第192話 予定外の処置を行う吸血姫。
その後、リンスはレーナ達と共に魔王城へと入っていった。自走荷車もリンスの持つスマホと紐付けされているため、仮に強奪されたとしても一定距離でも離れるとリンスの近くへと戻るので強奪犯は即座に御用となるだろう。
一方の私はリンスを見送り、王城内から外に出た。もちろん騒ぎを回避するため〈希薄〉したうえで。
「さて、私は別件でも済ませますか」
まぁ〈希薄〉しても同族達には気づかれて驚愕と会釈を頂くのだけど、こればかりは仕方ない。彼等も私の眷属だもの。
私はスマホを取り出し──
「あと少しで地下神殿に到達するか・・・」
ニナンスからのメッセージを読み上げた。
どうも、この地にも〈夢追い人〉が侵入していたようで、今はボス部屋の手前で迷いまくっているとの事だ。ニナンス自身が行かせまいとして過干渉し、手前に迷路を設けたらしい。
私は大急ぎで冒険者ギルドに向かい探索許可証を発行して貰う事にした。ただ、この国にはSランクが居ないようで驚かれてしまった。
「え、Sランク!?」
「それはいいから探索許可証を発行して貰える?」
「は、はい! ただいま!(せ、先代様にも似ていたけど気のせいかしら?)」
どうもこの国の基準ではレベル300以上からSランクとの事だ。仮に上界でSランクとなっているユーコ達が訪れたとしても、現時点のレベルで限定的にAランクへと落ちるという。
上界でならSランクのままだけどね?
その場合、限定カードが発行されるとの事で300にレベルアップするまでは、手持ちのギルドカードは下界のみで使えないという。
一応、それを全員に伝えるとレベルアップしてから潜ると息巻いていた。限定的でも下がるのはプライド的に許せないようだ。
マキナは折りを見て潜ると言っていたが。
しばらくすると一枚の羊皮紙を手渡された。
「こちらが探索許可証になります。扉に翳して頂きますと解錠される仕組みですから、最後まで無くさないで下さいね?」
「一日限定の鍵って事ね・・・良く出来てるわ」
「え? 魔法陣が読めるのですか!?」
「ま、まぁね?」
「神器に類する魔法陣なのに・・・」
「さて、急いでいるからまた今度ね」
「は、はい! お気を付けて!」
あやうく、余計な事を口走りそうになった。
魔法陣に書かれている文字は神しか読めない文字だから自身で示してどうするって話よね?
私は支部を慌てて出ると許可証の文字列を読みつつ、近くのダンジョンまで歩いた。
「使い方は・・・一応、複写対応なのね。潜る前に一枚だけ複写しておきましょうか。用心に越した事はないし」
まぁ移動中はジロジロとした視線を頂いたけど。許可証目当てという感じかしら?
発行されない者も数人は居るのね。
「その手に持つ紙を渡してもらおうか?」
唐突に背後から声を掛けられるが無視した。
「とりあえず、片付けるだけ片付けて城に戻りますか」
「聞いてるのか!?」
終いには肩を握られ、苛立ち気に返した。
「邪魔だから退いて貰える? そんなに死にたいのなら消してあげるけど?」
「誰に口聞いてやがる!? 俺は・・・」
それでも握った手を放さなかったので、最後は頂いた。相手は公爵家のボンボンでした。
「ホント、ウザい者も居たものね。バカ息子か。マイカごめんなさいね〜。あ、廃嫡されたバカだったの。滅した事で感謝されるとは」
例外的に金髪だったのはそういう事らしい。
この国では廃嫡されると眷属から除外され、野良吸血鬼になるようだ。
だからチラホラと金髪が目立っていたのね。
その後も同じように私へと声掛けを行おうとした金髪はあとを絶たず、私は掃除も兼ねて全員を消し去った。廃嫡されるに足る理由はそれぞれだが、大半は貴族特権を使うバカだった。
私はダンジョンの扉前に立ち──、
「許可証を翳して・・・解錠されたわね。さて、何階層あるかしら〜、って・・・またなの」
中に入るや唖然となった。
だってねぇ? 目の前に半透明なドラゴンが現れればここがボス部屋だって分かるわよね?
