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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第十章・氷結大地に植樹しよう。

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第227話 地上試験を終えた吸血姫。


 ダンジョンの外に出ると騒ぎが起きていた。

 それは良い意味でも悪い意味でも。


「気候が昔のように戻ったぞ!」

「神が、神が我らを許して下さったのだ!」

「遂に、我らの、行いが、むく、報われた!」


 良い意味は教会内の神官達が号泣していてあちらこちらで歓喜の叫びを上げていた事だ。


「何故だ!? 封印が何故解除された!!」

「それよりも撤退致しましょう、殿下」

「ここは危険でございます、殿下」

「衛兵が押し寄せてきております、お急ぎを」

「各支店も撤退する動きが出ておりますので」

「何故だ!! 我が何故こんな目に遭わねば」


 悪い意味では例の商会内に居たとされる帝国皇子が教会外で騒ぎ、再封印を行おうと部下達の羽交い締めに遭っている事だろうか。


「ここにも居たのね〈夢追い人〉が」

「皇子としても転生していたんだね」


 支店の場所は教会監視が常時可能な目先に存在していて荷車に荷を乗せる商人が多かった。

 他の場所にも商会の支店が在ったという事は監視目的で建てられていた店舗なのだろう。

 他国では重点監視をしていなかったのに氷上国では重点監視していた事が不思議だったが。


「一体何人が紛れ込んでいるんだか?」

「とりあえず、こいつらも掃除する?」

「ええ、撤退前に喰っていいわよ、ケン以外」

「はい!」×6

「なんで!?」


 それを聞いたケン以外は喜びながら〈無色(むしき)魔力糸(まりょくし)〉を商人達へと伸ばしていた。途端に体力と魔力を失い地に伏す商人達と帝国皇子。

 そのどれもが〈夢追い人〉だったようで美味しそうな表情に変化した六人だった。ボテ腹のケンは愕然としたまま固まっていたけれど。


「うっぷ」

「ボテ腹のままだと風味が味わえないでしょ。それを吐き出してから行えばいいじゃん」

「あ、ああ、そういうことか。げぇぇ」

「ここでじゃなく、あっちでやって!」

「あ、ああ」


 マキナから怒られて側溝で吐き出すケン。

 その間のマキナは風味に酔いしれていたが。

 ドバドバと腹から押し出される大量の水。


「よっしゃ! これで・・・え?」


 スッキリした顔のケンが振り向くと全て終わっていた。


「ごちそうさまでした!」×6

「そんなぁ!?」


 ケンの行動で、私達も欲を出すと全てがダメになるという反面教師になったわね。


「濃厚ってこういう事を言うのね」

「頻繁に転生を行った者って経験値も膨大ね」

「レアチーズケーキを食べたみたいな?」

「それが正しいと思う。酸味もあって」

「甘みもあって、時々苦みがあって」

「複雑に絡み合う極上の味わいだったわ」

「俺も味わいたかった!?」

「次こそは良いことがあるよ、きっと」

「うぅ」

「帰ったらマイカに慰めてもらいなさい」

「うん」


 こういう時だけは素直なのね。


(いえ、マイカの尻に敷かれているのかも?)


