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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第九章・女神達の過干渉。

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第193話 吸血姫は侵入者に辟易する。


 条約締結を終えた後のリンスは一晩だけ王城へと宿泊した。それはよくある社交界という奴ね? この国の貴族達が一堂に会し、リンスとのお目通りを願うのだ。

 中には政変に関与して取り潰しとなった家もあったが、それでも三千を超える貴族家があると知った時には呆然としたわね。そら、人族が紛れ込んでも気づけないわよ。これだけの大陸だからこその数でしょうけど。

 一方の私は馬車小屋で一晩を明かしていた。

 それはリーナと勘違いされる事を避けたかったのとマイカという同伴者を気遣っての事だ。


「マイカはいいの?」

「私は出奔した身ですから」

「それでも両親には?」

「いえ。別れは済ませてますので」

「そうなのね」


 私は運転席のシートを倒し、小屋の天井を見上げる。マイカも同じような体勢で目を瞑っていた。一応、この車からもログハウスへと戻る事は出来るが、今はマイカが祖国の空気を吸いたいだろうと思い、留まっていた私だった。

 すると本日中に戻る予定だったのに──、


「お土産は?」


 私達が戻ってこなかったため、マキナがひょっこりと顔を出した。マイカは唐突に聞こえた声で振り返る。驚いてる驚いてる。

 私はシートを起こし、顔を出したマキナの頭を撫でる。猫のように気持ちよさげだわ〜。


「ダンジョンのドロップで水晶をいくつか」

「水晶かぁ〜。他にはないの?」

「そうね。珈琲豆とカカオが売ってたけど飲む?」

「飲む! ココアが久しぶりに飲める〜」

「ナギサには珈琲が喜ばれそうね?」

「だねぇ〜。カフェイン中毒者だったし・・・フーコから感涙してるってさ?」

「余程飲みたかったのね・・・」


 すると私達のなに気ない会話を聞いていたマイカが驚いたように話し掛けた。


「え? その品物って飲み物に出来たのですか? 一つは気付け薬の材料ですし、もう一つは」

「塗り薬の基剤でしょう?」

「は、はい! ご存じだったのですか?」

「一応ね? こちらのカカオは少々手間の掛かる工程が要るけど、砂糖を加えて飲めばこんな感じになるの。はい、マキナ」

「ありがとう〜。あったまるぅ〜」

「マイカもどうぞ」

「あ、ありがとう御座います・・・お、美味しい!」


 マイカはエアコンの風で冷えていたのか、飲んだ直後より幸せそうな表情に変わった。

 マキナは風呂上がりって感じね。またもや、パンツを穿()き忘れて中身が丸見えだけど。後部座席で足をバタバタさせているし。


「珈琲豆も焙煎して砕いた物を濾すといいのよ。砕く前の豆と専用ミルをナギサの亜空間庫に送ってっと・・・」

「今晩から飲みそうだね〜」

「ここ数日はずっと夜勤だものね。今はシオンが戻って来ないから」

「仕方ないよ〜。今は子育て中だし」

「母親達の寝ている間に面倒を見るか・・・しかも〈変化(へんげ)〉したうえで」

「その方がいいみたいだね。人の姿のままだと警戒するみたいだから」 

「まぁしばらくは居ない者として扱うしかないわね」

「逆に喜びそうだけどね〜。放置プレイって」

「言いそうだわ」


 すると私達の会話を聞いていたマイカが──


「その、シオン様とは?」


 シオンの名を聞いて問い掛けてきた。

 私はマキナと目配せし、子育て中のシオンをミュウの子供諸共強制転移させて指さした。


「こいつがシオン」

「あら? ここはどこ?」

「「魔王国の王都」」

「は?」


 一方、有翼族(ハーピー)の姿できょとんとするシオンをみつめるマイカは別の意味で呆然としていた。


