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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第九章・女神達の過干渉。

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第198話 内部事情を知る吸血姫。


 百発の還元弾の発射と敵船団の遭遇は同じタイミングだった。

 船首が結界外に出た瞬間──


「前方より帝国船が高速で接近しています!」

「なにぃ!?」


 敵船団の旗艦では大混乱が発生し直後の還元弾斉射により無に帰した。横一列に並んでいた敵船団は還元弾の射程に居た事で一掃された。


「反撃する間もなく消えちゃった!」


 マキナは空になった水羊羹の器をテーブルに置きながら喜んだ。指揮所の面々は余りの光景に唖然(あぜん)となる。


『百発は過剰過ぎると思ったけど』

『展開規模を考えれば妥当だったな』

『射程外からの一斉射・・・パネェ』

『これを見るとカノンってば超長距離ミサイルまで作っていそうな気がする。レールガン的な装備も存在しているし・・・ほら、ここ』

『いや、それはそうだが・・・流石に大陸間弾道ミサイルまでは用意してないだろ?』

『いや、あるぞ? この蓋が着いた赤いボタン。許可無しで押すなって書かれているが』

『『フリじゃないから押すな!』』

『押さねぇよ!?』


 それは酔いが覚めたという表情だった。

 今の指揮所には酔いの覚めたタツトとクルルとシロのみが居り、他はまだ突っ伏していた。

 ちなみに件の赤いボタンはそういう類いのボタンではない。流石の私でも大陸間弾道ミサイルまでは用意してない。軌道上まで撃ち上げる魔力が足りないもの。そもそも、そんな物を用意すればミアンスが素っ裸で飛んでくるわよ。

 胸をブルンブルンと震わせて「浮遊大陸が崩壊するから止めて」とか言いながら。


⦅流石は姉上。よく分かっていらっしゃる⦆

⦅こら! 変な事を言わないで!⦆


 ユランス達からの念話も入ったが、過去になにかあったのだろう。某三女がやらかして。

 確かにレールガンそのものは存在している。

 甲板の両脇に射出レールが隠れているから。

 普段は使わないため蓋をしているが、使用するには指揮所内の管理箱から解錠キーを取り出し、二カ所同時に鍵穴を回さないといけない。

 そして肝心の赤いボタンは──


「それは飾りだよ? 私が冗談で設置したの」


 マキナがネタばらししつつ笑っていた。


『飾りだってぇ!? 俺の緊張感を返せ!』

『な〜んだ。ビックリしたぁ〜』

『まぁそうだよな。本来は鍵を挿す物だし』

『レールガンは鍵式だものね・・・』

「押すなって書かれたボタンって押したくなるでしょう?」

『ちくしょう!』


 シロはそう言いつつポチッと押していた。

 マキナはシロの様子を見てなかったのか、更なるネタばらしを行う。


「仮に押したとしても、押した者が元気になる類いの罠を付けてるけどね? クルルが押したら性に乱れる的な」

『うっ・・・す、すまん、セツの部屋行ってくる』


 シロは元気になってしまったのか、そそくさと指揮所を出ていった。セツはまだ寝ていると思うが、受け入れてくれるかは不明である。

 頭痛で苦しんでいるから微妙よねぇ。

 その様子を黙って見ていたクルルは──


『そんな危険物を設置しないで!?』

『クルル、あとで押すか?』

『タツトまで!? ま、まぁ、交代時でいいなら・・・お、押してみる』


 怒ってはいたが興味があるらしい。

 この〈許可無しで押すな〉というのは〈交代まで押すな〉という意味だから、当たらずといえども遠からずである。

 あ、観測が居なくなってしまったわね?

