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第189話 吸血姫は側仕の技量に驚く。


 船に戻るまでの間、紆余曲折あったが無事にルーナ達が合流した事で出会ったばかりではあるが、甲板上での歓迎会が始まった。


「どうも初めまして。(わたくし)はティシア王国・・・」


 リンスが王女然とした姿なのは王族の礼儀との事だ。そういえばリリナ達もドレス姿だわ。

 元王族ではあっても気持ちは捨てていないらしい。現女王のローナは客人という扱いなのでこの場には居ないが他国の要人が乗る事は知っている。これも一応、念話にて準備の指示を行っていたからだ。船員ではなく他国の姫君と側仕えが合流する旨をリンスを始め楼国(ろうこく)王にも伝えていた。当然だけど楼国(ろうこく)王には代替わりした事も伝えたわよ。間諜の報告よりも早かったみたいだけど。

 それはともかく、歓迎会が始まり、初っぱなはリンスを始めとする王族各位との御挨拶が行われた。今回は軽い調子の挨拶だけね?

 正式な訪問は現魔王と共に王都に移動して行う事になっているから。ティシア・ニーユ両国の調印式が終わり次第、出航する予定である。

 ただ、軽い挨拶でも礼を失する者も居て──


「えっと・・・元魔王ではなくて、どういえばいいんだっけ? 忘れちゃった」

「ルーナ様、本気ですか?」

「へ?」

「これは王族教育のやり直しを行うべきかしら?」

「あ、あれは無し!? やるから、ちゃんとやるから!」

「・・・現時点で失礼な対応となっておりますので、王族教育のやり直しは決定ですね?」

「うそぉ!?」


 この子は座学だけでなくあらゆる教育のやり直しが必要らしい。マキナもそういうところが似ていないからか、少し安堵していた。

 私からすればシオンを見ているようだわ。 


「誠に申し訳御座いません。この方は元魔王のルーナ・ニーユ第一王女であります。少々教育的不備がありますが、根は良い方ですので側仕えの(わたくし)・・・ルージュ公爵家が長女、マイカ・ルージュ共々、よろしくお願い申し上げます」


 あら? マイカって公爵家なの?

 ああ、血縁に今代楼国(ろうこく)王という伯父が居たわね。ということはリンスからすればマイカも一応は身内になるのね。

 リンスもその件を聞いていたのか──


「頭をお上げ下さい。姉様」

「え? いま、なんと?」

「ふふっ。ですから、姉様とお呼びしました。私達は血縁こそ薄いですが親戚筋にあたるのです。先々代陛下が私の祖父の弟君ですので」


 マイカだけがきょとんとなる話題を振った。

 年齢的にもマイカが上だものね。

 レーナとリンスが同世代なだけで。


「! あ、そ、そうなのですね。で、でしたら、私など末端の末端ですので、敬称は不要に御座います。それに姉様と呼ばれるほどの教養は持ち合わせておりませんので」


 というかマイカの返答は彼女ができる最大限の対応だろう。教養がないと返しているが、これも側仕えという身分を前提とした返しである事が分かる話だった。マイカも現王族・次代の女王と比べているのだろうが、縦ロールで気品もあるから自信を持てばいいのにね?

 隣でキョロキョロするルーナに比べたら。


「そうですか? でしたら、マイカさんとお呼びしますね?」

「はっ!」


 私は固すぎるマイカの背後から声を掛ける。


「これも国名が入る以上は仕方ないのかしら? マイカももう少し楽になさい! その縦ロールは飾りなの?」

「へ? 縦ロール? ああ。この髪でしたら飾りです。付け毛式の魔具でして、自分の地毛に合わせて色が変化する物ですね」

「本当に飾りだったのね・・・」


 驚いたわ。スポンっと縦ロールが外されて普通のロングヘアが現れたから。これも一種のおしゃれ魔具なのだろう。異世界でいえば音楽家達が被っていたカツラみたいな物ね。

 マキナがヘアアイロンで巻き髪にしようとしていたが、これがあればいつでも縦ロールに出来るという事ね。変装道具も侮り難しね。

 すると私達のやりとりの背後で──


「このお肉、うまぁ!」


 ルーナが骨付き肉を頬張っていた。

 否、骨付きにみせた極上肉を頬張っていた。

 骨は流石に他の魔物の骨ね。

 あれは大きすぎて使えないから。


「ルーナ様!? もう少し上品にお召し上がり下さい!」

「いいじゃん! 上品に食べてたら美味しくなくなっちゃうよ〜」

「私達は歓迎される側なのですから、少しは上品に振る舞わないと国の威信に関わります!」

「私は魔王じゃないから気にしないもん!」

「そういうことではありません!」


 賑やかね? お茶目なマキナにも見える。

 マキナも同じように頬張っていたため恥ずかしげに切り分けだした。レリィ達は気にせず頬張っていたけれど。今はそういう類いの立食パーティーだ。堅苦しい事は抜きにしないとね。

