第244話 状況に困惑する吸血姫。
妹が目の前で全裸土下座を行っている。
私側から見たら大事な箇所が丸見えだが。
どうも、久しぶりのアインスです。
ユーンスが行う理由を今から説明しますね。
それは、
「まだ見つからないの? 娘を奪ったとされる者達の船は?」
「も、申し訳ございません、陛下。なにぶん、今は常夜にございます。夜に生きる者が多く居るとされる船が相手にございますと」
「言い訳は結構! 私は奪った者を見つけてこいと言っているのよ? なのに」
ユーンスが大神官に神託を与えて伝えたにも関わらず『魔族に殺されて』の部分は聞こえたのに、蘇生させた姉上の名はミアンスの制限もとい翻訳忘れによって伝わらず、『別の魔族が救って連れ去った』と聞こえたそうなの。
本来ならここでミアンスも全裸土下座するべきなのでしょうけど、今はユランスからのお尻ペンペンの最中で座れないでいた。
『姉上はもう! 焼き芋を食べる暇があったら翻訳の更新して下さい! 種族更新はあっさり行ったのにそこだけ忘れるのはどうなのです』
『痛い! 痛い! 奥に空気が、空気が!?』
空気が何なのかはよく分からないが姉上直伝のお尻ペンペンで悶えているのは確かだった。
「集結が遅すぎて、魔国の滅亡を掠め取られ」
「あ、あれは、魔国が暴発して」
「言い訳は結構と言ったはずよ」
「ひっい!!」
どのみち、神託が伝わらない時点で眷属を棄てる時期が来たのかもしれないわね。
姉上も必要ならサラサの番を用意すると仰有っていたし。
それが叶ったら両者の眷属。稀少種から更新して神獣族で登録しなおす必要もあると。
「絶対に見つけて、相手の船は完全破壊してもいいから、連れてきなさい! いいわね?」
「はっ、はいぃぃぃ!」
「まったく、使えないわね。これだから種しか使えない男共は。それとラディを呼び出して」
「はっ」
ああ、竜王国も魔国と同じく滅びの道に歩もうとしている。やはり、あの大地に芽吹いた滅びの概念は、どうあっても拭えないらしい。
一度、更地にしてから造り直す必要もあったのかも? でもそれをすると最後の経路が閉じて、今までの苦労が水泡に帰するのよね。
世界構築時の〈取り込み〉で入り込んできた魂魄が、こういった問題を引き起こすとは私達も予見出来なかったわね。お母様もこれだけは気づかなかったと、反省しておられたもの。
『大地に植樹した木々は、そのまま森林国が消費するようになってしまうのね・・・』
『姉上、しみじみと語る前に更新して下さい』
『そ、そ、その、素振り、や、止めて!?』
『だったら、さっさと、更新して、下さい!』
『あっ』
『姉上、臭いです。芋の食べ過ぎでは?』
『こ、これは違うの! 違うのよぉ!!』
更新が終わり次第、ユーンスに再度発してもらいましょうか。迎撃に間に合えばいいけど。
だが、私の願いが叶う事はなかった。
§
時刻は深夜。
空が明空へと変わる頃。
要警戒で海上へと停泊していると今度は予想外な形で三番船が発見されてしまった。
私とマキナは船長室から格納庫へ向かう。
「ホント、想定外のところに穴があったわね」
「対人で拵えたから仕方ない話ではあるけど」
「この流れだけは想定外だったわ」
それは魔力流。魔力密度が引き上がり視認出来る者なら把握が可能になった魔力の流れだ。
格納庫へ着くと、船首寄りの船体メンテナンス装置を立ち上げて、立体映像に切り替える。
「外側の結界に魔力流偽装を追加しないと」
「手間だけが増えていくぅ」
「あとは大型機と小型機にも追加しましょう」
「手間だけが増えていくぅ」
「ケン、私の言葉を真似しないでよ!?」
「口よりも手を動かす! セクハラ魔王」
「そ、その呼び名、定着したのかよ!?」
「「それが、何か?」」
「な、なんでも」
どうも竜神族は魔族やエルフ族と同様に魔力が見えるようで、その流れの中で歪ませている箇所を正確に見つけ出したようである。
切り替えつつ船橋の指揮映像も拾う。
『迎撃開始、撃ち漏らさないように』
「了解!」×6
真剣な表情のナギサは戦闘指揮所の者達に、
『これで撃ち漏らして帰還されでもしたら面倒ですからね。今は斥候しか現れていません。このあとに大軍が押し寄せてきたら、私達も総員で飛ばねばなりませんから』
「は、はい!」×6
撃ち漏らせない理由を語り、白兵戦を予見した。それを行うのであれば多大な経験値にはなるが、余計な争いを生みかねないのよね。
海上で竜王国の〈竜化〉した兵が飛び交う。
それを見た人族国家が何を思うか?
