理由で呼ばれたと。
金弧の国家で他の獣人姿は目立つから。
ショウとソラは颯爽とその場から消え、
「マーヤに委ねたらいいわよ。身も心も」
「シオンさん、そう言うと何かエロいです」
「こら、シュウ! バカやってないで行くよ」
「おう。って、俺はトウヤだ。行ってきます」
「あら? そうだった?」
「お前なぁ。ショウ姐達は見分けてるのに」
「あの子達は化粧で違いを示してるもの」
「ああ、女はいいなぁ」
「ならトウヤも化粧する?」
「しねぇよ!?」
マーヤ達も慌てて王都へと降りていった。
シオンはその場に残り指示を出すのだろう。
〈希薄〉して駆けていった者達を呆れながら眺めていたから。
「あれはマーヤのお尻に敷かれるわね。仮に婚姻したらだけど」
「ところでショウさんとソラさんは何故あの姿なんですか? 戦闘には不向きに見えますが」
「ん? 元々がカノンの専属メイドだから」
「はぁ?」
メイド服の下に各種暗器が隠されているとは思えないようですね。スカートが死角なのに。
例の拳銃も太腿に下げているみたいですし。
流石にこの国で使うとは思えませんがね。
この後はしばらく静観でしょうか。
『あの子が呆然としてるわね』
『ああ、銀狐なんて初めて見たもの』
『天神族ではない狐族は茶色しかいないしね』
『そろそろ、姉上の眷属達も種族名を登録した方がいいのでは? 獣人族だけでも』
私も事態が動くまでの間、カノン達に提案するつもりで、姉上達と種族名会議を開いた。
『兎なら兎神族』
『猫なら猫神族』
『狐は天神族と被るから』
『普通に神狐族でいいのでは?』
『それだ!』×5
『犬は犬神族?』
『いや、狼っぽいから狼神族でしょ』
『リスは?』
『モフモフ族!』
『ミナンス姉上、ふざけてないで私の憑依体を創って下さいよ。毛髪がまだじゃないですか』
『ミナンス姉上達は残りの作業して下さいね』
『『そんなぁ』』
裸で横たわるミカンスの人族姿の憑依体。
そこまで創ったなら全身の毛という毛を植えてから参加したら良かったのに。
丸見えじゃないですか、綺麗な頭皮が。
『逃避はここまでです!』
『『うぅ』』
ちなみに、栗鼠族は栗神族となった。
鼠的な要素があまり感じられないから。
§
「何か、上は上で騒がしいわね」
「どうかしました? シオンさん」
「何でも無いわ」
カノンからお片付けと称した指示を受けてからこの国に来たけど、高台から見ても完全に終わっているわね。
種族情報はこの高台に眠る国王と王妃の遺体から確保出来たからいいけど。
但し、無駄にデブっているが。
一方、ショウ達の姿を目撃したアオイは、
『い、一体、何が起きているのでしょう?』
呆然としたまま高台を見下ろす。
私は隣で指示を出しながら応じた。
「貴女がしでかした行いの後始末よ」
『え? 後始末ですか?』
ここまで状況が読めない子だったの?
そういえば幼子とミアンスが言ってたわね。
そんな幼子を唆す者が巣くっていたか。
「ええ、後始末よ。大陸を巻き込んだ戦乱を回避するための後始末」
『そ、それは』
「嫌だったなら出奔するという手もあったのに国内の全てを強引に変えようとしたでしょ?」
『あ、そ、それは・・・』
「皆で立ち上がりましょう。我らなら、勝てます。陛下は及び腰です。姫が旗頭になって皆を率いて下さい。そういうものだと囁かれたとしても、裏切られては目も当てられないわね?」
『うぐぅ』
「次に生まれる事があったら、味方ですと優しく甘い言葉で囁く相手には、注意する事ね?」
『・・・』
「まぁ漂白されたら忘れてしまうけど」
「シオンさん、それはあんまりでは?」
「今回はこの子の甘い考えが死人を増やす可能性の原因だもの。この子だけが亡くなるのならば結構。でも民を巻き込む必要は無いでしょ」
「そ、それは、そうですね」
『・・・』
それで体よく利用されて最後は棄てられた。
天神族に王族は要らぬ的な思想を持つ者に。
人族の考え方を持った堕神化した強欲者に。
青臭い考えを持った天王女は騙し易いから。
王宮内に居る臣下に全幅の信頼を持っていた事がこの件の一番の原因でしょうね。裏切られていたと気づかず一人で舞っていたも同然ね。
幼子故に、何処まで反省出来るか分からないけど、今はこの子に応じる状況ではないわね。
「このまま間違った作戦情報が伝わって旧王権派が盛り返せばいいのだけどね。動きが完全に人魚族達と似通っているのは微妙だけど」
「欺瞞情報で混乱させると?」
「あの子達はその手の経験があるからね。未経験の一人は除くけど」
実際にカナも魔王国で行われたとある作戦で経験したしね。カノンの商会が店舗探しをしている時に開店妨害を行った勢力が居たから。
欺瞞情報で追い詰めて一網打尽とした。
その勢力も元を辿ればセイアイ魔国の淫魔族だったけどね。こちらを敵視して妨害するのだから、魔族も地に堕ちたとしか思えないわね。
「では、そのまま内乱を誘発して?」
