第235話 吸血姫は男親に呆れる。
そして後部下倉庫の中央小扉を開けた私は、
「物理防御結界を地面まで展開、完了と同時に外へ出していいわよ!」
オフロード型の自動二輪に跨がる、ライダースーツを着込んだハルミ達に命じた。
「「はーい!」」
流石の私も自動二輪に合わせてヘルメットとゴーグルまで準備している用意周到さだけには驚いたけどね。二人が着るライダースーツも黒銀かつ身体の線がハッキリと見えるそれはもうエロい見た目の代物だった。
私とマキナはそういった代物ではなく、上下の黒ジャージなんだけどね。動きやすさを考慮したら、必然的にそうなっただけなのだけど。
自動二輪が扉から出ていく様を見ていたマキナが隣に立つ私に問いかける。
「大扉の複数の凹みって小型車向けの扉だったんだね。閉じる時に何だろうって思ったよ」
「出入りするたびに大扉を開く必要がないようにね。そのたびに無関係な者達が入り込もうとして入口で固まるでしょ? だから」
「乗り物ごとに小扉を用意したのね」
現に二番船では入り込まれている。
その時は甲板上で固まっていたけどね。
荷物としても入られているから、真上にある荷物用の大扉には感知結界を展開しつつ出し入れするよう変更したのだ。以前は感知結界が内側にあったが今度からは外側へと与えた。
通常は上扉からの出入りは出来ないけれど。
私は物理防御結界上に立ったまま中央小扉を閉じる。ずっと開けっ放しには出来ないしね。
降りた矢先より『ひゃっほーい』しているハルミ達を眺めながらマキナに命じる。
「暖機が終わった頃合いに合流しましょうか」
「暖機というか大はしゃぎだけどね、あれは」
「暖機と思った方が呆れも出ないと思うわよ」
「二人の気が済むまで走らせるって事なのね」
「そうしないと目的地をすっ飛ばすでしょ?」
「やりかねない、それは確かにやりかねない」
私達が止めてと言っても『何だって』って聞かずに素通りしかねないものね。
「鬱憤も解消されるから丁度良いでしょう?」
「乗せる乗せるって言って乗る機会が無かったもんね。甲板上でも乗るかと思ったら陸地が良いとか言って走らせなかったし」
「火動力だからブンブン音も響いているしね。マフラーからも少し多めの煙が出てるわね」
アクセルを吹かしギアを変えて荒野を駆ける二台の自動二輪。隣同士で走ったり、すれ違ったり、飽きるまで続けそうな印象ね。
吸引時の魔力密度も改善されたのか、煙の量からも改善度合いが判断出来た。魔力密度が低かったら少量しか煙が出ないからね。
するとマキナが私の言葉に疑問を持つ。
「ところで、あれってどういう仕組みなの? 石油も無いのにブンブン音がするけど?」
それは最初期の大型四輪駆動車が風力発電だったからだろう。一応、途中で何度か更新しているが、最新の大型四輪駆動車の主機は同一の代物に交換している。力不足もあったから。
「単純にシリンダー内で爆発魔法を発動させているだけよ。右手のアクセルを吹かすと魔力吸引力が増えて爆発回数も増加するの。それでピストンを動かして動力にしているの。円滑冷却魔法を付与しているからオイル要らずの代物ね」
「ガチで石油要らずの乗り物になってるぅ!」
「魔力という代物がある世界だもの。無粋な石油を使うなんてアインス達にも失礼でしょ?」
「確かに失礼だね?」
なお、この主機を造った段階で三女が頂戴と言って造ったばかりの一号機を造船所から持ち去ったけどね。何処で使う予定なのか知らないけど⦅私達が普段過ごす世界ですね⦆何処なのか気になる一言を言うわね、ユランスも。
「だから今後の主流は爆発式の魔導エンジンになると思うわ。空気圧縮式からの更新だけど」
「でもこれって大気汚染にはならないの?」
「微量の二酸化炭素と魔力しか出ないわ。元が爆発魔法だから硫黄酸化物なんて出ないわよ」
「画期的だね!」
マキナとそんな話をしている間にハルミ達の欲求が解消されたのか、二人が戻ってきた。