 私達は地面に突っ伏す問題商会員達を無視して着替えを始めた。僧衣のままも問題があるので〈希薄〉したままその場でね。


「ブーツが蒸れるから脱いでいい?」

「脱げばいいんじゃない」

「それなら下はサンダルでいいか」

「パンツを穿いて、スカートに履き替えて」

「上はキャミソールでいいよね?」

「ヌーブラあるけど使う?」

「ブラは流石に、って」

「「・・・」」

「ケンはこっち見んな!」×6

「う、うっす!」

「マー君はこちら側へ」

「ぼ、僕も男の子だよ!?」

「マー君にも下着とブラを着せて」

「だ、だから!?」

「いいなぁ、マサキ。というか、俺って一人称が消えたのってニーナに染められたからか?」


 それぞれの格好は僧衣から熱帯地方を歩く観光客の姿になった。極寒からの変化だもの。

 ユーコは青ホットパンツに黒キャミソール。

 サーヤは紺のミニスカートに白いTシャツを結んで、白いお腹を魅せる格好になっていた。

 ウタハとニーナはロングスカートのワンピースを選択していてウタハが茶色、ニーナが白色を着こなし、大人びた雰囲気を演出していた。

 足下は四人ともが色違いのサンダルね。


「「どうよ?」」

「「二人とも似合う〜!」」


 マサキはマキナと同じゴスロリとなった。

 マキナが紫色ならマサキが白色というね。

 足下は同系色のパンプスとなった。


「な、なんで、僕だけ?」

「似合っているからいいじゃない」


 マサキは恥ずかしそうだが似合っているわ。


「お、俺は?」

「・・・」×6


 ケンは何故か作務衣だったが誰もが無反応。


「ケンはマイカの前だけで格好つけなさい」

「う、うっす」


 似合ってはいるけどおだてると面倒だもの。

 ケンの嫁であるマイカが絡んでくるから。

 私は紺色のソフトジーンズと薄い水色のブラウスを選んだ。下はヌーブラだけどね。

 足下は素足に紺色のパンプスだ。

 髪も暑さ対策でマキナ以外はポニーテールにマキナだけはハーフツインに変えていた。

 ツインテールはルーナの髪型と被るからね。


「このまま観光しつつ戻るわよ」

「はーい!」×7


 問題が解決したも同然だもの。

 少しくらいのんびりしてもいいでしょう?

 最終的に汗だくになってから戻るので温泉も心地よいと思えるのよね。

 そこで私はある事を思い出す。


「おっと、問題児達の魂だけは回収しないと」


 実際に転生申請を無視していたからね。

 街中で一括拒否したら大事だもの。

 王都内に木々が溢れてしまうから。


「解放済封印水晶の再利用が叶って助かるわ」


 マキナはきょとんとしたまま振り返り、


「こいつらを転生させるの? お母様?」


 私に問い掛けてきたので封じつつ応じた。

 マキナの右手人差し指は突っ伏した商人達に向かっているけれど。


「いいえ、問題児達を外に植え替えるのよ」

「ああ、荒れ果てた大地の木々とするのね」

「そういう事よ」


 相当数の問題児達が王都内に居る。

 それは衛兵に追い詰められて安易な死を選択し転生申請してきた者が(ほとん)どだ。


「王都外にも居るだろうけどね。残存が」

「なら今後は定期的にこちらに植えると?」


 マキナも問い掛けながら魂を回収していく。

 申請保留を選択して全て封印水晶へ封じる。

 保留を選択すると場所指定が出来るからね。

 亜空間庫内の封印水晶を選んだ私達だった。


「ええ、それが手っ取り早いでしょ。氷の大地を拵えた者達が、購罪としてこの地の産業で再利用されるようになるからね」

「それで、鉢植え刑を?」

「それは、たまたまよ。たまたまでも有用なら使わないと損でしょう? 何度切っても、直ぐに生える死滅とは無縁の樹木になるのだし」

「確かに有用だね、それは」


 これは目的地に着いてから、地面に封印水晶を植えたのち、一括拒否を選択する段取りだ。

 大地を把握して満遍なく木々を植えないと。


「戻り次第、偵察に出て植える地を探すわよ」

「そ、それで?」

「ええ、数日の辛抱って言ったでしょ? その際に残存が居たら爆撃して滅して回収するの」

「なるほど!」


 王都内の全回収を終えた私とマキナはうろうろするユーコ達に追いつき王都観光を行った。


 


