第20話 バカ妹と呼応してた吸血姫。
ひとまずの私は本来の姿に戻した。
いや、銀髪碧瞳は変わらないわよ?
今まではスキルを使ったまま瞳の色を赤色に変えていたから。大使館の通信魔道具も映像通信に切り替わったようで私の目前には金髪赤瞳のダンディな男性が座っていた。
口元はカイゼル髭であり彫りの深い目元と眼光が鋭く、出来る国王という印象が持てた。
まぁ娘の前ではデレデレしているようにも見えるけど。私は映像が切り替わる前に衣装をドレスへと瞬間換装し、カーテシーを行った。
「どうも、初めまして。カノン・サーデェストと申します」
「え? 本名ってカノンさんなのですか?」
そのうえで本名・・・真名の方を名乗ったのだけど隣に立つリンスが呆けた。カナデの方は偽名だからね?
こちらの世界は問題ないけど異世界では真名を晒す事は自殺行為だったから。
すると陛下までも私の容姿から──
『そ、そのお姿はシオン様と同じ』
シオンと会ったことがあるのか、バカ妹と同じと口走る。一部は違うわよ?
本来のシオンはペッタン子だもの。
実は私達って元々は一人の真祖だったの。
それがとあるキッカケで二つに分裂して人格までも別々に発生したのね?
ドSな面が私にドMな面がシオンに受け継がれたともいうけれど。その身体付きも私がグラマラスにシオンが幼児体型に。
ある意味でシオンの方が味噌っ滓の様相があるけどね?
ただ、私の持たない〈変化〉スキルを保有してるから本来のペッタン子も〈変化〉で私と同じ容姿にしてたみたいね。その姿を証明するのが陛下の言葉なのだから。
「ええ。シオンと同じではありますね。まぁ不思議なご縁の元、私が血液を与えて姫殿下をお救いしましたので」
『なんと! で、では、この子はもう?』
だが、私が救った経緯を伝えると陛下は憤慨するどころか逆に喜ばれた。
やはりシオンがなにかしらを伝えているのだろう・・・上のみに対して。
私はそのうえで現状を報告した。
「ご存じでしたか。ええ、私の眷属となりました」
口調はあくまでも相手を敬いながらだが陛下からは逆に敬う素振りで返される始末である。
すると、意を察した陛下は私の右隣に立つリンスに向き直り満足気に告げた。
『リンスよ、大変喜ばしいことだ!』
リンスは陛下・・・お父上の言葉を聞き、きょとんと呆ける。
「え? 父様? どういう事なのでしょうか?」
『お主は現時点で系譜の祖という事になるのだ! 新たなる一族のな!』
問い返すと驚愕の叫びを上げ私を見返す。
「えーっ!? そうなのですか!?」
「そうなるわね? 通常ならシオンの系統なのだけど、死に掛けた時に私の血を受け入れた結果、両者の血を受け継いでいるから、完全なる真祖の直系となったの」
だからこそ二人の・・・元々が一人の・・・真祖の血を受け入れた結果を示したのだ。
不思議と思ったのよね?
銀髪になるって事が不可解だったから。
それはシオンがこの世界に居るから可能となる話として納得出来たもの。陛下は〈完全なる真祖の直系〉という言葉で目を見開き──
『大変喜ばしい事だ! 宴じゃ! 此度は宴を催そうぞ!』
「あらら、通信を切ってどこかに飛んで行ったわね?」
大喜びしながら、すっ飛んで行った。
それも背中の羽根を広げ・・・バビューン・・・と音をさせながら。それは私自身が〈遠視〉を併用していたため把握出来た事だが。
リンスはお父上の反応と言葉に対し胡乱な反応をみせる。
「あははは・・・そうなんですね? 実感が湧かないのですが・・・」
私はそんなリンスに対し苦笑しながら普段の反応を表沙汰にした。
「胸とかお尻とか感じ易い事がその証拠かしら?」
「えーっ!?」
するとリンスは一瞬で真っ赤に変わりモジモジした。それは私に開発された結果なのだが。
「冗談よ。片方だけなら銀髪にはならないもの。でも今は同じ色でしょう?」
私は表情をしれっと真面目なものに変え率直な感想を述べた。片方なら金髪赤瞳のままだ。
両者の特性を得て初めて直系となすのだ。
リンスは冗談と聞きプンプンという素振りをみせるが直ぐに王女の顔に戻り質問した。
「冗談なんですか! でも、そうですね? じゃあ、日照耐性とか銀耐性は?」
「そちらは私だけの耐性ね? シオンは持ってない耐性だわ」
そう、私だけの耐性だ。
当時のシオンが持っていたのは対毒耐性だけだ・・・そうでなければリンスのお母上の現状維持が出来るわけがないのだから。
まぁ私は対毒無効なんだけどね?
