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第19話 バカ妹に翻弄される吸血姫。


 すると、驚愕の叫びをあげたリンスがアタフタしながら質問してきた。その姿は先ほどまでの王女然ではなく、いつもの可愛らしいリンスであった。大使はまたもや固まってるけどね?


「あ、あの、あの! カナデさん、今、真名(しんめい)仰有(おっしゃ)ったのは?」

「ああ、こちらの世界は・・・大丈夫そうね。だから明かしてたのね? さて、どう説明したものか・・・そうね? 率直に言うと本名なの」


 私は質問の前に〈魔導書(アーカイヴス)〉経由で〈真名(しんめい)縛り〉があるか調べ、問題が無い事に気づくも順序立てて話さないと会話が成立しないと困惑した。

 だが、それを話さなければ質問にも答えられないため、ひとまずは〈本名〉という言い回しで言葉を濁す。


「本名? それって?」

「まぁその前に経緯だけ打ち明けるわ。そうしないと前提の話も出来ないし」


 しかし、リンスは本名と言われても反応に困るのかきょとんと(ほう)けるので私はこちらに召喚された経緯を打ち明けた。

 一応、大使が目覚めた頃合いでね?

 場合によっては本国に問い合わせして貰わないとダメだろうから。

 そう、経緯はどうであれ勇者召喚が行われた事を打ち明けたのだ。大使はそれを聞き愕然(がくぜん)としたまま本国に報告を入れる。

 それはなんらかの通信魔道具的な物ね?

 水晶を使った不思議な道具であった。

 すると、リンスは私が召喚で呼ばれた者と知り、なぜか大喜びで私に抱きついた。


「凄い嬉しいです!」


 そして嬉しさの余り、鍵が解けた音がした。

 否、それはリンスの中で教えても構わないという認識に変わったようだ。


「はいはい。落ち着いてね? まだ続きがあるから!」


 だが、話はここで終わりではないのだ。

 私はリンスの頭を撫でながら話を進める。

 勇者の一人でありながら逃亡した経緯を明かすのだ。勇者として呼ばれたのに逃亡したのだから大使からすれば、なぜと思う話だ。

 そう、あの時の僧兵達が慌てたように平穏状態で行われた事を打ち明ける。


「ええーっ!? そんな! 御爺様の尊厳を踏み(にじ)るなんて!」


 すると、リンスは大憤慨(だいふんがい)という態度に変じた。大使も同様に激怒しており追加報告として本国に緊急連絡を入れた。

 それはリンス曰く系譜の祖の肉体と魂が召喚陣の原型となったらしい。その大戦にはシオンも参戦していたが、こちらも大怪我を負い眷属(けんぞく)と死に別れした事で落ち込んだという。おそらく今も心の傷が癒えてないから伝説扱いで隠れているのだろう。

 心根は優しい子だからね? 私と違って。


「そうね。今は・・・順当ではないにせよ、総じてレベル30辺りで頭打ちしてるわね?」


 私は報告中の大使の前で〈遠視〉し、異世界人の平均レベルを把握した。それは経験値が最大値となり大陸内ではそれ以上は取得不可という状態であろう。これは他の十三の浮遊大陸も含めての事であり、今後は移動しつつ経験値取得に動く事が予見された。


「レベル30・・・Dランクに相当する者ですか」

「ええ。それが五百七十二名ね?」


 私の現状報告を聞いたリンスは思案する。

 私は総勢という意味で召喚者の数を明かす。

 もちろん、私は含まないけどね?


「「五百七十二名!?」」

「そうよ。数にものをいわせて質を度外視した感じね? 一つの浮遊大陸に対して四十四名の変態勇者が居るから」


 流石の数に二人は唖然(あぜん)である。

 前大戦では一つの大陸に対して一人の勇者だったそうだから、そのレベルは40そこそこであり、経験値取得速度が今の倍以上だった事で最終的にはレベル100まで直ぐに達したそうだ。これも〈魔導書(アーカイヴス)〉に()る情報ね?


「あとの問題は魔族討伐と名を冠した、中央大陸の人族討伐が奴らの狙いね?」


 とりあえず私が情報提供するのはここまでとした。ここから先はこの世界の者達が行わなければならない事だからだ。

 それを聞いた大使は大慌てで──、


「な! で、では、早急に招集しなければ!」


 各国の大使館へと緊急通信を行い外へと出ていった。リンスは王女から年相応の女の子に変わり(うつむ)きながら涙を流す。


「・・・カナデさん?」


 私は突然の変貌に驚きつつも問い返す──


「ん? どうしたの?」


 まぁそうくるよね?

