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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第十章・氷結大地に植樹しよう。

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第229話 吸血姫は段取りを済ませる。


 そして風呂上がり。

 湯冷めしない程度に身体を冷ました私は真っ昼間ではあるが、臨時拠点としていた空気浮揚艇から、三番船への乗り換え指示を出した。

 臨時拠点の中心部に現時点での総員を集め、


「今から、こちらの三番船に乗り換えるから、総員準備を開始して!」

「はい!」×59


 大まかな指示だけ飛ばして準備を見守った。

 両隣に立つシオンとマキナは見守る側だけどね。ナギサもマキナの背後に立って総員達の姿を微笑ましい表情で見守っていた。

 見守りながらも文句も飛んできたけど。


「まぁた、突然の移動ね」

「シオン。お留守番ご苦労様」

「好きで留守番していたわけではないわよ?」

「そうだったの?」

「気づいていないみたいだけど先のマキナが撃ち殺した者達の中に普通の者達も居たからね」

「ああ、転生処理で真っ青になっていたのね」

「そうよ! 急に増えたから終わらないって」

「そういえば十数名ほど? それは悪い事をしてしまいました。すみません、シオンお母様」

「べ、別に謝って欲しくて文句を言ったわけではないわよ? た、ただ、今度から状況をね」


 問題児の〈夢追い人〉は私達の管轄だから一括拒否で賄えるが普通の者達の処理は分散している関係でシオンに丸投げ状態になっている。

 それでシオンの文句が飛び出したから反省していない様子で私とマキナは応じたのだった。


「「善処します」」

「ぜ、ぜんっ!? 反省してないでしょ!?」

「まぁまぁ、今回は盾に使われたって事でしょう? どれだけ有能な主様達でも出来ない事もございます。それを一番良くご存じなのは?」

「うぅっ。そ、そうね、そういう事にしておくわ。今度から気をつけてよね?」


 ナギサの言う通り、その手段に出るような輩が(ほとん)どだしね。

 私達が反省したからといって、ね?

 それに一方を護って一方を殺すなんて面倒くさい真似は流石に無理である。上空からの爆撃だと無差別殺戮になってしまうから特に。


「「善処します」」


 総員は眷属ともあってか返事では元気いっぱいだ。だが、分かっていた事とはいえ返事を終えるとあちこちから文句を垂れる者が現れる。

 中心部から離れつつ車内に入る者達の中、


「乗り換えがいきなり過ぎるでしょう」

「まぁまぁ厨房の設備はそのままだし」

「気にしていては後が持ちませんよ?」

「そうだけどさぁ。もう少し、使い続けたかったじゃない? あの大厨房」

「た、確かにそうだな?」

「使い慣れてようやくってところでしたね」

「もう少し空気をさぁ? まぁ命じられたらやりますけどぉ!」

「私達は断れないですよね」

「そ、それはどうしようもない」

「「「・・・」」」


 調理担当達からの文句が多かった。

 ミーアとニナとアンディは沈黙しているが、レリィとコウシとレイからの苦情だらけね。

 慣れた頃合いで『元に戻ります』だものね。


「これは空間に余剰があるから大厨房だけ移設するのも止む無しね。こうなると通常の小厨房と併用させてもいいでしょう。人も増えるし」

「そうですね。ところで誰が何処を受け持つのですか? お母様?」


 私はマキナから問われてので手元にタブレットを取り出し担当場所の一覧をマキナに示す。


「増員は調理担当に一人、今回から副長補佐を無くしたから、アナの配置転換を行ったうえで商会向けの上部倉庫に三人、日中の船橋員に三人、夜間の船橋員に三人、医務室に二人、滑走指揮所に二人、他の船員も担当場所をそれぞれ変更しているわね」

「あらら、(つがい)になった者を同じ場所に?」

「ここで引き離すと苦情が出るでしょ?」

「ああ、確かに」

「託児所に居る者達は担当から外れるけどね」

「ゴウががっくりしてそうだね?」

「シオンは引き続き託児所固定だけどね。子供に人気だから、シオンの乳が出ないおっぱい」

「それは適材適所だからいいと思う。どうせ船橋に居たところで文句を垂れてくるだけだし」


 すると、七号車から後部下倉庫へと収める動きを始めたので、私とマキナは中心部から離れて、それぞれの担当車両に移動した。ナギサに背中を押されて、涙を流すシオンを放置して。


「あ、姉と娘の扱いが酷い」

「どんまいです。シオン様」


 酷いと言いつつ濡れてるの知ってるからね?

