第243話 吸血姫は要警戒で逃げる。
ともあれ、例の補正下着を提供したあと、
「レリィの、レイの胸が縮んでるぅ〜!?」
「「コウシ、うるさい!」」
「はい」
「セ、セツの胸も萎んでるぅ!?」
「シロちゃん、今日はお預けだね!」
「なんで!?」
食堂でちょっとした騒ぎが巻き起こった。
それは一部の男共が相手の萎んだ胸を見て一喜一憂しているだけね。パーツでしか相手を見ない者が多いわね。タツトだけは例外だけど。
「クルルはどんな格好でも綺麗だな」
「ふふふっ。ありがとう、タツト♥」
「アルル達も凄く似合っているぞ」
「「「「ありがとうございます!」」」」
紳士的な者が一人だけなのがもどかしい。
「姉さんの胸って、表面だけ?」
「そうだよ。ブラの内側はバインバインだよ」
「へぇ〜。凄い気になる下着だね」
「でしょ? カノンの手製だって」
「姉さんが着けると縮みそうだね」
「フユキ、分かってても、それは言わない」
「ごめんごめん。でも小さくてもいいよ?」
「ぐふっ。嬉しい事を言ってくれるじゃない」
「お、俺は昔のウタハが好きだぞ?」
「そ、それはそれで反応に困るわね」
いや、他にもバカップルに居たわ。
紳士的かと問われると少々困るけど。
「俺はアキの全てが好きだから!」
「分かってるよ。シンの気持ちは」
「ぼ、僕は大きい胸より今の方が好きだよ」
「嬉しい事を言ってくれるよね、マー君は」
「なるほど兄さんの好みに私も含まれると」
「い、妹の胸はちょっと。好みとかの話では」
「今は血も繋がっていないし別にいいでしょ」
「姉さんと義妹となった妹と私と選り取り見取りですね。マサキさんは」
「そ、そんなつもりはないよ? ホントだよ」
「マイカはそのままの姿で居てくれな」
「もう、当たり前でしょう?」
改めてみると男女間のカップルが増えたわよね。男日照りの者達も少なからず居るけれど。
それはともかく、本日の昼食はトウカの頑張りで出来上がった、漬け麺だ。私達はセルフサービスとして置かれた具材を皿に置いていく。
「漬けダレは味噌と醤油、ゴマダレと」
「薬味はネギとゴマと魔卵だね」
麺は替え玉自由との事で多めに茹で上げた縮れ麺を時間停止の保冷庫に収めているらしい。
流石に九十二人が集まると食堂がごった返すので四班に分かれて食事を摂るようになった。
「いただきまーす!」×23
リンスとリリナ、リリカとルーナ。
ロナルドとサラサは後の班だけどね。
先ずはケンがマイカに作法を教えて、ルーナやサラサ達に作法を伝える手筈らしい。
リンスとリリナ達は箸に慣れているのでどういう風に食べるか指南するだけで問題ないが。
シオンは私とマキナの食べ方を眺めつつ、
「うまい!」
目を見開いて上品に食べていた。
私とマキナは周囲に積層結界を張り飛び散る漬けタレを無視してズルズルと食べていたが。
「縮れ麺とタレが絡んで美味しいわね」
「うん。かん水が手に入ったって事だよね」
「そういう事でしょうね。そうなると」
「あとはスープだね。材料を無駄に出来ないから慎重に作っているみたいだけど」
「そこは〈鑑定〉スキルで何とかなりそうな気もするけどね。でも、この際だから用意してあげようかしら」
「用意とは?」
私はマキナと会話しつつ生来スキルを有効化して〈スキル創造〉を行使する事にした。
⦅お母様と同じスキル持ってるぅ⦆×14
ポンコツ達が騒いでいるが今は無視だ。
普段は使わないからどれも無効化しているだけね。一度でも使うとあれしろこれしろとお母様から⦅芋羊羹はまだかって⦆材料を寄せて!
