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第241話 吸血姫は後片付けを行う。


 船員達が急成長を終えて一日が過ぎた。

 本日は休息としたが成長出来た事を喜んだ者達は上界へ向かい迷宮踏破に勤しんだ。

 休めと言われた時に自室で休む者は極少数だったわね。賓客として急成長を遂げたサラサとか風味を覚えている内に記録に残すと息巻いていたトウカとか、セルフサービスの用意だけ済ませて、別の意味で頑張るレリィ達とかね。

 ナギサも仕事中毒者故に船橋へと待機したままだ。珈琲を飲んで景色を眺めているのかも。


(あれは休む内に入るのかしら?)


 一方の私は船長室で成長具合を調べていた。

 隣のベッドで眠る可愛らしいマキナと、シオンの大変だらしない寝顔を眺めながらね。


「総じてレベル400前後の者達が増えたと。一番低い者は子供等だから、除外するとして」


 今回の急成長では個々のレベルが一気に上昇して保有魔力量と魔力出力上限値が増加した。

 外見は男女間の差が猛烈に出てしまったが。


「男達は身長が伸びただけで、大した変化は見受けられないわね。(ふんどし)下にある特定部位だけが成長した者も居たようだけど」


 ちなみに、今は眷属から流れてくるステータスを元にタブレットへと記している最中ね。

 対して女達は私やマキナを含め、目で見ただけで分かる変化が、それぞれに起きていた。


「当人の願望なのか、大水晶の中身が残した願望なのかは分からないけど、一番大きな子がKカップときたか。子供等に次いでレベルの低いマリーは、駄肉壁にでもなるつもりかしら?」


 私が設定したHPは他の者よりも高いしね。

 駄肉壁。まさにそれに使える要員だろう。

 身長も女の中で一番高い188センチだ。

 なお、男でレベルが低いのはゴウではなくリス獣人のリュウになってしまったが。


(ルミナの大きな尻尾に隠れる夫? いや、ルミナの尻尾で潰される夫の方が正しいわね?)


 それが真っ先に浮かんだ私だった。

 本人達が知れば大変酷い話だけども。

 その後はちょこちょことレベルを更新する者達が現れたが、直近の物だけ残した私だった。

 頻繁に更新するのって面倒だもの。

 そんな馬鹿げた事を考えていた私は寝間着に着替えてマキナのベッドの前へと佇んだ。


「久しぶりに家族で寝られるわね」

「「スースー」」


 涎を垂らすシオンをベッド下へ蹴飛ばして、


「ぎゃふん!」

「まさか異世界に来て、こういうひとときが過ごせるとは、思いもよらなかったわね」

「・・・」


 マキナのベッドへと潜り込む。

 一応、三人で寝られるキングサイズベッドではあるのよね。ここ最近は忙し過ぎて一緒に寝るなんて事は無かったから。

 私はマキナを抱き枕の代わりにして眠った。


(マキナの弾力が凄いわね。若いっていいわ)


 翌朝、目覚めたマキナからは『おっぱいが痛いから、あまり揉まないで!』って怒られた。

 完全にドMの性質が抜けきったようである。


 


  §




 朝食後、三番船は大運河を緩りと南下する。

 水流操作陣を稼働させて、船底を擦らないよう川底を掘削魔法で還元しながら南下中だ。

 私とマキナは滑走路で周囲の景色を眺める。


「綺麗な街並みですね、お母様?」

「そうね。街並みだけは綺麗よね」


 魔国内のゴミ掃除は全て終わった。

 大地に残っていたゴミもユーンス曰く全て片付いたという。ゴミ掃除も残すところ帝国領のみとなっていて私達は南下しながら荷を降ろし帝国領へと向かうだけとなった、はずだった。


「そこに居る者達の思惑はともかく、ね」


 実は今朝方、事態が急変したとユランスとユーンスから報告が入ったのだ。それは朝食後の出港準備に入っている最中の出来事である。

 それを聞いた私とマキナは呆気に取られた。


⦅魔国は領土簒奪に怒り竜王国へと攻め入る⦆


 それはゴミ共が進めていた進軍計画だった。

 なんでも竜王国が魔国領内にある鉱床を奪ったとか何とか言いがかりをつけているそうだ。

 それなんて片付けたゴミ共が勝手に奪っているだけなのにね。しかも場所を調べたら、そこは魔国領ではなく竜王国内だった。それを魔国領と偽って報告したゴミ共が居たらしい。

