第22話 吸血姫はバカ妹を助ける。
(暇ね。リンスは甘え時間を楽しんでるのね)
それからしばらく待っても大使や職員は戻ってこず、私は無為に過ぎる時間に唯々呆れかえっていた。一応、隣に座るリンスは私の右腕をずっと抱きしめ幸せそうな表情のまま今のひとときを楽しんでいたが。
甘えられる分には嬉しいのだけどね?
リンスの育った胸の感触もまたオツだもの。
(というかこれって百合って奴よね? そうなのね。私ってばそっちの気質だったのね。男よりは女の方が好きだし・・・今の今までそういう経験をしてないのもそうだもの)
唐突に自身の性癖に気づいた私だった。
それも長い年月を生きるうえで必要な人生のスパイスと認識した私である。どのみち一瞬でも男が触れただけで消し飛ぶから意味はないのだけど。
私は時間がもったいないと思い、バカ妹の気配を探る事にした。
(この際、シオンとの経路を繋ぎ直すのもありかしら? 数千年前に切れたきりだし、あの子の変化も気になるし・・・)
私は〈遠視〉によってどこに居るか把握する事にした。本来なら〈界跨ぎ〉をしていたら出来ない事なのだけど、私は空間属性を扱えるので仮に世界の外に逃げていようとも探し出せるのだ。神界は無理だけどね?
あちらが許さぬ限りは・・・だけど。
(ふーん? シオンってばそこに居たの。でも変ね? あの子の身体に異物がある? ドMな性質が災いして残してるのでしょうけど、今のまま繋ぐのは危険かしら?)
ひとまず〈遠視〉でバカ妹の居場所を探ると王城側の木々に居た。現在のバカ妹は有翼族となっていた。どうも・・・あの時、頭から突っ込んでいた者がシオンだったようだ。
全く皮肉な事である。そう思いつつも木々に留まったままのシオンの肉体を把握した私はシオンの心核・・・表層核の裏側に小さな〈銀塊〉がある事に気がついた。場所は人族でいう心臓の裏側ね? 私達の心核本体は心臓では無いけれど一応表層核という形のデコイは存在するの。そこに魔力源が追加されてて、その裏に埋め込まれてあったの〈銀塊〉が。
ただここで女神様の勘違いがあり、私達の心核・・・魂の場所を心臓という表層核と同じと思ったようでね?
(認識間違いって怖いわ〜)
と思ったのが私の率直な感想ね?
だって私達は心核本体から魔力を生み出しているのだもの。だから正直に言えば魔力源なる後付け物は本来は必要ないのだ。私自身も今の身体を再検査した時に、外部魔力を蓄えたり放出したりする場所として作り替えた。
保有魔力や眷属への経路は本体の器が保持していたのだから。
(今は・・・逆の監視要員として使われてるのね・・・シオン自身は無事ね?)
その後の私は経路接続の前に心核本体の隔離に踏み切った。それは隷属陣を宿した〈銀塊〉だったから。
魔法陣では隷属化する事は不可だが体内に埋め込まれた場合は〈精神干渉無効〉の影響下で常時頭痛に苛まれるため、仮に気絶や耐性を超える状態になると肉体が奪われるという物であった。
実際に現状で言えば痛覚耐性が限界突破しており、先日の気絶とあいまって案の定な状態だった。心核本体に宿る中身の方がアタフタしていたから・・・(身体が動かない!)ってね?
(とりあえず・・・よし! 確保成功! 次は転送ね? 戻ってきなさいよ。シオン!)
私はシオンの周りに亜空間結界を張り銀塊機能を停止させた。そしてシオン自身が気がつき肉体の主導権を取り戻す前に心核本体を私の亜空間庫へと転送させたのだ。本体の場所は私と同一の場所だから、本人のみぞ知るって事ね?
その際に肉体は時間停止の余波を受けて只の肉塊となったのは仕方ない話だけど。
(アタフタしてるわね。ここどこって? ふふっ。肉体が無いならなんとかして再生させなさいな?)
シオンの心核本体を隔離した私は亜空間庫内で慌てるバカ妹の姿にゾクゾクした。それは時間停止中の動かぬ本体状態で周囲を〈遠視〉してるようだったから。
(今更ドSって呼ばれても構わないけど、これも愛の鞭だし肉体の無い状態で右往左往する姿は正直濡れるわ・・・違う、そうじゃない。完全再生には空属性持ちではない事が影響するの?)
そう思ったのだけどシオンの属性は全属性ではなく従来の者達と同じだったようで、亜空間庫内での超越者としての適性はともかく、スキル運用は不可とあった。
私は仕方なくシオンの心核本体はそのままに表層核だけを私の力で発現させた。
それは私の目前のソファの真上ね?
リンスはギョッとした目で驚いたけれど。
「え? 心臓がなぜここに?」
「ん? シオンの心臓よ?」
だから驚き次いでに持ち主の名を明かす。
リンスは拍動のみを打つ赤い塊を見て驚愕の顔をみせる。心臓の裏側には魔力源の口も開いてるけどね?
「え? シオン様の?」
「ええ。聞こえてるでしょう? せっかく姉が目の前に居るのだから返事くらいしなさいな」
私はそのうえで心臓に語り掛けると、心臓を中心に全身の血管と魔力路が再構成され、骨格と神経、臓器が徐々にその場に現れだした。
まぁ見慣れてなければ絶句する光景よね?
実際にリンスは絶句して固まったもの。
ある程度時間を要すと眼球や筋肉、皮膚と髪の毛が表出し・・・見紛うことなきバカ妹の全裸が再出現した。
ちゃんとソファに座った状態で現れるのだから空間認識は間違ってないみたいね?