 私は仕方なくユウカに移動して貰った。

 というか(すで)に移動していた。


『危険なボタンってこれ?』

『ユウカどうしたの?』

『交代で来た! 酔い覚ましをセツに渡してたら、元気になったシロが飛び込んできたから』

『酔いから覚めて、今度は彼に酔うのね・・・』

『まぁセツも良い感じで敏感になると思うよ』

『な、なにを渡したの?』

『酒精を分解する媚薬? 酒精を分解する時に出る副産物がさ? 催淫効果を爆発的にあげる代物でね〜。今後向かう予定の魔族国家で売ったら絶対に売れると思うの〜』

『セイアイ魔国向けの商品なのね?』

『そういう事! 淫魔族が使うと倍以上に燃え上がる成分も入っててね〜』


 ま、まぁ、ユウカとクルルの微妙な会話はさておき、私は船の速度を減速させつつ、海域全体を広域探索した。


「船の周囲に・・・敵影無し。海底にも隷属から逃れた人魚族が泳いでいるだけで、敵対する意思はないわね」

「この船だけが無事で他が消えたもんね?」

「敵対は死を意味しますからね。余程のバカではない限り・・・!?」


 ナギサはそう言いつつ、なにかに気づく。

 私はナギサの視線の先をみつめる。

 そこには・・・バカが居たわ〜。


「光線銃、準備!」

『了解! 光線銃を準備します!』


 私は〈遠視〉しつつ迫り来る者をみつめる。

 リリナも嫌そうな表情に変わった。


「目標、前方の海底より迫る人魚族!」

『照準・・・海底の人魚族・・・は? 人魚族?』

「早く照準しなさい!」

『りょ、了解!』


 指揮所のクルルも唖然(あぜん)とする命令。

 それは船に一直線で向かってきており、今にも激突しそうな勢いがあった。船首が壊れる事はないが、なにかにぶつかる事は気分の良いものではなかった。座礁するみたいで。


「撃て!」

『は、発射!』


 直後、予測していた地点に人魚族が到達し、光線銃によってゼロ距離で撃ち抜かれた。

 それでも相手の速度が出ていた関係で腰から下だけが消え失せ、上半身だけは未だに健在だった。まぁ失速はしてるけど。

 私はテーブル上の映像を目標に切り替える。


「気絶したまま漂ってますね」

「一気に酸欠したみたいね? エラが消えたから」


 船首前方には、厳つい顔面が苦悶の表情となった人魚族が漂っていた。それを見たリリナは嫌悪と共にキツい一言をボソッと放つ。


「全部消えれば良かったのに」

「リ、リリナ・・・?」

「あ、失礼しました」


 リリナはマキナからの問い掛けで我に返り、苦笑しつつも頭を下げた。私はリリナの記憶を元にそれが誰なのか知った。


「あ〜。あれがローナ達の父親か・・・」

「例の騎士団長ですか」

「報せを受けて娘を拐かした輩だから、沈没させてやるとか思ってそう・・・だね?」

「ルーナからそういう嘘を吹き込まれたとしても不思議ではないわね・・・まぁぶつかったとしても父親の頭が無残にも砕け散るだけだけど」

「身体強化してても?」

「ええ。ドラゴンの体当たりを超えるなら考えものだけど、ちみっこい人魚族が当たった程度でどうにかなる船ではないわ・・・衝突される事が気分的に好まないだけで」

「自動車と同じにする訳には?」

「いかないわね。海水があるから」

「そっか。海水ごと還元してしまうね」

「そういう事よ」

「これが木造船なら一発でしたね」

「でしょうね。常識を超えるこの船では」

「最初から相手にならないって事ですね」


 私達は呆れながら騎士団長をみつめた。

 しかしまぁルーナを蘇らせた事は失敗ね。

 今後は良かれと思って対処するのは控えた方がいいわ。反旗を翻されては目も当てられないから。もったいないけど、ルーナの情報は処分ね。アインス達も不要として処分しているし。

