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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第九章・女神達の過干渉。

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第197話 国家事情を得る吸血姫。


「連合軍の大半が消滅・・・残存は西部戦域に居た三千隻のみ健在、か。八発撃って、完全に消せなかったのは距離があったからという事ね」

「その三千隻は増援だったのでしょう。こちらに向かって来ていただけのようです」

「増援、ね。ホント、無駄に戦力を抱えている分、面倒だわ」


 その後の私達は戦況分析を行った。

 こちらに被害そのものはなく、敵のみが壊滅的打撃を加えられ、今は生き残りの捜索にあたっているようだ。残ってないけどね? 五千隻超の経験値と還元魔力は船の魔核(コア)へと吸収され、海上には欠片一つ見つけられないから。

 なお、マキナの水羊羹はレリィに依頼した。

 するとナギサが心配気に問い掛ける。


「ところで、解放して良かったので?」


 それはローナ達の事だろう。

 ルーナと呼ぶともう一人と勘違いしそうね。

 まったく紛らわしい名前を付けたものだわ。

 私は副長席に座る二人を一瞥しつつ答えた。


「あのままだとリリナが可哀想だったからね。平民も貴族もないわ。大体、その騎士団長だって平民からの成り上がり貴族だもの。相手の経緯を無視すればどちらの血筋も同列だからね。生まれが・・・先か後かって違いだけ」

「そういう事でしたか」

「それにね? リリナの母上が養子縁組してまで助けた理由を考えると・・・そちらの可能性の方が一番高いのよね」

「そちら?」×3


 おや? リリナもナギサやリンスのようにきょとんとしている。リリカは我関せずだけど。

 私はアインス達から聞いていた政変を思い出す。実はルーシスでは一度政変が起き、当時の宰相だった者が追い出されているのだ。立場上はリリナの母上の再従兄、遠縁公爵家末弟だ。

 今では落ちぶれて消えた公爵家。元々の武力はそれほどなく治政でもって、関係を維持してきた家柄だったらしい。


「ええ。時期的にはルーナが生まれる前、当時・・・成り上がり貴族が跋扈していた時期があって、それを見かねた宰相が当時の女王へと進言し、猛烈な反発を受けて、有りもしない罪を()ち上げられた事で一族郎党での取り潰しを受けた経緯があったそうなの。目の上のこぶとして目障りだったのでしょうね」


 そう、私が聞いた事を有りの侭に伝えるとリリナとリンスはやりきれない表情に変わる。

 ナギサは表情こそ二人と同じだが、なにか思い至ったようだ。


「そ、それは・・・まさか!?」

「ナギサは鋭いわね?」

「そういう事でしたか」

「言うなれば、こちらが正式って事よ」

「あ、あの? どういう事でしょうか?」


 リリナは思い至らないらしい。

 リリナには人魚族のルーナにはない気品があるのよね。ローナにもそういう気品が存在しているようで実は無い。その証拠に言葉遣いを真に受けるバカさ加減があったから。

 リリナが転生する前の経緯は欲に釣られた事と家出したいという思いがあったからだろう。

 平民の庶子が・・・的な嫌がらせの数々があったみたいだから。国が滅びると母親が悲しむからそういう気持ちを持たないようにしていたようだが、今は他人の子として滅びても構わないと思っている。それだけの事をされたから。

 私は仕方なくリリナに可能性だけ示す。


「その宰相が・・・公爵家の末弟が貴女の父親だったって事でしょう。貴女自身が平民の割に民草を思いやる心が育っているもの」

「ふぇ?」


 リリナはきょとんだが、情況証拠からして可能性が高い。詳細は母親を問い詰める方が早いが、口を割る事は無いだろう。

 直後、リンスも思い至ったらしい。


「と、という事はカノンさん? リリナ様が」

「ええ。正統後継者って事よ。平民上がりの血を混ぜた事がそもそもの間違いね。だから・・・浮気してまで残したかったって事でしょう」


 この時点でリリナも気がついた。

 なんともいえない表情だが。

 ナギサはリリナを一瞥しつつも苦笑する。


「前女王陛下も(したた)かですね?」

(したた)かでないと国は纏められないわ。ローナも(したた)かだったけどバカっぽさが強くて状況が読めてないしね。大体、ルーナ自身が人族の網に掛かる時点でどうなんだって事だもの。リリナは逃げた先に張られていたけど、ルーナは興味本位で近づいたから。名は体をなすと言うけど」