しばらくすると心核本体から表層核に経路が繋がりシオンの意識が目覚めた。
「・・・カ、カノン?」
私は久しぶりに見る妹の驚愕顔に喜悦の表情をみせる。
「そ、久しぶりね? 元気そうで良かったわよ・・・ま、本体は私が預かってるけれど」
本体の在処を示すとシオンはそれだけで察したようだ。
「!? そ、それで!?」
この時のリンスは本体と聞き頭にはてなマークを浮かべてたけどね。それは女神様達も同様であろう。私は察しつつも薄い胸を少しだけ揺らす妹の反応に対し愉悦の表情で返した。
「ふふっ。アタフタしたシオンちゃん可愛かったわ〜」
「カノン、返して!!」
すると、シオンは真っ赤な顔に変わり本体を戻せという。しかし私は返すのは本意だと思いつつも、ある意味で私の裸と同じのため──
「ちゃんと返すわよ? でも、せめて服は作らない? 色々見えてるから」
苦言を呈した。
それに気づいたシオンはその場で自身の血液を元に〈深紅の戦闘装束〉・・・スリットの目立つ赤いドレスを羽織った。
「そうだった! 完全再生ってなぜか裸だったんだ・・・」
これは私達が本気を出す時に使う装束ね。
今は一時しのぎで戦闘装束を羽織ったのだろうけど。リンスはシオンの姿に惚れ惚れしたようで大興奮気味に質問した。
「凄い・・・それって大戦時の再現ですか?」
「んー? 違うと思うわよ? この子、金属性をもってないからね?」
私は首を傾げながらもそれを否定した。
リンスもそれを聞き一言で納得したようだ。
「あぁ・・・そういう事ですか」
「そういう事ね? 可哀想だけど・・・」
「そんな哀れむような目で見ないで!」
そう、私が「可哀想だけど」と言ったあとのリンスは同情の表情を浮かべたため、シオンは真っ赤な顔で反論した。
私は本体を戻す前に必要事項を確認する。
「さて、シオンはどう? その肉体で異常物は感じられる?」
それがある状態では二度手間になるからね?
「え? あ、頭痛が治まった・・・もしかして」
シオンは私の問い掛けに対し精神的苦痛が無い事に気づく。だからこそと私はあっけらかんとネタばらしした。
「そ、表層核の側にね? 物理的な隷属魔具があったのよ。しかも〈銀塊〉って奴でね。弱体化を行いながら肉体の主導権を奪うという物だったわ。だから影響のない本体だけを隔離して、元の肉体は今もなお王城側で固まってるわね?」
シオンはそれで納得したようだ。
「それで・・・で、では、今は?」
今は詳細を知りたいという表情だった。
私はそんなシオンに対して優しく微笑み──
「頭痛が無いのがその証拠よね。本体は返すけど・・・とりあえず経路をつなげたわ」
本体をシオンの身体に戻す前に本体との経路を繋いだ。それは私とシオンの切れた経路を繋ぎ直したのだ。そのうえで色々と追加した。
元々が一人だったし経路自体も不活性だったので再活性させてから繋げたの。
ただ、繋げた瞬間にね?
シオンの心核本体はビクッと震えたの。
空属性付与を優先させたから、その時点で脈動を始めたともいうけどね?
本人もその衝撃を受けて真っ赤な顔で反応したもの。次いでに色々追加する度にビクビクして・・・エロいわね?
「えぇ!? カ、カノン! こ、これ、どういう事なのぉ!?」
「どうって? スキル複製だけど? 耐性もそうだし可愛いドMな妹を救う事が先決だもの。それとも必要なかったかしら?」
「そ、それは嬉しいけど・・・でも、足りないレベルと属性まで複製しなくても?」
「二人で個なのよ、私達は。それなら同じ物を持つべきでしょう? それに・・・シオンをいじめていいのは私だけだもの〜」
そう、シオンをいじめていいのは私だけ。
この子のアレやコレは私の物だもの。
だから数千年ぶりにアレコレしたいという気持ちが燻ってるもの。一応〈変化〉スキルは私にも複製させて戴いたけどね?
「そ、そうね・・・お手柔らかに・・・」
そこはシオンも同じなのか私にいじめられる事を望む表情で頬を赤くした。
「ふふっ。いい子ね。存分に楽しませてね?」
私はそんなシオンの表情を眺めながら、転送にてシオンの本体を一気に戻した。
「あっ! カノン! いきなりはビックリするでしょ!?」
シオンはその瞬間に感じて反論したが、この反応は嬉しさのある反応よね?
その間のリンスは間近で姦しくする私達姉妹のやりとりを見て呆けていた。ただね? 経路の関係か私達の特性を直で得てリンスも全属性となっていた。
まぁ本人は気づいてないけどね?
§
一方、神界では──、
「あ、姉上?」
「ええ、驚いたわね?」
「本体がまさか、あんなところにあるなんて」
「心臓ではなかったのね・・・やはり杭打ち対策なのかしら?」
管理者たる双女神達が地上の様子に驚いていた。
「おそらく・・・ですが、それもまた不老不死となるための進化なのでしょうね」
「元々が一つの個、一体なにがあれば分裂する事になったのやら?」
「シオンもその点は、はぐらかしてましたし、いずれ判る事なのかもしれませんね」
「そうね・・・とりあえず、私は少し出てくるから、あとは任せるわね?」
すると、知の女神はなにかに気づいたのか外出を願い入れ監視を魔の女神に託した。
「姉上達の元ですか?」
「ええ。あの物は下界の遺物のような気がしてならないから」
「隷属魔具ですか・・・」
「そ。それがどうにもね? では行ってくるわね?」
「姉上達にもよろしく伝えてくださいね?」
「判ったわ」
ともあれ、女神達は女神達で色々あるのだろう。管理者とはいえ他にも身内がいることが謎ではあるが。