 ともあれ、その後の私は漂う人魚族の両腕も消し飛ばし、漂うだけのゴミに変えてやった。

 私は漂いながら海底に沈みゆくゴミをみつめながら思案する。エラも無くなったからしばらくすれば死ぬわね・・・あれは。


「転生禁止が決まったルーナはともかく、ローナはどうしましょうか?」


 するとリンスが不安気な表情で問い掛ける。


「どう、とは?」

「生かすか殺すかって事よ。一方的に攻撃してきたもの。未遂とはいえ報復は当然でしょう」

「なるほど。リリナ様、どうしますか?」

「わ、私に聞きますか?」

「一応でも祖国ですから」

「放置でいいです。下手に干渉すると面倒ですから。同胞達は性質まで人族と同じですので、一度でも戦いを始めると執拗に追ってきます」

「そうね。上と下から追われても面倒ね。あのダルマもみつかると面倒だし消しましょうか」


 私はリリナの決断を支持し、目と鼻の先で沈みゆくゴミを魔力に戻す。生かしていても第二第三の面倒が降ってくるだけだしね。ゴミの経験値は魔核(コア)に吸収されたので、全員の糧になるだろう。経験値はゴミ以下だが。

 レベル20で突撃死とはバカの所業だわ。

 マキナは消える者を相手に手を合わせる。


「あっさりと消える騎士団長、乙」


 ナギサは敬礼しつつ貶していた。


「噛ませ犬という感じですね」


 それからしばらくして。騎士団長を追うように特殊な甲冑を着た人魚族までもこの場に現れ、周囲をキョロキョロと探索していた。

 リリナはそれらを見て──


「近衛が総出ですね。こちらには見向きもしていないですが」


 困ったように呟いていた。

 私は海底の音波を拾いつつテーブル上に文面として起こす。音声のままだと詠唱が出た時に面倒だから。なにが起きるか分からないしね?


『元騎士団長はどこだ?』

『ここで反応が途絶しているよな?』

『もしかすると政変派と合流したのでは? 民達からの報告では危険地帯で成り上がり侯爵のバカ息子と姫達を見たとあるし』

『その可能性が高いか。廃嫡王女(ルーナ)はこの際どうでもいいがローナを担がれると面倒だぞ?』

『では・・・引き続き捜索にあたるか?』

『ああ。陛下からも命じられているしな』

『まったく、次から次へと問題ばかり起こしやがって。リリナ様を追い詰めたのも奴らだぞ』

『所詮は平民上がりのクソ共だ。どうせ俺達、古参貴族が憎いんだろうさ!』

『報告! 北部海域でリリナ様とおぼしき目撃情報あり!』

『なに!? ど、どうする?』

『二班で行動しよう』

『そ、それしかないか・・・』


 私は字面を読んだあと、リリナ達に視線を向ける。若干、涙目なのはそういう事だろうか?

 ルーシスで二度目の政変が巻き起こりつつあり、それを感知した母が回避に動いていると。

 政変派から気づかれないようリリナの捜索も並行して行われているようだ。ローナ達がどーでも良いというのはリリナ本来の地位を知っているからだろう。古参貴族だけは。

 それだけルーシスも一枚岩ではなく、成り上がりが大半を占めているという事なのだろう。

 リリナへの嫌がらせの数々を考えれば・・・。


「「・・・ぐすっ・・・」」

「味方は近くに居たという事ね。彼等も様々な妨害を受けていたみたいだけど」

「ですね・・・リリナ様? 大丈夫ですか?」

「はい。大丈夫です・・・あ、あの、意見をコロコロ変えて失礼かと存じますが・・・」

「どうしたの? 言ってみなさい」

「さ、先ほどの話ですが、放置は無しで・・・お願いします。救えるのなら、救いたいです!」

「です!」

「ふふっ。そうこなくっちゃね! 小国連合も大事だけど少し寄り道するわよ!」

「『了解!』」


 結果、リリナの願いを最優先し、私達はルーシス王国へと舵を切った。といっても小国連合とは目と鼻の先なのだけど。王都は赤道下だから少し進まないといけないが。





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