 シミを作るのはハンカチだけにしなさいね。

 私は三号車が倉庫に進む様子を眺めながら、


(あとで五・六号車に移動して船体の余剰空間に移設して扉を繋げないと。厨房と風呂の間にも残っていたはずだし、後は水回りの配管も)


 一人でポツンと考え事を行った。

 実はこの三番船は本来なら二番船と同等の大きさにするはずだった。だが、超大型船と分かった途端に大きすぎるのも問題があると思って縮小したのだ。

 それもあって三番船の内部は二番船と同等の広さで拡張されていて、設備の有無で余剰空間が出来てしまっているのだ。一つは弾薬庫が消えた事も大きい変化だけど。


(さて、二号車も入ったし、移動っと)


 私は一号車を浮かせたのち倉庫内へと入っていった。内部には移動台を設けているからそこに乗るだけで良いのだ。回転台で回りながら複数の車庫に収まるというね。

 大まかに五十台の乗り物が収まると思う。

 入口も少々高い場所にあって空気浮揚艇でないと出入りが不可という感じである。これは物理防御結界で通り道を設けるので問題は無い。

 ただ、中と外の違いがありすぎて、ナギサとマキナ達は終始ポカーンとしているけれど。

 その直後、倉庫の亜空間門を通り抜けている最中、妙な物音が背後から響く。

 私は窓を開けて振り向いた。


「ん? 外からドサッて音が?」


 マキナとナギサは倉庫口から外に顔を出す。


「後部に何か貼り付いていたみたいだよ?」

「亜空間門を通り抜ける際に除去結界の魔力還元で引き剥がされたようですが、あれは?」

「人? 魔族? 原型を留めていないよ?」

「瀕死というかミイラみたいですが」


 私は一号車から降りて後部の汚れを把握しつつ綺麗に浄化した。


「血汚れが付いていた? っと、移動開始」

 

 一応、一号車の片付けを優先したが。

 入口前にいつまでも置いておくと邪魔だし。

 移動台がぐるりと動いて下にある車庫に収まった。大型は下、中型が上、小型は扉の端ね。

 そののち、マキナ達の元に向かった。


「あら? 本当に居たのね」


 すると確かに地面へ転がる物があった。

 ミイラとなっているのは瀕死で凍結を喰らって解放と同時に乾燥したからだと思うけどね。

 マキナも詳細を鑑定したようだが、


「これなんだと思う? 魂も無いんだよ」


 凍結乾燥後の肉塊と出るだけだった。

 干し肉かと思ってしまう表現よね。

 ナギサも所々に残る部位を観察していた。


「見た感じ人族では無さそうですが?」


 この状態だと男か女かも分からないわね。

 種族すらも不明過ぎるのよね。

 だから私は意を決し、


「これは時間遡行でもしましょうか」

「それしかないかな。魂を検索しようにも」

「ええ、見た目が不明過ぎると探せないし」

「ですね」


 マキナ達の賛同を得られたので、その場でミイラに対して時間遡行魔法を行使した。

 すると見るみるうちに元の形状に戻る。


「「おぉ!?」」


 形状を取り戻す内に豊満な胸と白銀の長髪と褐色肌の綺麗な顔立ちが蘇る。衣装も込みで。

 一番の驚きは額にオーガ族を思わせるような鋭い角を二本生やしていた事だ。背中にも小さいながら白銀の羽根を生やしている。

 その姿を見た私は大いに驚いた。


「あらあら、珍しい種族じゃないの」

「「こ、これは!?」」

「竜神族かぁ。ユーンスの眷属が無事死亡」

「「竜神族!」」

「この世界に現存する神族の一つね」

「神族なんてこの世界に居たの!?」

「マキナ、私達は何なの?」

「あっ。そういえばそうでした」


 しょんぼりのマキナ。

 私はマキナを撫でつけながら溜息を吐いた。


(まったく、自分の種族を忘れるって)


