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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第十章・氷結大地に植樹しよう。

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第237話 吸血姫は本腰を入れる。


 そうして常夜になった。

 竜王国の民達が寝静まる深夜、


「移動開始」

「了解、前進微速!」

「了解!」


 船員達の背後で私は命じる。

 三番船は下部にある無限軌道に動力を伝え、重い巨体を前へ前へと進めていく。燃えていない森の中。前照灯代わりに使った〈銀灯樹〉の灯りを頼りに私達は夜目を使わず進んでいく。

 船橋内には夜間担当者とナギサのみが居る。


「これは、かなり明るいですね。暮金(くれきん)では幻想的な明るさでしたが、実際に使ってみると、日中のような明るさです。まぁ前を進むルーさん達の案内があってこそですが」


 指揮所にも居るにはいるが寝ていると思う。

 なお、現時点でのサラサは賓客扱いなので一等船室でお休み中だ。今回の件が片付き次第、本人の意志を聞いて個室を与える予定である。

 私は前方を眺めて苦笑しナギサに応じる。


「折角の植樹した木々を倒しては元も子もないからね。夜目が利くと言っても、闇夜と同化した木々までは見えないし」


 この〈銀灯樹〉の木々は常夜になるとその明るさが完全に消え、闇の姿に変じるのだ。

 闇に紛れる暗黒の木々という感じにね。

 常陽では煌々と光る深紅の木々なのに。

 月の光を遮る木々。この中で迷ったら最後、常陽になるまでは、誰も動けはしないだろう。

 そのうえ樹木へと背中を預けて眠ると翌朝には火だるまを終えた意識なき死を与える。

 これは闇夜に紛れて竜王国に不法侵入する人族殺しにもなる優れものでもある。植樹した範囲も竜王国の国境沿いへと植えていったしね。

 その分、広範囲になってしまったけれど。


「それに」


 私は紅茶を口に含みつつ、夜間担当の者達を薄暗い船橋の奥から見つめる。

 今は夜目を使わずだから顔の輪郭こそ見えているが、詳細に誰なのかは分からなかった。


「それに?」


 私は表情を真剣なものに変え、オウム返ししたナギサに答えた。


「シオンの経験則に基づく話だけど、奴らはこちらの夜目を潰す戦略を持っているそうよ。常夜最強の吸血鬼族が、人族に連敗した経緯ね」

「よ、夜目を潰す? ま、まさか!?」

「そのまさかよ。私達も人族の目を潰すつもりで暗光弾を用いるけど奴らは神聖光を宿す閃光弾で夜目に頼る吸血鬼族の目を焼いたの。その閃光で隙が出来て蜂の巣にされたそうよ」


 それは謎の敵が攻めてきた数日後の事。

 常夜になっても警戒していた吸血鬼族は謎の敵が完全に撤退したものと思い込み翌日からは治療のみに専念した。

 だが、常夜の最終日、


「シオンの傷があと少しで癒えそうって時に周囲が昼間のように明るくなって」


 先ほど話した事案が起きた。


「ああ、鉛玉があちこちから飛んできたと?」

「夜襲は起きないと思い込んでいた弊害もあったのでしょうね。人族は常夜を避ける傾向があるから、常識に凝り固まった結果、負けたと」

「それで今回は夜目を禁止にしたと」


 それを聞いたナギサは何度も頷いていた。

 どうして夜目を使わないか夕食時には説明していなかったもの。内容的に重い話だからシオンが居ない頃合いでしか話せなかったしね。

 どうしても夕食時は全員が勢揃いするから。


「夜目を使わない経験を与えるためよ。怪しい弾を打ち上げたら即座にゴーグルをかけるか」

「夜目を止めるか、ですか。それでゴーグルに遮光機能があったのですね」

「あれは、そのためだけでは無かったけどね。キラキラと光る氷って眩しいから。スキー用のゴーグルを思い出せば分かるでしょ?」

「ああ、本来はその用途でしたか」

「結果的にはどちらでも使えるから、船員達の標準装備としただけね」

「まるで本来の目的と使用用途が異なる全地球測位システムみたいなものですか?」

「そ、そうなるわね。今は似たような代物が上空を飛んでいるけど」


 しばらくするとルー達が戻ってきた。

 ヘッドセットを装着したルーとアンが、


『魔国の国境門が見えてきました!』

『ここからの進路はどうしましょうか?』


 船橋へと問うてきたので地図を拡げつつ三番船を停船させ、ナギサと共に進路を検討する。


「国境門から国内に入ると面倒(・・)だから、ここからは竜王国と魔国の境を通る大運河を抜けましょうか。サラサが言うには両国の間には橋は架かっていないそうだから、この船が運河を通っても問題はないと思うわ」