『汝が我の相手か?』
「喋るドラゴンね。スライムかと思ったわ」
『あのような下等生物共と一緒にするな!』
「似たような者でしょうに。それで瞬殺がいい? ジワジワ甚振られるのがいい?」
『なにをバカな事を問う。汝はここで死滅するのだ!』
「そう。瞬殺が好みという事で・・・さようなら」
レベル差を考えなさいよ。
流石に無鉄砲過ぎるでしょうに。
猛突進してきて無詠唱の瞬間凍結で粉々になり、勢いのまま魔核が私とこんにちはしたのだから。ウォータ・ドラゴンは凍結させるに限るのよね〜。絶対零度まで下げれば一瞬だから。
『なっ!?』
「この魔核は・・・地下神殿の鍵という訳ね」
『な、なぜ?』
私は問い掛ける者を無視しつつ鍵を開ける。
そこにはダンジョンコアと要石があった。
内部の造りは合国ダンジョンと同じね。
そして魔核を抜きつつ扉を閉じ余計な事が行われる前に始末をつける。
行うのはマキナの石像設置と主人更新ね。
「主になる者にその言い草はないんじゃない? そうね。今後は水属性ではなくて・・・血液を主とするドラゴンに変えましょうか。ブラッド・ドラゴンね? 弱点は絶対零度の凍結ではなく、真逆の灼熱で焼き切る方にしましょうか。人族共なら自身の放出した熱で瞬殺となるし」
『!? そ、そのような事が可能なのか?』
「生死の女神をバカにするんじゃないわよ。討伐可能レベルは・・・450へ変更ね」
『!?』
という事で、ダンジョンコアに触れつつ魔核の設定を変更していった。ユーンスの加護を私の加護に書き換える事になるけどね。まぁウォータ・ドラゴンは他にも居るし、彼はダンジョンに囚われた例外なのだろう。
すると魔核の色が青から深紅に変化し──、
「主様、新たな生を下さり、誠に有り難う御座います」
深紅の僧衣を羽織った女性が現れて跪く。
深紅髪。顔立ちはユーンス。肌は褐色。
豊満な胸と腰つきは私寄りね。
彼と思っていたが彼女だった件。
人化するとは思いも寄らなかったが、今後はこの姿からドラゴンに変化し殺戮する事になるだろう。死に戻り勢も貧血で戻る設定に変えたし、怪我して放出される者も少なくなるしね?
私は主として最初の命令を行う。
「楽になさい」
「はっ!」
「貴女は鑑定出来るわね?」
「勿論に御座います」
「では、近いうちに迷宮神による進路妨害が解除されるから、この場に来る〈夢追い人〉の称号を持つ者を滅しなさい。他の者は従来の方法で死に戻りさせればいいわ」
「承知!」
「片付いたら定期的でいいから、眷属達の相手もしてあげてね? 貴女とじゃれあう程度でも彼等には経験値が与えられるから」
「承t・・・け、眷属ですか?」
「ええ。吸血鬼族で銀髪碧瞳の者は総じて不死だから、貴女にとっても良い経験になると思うわ。弱者を甚振るのではなく、いつまでも死なない強者と戦う事が出来るからね? 暇だった日々が終わると言っても過言ではないし」
「!? そ、それは楽しみです!!」
このドラゴンもなに気にバトルジャンキーらしい。今までは瞬殺・・・体内に取り込んで溶かしていただけだから。今後は血風毒や刃など、多用な武器を生成出来るから楽しい事になりそうよね?
