第242話 吸血姫は同性達に授ける。
大運河を南下して氷上国改め森林国の大地から三番船は一旦離れた。それは竜王国の元王女ことサラサの今後を確認するためでもあった。
「このまま私達の元に残留させるか」
「竜王国へ蘇生させたと伝えて届けるか」
「確か、一人娘よね?」
「そう聞いてますね。次代の女王とも」
「だから魔国への報復と」
「魔国の滅亡を望んだと」
「なら旦那の手綱くらい握りなさいよって」
「言いたくなりますねぇ」
私とマキナは滑走路から移動して、サラサが寝泊まりする船長室隣の一等船室へと訪れる。
ノブに触れ、室内から答えが返される前に、
「入るわよ」
「あ、待って下さ」
ずけずけと室内へ入った。
マキナからは苦言を呈されたけど。
「お母様、ノックくらいはしないと」
「もう入ったからいいでしょ、って」
室内に入るとサラサは風呂上がりなのか裸だった。これはタイミングを見誤ったかしら?
相手が男共ならラッキースケベと共に叫ばれてサラサに殴られ上半身が消えていただろう。
「お母様、だから言ったのに」
「これは想定外だから仕方ないわ」
「想定外って。まぁいつでも入れるから、仕方ない話ではあるけど。船員は時間指定だしね」
「内鍵も実質無いに等しいしね」
「そちらの意味ではないのだけど?」
「そうだっけ?」
マキナの言い分で言えば、この一等船室は賓客が寝泊まりする部屋なので、船員達とは別扱いの浴場とトイレが内部に存在する。
浴場の湯は大浴場と同じ温泉水であり、いつでも入れる特別室でもあるのだ。
「ゆっくり用意していいわよ」
「その間は勝手にのんびりするから」
「はぁ?」
一応、船長室と副長室にも浴場とトイレは備わっているけどね。ただ、広さで言えば一畳の湯船と一畳の洗い場があるだけの大変こぢんまりとした浴場となっている。一人でのんびりと寛ぐには、丁度良い広さではあるけれど。
「お母様、紅茶でも淹れようか?」
「そうね。お願い出来る?」
「それなら淹れてくるね」
一等船室の調度品は全てリンスとマイカが取り寄せた品だ。仮に王族が寝泊まりしても問題の無い品々が、所狭しと並んでいるのだ。
紅茶と茶器もその一つね。サラサが使った試しは無いみたいだけど。王女の嗜みとして覚えているものと思ったけどそうではないらしい。
一応、内鍵も存在しているが、サラサは使い方を知らないのか、一度も使っていない。
戦闘時は遠隔施錠されるから、そういう代物だと思って使っていないだけかもしれないが。
先ほどのやりとりから察するに、少々不用心だけどね。飢えた男共もこの船には居るから。
私は悪びれもせず、船室のソファに座る。
「これは大変眼福で御座いました。王女殿下」
「どう反応すれば良いのでしょう。他者に裸を見られた事は今までの人生であまりないので」
サラサは慌てて部屋着に着替え対面に座る。
ノーブラ、ノーパンは目のやり場に困るが。
「そのまま、ありがとうでいいと思うわよ?」
「そうなのですか? ありがとうございます」
「素直ね。一応、前の身体も見られたのに?」
「あ、あれは、その、色々と触られていましたから、見られるのと、触られるのは違うかと」
「思うのね。確かにそうだわ」
雑談の最中、マキナが紅茶を淹れ、私とサラサ、マキナの分の茶器をテーブルに置く。
マキナも私の隣に座り、
「菓子類が無かったから私のお気に入りを提供したよ。紅茶に合うか少々微妙な羊羹だけど」
「飲み物は揃っていて菓子類は無かったのね」
「く、黒い、固まり?」
「初めて見る菓子みたいね」
「誰であれ初めてだと思う」
「そうね。本題の前にいただきましょうか」
「サラサ様もどうぞ」
「い、いただきます」
糖分補給と共に簡単な茶会を開いた。
このあとの本題が重苦しい話になるか軽い話になるかはサラサの反応次第だけども。
サラサは恐る恐るという様子で私達の所作を真似、小さく切った羊羹を口に含む。
「ん〜!」
キリリとした目元がその瞬間だけ幸せそうに綻んだ。甘い菓子はどの世界の女でも簡単に虜にするわね⦅お母様が芋羊羹を作れって⦆焼き芋を届けてくれたら考えるって伝えて。
「この茶の香りも、落ち着きますね」
「自分で淹れた事はないの?」
「いつもは使用人が淹れておりましたから」
「ああ、今はいないもんね」
「嫁ぐ前に全て取り上げられましたからね。本当なら婚約者兼任の執事も居たのですが」
「強引に婚約解消されたって事なのね」
「お母様が池ポチャしたアレに?」
「アレね」
「アレ? い、池ポチャ?」
「ええ、外でサラサの父親と出くわしてね」
「父と?」
「言うことを聞かなかったからお母様自らが」
「飛んできた槍を掴んでお返ししただけよ?」
その後は父親との遭遇から滅しまで語り、
「何からなにまで申し訳御座いませんでした。祖国の民草が不要な血を流さずに済んだのは主様の御力添えの御陰に御座います。私も誠心誠意、生死神様の元にて御仕えしたく存じます」