「そちらが無難でしょうね。下手に陸路を進むと目立ち過ぎますし」

「まぁ川底までの深さがそこまでないから浮上したまま進まないといけないけどね。ルー、アン。ここから西部に存在する大運河までの案内をお願い。例の森林もここから先は無いから」

『『了解!』』


 命じたのち進行方向を西に向けて三番船は荒野を進む。例の森林地帯を抜けると、私がサラサの父親と相対した場所が見えてくるけどね。


『大運河前に到着!』

『周囲に船影無し! そのまま着水どうぞ!』


 案内の二人は三番船の左右上空に待機した。


「船体停止ののち、浮上開始」

「了解、停止と同時に浮上開始!」

「了解!」


 三番船は船橋人員の操作で暴風を噴き出しながらゆっくりと浮上する。


『て、撤退! 即時てったいぃ!』

『あわわわ、風が凄い!?

『う、上に飛んで!』

『そのまま着地ぃ!』


 ルーとアンは滑走路に逃げたわね。

 そのまま上空に居ると飛ばされるから。

 船橋内では無限軌道の保護作業が始まる。


「底部の異物除去開始します」

「・・・異物除去完了、積層結界展開、続いて多重結界展開、開始!」


 積層結界が展開され多重結界が船体側面から底部に及ぶ。最後に底部の船体色が変化した。

 そこに無限軌道があるとは誰が思うだろう。

 私は展開完了の報告を受けてから命じる。


「移動開始」

「了解、前進微速!」

「了解! 着水と同時に南下します」


 三番船は前進し、水面ギリギリを滑走する。

 少量の水飛沫を周囲にまき散らしてね。


「あとは、あっという間に湖に到着するわね」

「水上から本来の性能を発揮すると」

「陸上でも使えはするけどね。それは帝国領までお預けよ」


 この大運河は西の山から流れてきていて例の森林西部の縁に存在する。大運河の先に湖があって湖の先、南東部に魔国が見えてくる。

 魔国は湖を避けた山間部から平野にかけて。

 竜王国が湖の権利を持つ以上は、開拓移民達が権利を主張するのは、無理な話なのだろう。

 三番船は通常よりも素早い動きで南下する。

 私はサラサから聞いていた事案を思い出す。


「改めて船移動を選択して正解だったわね」


 今は時間が迫っているわけではないが、国境での足止めは確実に行われていただろうから。

 するとナギサがここにきて本音を漏らす。


「え? 正解、ですか? 陸路を進む船というのは、かなり目立つと思っていましたが?」


 私は苦笑しつつナギサの問いに答えた。


「ナギサの気持ちも分かるけどね。実はサラサが魔国から逃げる際に通り抜けた場所がね、断崖絶壁の細道しかないのよ。飛んで逃げようにも上空を警戒する有翼族(ハーピー)が居るでしょ? その細道を乗り物無しで歩いて進まないといけなかったのよ。行商人達も歩きで出入りしているのはそれがあるからでしょうね」

「ああ、総員を率いて行軍が発生していたと」

「行軍だけで済めば、一番楽、なのだけどね」

「え?」


 いや、これを聞くと陸路は危険と思わざるを得ない。これも圧政を行った弊害でしょうね。


「先ずは私達の時間を奪うように国境門で何日も足止めを喰らう。これは王都への問い合わせも含めてね」


 それと共に船内を調べさせろとも言われる。

 必要なら全てを置いていけと強制される。

 そうなったら⦅皆殺しフラグが立つ⦆わね。

 ユランスには悪いけど滅亡させてもらうわ。


「許可が得られたとしても細道を進む間に盗賊が大量発生しているそうよ。サラサも命辛々逃げて、国境門付近に控えていた傭兵に自身が持つ槍を奪われて、刺し殺されたそうだから」