「外に出すよりはいいもの。ここで外にバレて介入されでもしたら大変でしょう?」
「ああ、内政干渉と言って一致団結しますね」
「カノンの言葉を使うなら大事の前の小事ね」
「なるほど。多少の犠牲は仕方ないと」
「受け入れたうえで実行しているのよ」
「この大陸の種族が滅びるよりは?」
「ええ、仕事を増やして欲しくないわね」
そうでなくても数百億を超える転生待ちが居るのだもの。眠る必要がなくても連続漂白は無駄に疲れるのよね。精神的に。
(作業中は憑依体から出ないといけないし)
今回も片付いたら半分は転生で半分は漂白だからね。少数民族とはいえ三万人は居るから頭痛がするわね。滅亡後の再興も含むから。
「本日、天神族という亜神族が消えて、神狐族という亜神族となる、か」
「神狐族ですか?」
「ええ。ショウ達の新しい種族名よ。亜神族といえど不死ではないから、不死の種族として登録したそうよ」
「ああ、なるほど」
「それはそこで大反省会しているアオイもね」
『ふぇ?』
「漂白するわけでは無かったんですね」
「最初から言ったでしょ? 引き渡すって」
何はともあれ、指示を出して見ているだけというのも暇だったので、私は漂うアオイを眺めながら〈変化〉してあげた。
着ていた服だけは対象外だったから即座にマキナが着ていたゴスロリ衣装に換装したけど。
「で、これが転生後のアオイの姿になるのかしら? 見本だから本人とは異なる風貌だけど」
「『おぉ!』」
髪型は頭頂部で纏めたポニーテールとかいうものにして、モフモフの銀尻尾を一時的に開けたスカートの隙間から出した。
唯一、ショウ達との違いは尻尾だろうか?
ショウ達は一本だけだが、天神族は最大で九本の尻尾を持つとされている。
生前のアオイは一本だけになるけどね。
およそ千年生きて一本増えるとの話だ。
「幼子の身長は、少々、見え方が異なるわね」
「シオンさん、とっても可愛いです!」
「あ、ありがとう?」
それとカノンが、
『既に生まれている四人も〈概念改良〉で天神族の要素を組み込むわ。今はまだ生まれたてだけどレベル100に付き、一本増やす事になるわね。それでも最大で九本だけどね』
言っていたが、そうなるとショウとソラは四本の尻尾が増えて五本となるだろう。尻尾の本数は本人の自由意志で消せるそうだけどね。
自身が持つ専用の亜空間へ隠すだけだけど。
『わ、私も、その服が欲しいです』
「反応したのは衣装の方だったのね」
「まぁでも分かりますよ、それ」
「産まれた後にでも服飾班に頼みましょうか。先日、ナディを人前で剥いていた者達だけど」
「あ、あ〜」
サラサはその時の事を思い出し頬が引きつっていた。男共の目前で全裸に剥かれたものね。
肝心の場所は見えていないが下着が男の前に投げ出されていたから察してしまったようだ。
「可愛い者を見ると着せ替えが起きると思うから覚悟しておいてね」
『か、覚悟?』
こればかりは洗礼として受け入れてもらうしかない。マキナも合流当初は喰らっていたし。
そんなどうでもよい会話を行っていると、
「あ! 火の手が」
「早速、効果が現れたみたいね」
ショウ達の行動の結果が各所から現れた。
その後は倍々で騒ぎが巻き起こり、騒ぎはそのまま王宮へと集中していった。
『い、一体、何を?』
「民達の不満を煽っただけよ」
「『不満?』」
「このままだと国が滅びる不安。王権簒奪した者は人族国家から送り込まれた間諜とか、平民達を大陸覇権のための生贄にするとか、知神は見放したとか、特権階級だけが国外逃亡するとか、数え上げればきりが無い不安の情報を撒き散らしたの」
「ああ、それは、荒れますね」
『知神様は見放したりはしないと思いますが』
「それでも、かもしれないという言葉には疑いの目を向けてしまうものよ。ここ数日、観光も行われていない。外貨獲得が止まっている。王宮は何をやっているんだ。国王は何処に。とかね? 色々な不安と不満が溜まっているもの」
そのうえ王宮内で起きた事は市井には伝わっておらず、派兵の準備が終わり次第発布する予定だった事も、ショウ達の調査で判明した。
二人がメイド服で入り込むのは王宮の侍女として調べる事でもあるから。
あのメイド服は〈変化〉と同時にその国の色彩に変化する特殊衣装でもあるのだ。
「もって数時間、でしょうね。王家を殺したのは公爵派閥だったって真実を織り交ぜたから」
『え? でも』
「アオイの遺体があれば罪を擦り付ける事も出来たのに消し炭で処分したからね。不要と思って処分して自分達の逃げ道を自分達で消してしまえば世話ないわ。絶対に勝てるっていう過剰な自信がそうさせたのでしょうね、きっと」
「母を見ている気分です」
「同類って事で」
さてさて、どんな結果が待ち受けるやら?
私は死する者が溢れ出したので、その場で保管する者を選別して〈無色の魔力糸〉でいただいていった。
(う〜ん。不平不満の風味が格別だわ〜!)




