第2話 老齢の吸血姫。
それからしばらくして船は目的地に着いた。
今回参加したのは十四クラス中、一クラスしかおらず、人数も総勢四十一人・五人一組の八班で行動している。
私だけはあぶれ者として四人の教師達に引率される形で九班に属するが基本は自由気ままに行動するため、ある意味で放置ともいう措置を受けている。
(ボロボロね? 人の生活感は感じられないけど、歴史という面では学べるかしら? まぁ私よりこの場所の方が若いけど)
私は三々五々と移動を開始する学生達の中で、のほほんと独りで島内を歩く。時折、進入禁止な場所もあるが私は気にせず、その中を歩く。教師の目に触れたなら即座に引き戻され反省文コースなのは目に見えているが、好奇心を抑えられないのだから仕方ないだろう。
しばらくすると島内にある教会が目に入ってきた。他の面々は順路を抜け、その場所まで歩み続ける。私は順路を外れ、危ない場所からひょっこりと現れた。
当然、他の学生達は私の行動に睨みはするも無視を決め込み、そのまま教会内へと入った。
しかも、教師の九班を除く学生達一同が教会内に押し合いへし合いで入っていった。
というか全員が一度に入らなくても順番というものを考えればよいのに自分勝手過ぎるだろうと私は独り入口前で呆れたが。
するとその直後、教会の周囲が煌びやかな光に包まれて、学生達が止まった。
流石の私でもその様子に呆け、止まった者達の間を独りで歩く。
普通ならばあり得ないことだが、この経験はなんともワクワクする話よね?
誰一人として動けないのに自分だけが影響外で、その様子を観察出来るのだから。
そのうえ、外で待つ教師達も止まっており、私以外がなんらかの影響を受けていた。
「おかしなことね? 一体、この現象はなんなのかしら? 時が止まってる?」
私は止まる者に触れ・・・吸ってみる。しかし反応はなく、生者という線はそこで潰えていた。
これは不思議な体験だ。
なにをすればこのようなことが起きるのか?
私は独り考える。
すると、今度は祭壇前に光り輝く白い僧衣を着た者が現れ、彼らになにかを施していた。
私はその不思議な姿の女性?
パッと見が金髪碧瞳の上枝礼子を成長させた美人という印象が持てた。
彼方も私を見るなり不思議な反応を示す。
「あら? 貴女は影響外なのね? へぇ〜、そういうことなの?」
しかもなにかを見透かしたようで、興味津々な様子が見てとれた。私はその者の視線はともかく、正体が気になり問い掛けた。
「貴女様はどちら様?」
「私はルーティラスの双女神・ミアンスよ。時を司る女神にして、万能の知恵を授ける者といえばいいかしら?」
私は名と素性からあっけらかんと応対した。
神と名の付く者であるのは今更感がしたため流した。ホント今更だしね?
だって教会という場所で現れても不思議ではないし。
「女神様でしたか。ん? いま、ルーティラスと仰有いました? ここは日本ではないのですか?」
この時、彼女の言った場所が気になった。
そう、私が住まう日本の発音からしてギリギリ聞き取れる言葉だったのだから。
一応、相手の権能は今まさに感じているので気にもとめてない。時止めとか司る神と言われて納得出来るもの。
不可思議な現象だけどね?
女神様は問い掛けに素直に応じてくれた。
「はい。違いますね」
「どういうことなのでしょうか? この者達がどうなろうが知ったことではないのですが、一体なにが起きてるのか? なにかご存じなのですか?」
そして話題は現状確認である。
だってそうだろう?
日本の端っこに居たのに、気づけば時の止まった世界で神様の一柱と御対面だ。
そんな状況下で発狂しないだけ冷静である自分を褒めたいくらいである・・・ともあれ。
「存じあげております。今は〈授けの儀〉の最中ですが・・・構いませんね。例外中の例外ですし。実は貴女方は異世界から勇者召喚をされた者達となります」
「勇者・・・召喚ですか?」
「はい。私の司る世界。ルーティラス・第八十八浮遊大陸・イースティ〈スティル王国〉が行った召喚ですね。今は〈召喚契約〉において呼び出された者達へと〈スキル・魔力・属性〉を付与しているのです。こちらの世界にはない力の一端、生きるための術を与える時間なのです。例外中の例外で人ならざる者が居たのはなんともな感じですがね」
「ははは。そういうことですか。てっきり暇だから複合的トラブルが起きればいいな〜って願いが叶ったのかと思いましたよ」
「それはあり得ませんね。そちらの世界の主神とは縁もゆかりも御座いませんから。ですが、私と相まみえても動じない胆力に免じて、貴女にも授けましょうか。〈召喚の儀〉の呼応者とは種族が異なりますから私個人が興味本位で授けますね」
種族が異なるって言われてもピンとこない私である。いや、人間かって言われたら面と向かって返すのは難しい。いつ頃生まれていつ頃変化したのか記憶が曖昧なのだから・・・。
ともあれ、女神様は仰有った。
個人的に授けると。
私自身に大した変化はないが、女神様は目前で唸りつつも授けていた。
しばらくして、ようやく終わったのか女神様は大変お疲れの御様子で──
「不思議なこともあるのですね。貴女は底なしですね。魔力を充てがおうにも底がしれませんでした。ですので私の世界に住まう該当種族の三十倍の魔力量で留めておきます。のちほど魔力操作の鍛錬を行えば、どこまでかは分かりかねますが最大まで増えるのではないですかね? 今は基礎値として与えたに過ぎないので。スキルは個人的な加護として〈魔導書〉を与えておきました。少ない魔力量では扱えない代物ですが貴女ならば問題ないと判断しましたので、存分に力を奮ってみてください。属性も全属性としてますし人族の枠組み内での勇者とは一線を画くしますが、この際関係ないでしょうしね」
まくし立てるように言うだけ言って、この場から消えた。自分勝手というか神だからこその対応かもしれないけれど。
生きるうえで必要な魔力やスキルを与えて下さったのだから良しとした私であった。
その後はスキル確認のため、私は状態把握に努めた。
(うーん? スキルねぇ? 鑑定方法くらい・・・あ、念じれば視界に見えるのね。とりあえず自分のは手鏡で。職業は錬金術士なのね? この世界に錬金術士は少数らしいとあるし、なにげに楽しめそうよね?)
ただ、種族的に手鏡に映るのか?
と言われたら写るでしょう?
という答えになるのは仕方ないけどね。
手鏡越しに顔を見れば、瞳が赤く金色の瞳孔が縦に伸びているので、これがスキル使用時の私のようだ。
「とりあえず偽装して隠しましょうか」
手鏡をデイパックに片付けた私は、従来の碧瞳へと偽装した。
偽装方法も念じれば付与できたので大変大助かりな私だった。