第230話 吸血姫は新種族の理を得る。
魔族国家へと向かう道中。
私とマキナは操舵指示をナギサに委ね、
「この子の魂魄はっと・・・」
「シオンお母様が間違えて処理してなければ」
「あるはずよね。ここに」
「うん、波長に合う魂魄は何処かな?」
ログハウスの再誕工房へと移動して、プカプカと浮かぶ魂魄を見て回った。この工房の保管庫には転生待ちの魂魄が主に集められている。
手前から順に混在族・人族・亜人族・魔族・亜神族と分別したうえで管理しているが、今は混在族の保管庫を凝視している私達だった。
この分別機能は封印解放の前に設けた物で、
「人族が無駄に多いね」
「大半は合国民だもの」
「漂白して放出したい」
「それは分かるけど分別が先よ?」
「分かってるけど、救ってってうるさいもん」
「ゴミの発する声は無視でいいわ」
その前に死亡した者達は総じて混在族に集められているのだ。これも追々分別しないとね。
シオンには新しい保管庫を優先して転生処理を行うようにと伝えているので、こちらの数は一向に減っていない。新しい方は二十億となっていて、合計で六十億の魂魄が収まっている。
それを知ると軽く目眩がしそうだけどね。
なお、再利用不可の〈夢追い人〉は既に処置済みだからこの中には居ない。
「波長を追っているのに、か細いのかな?」
「新しい子だから奥には居ないと思うけど」
元々ここは眷属達の再誕にのみ使っていたが全ての再誕を済ませた事で、今では保管庫だけになった。そのため、船内にあった再誕工房は無くなり、鍛冶工房と錬金工房のみとなった。
一応、隣の産卵部屋へはルー達が頻繁に出入りしているが、こちらの再誕工房へは私とマキナくらいしか出入りしていないのが現状だ。
「まさか裸に剥いたから恥ずかしくて?」
「いやぁ? それで出てこないって事は?」
「無いとも言い切れないよ? 女性だし」
「バスタオルで下半身だけ隠しましょうか」
専用魔法で検索してもいいのだけど直接見た方が手っ取り早いのよね。形状回復を行った遺体を裸に剥いて横たわらせているのも、本人に出てきてもらうつもりで置いている餌だ。
「出るところは出てて」
「凹むところは凹んで」
「理想的な体型よねぇ。お尻もそうだけど」
「おっぱいも大きすぎないし」
「豊満と思ったけど盛っていただけね」
「それでも美乳だよ? 薄く桃色だし」
「確かにね。腹筋も割れてて、綺麗ね?」
そう言いつつバスタオルを下半身にかける。
上半身はそのままに保管庫へと視線を戻す。
「中で動きはある?」
「奥にふよふよと往復している子が居るよ」
竜神族の女性を何度も眺めつつ魂魄を探す。
肉体に残る微かな生命力から波長を把握するしか手が無いのよね。亜神族は人族やら魔族とはその仕組みからして違うから。眷属は除く。
内から溢れる生命力を練って魔力変換する。
変換した魔力を練って魔法を行使する。
私達が行う神力を変換する術と同じだ。
少々手間だが魔力が不足し易い下界では有用な術である。基本的な生命力はともかく私達の神力も無限に放出が出来るしね。
最近の魔力は〈魔力炉〉に神力変換した生命力を焼べているので無限に近いが。
何はともあれ、魂魄がようやく見つかった。
「あの子ね、捕獲!」
「わぁ!? に、逃げた!」
見つかったが捕獲魔法を使ったらビュンっと逃げ出された。捕まりたくないって不思議ね。
その動きに私とマキナは呆気に取られる。
「金魚かと思うほどの素早さね?」
「金魚、まぁ見た目からして似てるね」
なので敏感な場所に触れてあげた。
「それはともかく、ここを揉んだらどうかしら。遺体なのに凄い感触ね。ツルツルしてて」
「私も失礼して。あ、戻ってきた!」
奥へと逃げた金魚が戻ってきた。
手前に出て来て少し色味が赤い。
「近い位置にあるから感じたのかしら?」
「何処を揉んでるのぉ!? って怒ってる」