 リンス達も私服に換装し上品な素振りで肉を囓り始めた。少しずつ咀嚼するという方法ね。

 私はお小言うるさいマイカの背後から近づき、口元に骨付き肉をあてがった。


「まぁまぁマイカも固いことは抜きにして」

「はぐぅ!? もぐもぐ・・・・・・」


 こうしてマイカの口に収まった骨肉は物の見事に消え去った。旨すぎて一心不乱だわ〜。

 そんなこんなの歓迎会はあっという間に過ぎ去り、その後は船内の各所の案内と──


「はわわわわわわわ〜!?」

「これくらいで驚いていたら身が持たないよ」


 マキナによる飛行実践で最後は伸びたルーナだった。マイカも私の背後で伸びていたわね。

 最初期の衝撃波を発したあたりだったかも。

 実際には合流してからずっと驚き続けており疲れ切ったともいう。それくらい私達の認識とこの国での認識に差があるという事だろう。




  §




 そして翌日。

 昨日から引き続き、ルーナ達は周囲から引っ張りだこであり、今日は港街をルーナに案内して貰う事になった。主に案内されるナギサを始め、ここ数日外に出ていない者達であり、他の者達は私と共にリンスの同行者である。

 私が大型四輪駆動車を第二格納庫からエレベーターで甲板上に上げているとお見送りの者達が現れた。

 今日はマキナが待機人員のため──


「では行ってくるわね」

「王都のお土産よろしく〜」

「時間に余裕が出来て買えたらね?」

「それでもいいよ〜」


 エレベーターの近くで待つリンスとマイカに手を振っていた。ルーナは(すで)にナギサ達と外出しているため、この場には居ない。


「ではこれに乗って」

「これは?」

「自動で動く馬車と思えばいいわ」

「馬車? 馬が居ないですが・・・」

「ささ。乗りましょう?」

「は、はい」


 私はリンスとマイカを大型四輪駆動車に乗せ、甲板上から出発する。


『船尾から港までの物理防御結界展開完了!』

「さて、向かいますか」


 私はアクセルを踏み込み、ギアを入れたのち船尾に向けて発進する。今回は高所からの飛び出しだったからか、マイカが一瞬で気絶した。


「きゅう」


 大型四輪駆動車は緩い坂を下るように船尾から伸びた専用結界上を進む。経路は運転者のみしか見えず、周囲の者達は大きな鉄の塊が上空を下りながら走っているように見えるだろう。

 その際に後部座席を覗くリンスが──


「カノンさん? 事前説明してました?」


 ジト目で助手席から私をみつめる。

 私はルームミラー越しに青白い顔の銀髪縦ロールを見た。服装はこちらの世界のメイド服ではなくナディ達の着る戦闘メイド服だ。それもあって谷間が強調され着痩せしていたかと思うほどのグラマラスな体型が露わになっていた。

 今までが地味の一言だっただけに印象がガラリと変わるわね。多分、本国に置いてきた元婚約者が見れば、興奮する事が請け合いだろう。

 マイカも側仕えになるまでは婚約者が居たそうだから。側仕えになってからは、男は不要としルーナが婚姻するまでは自身も婚姻しないと決めていたらしい。相手からはしつこいと思えるほどに反対されたようだが。


「あ、忘れてたわね。まぁ気づいた時には領主館だから問題ないでしょう」

「まったく、もう・・・とはいえ」

「ええ。この子達が来て幸いだったかしら。普通は門前払いだからね。領主達は歓迎ムードでも下っ端までは話が伝わってない事が往々にしてあるから」

「当時、休んでいた者達が居るとみて間違いないですもんね」

「間一髪で粛正を逃れた者と言えばいいけどね。視察情報はごく一部の者と直近の衛兵しか知らないから、当日に居なかった」

「領主代行ですか・・・」

「そこから人族の商人達とクーデターを起こす予定の魔族達に漏れたと。主犯の有翼族(ハーピー)は領主から直接聞かされたから、どこかしらで摺り合わせを行っていたのでしょうね。無駄に連携が取れていたみたいだから」

