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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第九章・女神達の過干渉。

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第210話 眼下をさげすむ吸血姫。


 甲板に出ると〈亡者のローブ〉を羽織り、人族姿に〈変化(へんげ)〉したタツトとクルルが既に待機していた。マキナも二人の隣で屈伸しており育った胸が上下に揺れていた。


「ふんす! ふんす! ふんす!」

「タツト、大丈夫? 震えてるけど」

「大丈夫だ、問題無い。武者震いだ」

「それ何かのフラグじゃない?」

「気にしても仕方ないだろ、フラグなんて」

「そうね。私もあの子達を救い出してみせるわ。いつまでも縛られてばかりは酷だもの!」

「妹達が居てもか?」

「あの子達を含めて、全員が私の妹だもの!」

「そ、そうか」


 表情を見ると全員のやる気が満ち満ちており救い出す意気込みが見て取れた。ま、まぁこれから行うのは封印解放が主目的なのだけどね。

 何はともあれ、私も装備品の確認を行いながら地下神殿までの通り道が開く時間を待った。


(この先で何が出てくるのやら・・・)




  §




 揃った私達は甲板から降りて時間前に小島へと上陸する。侵入時間は正確らしいからね。

 岸壁上に降り立った私達は周囲を警戒する。


「人払いは・・・無事にかかっているわね」

「普段は教会騎士が警戒していますもんね」

「調査してなかったら剣を向けられていたね」

「女神様も教会の動きは判別してないんだな」

「過干渉は出来ないもの。私達が大まかに調べあげたうえで、何処に向かうか指定したから」

「この岸壁に例外措置で開けて下さる、と?」

「普段はランダムだもんね。何処に開くかは警戒している騎士達にも分からないけど」

「なら、この島がダンジョンなのか?」

「「「そういうことでしょうね」」」


 なお、甲板上と甲板下には人員が武装待機していて、有事に動けるよう厳重警戒していた。

 誰何に対して武装解除を実行するだけね。

 二番船は〈希薄〉状態で見えないことになっているが岸壁を覆う岩か何かと勘違いして人払いを抜けて出向いてくる事が予見出来たから。

 時間が来た。二番船を停泊させている岸壁にニナンスが展開した鋼鉄門が現れたのだ。


「門が現れた! しかも時間通りって!?」


 それを見た待機人員達は大騒ぎね。

 指定通り、時間ピッタリで門が出現すれば。


「ここは本来、教会施設で許可証を発行するダンジョンらしいわ。今回は例外措置で私達だけ出入り可能にしてくれているそうよ。普段は高額なお布施を支払わないと入れないけどね?」

「「「おー!」」」


 そう、この岸壁等は教会関係者が毎日見張りをしていて、一種の聖域として管理している。

 対岸の本島に教会施設があって門が出現する時間帯に応じて渡し舟が行き来しているのだ。

 教会が許可したお大尽のみが出入り可能なダンジョン島。それも一回に対しての許可証発行なので相当な額が教会へと流れているようね。

 スポンサー無しでは探索者が詰む場所か。


⦅食物の種子目的が(ほとん)どですが・・・⦆


 全てが種を求めるためだけに訪れるのね。

 私達は鋼鉄門を通り抜け、内部に侵入する。

 入ってきた門は通り抜けた直後に消えた。


「ここが食の聖地か。世界の食物の発祥の地」

「ダンジョンというか草原?」

「内部にだだっ広い草原が拡がってるぅ!」

「なんつう広さだよ・・・」


 ダンジョンと聞いて洞窟とか建物を想像していたけれど今まで踏破してきたダンジョンとは一風変わっていた。

 魔物に遭遇する頻度が不明過ぎるわね。

 不明過ぎるから周囲を見回して思案する。


「ここの指定レベルっていくつかしら?」


 私が問うときょとん顔のマキナが答える。


「えっと、地図魔法で・・・1だって」

「は? 1って簡単過ぎない?」

「簡単過ぎるから高額なお布施が要るのか?」

「そういう扱いなんでしょうね」


 簡単過ぎるダンジョンだからお布施で制限を設けていると。

 だから魔物が全然寄ってこないと。

 すると遙か遠方から、


「ブラティアラのスケルトン発見!」


 タツトが怯える使い魔が走ってきた。

 マキナが指をさしタツトが顔を背ける。


「ひっ!?」


 クルルは呆れた表情でスケルトンを眺める。


「まだ私のブラだけを着けてる?」


 ブラティアラ以外は何も着けていないが。

 それを見た私はニナンスの思惑を悟った。


「道案内でしょう。何も無い草原で時間を無為にされるよりはマシって事で。タツトには酷な話だけど、クルルに手を引かれて来ることね」

「う、うっす」

「そう? かわいいのにねぇ」

「何処がかわいいんだよ!?」

「はいはい。マキナも揶揄わない」

「はーい!」


 魔物達が私達を恐れて襲ってこないのならそれはそれで仕方ない。時間は有限だから早めに終わらせて、地上に戻るとしましょうか。

 顔面蒼白が一人と楽しげな者が一人。

 心配しつつも苦笑する者が一人。

 ガシャガシャと進むスケルトンが一体。

 魔物が現れない事に暇を持て余した私はスケルトンの背後から〈鑑定〉してみる。

 今できる暇つぶしはそれしかないもの。


(スケルトンのレベルが高いわね。元人族の魔物共は経験値を得て成長するというの?)


