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第24話 吸血姫はバカ妹に苦笑す。


「それじゃあ、このへんで」

「え? どちらに向かわれるのですか?」


 職員が戻ってきたのなら私達は用済みという事で私はリンスとシオンを伴ってソファを立ち上がる。しかし、大使がなぜか(ほう)け、私に問い掛けた。


「どちらって?」


 私はその問い掛けの意図が分からず、逆に問い返す。


「実は王城から招待状が届いていまして」


 すると今度は職員から声が掛かりシオンが(ほう)けながらも問い返す。


「は? 誰の? 私がここに居ることは知らないわよね? リンスちゃんの事?」

「いえ、シオン様の姉君にです・・・私も直前までは信じられなかったのですが、先ほど確信が持てましたので、納得した次第です」


 しかし、シオンの問い返しに対して職員はしれっと誰相手なのか明かす。私は頭痛のする思いのままリンスに確認してみた。


「リンス、出なくてもいいわよね?」

「私に聞くんですか!?」


 だが、リンスは聞かれると思ってなかったのか素っ頓狂な声を張り上げる。

 私は身分的な意味を主題に起きながら意味ありげな表情で微笑む。


「一応、この場では一番地位が高いから? あぁシオンの方が高いわね? 忘れてたわ」


 そしてシオンの寂しそうな表情を見て、あっけらかんと返した。シオンは私の反応には嫌そうな表情を向けつつ、内心では(やった!)と喜んでいるあたりの変態ではあったが、リンスに対して相手の意図を読みながら問うた。


「出なくてもいいわよ。どうせ・・・ね?」

「ははは・・・そうですね?」


 リンスは苦笑しながらも、意図を完全に把握していたのである。

 しかし──、


「それは困ります!」


 大使は(すが)るように地面に伏して頭を下げる。私はその対応に(あき)れるように言い訳した。


「困るって言ってもねぇ? 私自身、今日身分登録された平民だし」


 だが、その言い訳も職員の言葉により無効化されてしまい私は絶句した。

 それはリンスもシオンも同様であった。


「いえ、カノン様は現時点では王家より上になっておりまして・・・平民では御座いません」

「はぁ!?」


 そして、職員は粛々と続きを語る。


「カノン様はシオン様と対をなすという意味で、登録情報が永久枠に移動しました」


 私はその言葉の意味を〈魔導書(アーカイヴス)〉を通じて理解した。永久枠とは種族情報を管理する部門での秘匿枠を意味し、伝説扱いとされる話である・・・現状ではシオンのみがその枠に当てはまっており、そこに私も含まれたらしい・・・本名で。しかし私は解ってはいるが念のためシオンに問う。


「シオン?」

「あー、そういう事? ということは・・・全員参加中?」


 シオンは意図を完全に察したようで引き()った表情のまま大使に問い掛けると、平伏した大使は頭を上げないまま大きな声で応じた。


「はい! そういう事に御座います!」


 するとシオンは私から視線をそらしつつ有翼種(ハーピー)に〈変化(へんげ)〉しようとした。


「私は居ない者だから、カノン、頑張って」


 だが、私は〈変化(へんげ)〉の途中のシオンを(そら)属性の〈魔力糸(まりょくし)〉で捕縛した。


「ちょ、待っ! シオン貴女も来るのよ? これは絶対命令ね? そうしないと」


 私は〈変化(へんげ)〉終了後のシオンの身体を〈魔力糸(まりょくし)〉で緊縛し、糸の圧力を意図的に増した途端、シオンは胸の違和感に気づき青ざめた表情で了承した。


「ヒッ! わ、判ったから! 行く、行きます!」


 相変わらず先が弱いわね?

 それは私もだけど。




  §




 そのあとの事は割愛するわよ?

 それは王城に呼ばれてからアレコレと身形(みなり)を整えられそうになったり無駄に長い口上とかなんやらがあったの。

 それも通常なら揃わない十三国のトップと貴族達一同が第六十五浮遊大陸に勢揃いしたのだから驚きどころではないわね?

 今が〈常夜(じょうや)(こく)〉だからこその事だろうけどね?

 ただ私自身、社交界とか数千年振りだから正直嫌だったのだけど、昔とったなにやらのおかげでとりあえずは回避出来たわね?