「ふぇ? 先代様がもう一人?」


 もう一人というかモデルそのものだし。

 マキナはシオンの〈変化(へんげ)〉を強制的に解き、本来の姿を露わにした。


「お母様の妹です。リーナさんにもいらっしゃるでしょう?」

「そういえば・・・」


 強制的に〈変化(へんげ)〉を解かれたシオンは一種の刺激を与えられ身もだえていた。

 激痛にも似た強制解除だものね。


「マキナ!? いきなりはやめてよね!?」

「ごめんなさい、シオンお母様。でも・・・濡れましたよね?」


 マキナは悪びれていない笑顔で返した。


「そ、それはまぁ。久しぶり、だったわね」


 寝ている子供を抱きつつモジモジ悶えるシオン。マキナもドS寄りに変化しているかもね。

 今は身体自体が異なるからというのもあるけれど。マイカはシオンをみつめつつ悩む。


「なんでしょう? もの凄い見覚えのある」

「リーナの妹と同類って事でしょう?」

「あぁ!? そういえば!」

 

 やはり妹にドMが反映されるらしい。

 私は身もだえるシオンを強制〈変化(へんげ)〉で有翼族(ハーピー)に戻し、強制転移で元の場所に帰した。


「ちょ! カノンも!? なんt」


 私は静かになった車内を見回しながら──


「うるさい妹だわ〜」


 上界で身もだえつつ下着を穿()き替えるシオンを〈遠視〉した。


「騒がしい方の母で、すみませんでした」

「お二人もいらっしゃるのですね」

「故あって二人なのよ。マキナはね・・・」

「分裂しましたもんね」

「こら!?」

「痛っ!!」


 マキナのボソッとした呟きでマイカはまたもきょとんとしたが、私はマキナの頭を小突きつつ社交界疲れをみせるリンスを〈遠視〉した。


「リンスが戻ってきたら、ガトーショコラでも焼いてもらいましょうか。レリィに」


 一応、レリィに要望書とココア粉末と洋酒などを転送し、サムズアップのスタンプで返信が来たので、引き続き準備を依頼した。

 マキナも〈遠視〉しつつ頭の撫でていた。


「それがいいよ・・・お母様、軽くでも痛い」

「あら? 痛覚耐性が無くなったの?」

「あるにはあるけどこちらになってから、性質が変わったみたいでさ、前みたいに感じなくなったの」

「なるほど。やはり私寄りに変化していたか」

「それって・・・そういう事?」

「そういう事ね」

「どういう事なんですか?」

「う〜ん? レーナの変態があるきっかけでルーナのような体質に変化した、という感じ?」

「あ〜、なるほど!」

「それで理解出来るって、よっぽどだよね?」

「ふふっ。お二人とは長い付き合いですから」


 そんなこんなで私達の夜も更けていった。

 私とマキナはマイカが眠るまで会話を続け、眠ったあとは念話しつつも静かに見守った。


⦅この体勢で寝ててもおっぱいの形が?⦆

⦅崩れないわね・・・これが若さかしら?⦆

⦅それを言うと、年寄り臭いけど?⦆

⦅マキナだってそうでしょう?⦆

⦅うぐぅ。い、言い返せない・・・⦆

⦅・・・と、思ったらブラしてたわ⦆

⦅ノーブラじゃないのかぁ。ビックリしたぁ⦆


 マイカの寝顔は驚くほど可愛く、あどけなさが残っていた。実年齢でいえばリンスやルーナより少し上であり、見た目で言えばアキと同年代に思えた。アキは永遠の十六才だもの。


⦅あとは戻り次第、出航して⦆

⦅次は小国連合だね?⦆

⦅そうね。この国でも侵入者が居たから事前に対処出来て良かったけどね?⦆

⦅え? 居たの?⦆

⦅ええ。予定外の〈夢追い人〉だけどね・・・一体何人が転生で入り込んでいるのやら?⦆

⦅前途多難だねぇ⦆

⦅まぁ・・・ほぼ転生魔法中毒者だったから魔法改変して、次使ったら植木鉢になるよう罰を与えたけどね。マキナにも問い合わせが来ると思うから気をつけておきなさい。称号と残存回数が載る魔力膜が突然現れるから⦆