私は設定を済ませるとボス部屋に戻り彼女が座るべき玉座を用意した。僧衣から魔王の衣装に変えさせ血液で作った歪な剣も装備させた。
「その姿で出迎えればいいわ。軽んじるバカが溢れると思うけど、ドラゴンに変じれば一転するから」
「なるほど。そのような演出もあったのですね」
「開口一番、ドラゴンでの問い掛けよりは恐怖を煽れるでしょう? 勝てると踏んで余裕をぶっこく相手の意表を突けるんだから。変じる時も出来る限り、時間をかけてあげるといいわ。一瞬だと、余りの出来事に固まるだけだから」
「勉強になります、例えるなら・・・」
すると彼女は私の目前で制御された血液を撒き散らしながらドラゴンの形状へと変化させていく。魔核は内部へと溶け込んでいるため見る事は出来ない。仮に変身中に隷属させるような異物があっても一瞬で溶解し影響を受けない。
唯一の弱点は地面が溶岩へと変化するような灼熱。それで魔核が表出して血液が消える。
人族共はその輻射熱で死亡確定である。
このボス部屋も周囲を積層結界で覆うため、他の場所には影響が出ないしね? 戦闘後のリセット時に岩盤を含めて元に戻るし。
そこまでの高温を出せる者は少ないだろう。
それこそ積層結界で彼女を覆って瞬殺させない限り、耐えられる者など居ないのだから。
『これでよろしいですか?』
「ええ。禍々しさが見事に演出出来ているわ」
「・・・それは良かった」
「それと今後、その姿の時はジェンスと名乗りなさい。女神に類する名付け方だけど」
「!?」
ただ、名付けた途端感涙したまま固まった。
血の涙を流している訳じゃないわよ?
今は普通に無色透明な涙だったわ。
私は呆気にとられながら──
「あらら。嬉しすぎて気絶したわ・・・まぁ女神の眷属としては申し分ないわね? そう思うでしょ? ニナンス?」
隠れている者へと声を掛ける。
ニナンスは苦笑しつつも喜んでいた。
「そうですね。姉上」
過干渉もこの場に居ないと出来ない事だし。
管理空間経由ではここまでの妨害は出来ないから。私はジェンスを玉座に座らせたのち目覚めさせ、ニナンスと共に地下神殿へと戻る。
「それでは、妨害を解除します」
直後、ボス部屋に魔導士風の〈夢追い人〉とそれに類する兵達が入ってきた。最初はやはり気の抜けた状態になり、勝ったとでもいうようなバカ面だった。
私は困惑しつつ〈鑑定〉をあてがった。
ティシアとの条約締結が終わったようね。
無事にスキル運用が出来るようになったわ。
「直接見るとあれだけど・・・無駄に知識が豊富過ぎて厄介極まりないわね? 二十回以上も転生して記憶と経験値・レベルを保持しているとか。レベルは380。人族最強ではあるわね」
「おそらく転生魔法を何度も利用しているのでしょう。あれは廃止しようにも生命を操る禁書故、私達では手出しが出来ませんので」
ニナンスは苦渋とでもいうような表情ね。
直後、真っ赤なドラゴンに変じ阿鼻叫喚の地獄絵図へと変化した。以前は水属性ドラゴンだったため、装備がそれに合わせた物だった。
しかし、今回から属性の読めない新種が出た事で手当たり次第攻撃を仕掛けているわね。
全属性だもの。勝とうと思うなら最強の火属性を最大火力でぶつけなさいな。自滅覚悟で!