本題も軽く流すように語るとサラサはそのまま残留を選んだ。元より、死亡した身の上だ。
報復の件では涙を呑んだサラサだったが。
それは母親の愚行に対してなのか、或いは自身を思って行動を起こそうとしたからなのか。
言葉から伝わるのは愚行に対してだけどね。
それもあって家名もユリアに変更させた。
「き、気にしなくていいわ。今まで通りの口調で、お願い」
「承りました。ですが、儀式の際はご容赦を」
「え、ええ。ぎ、儀式、ってあったかしら?」
「今のところは無いと思う。強いて言えば」
「ああ、戦闘そのものが儀式に近いかもね」
「でしたら次の戦いで、より多くの掃除と」
「己が力を証明してくれたらそれでいいわ」
「承知しました」
サラサは深々と頭を下げ、ノーブラの胸と谷間をタワワンと私達に見せつけた。
いや、胸は私達の方が大きいけどね。
今は私も同程度だけど。
「何だろう、このナギサ臭?」
「元々、信心深い子だって言っていたわね、水神が」
「ああ、そういう事だったのね」
そして意志確認と称した茶会もお開きとなり私達はサラサを連れて隣の船室へと移動する。
それは新船員となったサラサのために、
「本日からこちらの部屋を使ってね」
「ここは? 隣と同じ間取りですか?」
使い慣れた一室を提供してあげたのだ。
「そうだよ。一等船室と副長室は似た造りだからね。調度品は少し地味になっているけど過ごしやすさに変化は無いよ」
「そう、なのですね」
「そもそも副長の内、二人が王族だもの。それなりの造りでないと失礼だしね」
「まぁ残り三人は下の区画ですけどね」
サラサも立場的には本物の王族だ。
その身分がリンス達と同等の地位にあり、この海域を知る者として副長に任命した。王家を棄てた身の上でも、王族には違いないからね。
「他の二人は医務室、一人は哨戒員だけどね」
ルーナはリリナが既に居たから任命する事は無かったけど。元魔王も重責ある地位に座るより、ユウカ達のお手伝いの方が楽しいようだ。
裏魔王様は侍女だから言うに及ばずだが。
「今は手荷物も少ないみたいだから、のちほどナディ達に持って来させましょうか」
「それがいいね。あちらの片付けも必要だし」
「お手数お掛けします」
「「気にしないで」」
私はサラサにも〈スマホ〉を手渡して使い方を教えた。念話も行うが基本はこれで行うとも伝えた。サラサは興味津々で覚えていたわね。
「それとサラサの担当はリリナと同じ常陽をお願いするわ。ナギサとマキナが控えているから分からない事があったらこの二人に聞いてね」
そして担当を命じて部屋を出ようとしたら、
「じょ、常陽ですか?」
サラサからきょとんをいただいた。
私は廊下へ出ながら振り返り、問いかけた。
「どうしたの?」
「船が航行するのは常陽だけですよね?」
ああ、常夜も進む事を知らないのね。
サラサはずっと室内に籠もっていたから。
一等船室は船尾側にあり、天窓が天井に据え付けられているだけだ。天窓も後部甲板から薄らと空が見えるだけの、とても小さな天窓だ。
そこで外の様子を知る事は実質出来ない。
逆に階段と扉を挟んだ両隣の船長と副長室は丸窓が存在していて外部把握は容易だけどね。
「あ〜、サラサはそう思って居たのね・・・」
「そう、とは、どういう事ですか?」
すると廊下で待っていたマキナがあっけらかんとサラサに教えた。
「この船は常夜も進むよ?」
「え?」
またもきょとんとなったので私は苦笑しつつ改めて教えた。転生前に語ったきりだものね。
「サラサは忘れているようだけど、初期人員の大半は吸血鬼族よ。残りは魔族と亜人だけど」
「常陽でも動き回れる亜神族でもあるけどね」
「あ、そういえば、そうでしたね」
「だから常夜は私達も含めて少数精鋭で護りながらだから暗い海を進む事が可能なのよ」
「普通は暮金から停泊する船が多いけどね」
「それでなんですね。分かりました」
サラサもようやく納得したので、改めてサラサの部屋を出ていった私とマキナだった。
§
私達は船首側に移動してナディ達を呼ぶ。
「とりあえず、ナディ達に掃除道具を持ってくるよう伝えたから、このまま掃除させて、調度品へは埃よけの大布を被せておかないとね」
サラサの私物もあるから届けるようにとも。
それとレリィ達に食器の追加も依頼した。
賓客向けの食器ではなく船員向けの食器ね。
「必要なら内部を亜空間化する?」
「余剰魔力があるといっても魔力の無駄は出来ないからそのままでいいわ。あの子達も必要なら憑依して訪れるだろうし」
「そうですね」
そう、サラサが出ていったあとの一等船室もしばらく使う事は無いだろう。今後使うとすれば上界の使者か、ポンコツ達だけだろうから。
しばらくすると胸を揺らしたナディが、