 結果は面白い事になっていた。

 レベル15前後のブラティアラのスケルトンが、今ではレベル150となっていたから。

 強くもないが弱くはないレベルの魔物ね。

 未発現スキルに〈肉体化〉がある事から私の許可の有無が必要なの⦅必要です⦆やっぱり?

 このままではタツトが怯えて使い物にならないので、私は元主として許可を出す事にした。


「元第二王女、許すからスキルを使いなさい」


 直後、振り向いたスケルトンが笑ったように見えた。そして魔石のある場所に心臓が発現し血管と神経と臓器が表出して筋肉に覆われる。

 その発現は私達の肉体を造る動きと同じだ。

 最後にプルルンと大きな白い胸が揺れた。

 流れるような銀髪がお尻を隠すまで伸びた。

 一応、眷属だものね⦅眷属でしょ⦆そうね。


「タ、タツト? スケルトンが消えたわ」

「あ、ああ、見ていたから分かる、ぞ?」

「素っ裸の元第二王女が出現したぁ!」

「なるほど。普段はスケルトンだけど必要に応じて肉体を造り出すスキルなのね?」

「コクリ」

「喉笛はあえて造っていないんだね〜」

「喋ると面倒が舞い込むからじゃない?」

「布教しそうな感・・・尻に視線向けるな!」


 王女の表情は妙に嬉しそうだけど。

 その後は裸の王女に案内されて目的地まで移動した。魔物だから裸でも気にしていないみたいね。以前はドレスを着ていたのに、今はブラティアラ以外は着けていないもの。




  §




 それからしばらくして、立ち止まる。

 止まった場所は変化が無い草原のただ中だ。


「ここ?」

「コクリ」

「景色に変化はないですが?」

「草原を一時間くらいは歩いたわよね」

「ああ、魔物一匹、居やしないが」


 私は裸の王女が指さす場所に触れる。

 そこには岩と金属扉の感触があった。


「なるほど、一種の幻惑結界の中なのね」

「草原としたのも隠すため?」

「その可能性が高いか?」

「隠す必要性が分からないけど」


 マキナの言う通り必要性が分からない。

 すると、


⦅実はそこは田畑が拡がっている区画で地下神殿へと向かう裏道なのです。指定レベルが低いのは使い魔達しか居ない事を意図しています⦆


 分からないと話し合うと真実が示された。

 使い魔を倒されないようにしたのね。


⦅表道も全てレベル1ですが⦆


 結局、低いのは変わらないのね。

 私は振り返り、歩いてきた道を見つめる。

 すると瞬きの瞬間だけ使い魔を示された。


「なるほど、草原は一種の生産場か」

「「「生産場?」」」

「ニナンスが言うにはそういう扱いらしいわ。ここは裏道でボス部屋までの最短ルートね?」


 使い魔が芋虫というのは少々あれだけど。

 私は一瞬だけ見えた光景を笑顔で伝える。


「通り抜ける間は上にも下にも芋虫達がウジャウジャだったようね。裸の王女が居なかったらムニュって踏んでいた可能性も高かったわね」

「ひっ!?」


 それを聞いたクルルは顔面蒼白になった。

 マキナは腰が抜けそうなクルルを支えた。


「隠されていて良かったね、クルル?」

「そ、そうね、うん」


 ああ、クルルは芋虫系が苦手なのね。

 タツトはスケルトンが苦手だから両者が使い物にならなかった可能性があったかもね。

 そんな一幕の後、私は扉を開け放ち、


「今からボス討伐を行いましょうか」


 裸の王女を草原に置いたままボス部屋へ侵入した。笑顔で『行ってらっしゃい』って言われた気がしたけど次に会う時は水着くらいは着けていて欲しいわね⦅着けさせます⦆お願いね。


「で、ボスが何かと思ったら」

「「「スライム!?」」」


 出くわしたボスは溶解液がたんまりな大型スライムだった。私は呆れのままに瞬間凍結魔法をぶち込んで瞬殺してしまった。

 倒し方はウォータ・ドラゴンと同じだしね。


「人族の男女混成部隊なら詰んでいたわね」

「あちこちで丸見え待ったなしですね?」

「服だけを溶かせば、だがな」

「触れた瞬間に身体がでろんでろんになっていた可能性も高そうね」

「肉体が溶解した妖怪でろんでろん?」

「「マキナ、面白くない」」

「思いっきり、滑った!」

「とりあえず魔核が鍵だから扉を開けるわよ」


 地表に置いた魔核を拾い上げた私は地下神殿へと向かう扉を開ける。地下神殿の地面には大仰な魔法陣と無数の亡骸が転がっていた。

 クルルは真っ先に入って怒り顔に変わる。


「こ、この魔法陣が例の?」


 私達も遅れて入り、亡骸の数を数えた。


「おそらくね。亡骸の数は、数百体はあるか」


 この子達の遺体も弔わないとね。

 魂もこの場に縛られて出られないでいるし。

 魔物達のようにダンジョンに縛られているのではなく転がった亡骸に縛られているだけね。

 弔えば即座に保管庫へと送られるけど。


(直前で整理して正解だったわね)