私は仕方なくニナンスに問い掛けてみる。
「原本の魔導書はある?」
「はい。こちらに」
「用意のいい事で。呪文は・・・〈創り主〉お父様なの・・・?」
「そ、そうですね。あはははは」
マジっすか。あ、素が出たわ。
ここに来て遂に出ましたこの名前。
私は権限を即座に変更し魔法改変した。
というか私とマキナに変更可能だった。
シオンは不可だったけど。
それは元々の呪文が──
〈創り主に求む〉
だったが、私とマキナに権限変更された事で以下のようになったのだ。
〈生を統べる精霊に求む〉
それ以外は通常通りの呪文なのだけど、今後は私とマキナのどちらかが拒否した場合にのみ神罰が下るよう変更した。
シオンが主となる場合は〈生〉が〈死〉に変わり殲滅系の魔法のみで使われているらしい。
完全ではないが死神活動はしていたようだ。
「とりあえず、転生可能回数を上限三回まで変更したわ。今までは記憶と経験値・レベル継承を含めて限度無しだったから二回を超して私とマキナが拒否した場合にのみ鉢付きの植物としてその場に鎮座する指定に変えたわ。悪意ではなく善意での転生なら三回目まで可だけどね」
「そ、それはつまり?」
「使った瞬間、皮膚と筋肉が鉢に内臓と骨が土に。魂が意識無き植物に書き換わるのよ。記憶と経験値、人格とレベルを抹消されてね。無詠唱で前のまま使ったら不発ね。気づいて詠唱しても限度を超えているから確実に拒否事案ね」
「た、助かりました。これで・・・」
「ええ。貴女達が動かずとも自滅するわね。植物も観葉植物だから実がならないし。枯れたら最後、魔力還元して世界の糧になるわ」
「神罰としては最大級の物ですね?」
「それくらいの罰を与えないとね。世界を引っかき回したのだもの。あのバカみたいに即滅しないだけマシだわ」
というところで目前の〈夢追い人〉は死を覚悟して転生魔法を行使した・・・が、不発して驚き、無意識の高速詠唱で再度発動させ、私の拒否を受け取ったのち、植木鉢に変化して粉々に砕け散った。自身だけが死に戻り不可と気づくあたりは優秀だったようね。
ニナンスも片付いた事で安堵の表情を浮かべ、ジェンスの頭を撫でた後、神界に戻った。
私も笑顔で手だけ振ってジェンスと別れた。
今後は楽しい事が増えるといいわね〜。
ちなみに、討伐報酬は関係者のため無かったが、代わりにダンジョンコアと同質の水晶がニナンスの使い魔によって複数個、届けられた。
「つ、使い魔がブラティアラのスケルトン?」
それは魔法陣との親和性が高い品物だった。
砕いて指輪に使ってもいいわね?
私はドロップ品が無かったため、地下神殿内にて自身の加護を与えた、オリハルコン製の〈不死の指輪〉を用意した。
肉体破損の死なら即座に蘇るという物ね?
魔力還元とか指輪の破損は不可だけど。
使用可能場所は陸上のみで海と空は(上界)は不可とした。そうして、ダンジョン内から転移魔法陣を通って外に戻る。
「これで文句を言われても知らないわ」
ダンジョンの外では魔導士の一人が戻らないとして大騒ぎだった。私は五月蠅かったのでそいつらの記憶から〈夢追い人〉の記憶を全て消し去ってやった。
直後、何事もなかったように兵達は解散し、レーナの二度目の宣言を受けて失禁し、衛兵達に捕まっていた。よく見ると王城から条約締結に関する宣言を行っていたようだ。
「これで米もこの国に出回るわね・・・さて」
私は跪く者達の間をすり抜け支部に戻る。
ドロップ品は過去に例の無い品という事でオークションに出品されるとの話だ。買い取り金は十パーセントの手数料を引いてギルド口座に入金されるという。
肝心の効果確認も行われており──
「文句どころか亜人の職員が実践してしまうとは・・・必要な事とはいえ・・・凄い所だわ」
神官を寄越しつつ積層結界で覆い、私の目前で首を掻き切り血液ぶしゃーと、五体満足の姿を示されれば、驚くほかないだろう。
蘇生魔法のために呼ばれた神官は呆然とし、鑑定魔法で加護有り品と知って、教会で買い取るとまで言いだしていた。彼等はリーナの一声で集められた生神殿の神官のようだけど。
(出来るなら魔具として使って欲しいわね。飾るために用意した訳じゃないのよ?)