「名は体をなす・・・あぁ〜」


 ナギサは思い至った。名は体。

 本家本元のルーナの性質を。

 私は微妙な表情のリリナに向き直り──

 

「幸か不幸か・・・その正統後継者が変化した事を喜ばない親は居ないでしょうね? ルーナと違って、リリナの名前は考えて付けられているから」

「へ?」


 名前から感じる母の思いを伝えてあげた。

 そもそも、私が改変させずに残しているのもその証拠ね。大半は前世の名前を残さず変化させているから。リリカも同様に。


「リリナの名はアインスの示した呪文から取った物だと思うわ。言い伝えで残ってない? リリカが鼻歌交じりに歌っていたものだけど」

「あっ! あります! 王家に伝わる歌が・・・お母様が特別だって、私だけに教えてくれた」

「やはりね。歌詞の意味は誰も知らないみたいだけど」

「はい。意味は分かりません。ですが、どんなに荒れた海でも進路がブレないという不思議な力がある歌です」

「でしょうね。その呪文はルーシス王家のみに伝わる、水属性の禁書魔法だもの」

「「魔法!?」」


 おやおや。今度はリリカまで反応したわ。

 我関せずで舵輪を握っていたが、驚きの余り舵輪をまわしてしまった・・・左舷に向かって。

 鼻歌を歌った効果でズレてはないけどね?

 危険だし自動航行に切り替えますか。

 私は驚く二人の脇で切り替えつつ答えた。


「ええ。口ずさむだけで発動する守りの要ね。歌詞の頭に〈(つく)(ぬし)(もと)む〉を意味する言葉があるのだけど、その直後にリリナの名があるでしょう?」

「た、確かに、というか歌詞の頭って、そういう意味なんですか?」

「ええ〈リ・エインス・アイネス〉という単語がそれを意味する言葉なのよ」


 ここに来て、また出てきました、この名称。

 禁書魔法を世界語に訳さず伝えるとはね?

 聞いた瞬間、私も疑問に思ったのよね。

 でもこれで・・・完全に辻褄が合ったわ。

 私は驚く者達の前で続きを語る。


「それで、次はリリナの名を意味する単語なのだけど・・・」


 久方ぶりに語るから口が渇くわね。

 私は珈琲を口に含みつつ語りを止める。

 これはマキナも知らない言葉よね。

 折りを見て教えないと。


「ゴクリ」×2


 リリナ達ってば、生唾ゴックンしなくても。

 二人を見たマキナ達は苦笑しているが。


「ごめんなさい。口の中が乾いたから・・・単語の意味は〈進路〉よ」

「「進路!?」」

「現段階で呪文の詳細を明かすと船に掛かっている魔法に影響が出るから示せないけどね? 禁書そのものだから扱いは慎重にという事で」


 実際に紐解くのは簡単だが、呪文の詳細を示すと効果を失うデメリットも存在する。

 この魔法は私達でさえ扱えない代物。

 人魚族のみに種族指定された魔法だから。

 リリカは例外として登録されているが、本来は別の種族には使う事が出来ない。

 紐解くだけで効果を失うという意味は、魔法に解析禁止が割り当てられており、神罰として船体がブレるのだ・・・それも盛大に。

 そういう呪文が含まれているので明かせないのよね。罰則まで盛り込むとは用意周到だわ。

 この魔法は世界語が含まれていないため、各階梯(かいてい)にも属さない禁書だ。

 手出し出来ないという意味で危険物。

 あの単語が入ると世界を自由に操れる。

 神力を簡単に行使出来る危険魔法だ。

 世界語に訳すと制限が加わるけれど。

 パッと見は制限無しの転生魔法も、実際には制限が入っていた。種族固定という制限がね。

 それを歌詞と同様の生言語で行使すると、種族固定無しでどのような種族にも転生出来てしまうのだ。今は出来ないけど!