「額の角を揉んだだけじゃないの」
「角が一番敏感なんだね」
そう言いつつ引き続き揉んであげた。
私が左をマキナが右を優しく丁寧に。
「もうやめて! って言ってる」
「繋がりは無いのに感じると?」
「気持ちの問題じゃない? 遺体だし」
「ああ、それもそうよね」
そう言いつつ私は捕獲した。
尻尾を掴み、局所的に触る。
(ここが胸なのね。こちらがお尻っと)
ピクピクと反応するのが面白い。
そのうえで〈鑑定〉しつつ名前を読む。
「確保っと。えっと、名前は」
「言わないで! って叫んでる?」
まるで活きがいい金魚よね。
叫び声は私にも聞こえるが今は無視だ。
「名前はサラサ。サラサ・セリア、名称的にアオリ魔国の隣のセリア竜国の姫君のようね」
「お姫様だったかぁ。王族がまた増えた」
「言っちゃったって、呟かなくても」
「そのお姫様がなんであんなところに?」
私達は捕獲した魂魄を浮かせたまま事情を聞く。見た目的には結構シュールよね。
今すぐ肉体を与えてしまえばいいのに。
その事情を聞けば反応に困る内容だったが。
「魔王との婚姻が嫌で」
「命辛々逃げ出した、か」
逃げる際に魔国が雇った謎の傭兵の槍で射貫かれて一号車の側面に激突して気を失ったと。
そのまま失血と凍結を喰らいここに居ると。
一応、魔国は私達の顧客でもあるのでこの場ではその手の話を伏せておいたが、マキナは相手の情報に疎かったのか私に質問してきた。
「アオリ魔国の魔王って、どの種族だっけ?」
「えーっと、確か、ホブゴブリンだったような気が? 直前までは吸血鬼族だったけど決闘で負けたそうよ」
「は? 吸血鬼族がホブゴブに?」
「ええ、銀剣で胸をね」
「あ、あ〜」
私は思い出しつつ何とか答えた。
決闘で負けたとの情報がユランスから届いて頭痛がしたのを覚えているもの。
ホブゴブに負ける吸血鬼って何ってね。
これも直接的な眷属では無いから弱点を突かれただけなのよね。
その血縁はマイカの実家、ルージュ公爵家の遠戚が興した小国との話である。
「あ、それで合ってるみたい」
泣き出しそうな雰囲気を醸し出す魂魄。
ハンカチを手渡したら拭いそうな印象だ。
「それで、ホブゴブとの婚姻が嫌で」
「逃げ出したと。一応でも魔王だから、嫌でもそこは立てないと国交的に不味いでしょう?」
「分かっているのね。というか何で婚約してるのよ。種族違いで子を成せないのに」
そう、亜神は亜神同士でしか婚姻出来ない。
同種の竜神族か天神族⦅姉上の眷属⦆が対象となる。オーガ族は対象外よ?⦅そうでした⦆
「精々、処理道具に使われるのがオチなのに」
一応、肉体関係を持つ事だけは可能だ。
だが、そこから先は何も起きないのだ。
いくら同じ長命種であろうとも、女神の眷属とただの魔族ではどうあっても子は成せない。
するとボソボソとだが魂魄が呟いた。
「ん? 出来るって言われたの? 誰に?」
「アオリ魔国の先代魔王? いや、出来ないでしょ。あれはただの魔族よ」
「本国の一族ならともかく、ねぇ?」
どうせ自分達も本家と同じ種族になったと言い触らしていたのだろう。それを真に受けて娘を差し出した竜王が如何に⦅脳筋⦆か分かる。
本当に脳筋なのね⦅脳筋ですね⦆マジか。
「間諜経由で間違った情報が伝わったのね」
「魔王国の件が悪い意味で利用されたと?」
「とりあえず、マイカを呼びましょうか?」
「それがいいね。遠戚の暴走が竜王女を殺す切っ掛けになったから。私が呼んでくるよ!」
「お願いね」
マキナは私の提案に乗って三番船に戻った。
マイカは医務室に居るから呼べば来ると思う。セクハラのケンは格納庫だから来ないが。
ケンがここに来たら彼女の裸体と御対面してマイカによって血の海に沈むからね、ケンが。
私は丁度良いと思いつつ遺体の種族情報だけを回収して魂魄を両手でガッシリと掴んだ。
「それと、話しづらいから生き返ってね?」
『え?』