(作るなら〈食材鑑定〉スキルが無難かしら)
料理鑑定魔法は既にあるが詠唱必須だった。
なのでスキルとしてそれも用意してあげた。
担当はニナンス⦅楽になったぁ⦆だけどね。
「早速だけど、レリィ達に一括付与っと」
「お母様? 突然何を?」
「ん? 食の改善かしら?」
「どういうこと?」
マキナは相変わらずきょとんだ。
すると唯一知る者が会話に割って入る。
「ああ、〈スキル創造〉を使ったのね」
シオンは食べ終えていて口元を拭っていた。
替え玉食べた方がいいわよ? お腹空くし。
マキナはきょとんとしたままシオンに問う。
「〈スキル創造〉?」
「世界に対して新しいスキルを構築する特殊スキルよ。選ばれた女神だけが使える権能でね。今は、お母様とカノンしか持っていないのよ」
その間の私は麺が伸びない内に平らげた。
そしてシオンに対してお礼を言った。
「解説役ありがとう」
「いえいえ」
「というよりシオンも持っているでしょうに」
「面倒だから作らないだけよ」
確かに面倒ではあるわね。
創造するスキルが存在するか〈魔導書〉で調べる必要もあるものね。
マキナは私達の会話に口をあんぐり開けて驚いていた。
「はわぁ〜。では、何かのスキルを作って?」
「ええ、食材管理のとっておきのスキルを調理担当者達に配ってあげたわ。だから、今頃は」
そう、今頃は、
『食材の消費期限が視界に映っただとぉ!?』
『どういう料理に使えるか情報が流れる!?』
『スープはオークとリンゴと〈ヒエル草〉?』
『その〈ヒエル草〉って?』
『医務室のエロフが育てている薬草よ』
『医務室のエロフ・・・レン?』
『闇エルフではなくて森エルフの方よ』
厨房内で大騒ぎとなっていた。
ユウカが聞くと怒る単語もあったけど。
「となるとシオンお母様が待ち焦がれている」
「豚骨ラーメンも直ぐでしょうね。かん水を用意して、縮れ麺まで作り上げたのだもの」
「それは確かに有用なスキルだね」
「食の改善と共に材料の無駄も減ると思うわ」
下界でしか手に入らない食材と、上界でしか手に入らない食材がこの船には集まっている。
それらを有効活用出来るなら助かるだろう。
食後は緑茶を飲みながら今後を話し合う。
「魚はまだあるってレリィが言ってたけどね」
「ナディ達の釣果が好結果だったからかぁ」
「それで肉関係はどうなっているの?」
今回は珍しくシオンも参加しているが。
「以前、合国で狩った牛肉はほぼ無いわね。必要とあらば、クジラを放出するしかないけど」
「やっぱり皆、肉が好きなんだねぇ」
「不死者となってもたんぱく質は必須よ」
帝国の事もあるのだけど、喫緊で重要なのは食料の在庫ね。スキル配布で無駄が減るとなっても、大人数ともなると消費速度は速いから。
「野菜類は、こちらでも上界でも手に入るけどね。ただ上界の値下がりには至ってないって」
「ああ、例の件がまだ燻っていると?」
「流刑島には往生際の悪い者が多いみたい」
「ユウカ達が島の畑を見て回っていても?」
「育つ速度と消費速度の差が酷いって」
「食べさせる責任を持つってホント大変だね」
「救った以上は受け入れるしかないわ」
「救った弱みかぁ。分かるわぁ」
「シオンは生まれさせた弱みでしょうに」
「同じ事よ。生き存えさせるには」
「はいはい。魔力を供給するって事ね」
結果的にどう足掻いても堂々巡りしてしまう話し合いになってしまった。
話し合いで打開策が見つかれば幸いと思ったけど、そうはいかなかった。
今後は海上移動だけになるから、魚は何とかなっても、野菜類は手に入り辛いのよねぇ。
(何処かで無人島を開拓するか、船内に水耕栽培の区画を設けるか、どちらが無難かしら?)
時間的制約もあるから前者は無理だろう。
後者は種さえ手に入れば何とかなると思う。
時間加速結界で区画を覆えば数だけは確保可能だろう。その代わり、栄養面が心配だけど。
(経験水を利用してみようかしら? ユウカが植物にも使って良結果が出たとか言ってたし)
その結果が多種多様な薬草となったらしい。
餅は餅屋というしエロフに任せてみますか。
「たちまちはユウカ達に丸投げとなるけど、水耕栽培に手を出すしかないわね」
「やっぱりそれしかないかぁ」
マキナも同じ事を考えていたようだ。
土の無い場所で野菜を作るには最適だもの。
するとシオンが空気を読まず、
「それなら、目前にある竜王国はどうなの? そこで大量購入していけばいいと思うけど」
問いかけたので、現実を教えてあげた。
「竜王国はダメね。魔族憎しの空気が高まっているし、氷上国の信仰の対象でもあるから」
「ああ、人族国家の者以外には売らないか」
「あとはサラサの件と、農地が多かった土地を簒奪されていたらしいから恨み辛みは相当よ」
「要らない事をやってのけたわね。あのバカ」
しかも氷の大地が続いたお陰で、氷上国から食材やら何やらを高額で仕入れていたそうだ。
そこへ魔族と繋がりがある亜神族の船が入ったとして助ける道理は竜王国には存在しない。
「私がサラサを救って、原因物を滅しても」
「真実が伝わらない以上は、憎しで攻撃も」
「あり得ると。大神官が聞く耳を持っても」
「女王が脳筋なら聞く前に攻撃でしょうね」
「娘を殺された憎しみで脅しを与えたのも」