「ああ、難易度が急に跳ね上がりましたね」

「大人数の行軍だから統率面では跳ね上がるわね。私達には暴れ足りないユーコ達も居るし」


 私達なら負ける事は無いだろう。

 全てを蹂躙していけばいいから。

 でもそれだと、というところで、


「「なんで私達なのよ!?」」

「そういえば夜間はユーコ達だったわね」


 私が忘れていた人員が目の前に居たわ。

 今は夜目が利かないから顔までは見えていなかったのよね。


「今は不慣れの者達も居るから不必要な死を与えて、逃した魂魄がシオンに転生処理の地獄を与えてしまうからね。私もマキナも例のゴミ処理を終えるまでは手伝えないし」

「「無視!?」」

「ははは、た、確かに、大暴れする者達を統率しろと言われたら難しいですね。ヒャッハーしている時のフーコは抑えが効きませんから」

「お姉ちゃん!?」

「姉さんの言う通りかも」

「フユキも!?」

「落ち着きが出てきたと思ってもまだまだ子供ですからね。フーコは」

「私だけじゃなくてユーコ達も居るよね!?」

「「フーコのヒャッハーには負ける」」

「なんで!?」


 船橋内は大変騒がしくなったが、そこに様々な要因が重なると、私でも手に負えなくなる。

 それなら大運河を進む方が比較的安全よね。

 私は空になったカップをソーサーに戻してテーブルに置く。


(今度は経験値の話に展開したわね・・・)


 そして簡単なストレッチを行ったのち騒ぎの中心へと語り掛ける。


「そもそもの話。今の魔族の経験値も人族の経験値と大差はないわよ。〈夢追い人(ゴミ)〉をいただく方が一番のプラスになるし」

「確かにゴミの方が美味だったかも。高級店で食べるようなレアチーズケーキかと思ったし」


 するとフーコとユーマが、


「そういえば姉さんだけ味わっていたような」

「うん。ユーコだけ食べていたよね?」


 想い出したようにユーコへと微笑む。

 フユキは操舵中なのでその場から動けないが微笑みだけはフーコと同じだった。

 ユーコは椅子から離れて後退る。


「私だけではないわよ? サーヤとウタハ、マサキとニーナ、マキナも食べていたし! セクハラ魔王はボテ腹だったから食べてないけど」


 二人の気迫に気圧されたともいう。

 するとナツミの隣に座るサヤカも反応した。


「そういえばお姉ちゃんも?」


 私は急に始まった羨望と逃避を眺めつつ、


(仲違いすると面倒ね。魔国にも隠れが居るし見つけ次第この子達にも与えようかしら?)


 思案しながら苦笑するナギサを眺めた。

 ナギサも本音では味わいたいのかもね。


(珈琲党なのに、甘い物にも目がないし)


 私は騒ぐ面々を苦笑しつつ眺めて命じる。


「それなら先の六人を除いた人員でローテーションを組んで捕獲後のゴミを差し上げるわ。魔国にどれだけ潜んでいるか分からないけどね」

「!!?」×13

「セクハラ魔王にもチャンスを与えないとね」


 ケンはボテ腹で味わえなかったし。

 ゴミ掃除も大詰めだから丁度良いと思う。

 総数はまだ判明して⦅残り十億⦆まだそんなに居るの⦅開けっ放しの理由は調査もあったって⦆ああ、何だかんだで保守はしていたのね。


⦅下層の扉は封じて最上層のみ残してるって⦆


 娘達に焼き芋を届けるだけかと思ったわ。


⦅ユランスから報告、そのうち三億が魔国に侵入中。掃除ののち、全ていただいていいって⦆


 そうなると帝国領には七億のゴミが居ると。

 私はポンコツ二号の報告を受けながら、


「湖に着き次第、中心部に停泊して、全偵察機を早朝より発進させてゴミ掃除を行うわよ!」

「!!?」


 ゴミ掃除の命令を発した。





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