異世界で得た各種耐性だから元よりバケモノそのものだ。
「でも、今のリンスは両者の特性を持つ者となったの。片方だけの特性ではなく完全なるね? それでも主従関係で力量差は出るけどね」
「主人をどうこうするつもりはありません! ですが、嬉しいです!」
そう、直系となった事で真祖特性が完全なものとなったリンスが扱うスキルだけが、今の私よりも上なのだけど主従関係があるためどうこう出来ないのだ。リンスはそんなつもりはないと憤慨したけれど。
そしてコロコロと表情を変えて喜んだ。
怒ったと思えば涙し、嬉しそうな表情で私を見るのだ。肝心の陛下は城内をあっちこっちに飛び交っているのがなんともな雰囲気であった。実際にサーデェスト家の直系が生まれたとあっては一大事なのだろう。
この場では打ち明けてないが日照耐性と銀耐性は驚くべき変化の一つなのだから。
§
それとは別に・・・同じく一大事な事案は別の方面を進む。カナデが陛下との会談もとい謁見を行っている最中、ガイア大使は同族が住まうこの大陸の王家を訪れていた。
この国は人族に擬態した者達の国家である。表向きには人族国家の体裁をとっており、国民自体は人族だ。だが流刑島の管理は吸血鬼族が行っている事が現状であり──
「それは誠か!?」
「はい。姫殿下と共に訪れた方からの報告に御座います。その方自身も異世界から来られたとの話でして」
「であれば、一度調査が必要か?」
「はい。本国も問題の第八十八流刑島へと調査団を出す方針です」
謁見という体ではなく国王の執務室へと訪れ外務大臣の随行の元、会談していた。
それは各国・・・いまや十三国家となった吸血鬼族との会話である。本国、それはティシア王国という事になるが、二番手に位置する近衛の一家を除き、十一家も同様に国を立ち上げ流刑島の管理を行っているのだ。二番手の近衛も第八十一流刑島の管理を行っているが。
そして〈ライラ王家〉は三番手に位置する家であり、本国の衛兵を輩出する家でもあった。
その管理は第八十六流刑島を主として行っているが、本国の管理する第八十八流刑島も同時に監視しているため、本国が動くとあっては即応しなければならないと考える国王であった。
ちなみに僧兵達・・・人族の勇聖騎士団の方も動いているが、そちらは〈勇聖教会〉が管理する部隊であり、勇者召喚があった際には共闘する者達の集まりなのだ。今回で言えば侵略が主となるため、戦えないとなるが。
それはともかく思案し続ける国王。
カナデの報告だけでは信憑性が薄いという印象なのだろう。ガイア大使もカナデの素性を異世界人と明かし召喚で訪れた事のみを伝えたのだ。それは当然、本国・・・外事部の返答でも同じであり、カナデの言葉そのものが偽りの可能性を視野に入れ〈善処します〉という言い回しの動きのみを表した。だから実際に動くかどうかは不明という意味である。
それはカナデを間諜と疑っているからに他ならないからだ。
(それすらも侵略者達の意図ではないか?)
疑心暗鬼となり混乱目当てではないか?
と、二の足を踏む行為を行っているのだ。
しかし間諜疑惑も本国の陛下の行動で──
「伝令! 伝令! 本国の姫君が直系となったそうです!」
「なに!? ど、どういう事なのだ!?」
伝令が各国に飛び、この場にも伝令兵が現れた。当然、直系の意味を知っている国王は眼前のガイア大使に対し詰問する。
しかし、ガイア大使は詰問の意味が読めずに呆ける。
「え? カナデ殿の事ですよね?」
「カナデ殿というのか? それは報告した者の名であろう?」
だが国王は名を聞き、訝しげな表情で苛立ちをガイア大使に向ける。ガイア大使は冷汗を拭い打ちつける殺気に戦々恐々の面持ちだった。
「はい。さ、先ほども申し上げたとおり、異世界から来られた方でして・・・あ、そういえば〈真祖姫〉という称号をお持ちだったような」
「!? そ、そ、それは誠か!? であれば!」
本来であれば隠すつもりが、ガイア大使はその可能性に至り言葉に出した。だが、そのあとがトンデモナイ事になった。
その称号はシオンが持っていた称号に他ならないからだ。シオンが以前より打ち明けていた片割れが世界に現れたと気づいた事で、国王は即座に立ち上がり部下に指示を飛ばす。
「調査団を早急に組み、第八十六流刑島の監視を強化せよ!」
と、その動きは本国も同様であり、ライラ王城の転移陣を経由して第八十八流刑島の監視人員が送り込まれてきたのだから。
この歩調は他国・・・他の十家と近衛も同様であった。ある意味物々しい動きだがそれだけの事を侵略者が意図したための防衛行動だった。
なお、当の真祖姫・・・カナデは大使館にてリンスを相手にイチャイチャしていたのはなんとも締まらない話である。




