表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第九章・女神達の過干渉。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

199/276

第199話 吸血姫は樽で潜る。


 一方、元騎士団長を待つルーナはというと。

 どうもアインスです。東方沖と赤道上は私の管理下ですのでここからは私が案内しますね。


「父上はまだ来ないの?」

「例の船を潰してから向かうと発してそれっきりだ。来るとすればそろそろだろう?」

「あんな下品な船なんてサッサと潰せばいいのに!」


 ものすごーく機嫌が悪かった。

 レベル20の者が身体強化を使ったとしても勝てる相手ではないのだけど。カノン(姉上)の船はこの世界最高硬度の外装だから。

 それを知るもう一人は悶々としていた。


(ルーナ姉上ってバカだとは思ってたけど、ここまでバカだったんだ。行方不明になった経緯を聞いたけど、バカ過ぎて言葉に出なかったなぁ。まだ追われて捕まったリリナ姉上の方が)


 内心で貶してしまうあたり、愛情が霧散したように思える。やはり一人で奮闘していた経験が彼女を少なからず成長させていたのだろう。

 ルーシス国内は二派閥に分かれ、自身の思惑を通そうと好き放題する政変派と、古来よりの習わしを重要視する古参貴族が居たから。

 ローナも姉達が居なくなったあと、それらを目の当たりとし玉座の上で辟易していた。

 数で言えば政変派が多く、古参貴族が絶対的に少ない。最終決定権を持つローナがそれらの提示する案を常時選択していただけだ。

 ただ、一つでも古参貴族に傾けば父親が折檻に来ていた。それもあって政変派に傾けば今度は予算凍結などの手段を古参貴族から実施されるのだ。

 カノン(姉上)達の住んでいた世界でいう〈捻れ政治〉の状態ね。片方の意見に傾倒すれば片方が猛反対するという上に立つ者が若輩であればあるほど経験不足で対処に困る事案だ。

 ここで宰相でも居れば話は変わるが先の事案により宰相を置かない事になったのだ。中立は不要。黒か白かを求める者が増えたから。


(父上の猛突進で潰す? 金属の船が猛突進で潰れるとは思えない。ルーナ姉上は父上に甘やかされたんだろうな。物事が全然理解出来てないし。母上から受け継ぐ前に居なくなったのも必然だったのかな。あのバカさ加減を見ると)


 だが、ローナとしては簡単に沈む船とは思っていなかった。実際にローナがバラスト部で暴れて痛い目に遭っているから。ローナ自身はレベル25であり、父親よりも上だった。これも皮肉な事に折檻で耐性が得られたからだろう。


(なんで・・・いえ。戦闘に巻き込まれるから助けたんだよね。船長も本当は良い人だったし)


 悶々と自身に言い聞かせているあたり、あの父親の血が入っているとは思えない姫だった。

 それからしばらくしてルーナの元に一報が入る。


「報告! 東方軍と南方軍が合流しました! 西方軍と北方軍は原因不明の嵐で立ち往生し、現在は行方不明になっているとの事です!」


 それは朗報なのか訃報なのか?

 政変派のトップは顔を歪めつつ思案する。


「行方不明だと? ま、まぁ西方と北方は数が少ないから致し方あるまい。西方は危険地帯、北方はクラーケンが出没する場所だ。行方不明も食われた者が(ほとん)どであろう」

「役に立たないわねぇ〜」

「そう言うでない。幸い、かき集める事の出来た最大級の軍が集まってきたのだ。ローナ様を旗頭に攻め入る時が来たというものであろう」

「まぁいいわ。その辺の指揮は任せるから」


 彼はルーナの元婚約者であった侯爵子息だった。先ほどまで若かりし頃の姿であるルーナに抱きつかれたままニヤけ面となっていた。

 ルーナの実年齢って・・・確か三十七才?

 リリナが十六才でローナが十四才だから。

 結構・・・年が離れているわね?