 憑依体に宿っている以上は仕方ないけどね。

 私は仕方なく種族の詳細を語る。


「明確に分類すると彼女は亜神族になるわね」


 それは〈魔導書(アーカイヴス)〉で知った、この世界の種族一覧を元にした物だけど。

 ナギサは真剣な表情で私を見返す。

 マキナは興味津々なまま問い返す。


「亜神族? そ、それって」

「女神の眷属、私達でいうところの吸血鬼族みたいな者達ね。今の・・・吸血鬼族と一部の魔族と獣人族も亜神族に分類されているけどね」


 いや、いきなり更新しなくても。

 更新したのはポンコツ⦅てへ⦆のようね。

 私の眷属はそのまま亜神族になったと。

 ナ、ナギサの表情が凄い事になっているが。


「わ、私達が亜神、ですか?」

「そ、そうなるわね。この子達からしたら新神扱いになるから偉そうな真似は出来ないけど」

「おぉ! う、うれしいです!!」


 魔族ではなくなったからか知らないが、ナギサは感激で涙を流して私を祈った。そんなナギサ臭に引いたマキナは少しだけ距離を取る。


「それで、他にも居るの? その亜神って」

「一応、天神族も居るわね。そちらは上界、第九浮遊大陸・ルティマ〈ティシコ王国〉の山中に潜んでいて、ショウ達を金色にしたイメージと言えばいいかしら?」

「金狐!?」

「ええ。ポンコツ、いえ、ミアンスの眷属でもあるそうよ。ただ、絶対に出会う事だけは無いから、記憶の片隅に置いておくだけでいいわ」

「そうなんだ・・・」


 そう言うしかない⦅酷い⦆山中でしか会わない種族だもの。国王が祀って神域にしているから会うことも無いし⦅そうだった⦆おいおい。

 マキナはしょんぼりしているけどね。

 ともあれ、ずっと下に遺体を放置するのもあれなので私は亜空間庫に片付けて扉を閉めた。


「魂検索は出港後に行うわよ。どのみち、この大地の魔族国家に向かわないといけないし」

「そういえばそうだった!」

「急ぎ準備しましょう!」


 そうしてナギサ達は内階段を登り、後部上倉庫との境にある内扉を開けて船橋に向かった。

 一方の私は五号車と六号車の中へと入り、


「食料庫と大厨房の空間結合を解除、空き区画に割り当てて扉を廊下と小厨房に表出させて」


 亜空間庫へと移動させた二部屋を船内の該当箇所へとあてがった。すると、五・六号車の後部空間は何も無い広いだけの空間となった。

 残りの三・四号車も同じように解放して空き区画へと全て割り当てた。風呂と医務室の間になったが、今後は楽しむ者で溢れるだろう。

 七号車だけは、そのまま中身を移動させるだけなので、ハルミ達が勝手に片付けると思う。

 一号車と二号車の内部は弄らず、温泉水を湯船から抜いて乾燥させるだけになるだろう。


「あとは輸送車両として使ってもいいわね」


 後片付けを終えた私は奥の扉を開けたのち、下部廊下を進んで動力管理室の中へ入った。


「待機状態から稼働状態へ移行、動力管理を船橋に部分移行・・・」


 実はこの部屋の隣に魔核(コア)が収まる亜空間が存在していて、特殊な経路を通って船内各所へと必要な魔力を繋げているのだ。その隣には〈還元転換炉〉と飲み水タンクも存在している。

 そしてここでしか行えない検査等を実行し、


「下部動力に魔力経路接続、船体検査開始、主動力、メインシャフト、異音無し、異物無し」


 出港前に行う動作確認等を終えた。


「動作信号を黄から青に、完全遮音を通常状態へ、神級の通過結界・魔法防御・物理防御の多重結界を最大稼働に移行・・・完了。船橋へと機能の部分移行も行って」


 これらの段取りを先に行わないと、船橋でどれだけ弄っても三番船が動くことはない。触る事は可能だが、ロック状態のままになるのだ。


「この動力管理室の人員も決めておかないとね。まぁマキナと私が行えばいいのだけど」


 私が管理の一部を移行させた事でようやく船内の音が響き出した。完全遮音が最大稼働していたから、音が内外に出て無かったともいう。

 但し、風呂もとい大浴場と脱衣所は除く。


『あ、動いた。総員配置につきました!』


 ナギサの反応から報告が入ったしね。

 私が何処に居るのか分かっていないから全体に音声を通したようだ。

 それを受けた私は扉を閉めて鍵を掛ける。

 鍵を掛けると内部が亜空間へと変化した。

 そして廊下を船首に向かって進み、直通エレベーターに乗って上部の船橋へと移動する。


「お待たせ。直ちに発進して。目的地は南部の魔族国家!」

「了解! 南部、魔族国家へ進路を取れ!」

「了解」


 直後、船体の無限軌道が動き出し、船体の向きを東側から南側へと変更していく。

 船体に揺れは無い。揺れが無いまま船体の向きが九十度、変更されただけだ。


『おぉ! 揺れないよぉ!』

『セツもこれで酔わなくて済むね!』

『セツの胸が揺れないだと!?』

『シロ、そこは空気を読みましょうよ』


 上部滑走路のベンチに座る者達が何か言っているが今は無視ね。甲板下での釣りが出来なくなったからナディは少し元気が無いけれど。





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