「お待たせしました」
普通のサイズのショウと共に訪れた。
いや、ショウもFに育ったけどね。
私とマキナの視線はナディの胸部に向かう。
「まぁた、育ったわね。私より上じゃない?」
「見た感じ、以前よりも重くなってない?」
「私の何処を見ているんですか!?」
「「ナディのおっぱい!」」
するとショウが苦笑して事情を打ち明けた。
「なんでも尻尾に残っていた、処理しきれていない生命力が最後に胸へと届いたそうですよ」
「ああ、私が掴んでいたからか」
「そこだけが狭まっていたのね」
尻尾の回復で通りが良くなって、ボヨンっと急成長したと。大きさだけならマリーよね。
駄肉壁と優遊撃の巨乳コンビの誕生か。
二人が組むことは無さそうだけどね。
レベル的にも200もの差があるし。
流石の私もそのままでは仕事に差し支えが起きると思い、ナディに黒いブラを進呈した。
「掃除前でいいから、これに着替えなさい」
「こ、これは?」
「カップに胸肉が全て収まるブラよ」
「「「え?」」」
それだけ伝えると通常のブラと同じよね。
胸肉を中に収めるのは変わらないから。
私は仕方なくコートの前を開けて、ブラウスの上ボタンを外して部分的に素肌を晒した。
全て外す必要は無いから上だけね。
「私の胸元を見なさい」
私の胸元を見たナディは目が点になり、
「あ!? 谷間はあるのに」
「む、胸が小さくなってるぅ!?」
ショウは大絶叫を発してしまった。
絶句したマキナは私の胸元を凝視したまま自身の胸を何度もペタペタと揉んでいる。
「このブラの内側は亜空間を使わず空間拡張していてね、五つだけ胸が小さくなるのよ。そのうえ重量軽減も行うから、これを着けたら肩こりが楽になったわね。あとはこのレギンスも」
そのうえで黒いレギンスもナディに手渡す。
見た目はハーフレギンスね。尻尾穴付きの。
流石にスカートを捲るわけにはいかないから私は腰回りを強調して三人に示した。
「こちらは腰回りをスッキリさせるのよ」
「スッキリ綺麗な形になってるぅ!?」×3
これを作った経緯は育ち過ぎたせいで普段着が着られなくなった事にあるのよね。
普段着に関してはレベル制限が存在しないから頻繁に作り直しするわけにはいかないのだ。
するとナディは、
「すみません、部屋に戻って着てきます!」
大慌てで階下の自室に戻った。
どうも、着ていたメイド服が継ぎ接ぎだったからか、各所で解れが目立っていたようだ。
今回の急成長で作り直しが間に合っていないみたいね。しかも胸に変化が現れたから服飾班も新しく型紙を起こしている最中みたいだし。
ナディが階下に降りたあと、手持ち無沙汰となったショウはじっと私の腰回りを見ていた。
「ショウも要る?」
「はい。ですが、私は胸が悲惨な目に遭いそうなので、レギンスだけでいいです」
「ドロワーズだと動きづらそうだものね」
「そうなんです。ニーナ達には悪いですけど」
私はショウへと着替えも含めてレギンスを手渡した。ナディのように直ぐに着替える事は無いだろうが嬉しそうに微笑んだショウだった。
「ありがとうございます。主様」
最後にマキナまでも声を上げたので、
「お母様、私も欲しい!!」
「マキナの分はチェストに入れてるわよ」
「ホント!? 今すぐ着替えてくるぅ!」
苦笑しつつ準備済みを伝えると嬉しそうに自室へと戻っていった。巨乳って足下の視界を塞ぐからね。何度、階段で転けそうになったか。
しばらくすると、いつものメイド服を着たナディが戻ってきた。胸元がスッキリしたわね。
私は一等船室の掃除を二人に命じて、
「では掃除をお願いね」
「「承りました」」
廊下の奥でこそこそする者達に声をかける。
「ニーナの長い耳が見えているわよ。欲しいなら欲しいって言いなさい」
私の一言を聞いた者達は揃って顔を出した。
「欲しいです!」×29
私の元へ訪れたのはGカップ以上の胸を持つ者達だ。私がナディに手渡した黒ブラと黒レギンスこと補正下着の効果を廊下で知ったのね。
(いや、ナディが同室のカナに話して、カナから伝わったのね。女子の情報網は侮れないわ)
この補正下着を使えば最大でCカップにまで下げられるものね。ショウのようにBカップ以下にまで落ちる者達は訪れていないけど。
一応、廊下で配ると男共の目に触れるので、
「会議室で配るから付いていらっしゃいな」
「はい!」×29
呆れた表情のまま欲した者達を連れて会議室へと移動し、列を成す眷属達に配っていった。
そして、この場に居ないシオンとリンス、リリナ達の下着も同じように用意した私だった。
ちなみに、個々の布地色はそれぞれの要望で都度指定したけどね。青とか赤とか紫とか。
この場に居ない妹達の下着も含めてね。
「肩こりから解消されたぁ!」
「布の裁断前で助かったぁ!」
「流石に寝るときだけは外しなさいよ」
「はーい!」×29




