第214話 足止めを喰らう吸血姫。
先ほど起きた間諜侵入事案。
それ以降は私が目を光らせていたため、
「他国からのちょっかいは、無いかぁ」
「帝国船籍が良い意味で牽制になってますね」
「悪い意味では国内問題として片付けようと」
「非正規兵を用いて襲ってきましたけどね?」
第二班が戻ってくるまでは暇になった。
デッキの手すりに座って第二班を待っていた私はナギサとマキナとリンスに応じつつ遠い目をした。脆弱で存在を知られてしまったから。
「小国連合の沿岸警備隊も出動こそしているけど捜索を断念したようね。全て消してしまったから探したとしても見つからないけど」
「あの調べ方は帆船というより、私達では?」
「やっぱり音漏れが原因だったのでしょうか」
「でしょうね。それがあったから魔王国を抜けた直後より大量発生していたと。全容は分からずとも高音を発する大型船があるのと・・・」
「目撃情報から進路を察したと?」
異世界の戦闘知識を持つ者が相手だと苦労するわね。アレを実現させようと実験するのも。
全ては私達の排除のために用意する。
世界中が火の海になっても攻略してやるぞという自分勝手な意気込みが根底にある。
だが、その意気込みと不必要な挑発に乗ってやる筋合いはないので、私は傍観を選択した。
「当面は休息あるのみね。今は隠し通せているから、直ぐにバレることはないでしょうし」
「やはりそれしか無いでしょうね」
「それなら交代で温泉巡りしようか?」
「いいですね! まだ入り足りなかったので」
ナギサは船内に戻りマキナとリンスから何処の温泉が良かったか意見を聞いていた。
私は一人でデッキに残って思案した。
(これで全員が鋭気を養って次の行動のプラスになれば万々歳ね)
どのみち直ぐに直ぐ動けば追ってくるのは目に見えているから。とはいえ、無断で乗ってきた事だけは許せないので潰しだけは行うわよ。
(さて、当初の予定通り全て消しますか)
私は先日飛ばしたロケット。
ロナルドを転生させた日から一ヶ月の間に造った別のブツを使う事にした。これは三女とユランスのみが知る⦅何ですってぇ!⦆ブツだ。
しかも中身はロケットとは異なる代物だ。
私は〈遠視〉したうえで、
(楼国王に依頼して旧合国北部領に掘削してもらった木蓋をしただけの井戸穴。深さは指定通りで存在する・・・わね?)
該当地点に発射装置込みで亜空間庫から地表へと伸びるように展開した。
(木蓋は発射圧で吹っ飛ぶからそのままで)
魔力充填を開始して照準をユランスに移譲した⦅いただきました!⦆これは例の神器で精密照準する仕組みだ⦅そんな機能もあったの!⦆
(ユランスの複合照準が完了したわね。実験施設と設計図のある地下設備、惑星核を除いた全原料鉱床、問題児の関連設備を一切合切消し去る指定って、相当なまでにお怒りのようね?)