 今までは〈夢追い人〉の所為(せい)で保管庫内が不必要なまでに埋まっていたから。

 今後は少し余力が出るかもしれないわね。

 隣のマキナも丁重に亡骸を弔っていく。


「召喚しては、毎度差し替えていたのかな?」

「差し替え人形の様子を見れば、そうかもね。受け入れられなくなって魔力が溢れているわ」


 こちらを先に行わないと封印解除の邪魔をされかねないからね。『先に私達を救ってよ』的な動きを魂達が示しているもの。

 主な弔いは荼毘代わりの魔力還元だけど。


「ああ、あれも交換時期なんですね?」

「交換前に触れないよう保護するけどね」


 一方のクルル達は金鎚と(たがね)を使ってゴリゴリと魔法陣の改悪を行っていた。


「召喚陣のここの文字を書き換えて」

「こちらも書き換えだな・・・」


 これだけは不用意に消せないからね。

 私達が出来るのは別の物に書き換える事だけだ。それを利用して何が起きるか不明だが魔法陣を提供したニナンス曰く⦅神罰⦆だそうだ。

 弔いを終えた私とマキナは、


「あの子達、解放されて嬉しそうでしたね?」

「そうね。でも次の転生までは今しばらく猶予が必要だけどね」

「確か四十億でしたか・・・終わりますかね?」

「無理でしょ? ひっきりなしで溢れるから」


 封じ核の前に移動して段取りを開始した。


「座った人形を浮かせて要石から除去して」


 封じ核は意識を奪われた少女達が石化魔法で固められている状態だった。石化が解ける条件は魔力が溢れて全体に亀裂が発生した時。

 肉体の維持が限界、寿命に達した時だ。


「この要石も血汚れが目立つから総交換ね」


 解けた瞬間に肉体が崩壊して骨だけになる。

 肉片と骨はゴミのように端へと寄せられる。

 まさに弔う意志が感じられない酷い扱いね。


「新しい要石に女神像を載せる・・・また私!」

「またもマキナの裸婦像に早変わりね。どうも地下神殿のダンジョンコアは統一されているみたいね。私達が訪れたら更新される的な?」

「そうなんだね、うん。前だけ隠していい?」

「追加が出来るみたいだからやっていいわよ」

「うん。隠すところは隠したいし」


 そうして魔法陣の改悪と同時に保全を済ませた私達だった。クルルが助け出したいとする妹達はこの場には居なかったけどね。

 帰りはボス部屋の扉を開けるだけだった。


「次は妹達の救出ね!」

「おう! 俺の義妹でもあるしな!」

「あらら、是が非でも救いたいのね?」

「聖女職から解放されるの?」

「解放は可能みたいよ。代わりが居れば」

「代わりを用意しろと言われそうな気がする」

「その可能性は無きにしも非ずね・・・」


 扉を開けて岸壁に戻った私達は空間跳躍(くうかんちょうやく)して甲板へと戻る。


「周囲に異常は無さそうね」

「少し奥が騒がしいけどね」

「これは間一髪だったかしら?」

「「様子を見てきます」」

「待って、私達も行くわ」

「ですです」


 反対側に向かうと多くの舟が集まっていた。

 警戒人員は相手が撃ってくるまで待機だ。

 すると一番大きな舟上に誰かが立つ。


「侵入者によって封じが破られた! 今すぐ召喚して封じの総交換を行う! 総員、不審者を見つけ次第、即刻処刑を敢行せよ!」

「「「おう!」」」


 その中心部に黒髪黒瞳の男が立っていて偉そうにご高説を垂れていた。もしや、あれは?

 神官でもない。軍人でもない。

 見た目は商人という風体だった。


(これは鑑定してみますか。レベル480、転生数400回以上、魔力量は三十億に達する)


 これはヒットしたと言えばいいかもね。

 例の武器商そのものが自ら出張ってきたらしい。本拠地は小国連合で間違い無かったのね。


(幻惑ではなく実体。生きているのは確かね。転生指輪は所持している。変装はしていない)


 私は手振りだけで警戒人員達に〈連射/人体消滅〉の指示を出す。私達も得物を取り出して襲い来るバカ共の反撃に出る事にした。


(ルフィラ商会? こいつはその商会の副商会長。それなら、上にも居るのね。粗大ゴミが)





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