⦅う、うん。ところで植木鉢? どんなだろう?⦆

⦅転生回数に応じて器が大きくなる感じ? 中身は魂の質に依るから、小さい物から大きな物まで、より取り見取りね。今回は中身が双葉だったけどね〜。中身が子供かってくらい⦆

⦅子供・・・大人から子供まで居るって事か・・・あ、もしかして、これ?⦆

⦅早速、使ったわね⦆

⦅可、不可・・・残存はゼロ。称号は〈夢追い人〉かぁ。不可で!⦆

⦅また一つ鉢植えが世界に増えたわね。使用場所は合国か。まだ居たのね⦆


 ともあれ、この国でのひとときは一時的なものだったけど楽しめたわね。これは定期的に遊びに来るのもありかもしれない。船員のストレス解消にはもってこいだもの、歓迎の宴以外。




  §




 翌朝。リンスはヘトヘト顔を示さず門前にて待機していた。周囲には三十人もの貴族衆が囲んでおり異様な空気感がある。私は大型四輪駆動車を小屋から出し、徐々に近づいていった。

 私に気づいたリンスが手を振りながら念話してきた。外面はニコニコと平静を装っているが内面は欲望に飢えた女の子と化していた。


⦅カノンさ〜ん! 今日は胸とお尻を盛大に揉んで下さ〜い!⦆

⦅ストレス過多ね・・・なにがあったんだか?⦆


 あれは相当に参っているわね。

 貴族衆も気持ち悪い欲望だらけだわ。

 嫁として欲しいって他国の王族をなんだと思っているのか。中には祖国の国土が欲しいとか巫山戯てるのかって話よね?

 ただ、この時のリンスの動きが──


(ん? 挙動が少しおかしいわね?)


 タイムラグのようにズレが生じていた。

 私は不審に思いリンスの魔力経路を検査し、居場所が近すぎる事に気がついた。


(あら? 本体が亜空間庫に退避してきてる)


 この手段は余程嫌なことがあったか、身の危険を感じた時だけ利用する物だ。他の眷属(けんぞく)達も時折使ってはごめんねという謝罪を入れてくる。身体は? と聞けば自身の亜空間庫にあると返されるが。それは本体退避のち、亜空間庫保管で逃走する、私達だけが行える生き残り手段の一つだった。

 私は身体とのタイムラグの理由に気づき、あえて本体のリンスに問い掛けた。


⦅リンス、なにかあったの?⦆

⦅実は・・・貴族衆から身体をベタベタと触られたので気持ち悪くて逃げちゃいました。本当なら耐えないといけないのに・・・て、てへぺろ⦆

⦅そ、そういう事ね・・・じゃあ、あちらは⦆

⦅隷属魔力が纏わり付いた身体だけですね。流石に魔力還元すると不審に思われますので⦆

⦅なるほど、そういう手合いなのね⦆

⦅そ、それとですね・・・⦆


 私は仕方なしとマイカを目覚めさせ、近づく速度を上げた。私が近づくと貴族衆は目を見開いて驚く。殺したはずのリーナと思った者が多数だわ。リーナはパーティーには出ていないものね。今は神殿の建造で出突っ張りだから。