 これも人族同様に短命種だから老化が早いのだけど、誰もがこの違和感に気づけない辺り愚鈍である事が分かる話だわ。私はどこで育成を間違えたのかしら? しかも人族と同様に。

 一方、旗頭と聞かされたローナは──


(やばいやばいやばい! これって失敗したら私が殺されるって事だよね? 成功しても姉上に取って代わられるから、どちらにせよ殺される? に、逃げなきゃ! でも、どこへ?)


 笑顔のまま頬が引き()り思考を巡らせていた。私も救ってあげたいとは思うがローナは(すで)に兵達に取り囲まれ輿(こし)に座らせられていたのだ。

 これは彼等と合流した直後より女王陛下として担ぎ上げられ逃げ道を塞がれたともいう。


「では、出発する! 目的地は王都! 我らの道筋に炎熱神の加護があらんことを!」

「おー!」


 そうして数万もの兵が前後に群れを作り、赤道下にある王都を目指し始めた。ローナは中心部にて担ぎ上げられ、後方にはルーナと侯爵子息が陣取っていた。き、拒否していいかしら?

 ダメ? ダメよね、流石に・・・。

 これはカノン(姉上)に期待しましょうか。




  §




 それは進路変更してしばらく経った頃の事。


「か、海底に大きな都が存在しています!」


 船はルーシス王国・王都直上へと到着した。

 そこには絢爛豪華な竜宮城ともとれる城が建っていた。これって海上で作って沈めたって事よね? フジツボ対策も万全みたいだし。

 リリナ達はテーブル上に映る(かつ)ての住処をジッとみつめる。なにか思う事があるのか一滴の涙がこぼれていた。

 私はリリナ達の思いを酌みつつ──


「戻ってきたわね?」


 頭を撫でながら微笑んだ。


「そう、ですね。民達も元気そうですし」


 ただ、この後になんらかの戦闘になる事が分かっているから、リリナとしては壊したくないという思いがあるようだ。リリナは民草に逃げてと叫びたい心境ね? 虐殺劇が成り上がり勢によって行われる事が確定しているから。

 私はマキナと目配せしナギサに指揮権を移す。


「とりあえず、向かいましょうか・・・ナギサ、後は頼むわね?」

「承知致しました」


 私はナギサの礼を受け、笑顔で赤色のカードキーを手渡す。


「必要なら撃ってもいいからね。側面のアレ」


 それにはレールガンと文字が書かれており、解錠キーを取り出すために必要な物だ。

 普段は私が所持しており、有事の際にだけ使う予定だった物だ。今が有事の際なのだけど。

 ナギサはカードキーを受け取り戦慄する。


「も、もしや、海底も撃てるのですか?」


 私は微笑みながら応じる。


「ええ。照準を合わせて発射すると、亜空間の出口が船体を中心とした半径50メートルの範囲に現れるのよ。その範囲指定は電磁加速時に放たれる余剰電流の放電範囲ね。あまり範囲を狭めると船体にまで被害が及ぶから注意して。敵軍は放電だけで痺れて動けなくなり、還元弾の水流に流されて、最後は木っ端みじんに消え去るわ」


 カードキーが存在する理由も、その説明で理解出来るだろう。今まで用意した狙撃銃と仕組みこそ同じだが、口径が異なるため滅多には使えない物としたのだ。従来の還元弾なども兵装ロックしているが、こちらは更に厳重である。


「た、弾数は?」

「左右に二門あるけど、それぞれ十発しかないわ。これも口径が口径だからね? 射出レールの冷却時間を考えれば充分でしょう」

「承知致しました・・・(一発でも脅威なのに合計二十発・・・主様は誰を倒したいのやら?)」


 確かにナギサがそう思うのは仕方ないわね。

 脅威その物の弾頭を高速射出するのだから。

 でもね? 忘れて貰ったら困るわ。

 私は冷笑にも似た表情を浮かべ──


「誰って・・・それは当然、攻めてくる人族よ。二千年前。シオンを蜂の巣にした罪は確実に償わせないとね? 当たり前でしょう?」


 ナギサの思考の問いに答える。

 ナギサは〈思考読取〉スキルを思い出し竦み上がった。恐くない恐くない。


「し、失礼致しました!」


 私は表情を真剣味あるものに戻し、横で待機するマキナの頭を撫でる。苦笑しているわね。


「まぁ脅威と思うのは分かるけどね。だから厳重に管理しているのよ。私だって殺戮したい訳ではないから。それに・・・必要悪は残しておかないと世界から旨味が消えるでしょう?」