 ゴミ掃除後にゴミ共の計画が露呈した事で追加の後始末が発生した私達である。

 しかも、それだけではないのよね。


⦅竜王国は愛娘の報復と称して魔国を滅ぼす⦆


 対する竜王国はサラサの件がようやく伝わって、殺したとされる者を差し出さねば報復も辞さないと脅しをかけているそうだ。

 それもゴミ共で、娘の糧になっているわね。

 そのうえ、


「私達が運んでいた絵画が対神魔道兵器とは」

「時間遡及した絵画がそういう代物だったと」


 私の幸運値が悪さしたのか、とんでもない代物を運んでいる事を知った。だから届けるのではなく〈還元転換炉〉へと落として消した。

 それと危険物は取り扱わないと苦情も込みで依頼金と賠償金を魔王国の商人に送りつけた。

 商人はそういった代物とは知らなかったみたいだけどね。商人も帝国で買ったとか言っていたから裏ではゴミ共が暗躍していたのだろう。

 他の品々も危険物だったから同じように全て滅したわ。だから今回は使い道の無い大金が懐から消えただけで済んだので良しとした。

 その機能を知った時はヒヤッとしたけれど。


「亜空間内で時間遡及魔法を行使したから発動こそしていないけど、こちら側で動かしたら神と亜神を内部に吸い込んで封じるそうよ。なんでも(そら)属性の禁忌物らしいから」