 それでも──、


(だっるぅ〜。媚びへつらいが酷い! 私の従者はそんな事では増やさないわよ?)


 是が非でも自身を従者にと願い出る者がワンサカだったわ。中には同族でも悪意の塊を持った者の居たわね?

 利用出来るならしてやる的なね?

 この辺はシオンを通じて感情が流れこんできたのもあるけどね?

 シオンもその辺は有象無象として知らぬ存ぜぬと無視を決め込んでいるけれど。

 私が一番嫌悪感を持ってしまったのは──


(洗脳済みか・・・こいつは一生ないわね? シオン判ってるわね?)


 そう〈精神干渉無効〉が備わってない者がこの場に居たのだ。おそらくは婿入りだろう。

 王族の(ほとん)どはこの耐性を持つが、中には持ってない者も居り、悪意の塊となってる者はほぼこの手の者であった。


「ロウェル公爵殿・・・少々よろしいですか?」


 その筆頭が現在、シオンが近付きつつ声を掛けた主だった。


「シオン様・・・なにか?」

「いえ・・・貴殿は、一から出直してきた方がよろしいかと思いましてね? ご苦労様でした」


 シオンは声を掛けながら〈無色(むしき)魔力糸(まりょくし)〉を彼に打ち込み、一言二言話してから彼の生命力と記憶を(いただ)いた。


「へ? な! なぜですか!?」


 だが相手も一筋縄ではいかない者だったようで、ふらつきはするが倒れる事はなく、逆に声を荒げて問い返す。シオンは扇子を広げながら口元を(おお)い医師の記憶を開示した。


「なぜもなにも、私達(わたくしたち)を相手に小娘とは・・・よく思えましたね? それとバクス医師を王家に紹介したのは貴方ですね? まさか内側にまで浸透していようとは」

「そ、それはなにかの間違いd・・・」

「間違いであるなら、この記憶はなんなのかしら? 全く困ったものだわ」


 最後は魔力を召し上げながら勝手に倒れた者を白々しく眺め、舌舐めずりした。


「一体なんの騒ぎなのだ?」


 するとリンスのお父上がシオンに声を掛ける。リンスも今日ばかりは仕方なく王女の身形(みなり)に戻り、陛下の後ろで待機していた・・・銀髪姿ではなく金髪姿で。

 倒れた者を陛下が覗き見て話し掛ける。


「ロウェル公爵か・・・ではこやつも?」

「当たりでしたね? 他は逃げ出しましたね? カノンが手を打ってるようですが」


 シオンはその時点で首肯し、粛正と気づいた者達を視線で追い掛けた。私の方で(すで)(いただ)いたけれど。

 逃げ出した矢先にバタバタと倒れたのだ。

 生命力と記憶と魔力が彼等から消え、私に吸われたともいう。ある意味、今回の社交界は陛下の策でもあったようで一同に介した際に一網打尽にするつもりであったようだ。

 それも無意識下で裏切り者となった者を見つけ出すために。

 シオンでさえ前の肉体が奪われたからね?

 その行為の被害者は総じて掃除したけれど。

 シオンは私を介して記憶を読み取り、人族の犯罪者の行方を把握したようだ。


「やはり、流刑島から何人か抜け出しているようですね」

「うむ。困ったものだな」


 陛下もまさかという素振りで頭を横に振る。

 本来であれば命召し上げという手段を執るのだけど、その者にも家族が居り情に流されるがまま島流しとしたようでね?