「お母様・・・最後だけが本音では?」

「バレてた・・・まぁそういう訳だから、気軽に対応しなさい」

「流石に無理では?」

「気負うなって事よ。全ての責任は私にあるのだから、ナギサ達が気に病む必要は無いの。真っ先に逃げて安全圏から隠れて命じる為政者達とは違うからね? 自ら進んで戦場を闊歩するのは私くらいでしょう?」

「そ、そうですね。気合いを入れ直します!」

「気負うなって言った側から・・・まぁいいわ」


 私は顔を両手で叩いたナギサをみつめつつ、リリナ達と共に甲板上へと移動した。

 〈変化(へんげ)〉してもいいけど半裸になるからそれは避けたいのよね。体表面の神力結界を完全解除すれば済む話だけど。

 私はそう思いつつ、別途拵えていた魔道具を取り出した。それは白い楕円形の乗り物だ。


「さて、私とマキナはこれで移動するから、二人は案内してね?」

「あ、あの・・・それは?」

「た、樽?」


 リリカの言い分がギリギリ正しいわね。

 形状的にはそうだし。ちなみにこれは〈変化(へんげ)〉無しで海中を行き来するための魔道具だ。兵装は一切搭載しておらず、搭乗人員は二人までで、他は乗れない。

 私は樽の周囲で興味津々のマキナに指示を出す。


「マキナ。髪を纏めておいて」


 私自身も髪を纏めているしね?


「髪? なんで?」

「今回は鹵獲対策で亜空間路を間に入れてないの。空気が漏れ出ても困る事はないけど、水没したくないでしょう。最悪、ねっとりとした海水が身体中に残るけど?」

「!? うん、わかった!」


 私はマキナがシニョンを作り終えるまでの間、樽の準備を行う。樽というより潜水艇ね?

 城に着いたあとは亜空間の門を中に通して神力結界解除ののち乗り降りすれば済むしね。

 海上では上部から乗らないといけないけど。


「マキナが先に乗って。狭いから気をつけて」

「う、うん・・・ホントに狭い。おっぱいが引っ掛かりそうな狭さだね」

「入口はね。中は広いから安心していいわ」

『ホントに広ーい!』


 私はマキナが潜水艇の中に入った事を確認すると、浮遊魔法で浮かせながら、側面部のタラップを出して海上に降りる。

 そして簡易桟橋にて潜水艇を着水させ、装備を白いドライスーツに換装した。

 一応でも海中に行くしね?

 顔以外は濡れたくないし。

 マキナからは羨望の眼差しを受けたけど。


『お母様だけずるい! 私も欲しい!』

「あとであげるから少し待ちなさい! 二人は〈変化(へんげ)〉して先に進んで。直ぐに追いつくから」

「「は、はい!」」


 私は〈変化(へんげ)〉したのち本来の姿に戻った二人を眺めつつ潜水艇に入る。その際に入口の縁に魔力還元を行使し、扉を開けている間に付着したゴミなどを消し飛ばす。

 一つでも残ると水没するからね?


「さて、外隔壁閉鎖ののち、潜行開始ね!」

「その前にドライスーツは〜?」

「はいはい。それならこれを着て。サイズは勝手に合うから気にする必要はないわ」

「おぉ! この密着感! 最高!!」

「それはいいからマキナは補助席に座ってね」

「はーい!」


 こうして私達は海中で待機するリリナ達に追いつき、沈没大陸もといルーシス王国の王都へと向かった。久しぶりに見たけど二人の碧銀の鱗はホントに綺麗よね。上半身は水着だけど。

 二人の姿を見た、周りの人魚族も呆気にとられており、神々しさが見てとれる姿だった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