海上に魔族の船がいる。拿捕してでも滅しろと動いてしまうだろう。そうなれば完全なる殲滅戦に移行しないといけなくなる。
全てを食せば問題は無いだろうが、数が数だけに間違いなく撃ち漏らしは生じるだろう。
それらが増えるとシオンが嘆く。
今のシオンはドMでは無くなっているから過剰に増えすぎると逃げ出しそうなのよね。
何よりそれらは悪人ではなく善人が多い。
誰が好き好んで塩っ辛い者を欲するってね。
それこそ戦いながら辛口の酒精でも飲まねばやってられなくなるわね。或いは甘いご飯と共に食べるか。その結果、一時的に肥る女子が大量発生するだろう。私やシオン、マキナは食べた矢先に魔力へと総変換するが。
その間の指揮所はシッチャカメッチャカね。
ユーコとフーコが周辺の索敵を行う。
研修中のサエコは待機ね、使えないから。
「左翼から敵、数は十!」
「バルカン砲を使って!」
「右翼からも敵、同じく数は十!」
「ああ、避けるから無駄弾が消えていくぅ」
ユーマとマーヤが砲手として迎撃する。
左翼がユーマ、右翼がマーヤだ。
研修中のシュウは待機ね、使えないから。
アイミとルミナは苛立つマーヤに怒られる。
「自動照準に切り替えなさいよ!」
「使ってても、逃げるのよ!」
「ルー達と同じ速度で魔力照準を躱すの!」
怒られるが照準が出来なくて慌てていた。
研修中のリュウは心配そうに嫁を見る。
通信のナツミとサヤカとエルルも心配顔だ。
三人も哨戒が飛ばないと仕事が無いからね。
哨戒班も上部監視台から様子見中だもの。
私達は作業しつつも格納庫内から見える指揮所の様子に戸惑っていた。扉を閉じなさいよ。
「これは照準方法も考えないといけないわね」
「ルー達と模擬弾で演習する必要もあるね?」
「そうね。でも、一対多の対空高速戦闘に慣れていないから、演習としては丁度良いけれど」
「演習というか実戦だけどね、これ?」
マキナが隣からツッコミを入れたが、そう思わないとやってられないもの。
あちらは沈めようと躍起になっているし。
今は弾幕があるから近づけないでいるが、
「すばしっこいわねぇ。空飛ぶ的ってこんなにも撃ち辛いものなの?」
「研修生、クレー射撃経験者、呼んできて!」
発見当初は何かあるって気づいて、槍で突いてきたのよね。積層結界が破れるわけないのに何度も何度も突いていたわね。
「「「だ、誰です?」」」
「クルルよ!」
『今は無理! 後甲板から狙撃中よ!』
クルルも還元散弾を用いて迎撃中だ。
照準予測と自動照準を用いて〈希薄〉したまま伝令に向かおうとする者達を減らしていく。
これは弾種を変更せざるを得ないかも。
「ナギサ、艦砲の弾種変更! 還元散弾に切り替えて、広範囲殲滅しなさい!」
『はっ! 艦砲の弾種変更、還元散弾に切り替え。繰り返す。艦砲の弾種変更、急げ!』
「了解!」×2
私が命じると指揮所の者達は弾薬庫を切り替える。加速させたとはいえ鉛弾一発では硬いうろこに護られた竜神族を滅する事は不可能だ。
弾種変更の間、弾幕は止んだ。
「今回はクルルの弾種選択が正しかったわね」
「そうなると指揮所の責任者にしてしまう?」
「操縦士でもあるから、居なくなると困るわ」
「それなら新たな教育でも行うしかないね?」
「そうね。でも、それは迎撃が終わってから」
「考えるしかないか」
弾幕が止むと斥候達は再度近づこうとした。
だがここで、
「最終検査、合格。いけるよ!」
「外部結界、再起動!」
私とマキナによる結界追加作業が終わった。
直後、古い多重結界の下に新しい多重結界。
魔力流偽装を含んだ多重結界が展開された。
魔力流のみで把握していた竜神族は、視認が出来なくなりキョロキョロと、周囲を見回す。
「的が止まったわよ! 今のうちに!」
『撃てぇ!』
「全弾発射!」×2
音も無く撃ち出された還元散弾は、止まった的を目がけて高速で飛来し、時限起爆と同時に中へ収めた数千発の還元弾頭を炸裂させた。
飛び交う間は当たらなかった空飛ぶ的達も、止まってしまえば、瞬殺も実に容易かった。
問題点の洗い出しとなってしまったけれど。
「これはシオンが嘆きそうね」
「今回は斥候でしたし、むしろ総勢三十名の犠牲で済んで良かったのでは?」
「そうね。そう思いましょうか。あとでシオンにお詫びの菓子でも持って行きましょうかね」
周囲の竜神族達は〈竜化〉を解かれて身体を崩壊させながら全て絶命していった。
「この海域から離脱しましょうか」
「それをすると、追ってこない?」
「ああ、サラサが言っていたわね」
「うん、一度でも噛みついたら離れないって」
「困った、脳筋スッポン女王よね」
「そうなると転生先はスッポンで決まりだね」
マキナはあっけらかんとそう言うが、
(スッポンの生物情報は有ったかしら?)
必要なら〈種族創造〉スキルを使わざるを得ない⦅姉上だけで管理出来るのでは?⦆全有効化したら、お母様と同じ事は可能だけど全有効化はしないわよ。
⦅な、なんだってぇ!?⦆×14
元々はお母様の代わりで生まれたのだもの。
⦅カノちゃんは言って無かったの?⦆
⦅お母様! 聞いてないよぉ!⦆×14
スキル制限しているから生命を操る事に特化しているだけだしね。完全未来予測はあと二千年は生きないと、権限が無くて使えないけど。