「脳筋女王だから成せる直情的な行動力と」
「そう考えると似た者夫婦よね。サラサ自身を見ると脳筋とは思えないけど」
「バカな親を反面教師としたのかも?」
こればかりはサラサに直接聞かないと分からないけどね。丁度、サラサ達の食事が始まったので私は竜王国の話をお開きにする事にした。
気にして会話に入って来られても困るし。
「マキナがドMからノーマルになったのも?」
「ちょ、カノン!?」
「誰もシオンの事は言ってないでしょ?」
「感覚的な物だから、そうとは言えないかも」
「まぁシオンのドMも落ち着いてきたものね」
「むしろお母様に近くなってません?」
「悲しいかな、元に戻りつつあるって事ね」
「それを言われてどう反応したらいいのよ?」
「以前ならそれで悶えていたでしょ?」
「あっ」
大昔は貶されるだけで悶えて恍惚となっていたのに、どんどんなりを潜めてきたものね。
最近はツッコミ役が板に付いてきたけど。
何はともあれ、野菜問題はあとで区画の追加を行う事とし、三番船の位置を竜王国から気づかれる前に沖合まで退避する事にした。
今はまだ目と鼻の先で停泊しているからね。
私達は話し合いを終えて船橋へと向かう。
「下手に感づかれて追われても困るでしょ?」
「一国を滅ぼす戦力を有する大型船だもんね」
「この船を鹵獲して、魔族憎しで直接的には関係の無い、魔王国に宣戦布告もあり得るわね」
「そうなると私達と敵対する事になるけどね」
「折角救われた命なのだから無闇に喧嘩売って散らす真似は流石にしないと思うけど・・・」
私達の背後には顔面蒼白のサラサも居たが。
「やりかねない。母ならやりかねない・・・」
娘だから知る悪癖を思い出しているようだ。
私達はそんなサラサを一瞥しつつ、
「人族に染められたら神の眷属といえど」
「同類と化すのね。明日は我が身だわ〜」
「ユーンスを反面教師で拝もうかしら?」
「神界で止めて下さいって慌ててそうね」
「全裸土下座で頭を下げていそうだね?」
同類にならないよう戒めようと思った。
眷属は元々人族だった者が大半だけど。
⦅姉上がマキナの言った通りの格好だけど?⦆
本当に全裸土下座を実行していたとはね。
バカな眷属ですみませんという事だろうか?
私とマキナは船橋に到着すると、ナギサ達に対して船の場所を変更させる命令を発した。
「戦闘船速で沖合に緊急退避!」
「了解! 外隔壁閉鎖、戦闘船速に移行!」
「りょ、了解!」
「完全隠形航行も追加で!」
「「「了解!」」」
「それと後部下扉のナディ、釣りは中止で」
『えーっ。ついさっき垂らしたばかりなのに』
「沖合に着いてから続けていいよ」
『は〜い。カナにミズカ、コヨミも片付けて』
「釣り猫が増えた件について」
「釣り猫が四匹か」
今は昼過ぎ。
明空まではまだ時間はかかるが道中でのサラサの進言により場所移動を急がせる方が良いと判断を下したのだ。
『母の部下ならば、暗がりでも〈竜化〉して捜索すると思います。海上は結界外ですので』
身内の暴挙で、仕えるべき主に危害を加えたくないとする、サラサの熱意が伝わったわね。
「積層結界の展開後、熱光学迷彩起動!」
「完全遮音展開、完了。水流操作陣、五パーセントから八十パーセントで加速開始!」
「船体周囲へと引き波相殺結界展開!」
今回は緊急退避なので、居場所を察知されないよう、引き波を消し去る結界も展開させた。
これは運河での移動でも使っていた機能だ。
「凄い・・・」
「これでも二割の余力を残しているけどね」
「ま、まだ速度が出るんですか?」
「木造船では出せない速度だけどね」
「木造船で出してたら」
「自壊して即沈没よね」
「そ、そういえば、金属船でしたね」
「この世界には三隻しか存在しないけどね」
「小型を含めると四隻だけど」
そうして予定としていた海域に到着したので速度を落としつつ現状維持だけ命令した。
現状維持。積層結界と熱光学迷彩の維持ね。
実は運河での戦闘ではこれを用いて、竜王国側だけ隠して何も居ないようにしていたのだ。
対する魔国側だけは晒しまくっていたけど。
それもあって竜王国が、このあとどのように動くのか、おおよその予測が付くのよね。
気づいたら魔国兵達が居なくなっていた。
常陽になって調査に入れば滅亡していた。
原因はなんだと調査され、見慣れない大型船が居たとなれば、疑われるのは必定だもの。
その後のシオンはサラサを連れて上界へと向かった。私は停泊が完了すると追加で命じた。
「明空から常陽にかけては要警戒で、何かあれば即迎撃、何もなければ」
「そのまま出港ですね」
「ええ。そうなった時の航路は、そのまま北上して、ルージュ公爵領へと寄港しましょうか」
「承知致しました」
ルージュ公爵領を過ぎてからは楼国港へと立ち寄って、物資の補給と積み荷の運搬を行うと。セイアイ魔国に向かう者が居るとの話だから、乗せる可能性も高いけど。
「一等船室を淫魔族に使わせたくないね」
「なら後甲板にテントでも張らせましょうか」
「ああ、船内には入れなかったね」
「即止するからね。普通の魔族は」
「即止が即死に聞こえる不思議」
「どちらの意味にも通じるわね」
「テントは男共のテントじゃないよね?」
「どちらの意味にも通じるわね。種族的に」