魔力充填が完了すると⦅カウント!⦆を始めるユランス⦅ちょっと!⦆ミアンスうるさい。
轟音を掻き消す遮音結界も展開された。
猛烈な暴風が井戸穴から巻き起こり木蓋が吹っ飛んだ。例のブツには隠形と隠蔽が加わり、
(全て隠しながら滅するつもりなのね。それそのものが存在すると開発を始めてしまうから)
音も無く空に向かって打ち上がった。
暴風だけが周囲で吹き荒れ、打ち上がった後の井戸穴では水源が刺激されて膨大な量の水が噴き出した。発射装置も無事に魔力還元して、きれいな水があたり一面を濡らした。
そこは発射後に井戸になるよう水源ギリギリで止めてもらった場所だ。合国北部は帝国に占領されているから、これから向かう場所によっては争いの火種にもなるだろう。
⦅帝国の識別魔法も入れてますから⦆
⦅ちょっと聞いてないんだけど!?⦆
⦅だってミアンスには言って無いし⦆
⦅姉上!? ユランスも何で!!?⦆
⦅照準で浮遊大陸を全除外したのに⦆
⦅頭でっかちで制限したからです!⦆
⦅そ、そうだったのぉ!?⦆
女神達は女神達で言い争いをしているが肝心のブツは高高度で散けたのち丸い球体が地表に向かって落ちていった。
落下時は隠形も隠蔽も全て剥ぎ取られ隕石の如く照準を与えた目標に降り注ぐ。
(氷上国内が穴ぼこだらけになるけどこれは仕方ない。消さないといけない危険物だからね)
帝国内の森林にも小国連合の火山にも落ちていく。目と鼻の先で落ちた事を確認した。
(温泉街には影響のない反対側ね)
洋上国の隠れ家、氷上国の商会倉庫。
帝国の本店、帝城の住処・・・皇帝なのね。
帝国の軍事工廠。あれは虎の子と思ったけど増産までしていたようだ。それらの工廠も謎の隕石によって物理的に消滅した。工廠で働く者達は五体満足で呆然と立ち尽くしていたが。
これで合国に次いで新たな火種になったわ。
(出港後は帝国船籍から氷上国に変更っと)
船体色も水色迷彩柄の偽装を施す事にした。
灰色だと同一目標と思われそうだから。
氷上国にもあるんだぞっと示すために。
(形状も少しだけ変更ね。縦長にして滑走路だけ延ばして左右側面にバルカン砲を展開して)
そして厳つい見た目になった二番船だった。
バルカン砲だけでなく艦砲も総展開した。
一台に三門、左右合計四十八門の艦砲だ。
(指揮所の封印機能も全面解除ね。異世界の戦術を自分勝手な思惑で持ち込んだのだから、同種の戦術で、ぶっ潰すに限るでしょう。まだ大砲クラスの兵器しかないから鹵獲を狙ったのでしょうけど少しばかり考えが甘いわね・・・)
その間も隕石の落下は続く。
今は二つの太陽が出た真っ昼間だ。
そんな真っ昼間故に隕石が落ちたとしても騒ぎにはならなかった。但し、常陽側だけはね。
反対側の常夜では騒ぎになってそうだけど。
(あ〜あ、降り注ぐ隕石に神罰だぁって突っ伏す神官が多いこと多いこと。ふふっ『何故工廠が消えたんだって』バカ皇帝が大騒ぎだわ!)
ちなみに当初の私はこの惑星の太陽を四連星と思っていたが、それは最上層の別の太陽の事を示していたらしい。確かに普段は見えないわね。最上層に向かわなければ絶対に見えない。
なので二つの太陽で間違いは無いそうだ。
⦅紛らわしくてすみません⦆×14
月も同じく三つとのことで下層と最上層が別世界であると気づかせないための措置らしい。
何はともあれ、船体が若干厳つくなっても第二班の船員達は気にせず戻ってきた。
「気持ちよかったぁ〜!」×15
そして針のむしろになっていたはずのシロは戻ってくるなり、妙にデレデレしていた。
「セツの裸体がすっごい良かった!」
「もう! 甲板で惚気ないでよ〜!」
「誰にも見せられないって思った!」
「シロちゃん以外には見せないよ〜」
どうも、二人だけは混浴風呂に入ったようで今まで以上にイチャイチャしてきたらしい。
(そういえばシンとアキも混浴風呂に入ったあとにデートにしゃれ込んでいたわね)
ユウカやフーコ達は濃い付き合いではないのか温泉では別々に入っていた。どうもユウキとフユキは込み入った話があったようだ。
(それぞれが思い思いに入浴しているなら咎める必要は無いわね。第三班からは問題児とセクハラのケンが出歩くけど。ナギサの引率だから安心して任せておきましょうか)
甲板では第三班の面々が集まっていて温泉卵がどーのと話し合っていた。
(これからしばらくの間は連日のように温泉巡りが行われるから、折を見てシオンを呼び出すのもありね?)
そう思っていたところ、
⦅温泉!? 今すぐ降りる!!⦆
ミアンス経由でシオンが慌てて戻ってきた。
子育てのコウ達も交代で降りてくるようだ。
魔王国の面々も休暇で入らせてもいいわね。
「どのみち、しばらくは動けそうにないしね」
甲板から海上を覗き見れば帝国帆船の捜索網が展開されていた。捜索が落ち着くまでは〈希薄〉を展開しながら上陸するしかなさそうね。