 結果、逆恨みの犯罪者から足下を(すく)われているのが現状のようだ。

 ともあれ、ゴミ掃除が終わったところで陛下は仕切り直しを行った。


「ひとまず、本題といこうか」


 シオンはその言葉に首肯を示し、背後に立つリンスの名を呼ぶ。


「ですね? リンス王女殿下」

「はい」

「「「「「おおぉー!」」」」」


 リンスは偽装を剥がし金髪赤瞳から銀髪碧瞳へと姿を戻した。リンスの姿を見た者達は一同をあげて大喜びした。

 それは新たなる王家の誕生を意味し、次世代における吸血鬼族の繁栄を(もたら)すと、陛下が先だっての長い口上にて仰有(おっしゃ)ったからだ。

 そしてシオンもリンスの隣に立ち──、


「この(たび)から(わたくし)も覚醒しましたので・・・系譜の者の内、働きのある者から順に〈各種耐性〉と共に〈衝動無効〉を配ろうと思います」

「「「「「!!?」」」」」


 大変ニコニコとした表情のままトンデモナイ事を口走った。私は終始苦笑いではあるが、それが一番欲しい者が多いのも常であり、吸血衝動がなくなるという事は系譜の中でも上位者となりうるという意味である。但し、リンスのような全属性の完全体ではないけれど。

 その間の私はそれまでの様子を壁の花をしつつ微笑みながら眺めていた。




  §




 一方、第六十五浮遊大陸・ジーラ〈ライラ王国〉に王族・貴族が集まっている最中・・・。

 第八十六浮遊大陸──以後は流刑島と呼称する──で勇者に対してなにかが行われていた。


「さ、勇者様方、こちらにお立ちください」

「おう! ここに立てば更に強くなるんだな?」

「はい。従来の経験値増加に加え、更なるスキル(・・・)が与えられるのです」


 それは知の女神()が用意した物ではない、なんらかの魔法陣だった。

 彼は第八十六流刑島・ハイラ〈フェルス王国〉の魔導士長なのだろう。その者が用意したとされる魔法陣に勇者達を立たせたのだ。

 おそらく第八十八流刑島・イースティ〈スティル王国〉の魔導士長やら魔法陣が利用不可となってる事で急遽だが変質した勇者達を隣島へと連れ立って訪れ、こちらでなんらかの措置を(ほどこ)すつもりなのだろう。


「では、いきます」


 そして、第八十六と第八十八の変質勇者達八十八名が大きな空間に敷き詰められた直後、魔導士長・魔導士副長やら魔導士達・・・総勢六百六十六名が魔法詠唱を行い(ほう)ける勇者達になんらかの付与を行っていた。

 それは闇属性の魔力を(まと)い勇者達の魂と脳髄に浸透していく。魔法陣の大凡(おおよそ)の仕組みこそは従来の隷属(れいぞく)陣のようにも思えるが(ほう)ける勇者達はその直後より一部の者を除く全員がトロンとした表情に変わり一種の快楽めいた反応を示した。


「闇属性持ちのレジストを確認。他の者達は総じて人格複製成功、理性崩壊・自我崩壊を確認しました」

「うむ。闇属性持ちだけはどうにも上手くいかぬな・・・」

「それは仕方ないでしょう。次の()の月の夜に施術(せじゅつ)してもなお、レジストするようであれば最悪放逐(ほうちく)するしかありませんな」

「もったいないようにも思えるが、使えぬ者を養う予算はないからのう」


 どうも、この魔法陣は勇者達の変質を更に促進させる物だった。だが、闇属性持ちも数名ほど居たが彼等は書き換えに失敗したとみえ〈()の月〉とは三番目の月が出ている時間帯・・・今と同じ頃合いに行うという事だろう。

 おそらくそれは月が雲に隠れてない時期を指し、一切の(けが)れ・・・瘴気(しょうき)が消えた時期を指すため明確にいつ頃行うかは定かではないようだ。


「次は該当者のみに疑似人格の付与を行う」

「「「「は!」」」」


 他の魔導士達は失敗した者と成功した者をその場で分け、闇属性持ちの者と元より素行不良と記された者達を総じて気絶させ、別の場所に回収していった。

 残りの者達は職業(ごと)(まと)め、別の魔法陣の上に連れていった。

 その間の勇者達は身体が動くだけの人形となり、疑似人格を植え付けられた直後より元の人格同様の者達に変化した。


「凄いぞ! 強い力を感じる!」

「剣速が速くなった! これならSランクの魔物にも勝てる気がするぞ!」

「スキルアップした!! この後、レベルアップに魔物狩りに行こうぜ!」


 結果、従来の勇者達の人格は亡くなったはずなのに以前と変わらない者がその場に(あふ)れた。やはりこれは・・・下界。あれの封印を解いた者が居たようね?

 これは後ほど姉上達に相談しなければ。





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