 という反応をリンスからみせられた。


「助けてください! 私の(かあ)様を、そして世界を!」


 懇願も懇願、大懇願という様相(ようそう)である。自分の身内を優先してるあたり、そちらが世界よりも大事なのだろう。

 レベル30の変態は連合軍の兵達が動けば討伐するという希望的観測も見受けられたが。

 私はリンスの本気の願いを思いと言葉で聞き入れた。そのうえで一日三回と私が行ってる処置を隠しながらリンスに提案した。

 

「判ったわ。とりあえず・・・王宮医師の交代を進言した方が良さそうね?」


 そう、私が把握した事案の事である。

 例の処置も本当なら一日一回の予定だった。

 でも奴は朝晩二回の処方で器破壊を狙っていたので回数を増やしたのだ。

 リンスはきょとんと(ほう)け、王宮医師の名前を呟く。


「え? アルがなにか?」

「彼が黒幕よ? 実はね」


 私はリンスに願われたから教えた。

 王宮医師の意図した行いの全てを。


「で、では、(かあ)様には光属性のマナ・ポーションを?」


 リンスは隣で震える。

 怒りという燃料を得た事で偽装した瞳が真っ赤に燃え上がるようにも見える。私はリンスを横から抱きながら落ち着かせ、続きを話す。


「ええ。奴は魔力回復を主としてるけどね? 元来の吸血鬼族は闇属性の者達よ? 光属性のマナ・ポーションは毒そのもので魔力回復の闇属性を打ち消し、光属性の魔力で器をジワジワと破壊してるのね?」

「だ、だから〈魔力欠乏症まりょくけつぼうしょう〉に?」


 リンスはどこかは冷静だが、どこかは怒り狂っていた。私はリンスの暴発しそうになる魔力を抑えこみながらも実情を明かす。


「ええ。器が破壊され魔力を蓄える事が出来なくなってるの。だから減った分の魔力を補うためにマナ・ポーションで増やそうとするけど、そのポーションが危険物だから増えるどころか器の亀裂が促進するというわけ。今までは一日一回の物を、ここ数日は一日二回に増やしてるから、急いで殺す目的が出来たのかもしれないわね」

「そんな!!」

「はいはい、落ち着いて〜。その代わり・・・改善方法も教えるからね?」

「改善方法があるのですか!?」

「はいはい、落ち着いて」

「ひぅ! む、胸、い、今は・・・あ」


 だからだろう、リンスの怒りは頂点に達し、漏れ出る魔力量が増えた。私は抑え込むのを止め〈魔力触飲(マナドレイン)〉の方にシフトした。そのうえで放出したリンスの魔力を落ち着かせる名目で胸を突いて戻した。

 リンスは先から魔力に感じてたけどね?


「落ち着かないからよ? 方法はね? 闇属性のヒーリング・ポーションを与える事よ? 器の破壊を阻止するなら中級以上がいいわね。相手は初級のマナ・ポーションを与え続けてるみたいだけど闇属性の者にとっては初級でも毒となるから」

「ま、魔力不足を優先する処方に間違いがあったのですね・・・」

「そういう事ね? 器という魔力を蓄える容器が壊されたまま増えるわけがないもの・・・底が抜けた容器から水物が漏れ出る事と同じね?」

  

 ともあれ、リンスは魔力放出を抑えながら感じた事を無かった事にし股をモゾモゾとさせながら清浄魔法を行使していた。今は魔力漏れの話をしてるのにリンスは別のところから、なにかが漏れ出たようだ・・・知らんけど。




  §




「はい、そういう事です、ええ。よろしくお願い致します、陛下」


 その後、落ち着きを取り戻したリンスは大使館の通信魔道具を通じて、王族用の回線に繋ぎ直し国王陛下その人と会話をしていた。

 こちらからは見えないが流石の報告内容に国王陛下も憤慨(ふんがい)し早急に対処に出るようだ。ここまでは普通の王家の会話よね?

 だが、途中からはリンスの言葉使いが年相応の女の子に戻った。おそらくこれが家族の会話という事なのだろう。ただね?

 端々に聞こえるのは──、


『それはそうと、本国に帰ってこないのか?』

「近いうちにでも・・・ですが、恩人がいらっしゃるので」

『恩人? 男か? 女か?』

「女性の方です。私の命を救ってくださったので」

『愛娘を救っただと!! 褒美だ! 爵位を授けよう!』

「ええ!? 褒美ですか!? そ、それこそ(おそ)れおおい事ですよ?」


 という大声が目立った。

 ただ、リンスの言う「(おそ)れおおい」という言葉を聞いたあとはね?

 リンスが通話方式を変えたのか、私に聞こえるように声がこちらにも響いてきたの。


『どういう事なのだ?』

「恩人の方がですね? シオン様の姉君でして」


 そう、二人の会話の中でバカ(まい)の名前が出た事で──、


『・・・・・・・・・・・・なんだとぉ!?』


 長い間のあとに国王陛下の大絶叫が木霊(こだま)した。そら、伝説と呼ばれた真祖の姉が現れれば驚くのは必定であろう。





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