私とマキナは頭が隠れるフルフェイスヘルメットを被る。黒ジャージに黒ヘルメットというのも少々あれな見た目だけどね。
「「楽しかったぁ!」」
私は物理防御結界から飛び降りてハルミの近くに移動する。
「暖まったのね。それじゃあ、私はハルミの後ろに跨がるわね」
「あ、安全運転を心がけます!」
「そうしてくれると助かるわ」
マキナも同じく飛び降りてサーヤの背後に跨がった。
「それなら私がサーヤのお尻に掴まるね?」
「そこは腰でしょ! なんでお尻な、あん!」
「サーヤのお尻はもちもちだぁ!」
「ちょ、ちょっと、運転が出来なくなるから」
腰に掴まらずとも座面の左右に簡単な持ち手があるのだけどね。マキナは気づいていながらサーヤのお尻を揉みまくっていた。
何はともあれ、ハルミには三番船を挟んで右側を進んでもらい、サーヤには左側を進んでもらった。地図情報は二人のゴーグルに映し出しながらね。二人が装備している品をよく見れば先の侵入で使ったゴーグルだった。
一応、ゴーグルは全員にも配っていたから。
私とマキナは目の前のシールドを降ろしてヘッドセット越しに命令を出す。
「ポイントは全部で五十あるから、蛇行しつつ植樹を進めていくわよ」
『植樹展開は次の地点に着いてから行うんで気にせず先に進んでね』
「『了解!』」
発進しつつ最初のポイントへと向かう。
ポイント指定は例の神器で行っているので間違う事なくハルミとサーヤは誘導されていく。
各ポイントは私が奇数点を、
「ポイント一に到着、一発目を植樹!」
マキナが偶数点を担当する。
『ポイント二に到着、二発目を植樹!』
そして三番船の進路に影響しない少し離れた場所で封印水晶を地中へと強制転送していく。
次のポイントに着くと同時に鍵言を発する。
「ポイント一、転生植樹!」
『ポイント二、転生植樹!』
それは次の植樹を行う前に発したのだ。
瞬間を目撃したハルミとサーヤは驚いた。
「うわぁ! 凄い勢いで芽が出たと思ったら」
『一気に伸びて、大きな針葉樹になった!?』
「しかも伸びきってから燃えだしたんだけど」
『初見だと山火事か何かと思うよね、これ?』
「そういう代物なのよ、この〈銀灯樹〉はね」
『常夜の灯り向けの燃料になる優れものだよ』
「『へぇ〜、そうなんだぁ』」
二人の反応は淡泊だけど。燃えている段階で燃料と言われてもピンともこないだけね。
「次行くわよ。ポイント三、三発目を植樹!」
『了解! ポイント四、四発目を植樹!』
ちなみに、この順番を護らないと封印水晶の樹木がその場で展開されてしまうのでマキナが間違わないように事前に伝えていた私である。
連続五十回も行うから慎重にならないとね。
そんな植樹を終わらせ展開というところで、
「何者だ!? 名を名乗れ!!」
竜王国の兵士と出くわした。
おそらく燃える木々が増えているからと報告を受けて来た者の一人だろうが。
私達は無視して植樹を行ったけどね。
『最後の植樹いくよ! 転生植樹!』
「転生植樹! っと」
私は振り返りつつシールドをあげると槍の穂先が向いていた。何故か一人しか居ないけど。
それは兵士というより厳ついオッサンね。
「名を名乗れと言っているだろうが!」
「脅しながら名乗れってどういうつもり?」
「奇妙な格好の者達が居ると報告を受けた」
「報告を受けて、すっ飛んできたと?」
「しかも妙ちくりんな魔道具を展開して」
「魔道具に見えたの? ただの水晶じゃない」
「燃える木をこの地に植えているではないか」
「荒野に木を植えて何が悪いのよ?」
「それを見過ごす我ではないぞ!」
「たかが兵士が何を言っているのやら?」
「事と次第によっては」
「こちらの言い分を聞かずに穂先を向ける者の台詞ではないわね」
「この場で我自らが討ち滅ぼしてくれる!」
「はぁ〜。話にならないわね」
それを言われて怯えると思ったのかしら?