 私は完全に語った訳ではないが口内が渇いたので再度珈琲で口内を潤す。

 周囲は沈黙・・・否、思案しているともいう。

 ナギサはアインスに聞いているのだろう。

 表情がコロコロと変化していたから。

 驚きから顔面蒼白まで順を追うように。


「おそらくだけど、リリナの名だけは意味を伝えていたんじゃない? この先も迷う事がないよう、しっかりと意識を保てるように、先を見据える子供になるよう」

「お母様・・・」

「それとリリカの名前も意味あるわよ?」

「ふぇ?」

「それは・・・〈(しるべ)〉よ」

「し、〈(しるべ)〉?」

「そ。進路を向けるべき目印。進路が決まっても目印が無かったらどこに向かえばいいの?」

「「あ!」」

「確かに最初は安直に付けたけど、意味自体はあったのよ。こちらの世界語では無意味な単語だから不思議に思う者が多いけど・・・」


 私は語り終えると周囲を見回す。

 そこにはウルウル涙目な船員が居た。

 感激してる? マキナは苦笑してる。


「主様にはそのような思いがあったのですね」

「ま、まぁ、ね? リリナの名前だけ変えようが無かったのも、それがあるし・・・」


 私はナギサの号泣を受け、引いてしまった。

 他の者達も同様だった。マキナは除く。

 だから私は空気を変えるため──


「それよりも! 目的地が目の前よ。そろそろ魔法の効果も切れるし、気持ちを切り替えなさい」


 周囲に気づかせる命令を発した。

 目的地は小国連合ではなく結界の端だ。

 小国連合はニーユ大陸の北東部に位置し、結界を抜けない事には、向かう事の出来ない国家群だった。船も魚雷を撃った直後より、戦闘船速で進んでいたしね? 驚くべき速度で離れていったのはローナ達ではなく私達だ。呆然とする人魚族をあっという間に引き剥がして。


「そうでした。現在地確認!」

「りょ、了解!」

「結界の端を抜けると同時に還元弾を前方に展開する船団に撃ち込んで。進路の邪魔だから」

「数は?」

「船首還元弾だけでいいわ。船尾は保持よ」

「了解! 船首還元弾、全弾魔力充填開始!」

『了解!』


 私は準備が終わるまでの間、小国連合までの進路を決定させていく。今回は追われる身。

 この船は帝国船籍だから内紛に発展するだろうが、そんなことなど知った事ではない。

 するとマキナが楽しげな表情で──


「高速充填と出くわすのとどちらが早いかな?」


 問い掛けてきた。ドSが顔を出してるわ。

 私はマキナに微笑み掛けながら応じる。


「現状だとトントンというところかしら?」

「百発の還元弾で度肝を抜かれるか否か?」

「大砲ありきの戦闘にミサイル戦を持ち込むもの。射程距離の面で利があるのはこちらだわ」

「火薬で出せない射程距離・・・楽しみだね!」


 この時の私は地雷を踏んだと思っていたが、マキナは別の者達に苛立ちを向けたらしい。

 連合軍に向けているのが・・・その証拠ね?

 だが、私としては悪い事をしたと思っていたので、詫びとしてレリィに依頼していた水羊羹をマキナに手渡した。


「ええ。それと、マキナ・・・」

「どうしたの?」

「水羊羹を作って貰ったけど、要る?」

「!!? 要る!!」


 マキナの意識は戦闘から水羊羹に移った。

 今回依頼した水羊羹は高濃度経験値の入った物で、調理場ではなく風呂場との間にある〈高濃度圧縮魔具〉を介さないと作り出せない水を使った。それもあって調理人員からも好評らしい。朝食のデザートとして提供するほどに。


「経験値うまー! からのレベルアップ!」


 この日のマキナは私に迫るレベル500に上がった。今回手に入れた経験値。倒した船団の中には純度の高い者が居たのだろう。残量を見るに十年分くらいの経験値が溜まったから。

 高濃度圧縮して十年分の経験値が・・・だ。


(〈夢追い人〉が数名だけ居たのかしら?)


 そう、思えるほどの分量が確保出来たから。





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