「度し難いですね」

「得てして人族を取り込むと中から食い破られるという事ね。血から魔力を接種しないと生きられなかったから仕方ない部分でもあるけど」

「耳の痛い話です」

「明日は我が身・・・って事で港に着いたわね」


 私達はシートベルトを着けたままグッタリするマイカをみつめつつ、これまでの経緯を語り合った。それは魔王暗殺未遂という、表沙汰には出来ない事案が、国内各所で巻き起こったのだ。結果的に誤認されたマキナに瞬殺され、属性付与の直後に政変が起き、吸血鬼達が逆に圧倒した事で闇の中へと消え去った事案だった。

 なお、その際に流出させた者は雲隠れしており、片付いた頃合いに出てくる事が予測出来た私である。領主代行という名の人族ね。血液提供者として存在していた者が牙を剥いたから。


「今まで見た港街とは一風変わってますね」


 私達は降り立った街中を大型四輪駆動車のまま進む。時折、反応を示す者まで居るわね。


「そうね。若干、和洋折衷というか・・・どこかしらに異世界人の知識が含まれているわね。これも先日通ったルートとは異なるからだろうけど・・・こんな風景もあったのね」

「そうなのですか?」

「ええ。反対側は上界やら人族の住まう街が広がっていたからね。こちらは一転、異世界の町並みだわ」

「これが・・・カノンさん達の知る・・・」

「開拓が進めば、同じような建物を造ればいいわ。こちらの世界の建物よりは堅牢で簡単には崩れないから。揺れても力を逃がす造りだし」

「えぇ!? そんな仕組みが建物の中に?」

「ええ。レンガを積むだけでは脆いからね」

「はわぁ〜。勉強になりますぅ〜」


 私は徐行と呼べる速度で街中を進む。

 そこにはドワーフ達が真っ昼間から酒を飲んでいた。呑兵衛共には米酒を手渡したいわね。

 別の場所ではエルフ達が編み物をしており、和やかな雰囲気を漂わせていた。ここはある種亜人特区なのかもしれないわね。反対側は吸血鬼族と人族共が(ほとん)どだから。

 それからしばらく進むと、領主館へと登る坂道の門が見えてくる。今回は表立っての訪問ではなく、マイカ提案による秘密訪問である。

 私は車を止め提案者であるマイカを起こす。


「マイカ、起きなさい。目的地に着いたわよ」


 一応、反応しやすいよう胸を揉みながら。

 リンスからは羨望の眼差しを頂いたけど。

 そういえば、ここ最近は揉んでないわね。

 後日にでも念入りに揉み上げますか。

 そう、私が何度も何度も揉み上げて──


「はぇ? ここは・・・」


 ようやくマイカは目が覚めた。

 この子って割と鈍感なのかもしれないわね。

 顔が赤くないから、未開発ともいうけれど。

 フーコに与えたらどうなるのだろう?

 私がそう思いつつみつめると、マイカは一瞬で覚醒した。周囲の景色を見て驚いたように。


「えぇ!? もう着いたのですか? 港から走っても半日は掛かる場所ですのに」

「確かに結構奥まった場所にあるわね。ごちゃごちゃしてて街中も妙に走りづらい造りだし」

「反対側から攻め入る者を妨害する造りでしょうか?」

「挟撃対策ではあるでしょうね。頭を押さえられたら一気に士気が下がるから」


 ともあれ、マイカが目覚めたあとはリンスと場所を代わってもらい、衛兵達との交渉をお願いした。今回は顔見知りというか公爵令嬢という地位が良い方向に作用したともいう。


「今回はいつもの先触れはよろしいですよ。領主には話を通しておりますので」

「はっ! 承知致しました」


 ただ、大型四輪駆動車という鉄の塊だからか周囲の衛兵・・・ドワーフ達は興味津々だった。


「これ、どうやって造ったんだ?」

「表面は未知なる金属とあるが」

「この窓もガラスというより、結界とあるな」

「というか・・・これ自動車だよな?」

「ゴムタイヤ・・・ホイールはアルミだと!?」


 転生者もそれなりに居るらしい。

 幸い〈夢追い人〉の称号は付与されていないため、純粋に転生してきた者のようだ。複数人が記憶ありで転生って・・・転生の渦の不具合が原因のように思える。以前検査した時に数回に渡って削り取れていない記録があったから。