ハルミはきょとんとしつつ首を傾げる。
私はヘルメットを脱いで、笑顔で煽った。
「だから?」
だって怖く無いし、命を扱う事に長けた者を相手に討ち滅ぼすとかバカの言い分でしょ?
「だ、だから、だとぉ!?」
「目的を聞くなら武器を降ろしなさい。話はそれからよ。それと相手の技量も分からずにバカみたいに喧嘩を売るのは、命知らずと蔑まれても仕方ない所業よ。それはお分かりかしら?」
「な、なんだとぉ!?」
すると兵士は一瞬で真っ赤に染まる。
それくらいで怒るとかバカでしょ。
直後、何を思ったのか槍を投げよう屈んだ。
「い、今すぐ、討ち滅ぼしてくれるわ!」
それは投擲体勢ともいうけれど。
生命力を練り上げ魔力に変換する。
魔力を槍に纏わせて氷結させていく。
「これは瞬間凍結魔法かしら?」
「ふん! 見る目だけはあるらしいな!」
「術陣が杜撰過ぎて馬鹿馬鹿しいだけよ」
「ほざけ! どうせこの一撃で終わりだ!」
ただね、纏わせる速度が遅いこと遅いこと。
「死にたがりがここにも居たわ、私が降りたら少し先で待機してて」
「りょうかい!」
私はハルミに命じつつ背後から降りて神力結界を完全解除する⦅手出ししては駄目な神に喧嘩を売っちゃった⦆ポンコツが何か言ってる。
私が降りた事を好機と見た兵士は、
「バカめ、自ら死地に飛び込むとはな!」
笑いながら魔力を込めて槍を投げてきた。
「こちらの台詞だわ。遅い投擲ですこと」
レベル5500の前では、いくら頑丈な槍といえども、軽くへし折れる爪楊枝である。
瞬間凍結と思ったらただの冷却魔法だし。
術陣が杜撰とは陣の理解がない事を言う。
私は遅い穂先が刺さる前に左手で掴み、
「よっと!」
「なっ!?」
驚くバカの前でくるくると槍を回しながら魔力を捕食して残りの槍を軽い調子で返却した。
「微妙に甘塩っぱいけど、お返しするわ!」
「なんだと!?」
「死んでも恨まないでね!」
「ぐわぁ!?」
投げた槍は音速を超え、兵士の心臓に刺さりながら、明後日に飛んでいった。
私はヘルメットを被りつつマキナに聞く。
「これって、ホールインワン?」
『こちらから見たけど湖にドボンだったよ』
「あらら、逝けポチャしたのね」
『ところでアレ、サラサの父親だったけど』
「あれが例の脳筋だったのね。聞く耳を持たず一方的に怒鳴ってきたから、何かと思ったわ」
意図せず竜王を滅してしまった件について。
⦅別に死んでも構いませんよ。サラサの母親がバカな亭主を王都から追い出したあとですし⦆
もしかして竜王国って女王が上に立つの?
⦅はい、竜王国は女尊男卑国家ですので。勝手に嫁に出した事で辺境追放刑となっています⦆
それで一人しか居なかったのね。
誰からも相手にされず、森の近くを歩いていた行商人から報告を受けて、飛んできたと。
でも、地下資源に関しては?
⦅女王が身重だった時に行った案件ですね。その時は百叩き刑を喰らって次は無いとの話で⦆
あぁ、またも暴走して罰を喰らったのね。
これを聞くとロナルドがサラサに同情しそうな気がする。ロナルドも父親がバカだったし。