「お待たせ。魔王は?」

「公務があるとかで、見送りはこの方達が代わりに行って下さいました」

「そう。それは御苦労様」


 私はマイカにお願いし内部扉の鍵を掛けてもらう。マイカからはきょとんを頂いたけどね。

 リンスも身体の向きを変えただけで乗り込もうとはしなかった。

 するとなにを思ったのか貴族の一人が──


「我らも同伴させて頂く!」


 許可も無しにあり得ない事を口走る。

 種族は亜人ね。他も全て亜人のままか。

 私は箱乗りした状態で苛立ち気に物申す。


「貴方達は何様かしら? ただの見送りなら見送りらしく黙って送ればいいじゃない」

「我々は使節団だ! 我らが同伴するのは当然であろう!」

「使節団ねぇ? それなら許可は得たの?」

「そのような作法は不要! 我が国が一番故」

「はぁ〜。貴方達は礼儀作法から学びなおしなさい! 相手国をなんだと思っているのやら」

「し、失礼であるぞ!」

「先に礼儀を無視したのはそちらでしょう? 勝手に他国の乗り物に乗り込もうとするは失礼じゃないわけ?」

「であるから、我らが一番故」

「同じ事しか言えないバカは祖国に帰ったら? その祖国はほぼ崩壊してて、あんたらの居場所は無いけどね? 今だと連合軍から袋叩きに遭っている頃合いかしら〜?」

「「「なんだとぉ!?」」」×10


 これはどういう意味の驚きなのだろう。

 という私と貴族衆の口論の間、リンスは自身の肉体を魔力還元で消し去った。そしてログハウスの自室で新しい肉体を作り出し、私服を着たのち戻ってきた。


「お待たせ致しました」


 リンスは窓際に座り、ニコニコと微笑みつつ手を振った。私は用事を済ませたように車内に戻り、シートベルトを着けた。


「では参りましょうか」

「ま、待つのだ!?」×30


 私は前方を塞がれたため、仕方なくバックギアに入れたのち──


『結構よ。人族風情に乗せる乗り物はないわ』


 指向性の音声でお断りを告げた。

 そして後部カメラを起動させたのち、誰も居ない事を把握して、素早い速度で後退した。


「!!?」


 あれは後退したから驚いたのか、私の言葉に驚いたのか、連中は大慌てで城門の衛兵に命じ逆に捕縛されていた。変装鑑定の魔具を昨日の内に提供していて良かったわね。大方の数を複製しておいたから衛兵全員が所持したようだ。

 するとマイカがおどおどしつつ問い掛ける。


「あ、あの、カノン様?」


 私は馬で逃走しつつ追いかけてくるバカを振り切りながらマイカに応じる。しつこいわね?


「ああ。実はね? 貴族衆の大半は人族になりすましされているわ。それに気づいた魔王が追い出したという訳。貴女の実家は問題ないわ。影響が出ているのは男爵以下の者達だから」

「あぁ・・・無駄に多い男爵以下でしたか」

「どこの国も寄子を作りすぎですかね?」

「この国の場合、国土が国土だからね。必要な数として受け入れているのでしょう。その代わり、隅々まで目が届き難いから、その隙を狙われたのね」

「面目ないです・・・」

「マイカが気に病む事じゃないわ。それだけ人族が狡猾なだけなのよ。それよりも、奴らは変装魔具に似たなにかを所持していたから、どこから手に入れたのか?」

「あぁ!? 宝物庫の!」

「売り払われたドロップ品かぁ〜」


 本当に人族共は狡猾だわ。

 弱いからこそ知恵を磨くか。

 弱者として捉えていた魔族や亜人は隙を突かれて入れ替わられたという事ね。例外はソミュテル候を含む四つの古参貴族の領地だけ。あそこは睨みがキツいから入り込んでも直ぐに粛正されるのだろう。それでも穴があったけど。

 マイカの実家も西部の古参貴族で楼国(ろうこく)の港とは目と鼻の先との事だ。

 それもあって嫁入り可能となったのだろう。

 私は未だに追いかけてくる馬を眺めつつ──


「鬱陶しいから減速して、追い抜かせてから魔力源とするわ」


 車ごと〈隠形〉して追い抜かせた。

 そして馬に乗った逃走者が居なくなったと止まった矢先に防音結界で覆いつつ、馬ごとひき殺してあげた。忍び寄る殺意を味わいなさい!


「ぎゃー!?」


 まったく最後まで鬱陶しい事で。





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