  §




「り、り、り、陸地に船があるぅ!?」×6


 戻って早々、拠点の近くに三番船を取り出したら、マキナ以外の全員の目が点になった。

 一応、固めた拠点はそのままにして三番船の滑走路だけを使うつもりでいたのだ。

 マキナは気にせず三番船最後部からタラップを降ろし、カンカンと音をさせて登っていく。


「今は気にするだけ損よ。動かすのは数日後からだし」

「き、気にするだけって」

「陸地に船ってなんぞ?」


 マサキとケンは困惑顔で三番船を見上げる。

 ウタハは例えようのない表情のままマキナを視線だけで追う。


「何か、マキナがゴソゴソしてるけど?」

「何か、中から動作音が響いてる・・・」


 流石は兎獣人のニーナね。耳だけは良いわ。

 ユーコとサーヤだけは船底部に移動し、


「無限軌道が底部にあるぅ」

「陸地を進む船ってことぉ」


 別の意味で驚いていた。

 大きさは見上げる規模の車輪だけどね。

 すると、


「あ!?」×4


 新型機が滑走路から垂直方向に浮上した。

 浮上音はしていないが灰銀に近い見た目の金属塊が浮き上がれば目が点になるのは必定か。

 私はヘッドセットを着けてマキナに問う。


「魔力密度はどの程度なの?」

『10パーセントから15パーセント前後?』

「そこそこ増えてはいるのね」

『王都に近いからっていうのもあるかも』

「なるほど、それもあるか」


 封印の解放後ともあって伸び率は少し微妙だが機体色からも分かる通りそれなりの状態ではあるらしい。白銀ではないのがその証拠ね。

 浮上後は暴風を噴き出しながら飛び立った。

 男共は形状を見てそれが何か気づいた。


「あ、あれは爆撃機じゃねぇか!?」

「なんであんな規模の航空機が!?」


 女共は目を点としたまま離れる新型機を目で追っていた。まだ見える範囲にはいるからね。


「・・・」×4

「加速はどう?」

『上界ほどではないけど、少し超えてから音速に達した感じかな』

「なら次は、底部にあるカメラを起動して」

『了解!』


 私は手元にタブレットを取り出して新型機に接続する。カメラからの映像には氷上国の国土の現状が映し出された。通信は例の神器を用いているのでブレの無い鮮明な映像が得られた。


「荒れ地が(ほとん)どね。先の方に森が出来ているのは例の」

『亡骸の森だね。粉微塵肥料になった者達の』

「装備品諸共肥料と化したか」

『金属まで吸収するって欲深いね、あの木々』

「地の性格が反映されているのかもね」


 しばらく飛んでもらっていると、


「こちらを見上げる者が居るわね」


 指をさし魔法を撃ちだそうとする者が居た。

 高度に居るから当たりはしないが撃ち落とそうと何発も火弾を撃ってきている。

 空に近しい色だから視認が困難ぽいけどね。

 マキナは照準を合わせて鑑定を行使する。


『鑑定開始・・・目標、〈夢追い人〉と確定!』

「滅していいわよ」

『了解!』


 私の命令を受けたマキナは嬉々として左右に隠していた還元バルカン砲を稼働させた。

 上空から撃ち出す加速と共に落下する弾頭は逃げ惑う目標共に複数の風穴を開けていく。

 局所的に還元されるから痛みは相当ね。

 最後は還元ミサイルで木っ端微塵となり転生申請が私の元に届いた。


「場所が森の側だからそのままでいいかしら」


 私は遺体のあった場所をカメラ越しに視認して、そのまま一括拒否とした。

 直後、何本もの木々がその場に現れた。


『植樹完了! 帰投するよ〜!』

「気をつけて戻りなさいね」

『はーい!』


 マキナも観測を済ませるとこちらに戻ってきた。轟音は最後まで響くことなく着地時のトンっという音以外は響かなかった。


「・・・」×6


 沈黙が辺り一帯を支配したが私は無視して三番船へと登っていった。

 そして沈黙の六人に後部甲板から提案した。


「温泉ならこの中にもあるけど、入る?」

「!!? 是非!」×6





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