 転生の渦はなにも魂を吸い込むだけでなく、現世に送り込む時にも使われ、余剰の記憶があれば消し去るのだ。それがその時は界渡りの魂だったから削れなかったのだろう。この辺も改良しないといけないわね〈夢追い人〉みたいなバカが溢れても困るから。

 私はベタベタと触られる前にハザードランプと点けつつギアを入れて走り出す。


「彼等がこの街を造った張本人のようね」

「そうなのですか?」


 衛兵達はエンジン音がしなかったためか、呆然としたまま門前に佇んでいた。一応でも電気自動車だもの。石油の無いこの世界でなにを使えというのか。一応でも可能性の提示が出来たから似たような魔道具を造り出すだろう。

 私はサイドミラー越しに衛兵達を眺める。


「ええ。これは折りをみて、ウチのドワーフ共と交流させてみるのもありかもね。あの子達は子供のまま転生したようなものだから」

「子供?」

「こちらでは成人年齢があってないようなものだけど、あの子達は成人前にこちらに来たからね。知識量でいえば大人の比ではないわ。例外は英才教育を受けたレリィとコウシだけね。分類違いではクルルとタツトも含まれるけど」

「これは一度・・・きちんと語り合う必要がありそうですね。もしかすると余計な事を偉そうに語っていたかもしれませんから」


 今は蛇行する坂道を右へ左へと登りつつ領主館に向かっていた。時折、罠があるわね。

 ショートカットしたら槍が飛ぶ的な。


「それは王族教育って事?」

「はい。所作の綺麗な方が多かった気がします。ミズキさん以外・・・ですが」

「気にする必要はないわ。徹底的に甚振って覚えさせなさい。甘えさせても本人達が恥をかくだけだから。ルーナのように」

「「そ、そうですね・・・」」

「マ、マイカまで反応しなくても?」


 そんなこんなで領主館の裏手に到着した。

 運転中は同乗者達の一喜一憂があったが、教育に関しては考える事が同じらしい。

 その後、大型四輪駆動車から降りて裏手から庭を歩いていると思いも寄らない者と出会う。


「曲者だぁ! 衛兵達よ! 引っ捕らえろ!」


 それは例の雲隠れした政変共犯者。

 庭先を移動中、地下の入口からひょこり顔を出すバカと視線が合致したのよね。

 お互いに・・・目と鼻の先に不審者発見!

 という感じかしら。

 マイカは右手で頭を抱えて空を見上げる。


「共犯者がこんなところに居ましたか」


 私はリンスと顔を見合わせる。


「こんな所に隠れていたのね?」

「どの口が言うのか呆れますね」


 衛兵達もゾロゾロと私達を囲い下品な笑みを浮かべていた。こいつらが護っていたのね。

 全員が人族の衛兵。

 今が夜時間だから銀の鎧に身を包んでいた。

 それで勝てると思い込んで。

 マイカは囲まれた中を悠然と歩き、銀の鎧に素手で触れる。衛兵達は勝ったとでもいう表情でニヤつくが、マイカの手のひらから発せられた無詠唱の氷結魔法で全員が凍りついた。


「それで勝てると思うのは間違いですよ」

「魔導士! 光属性の魔具を使え!」


 直後、背後から現れたのは人族の魔導士だった。人知れず侵入していたのね。隙間があれば入りたがる・・・黒い害虫のような輩ね?

 装備からして合国の者のようだけど。


「で? そんな明るい物をこの場で使って大丈夫なのですか? 館から現魔王様の近衛が向かってきておりますけど?」

「な、なにぃ!? は、灰にならないだと!」


 マイカは満面の笑みを浮かべ──


「情報が古いですよ。私達は不死となりました。光や銀にも影響を受けません。心臓を貫かれようと、死にはしませんので御容赦を」


 カーテシーを行いながら情報更新させた。

 最後はマイカの独壇場で人族は滅せられた。

 側仕えとして魔法の技量も相当な物らしい。

 残りは腰を抜かす護られていた共犯者。


「ば、化物だぁ!?」

「魔族は総じて化物です。人族にとってはね。近衛! 元領主代行を引っ捕らえなさい!」

「はっ!」


 共犯者の一人は近衛に捕まり、地下トンネルを通じて地下牢へと放り込まれていた。あの地下トンネルは緊急用の逃げ道なのだろう。

 それを今回は悪用されたようだ。





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