「なんて代物を。か、間一髪でしたね?」

「ええ。元々はポンコツ筆頭を罰するためにポンコツ二号が用意した代物らしいわ」

「し、姉妹で何をしているんですか!?」

「ポンコツ筆頭の思いつき創造が原因ね」

「ああ、それは罰せられても仕方ないですね」


 マキナの怒りは良く分かるわ。

 三女を罰するならお尻ペンペンでいいもの。

 こう、スナップを利かせるように、リズミカルにパンパンパンと衝撃を内部まで響かせて。


⦅それはダメ! 思い出させないで!⦆


 三女からの念話で絶叫が響いたが、何れミアンスにも教えてあげないと⦅やった!⦆ね。

 一応、ユランスは使えるけど。

 私達はそのまま両国の河岸を眺め思案する。


「魔族と亜人族、対亜神族の戦争ですか」

「魔族や亜人族でありながら、亜神族の眷属達はどっちつかずよね。私達は違うけど」


 河岸では両国の軍隊が集結を始めていた。

 最初は魔法の撃ち合いが行われ、小舟を出し合っての白兵戦、橋頭堡を造ってからの上陸戦になるだろう。それが両国の戦い方みたいね。

 今は私達の大型船が間を通過中だけど。


「何というかコウモリみたいな気分ですよね」

「本当にそうね。どちらに付けばいいかって」

「というか吸血鬼族は嫌われていますから」

「必然的に竜神族の味方になるでしょうね」

「元々滅びても仕方ない国家ですしね?」

「そうね。ユランスには悪いけど滅しますか」


 そう、口走ったら簡単に許可が下りた。


⦅それで構いませんよ。ゴミ共の思惑に乗せられるような国家は滅びても仕方ないですし、私が止めなさいと警告しても無視しましたから⦆


 神の警告を無視するって相当に不味いわね。

 私はタブレットを取り出して、


「とりあえず、船籍を竜王国に変更させて」


 船橋に控えるナギサに命じる。

 そして敵対行為に対する命令も追加する。

 戦闘指揮所の全兵装解除を実施したうえで王都殲滅の指示も出しておく。一応、対帝国戦でも使うから終わった後は弾薬補充しないとね。

 対帝国戦はシオンの弔い合戦でもあるし。

 シオンは死んでないけど。

 直後、左側面の兵装が全展開された。


「そのまま対地対空戦闘で価値の無い魔国を」

「永久に滅すると。今日の担当は誰でした?」


 右側面はミサイル蓋だけが開いたわね。

 魔国が暴発すれば即滅する気満々だわ。


「砲手はニーナとマサキとマユミね。照準手はシンとアキとモモコね。観測手はミズカとマリーとワンコみたい。内三人は研修中だけどね」

「ああ、獣人族と亜人族が行うと」

「マリーは一応でも吸血鬼族だけど?」

「駄肉壁のマリーが観測手と」


 常夜の二日目だから魔族が暴発すると予測出来るものね。逆に竜王国は昼に攻めるつもりでいるのか兵の集まりが魔国よりも悪いようだ。


「いつ狼煙が上がってもおかしくないですね」

「そうね。常夜中に攻める算段は見事だけど」


 私は下品な笑いを浮かべる魔族を見つめ、


「それなら、いつ暴発してもいいように準備だけは行いましょうかね」

「準備ですか?」

「消した後にシオンから怒鳴られない準備」

「ああ、なるほど」


 死後の処理を事前に指定した。

 転生の(うず)の指定を切り替えただけね。

 シオンの管理ではなく保留水晶の中へと。

 すると周囲から殺気立つ者が溢れ始めた。


「とても心地よい殺気ね?」

「そうですね。久しぶりに感じましたよ」


 私達はベンチに座って見物する事にした。

 三番船は船速を落としつつ魔族が一番多く集まった地点にて停船した。いかにも邪魔だと言いたそうな魔族の視線が周囲から突き刺さる。


「竜王国兵の集まりが悪い場所と」

「魔国兵の集まりの多い場所がここと」


 直後、魔族の魔導士達が魔力を練り出した。

 邪魔だから燃やせと命じた者が居たようだ。


「自ら死を望むかぁ〜」

「魔力充填を開始したわね」

「艦砲も照準を合わせたね」

「滑走路を護る積層結界も全展開したわね」


 そして、


「ついに撃ってきた!」

「あらら、私達を狙ってきたのね」

「炎弾は積層結界で弾かれましたが」


 それが敵対行動と見做され、還元ミサイルの雨あられが左右の発射管から飛び出した。


「お、お母様? 何か全弾発射してるけど?」

「た、多分、王都でしょ? 全百発も必要かと問われると、判断出来ないけど」

「ああ、滅亡が目的ですもんね」


 艦砲からも驚くべき加速で鉛弾が撃ち出され鉄盾を構える魔族共を蜂の巣に変えていく。


「鉄盾で防げるわけないですよね」

「射速をそこらの魔法弾と同じと思ったら大間違いよ。まぁシオンが見たら腰を抜かすけど」

「ああ、かつての蜂の巣を思い出しますか」


 蜂の巣のあとは全てを消し飛ばす還元ミサイルが上空より広範囲で着弾する。おそらく魔国の全てを消し飛ばす照準を行ったのだろう。

 流石にこれは私達も想定外だったけど。


「え? こ、ここまでする必要ある?」

「こればかりは私も命じていないわね。王都は滅亡に必要だから命じたけど」


 するとマキナが〈スマホ〉を取り出してニーナに連絡を入れた。


「ニーナ、還元ミサイルの照準手は誰なの?」

『今の? ああ、還元ミサイルの照準は』


 ガタゴトと音が響き、ニーナが、


『私です』


 マイカに〈スマホ〉を手渡した。


「マ、マイカが何でそこに?」

『かつての身内のしでかした事ですもの! 身内のツケを身内として滅しただけですわ』


 マイカがいつの間にかモモコの席に座って対処に乗っているわね。どうも正妃が竜王国の国土を簒奪したのに開拓したと喧伝したそうだ。

 それなら身内の行いで処罰しても仕方ない。

 マキナは〈スマホ〉を片付け溜息を吐く。


「必要な事とはいえ、罪を償わなくても」

「これがマイカなりの購罪なんでしょ」

「サラサに対してもそうだけど?」

「清廉潔白だから身内の不正が許せないのよ」

「そうなると次代の魔王様になりそうですね」

「セクハラ魔王の手綱を握る裏の魔王様よね」


 そうしてアオリ魔国は完全に滅亡した。

 亜人族と魔族は総じて大地から消えたわね。

 最後に残ったのは昔の街道だけだった。

 その後、三番船は全兵装を再施錠して大運河を掘削しながら海まで静かに下っていった。





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