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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第八章・制空権を奪取しよう。

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第188話 吸血姫は元姫に驚愕を示す。


 急遽、魔王国の要人として搭乗する事になったルーナとマイカは私達と共に街に出た。

 だが、この時・・・私達は想定外の出来事に出くわした。それは元とはいえ魔王と側仕えが一緒に街中を歩く事から周囲は騒然とし、頭を垂れる者が多数だった。


「おぉ! ルーナ様がお越しになった!」


 そのうえ、中から声を上げる者まで現れ──


「ルーナ様、万歳! 魔王国万歳!」

「「「万歳! 万歳!」」」


 歩くだけで歓声の渦に包まれる私達だった。

 魔王の地位が妹のレーナに引き継がれたと周知された現状で、この歓声が巻き起こった。


「凄い愛されてるわね」

「流石はルーナ様です!」

「移譲しなくても良かったんじゃない?」

「そんなことはないよ〜。たまたまだって」


 そう、ルーナ本人は失策を行った元魔王と思っているようだが銀貨を扱わない民達にとっては愛される魔王だったと判明した瞬間だった。

 銀貨を扱うのは人族か大商人くらいだもの。

 一般民衆からすれば、なぜ退位したのか不思議に思う話だったようだ。

 ともあれ、民に囲まれながら進めない街中から出たのは領主館を出て二時間後の事だった。


「ようやく解放されたわね・・・私の事も先代かなにかと勘違いしてる者が多かったわ〜」

「お母様はホントに似てましたもんね」

「お母様とそっくりですもん」

「お二人が同時にお母様と呼ぶと、どちらのお母様なのか分からなくなりますね」


 この時の私達は街の外れ・・・港の脇に向かいつつ会話していた。船を停泊させている場所が場所だもの。私達も定期的に戻ってはいたけどね? 食事は船でとお断りを入れていたから。

 食の好みが違うという訳ではないけどレリィが心を込めて用意する食事の方が好みだもの。

 実際には歓迎の宴で頂き、味が濃かった事で辟易したのが本音である。食材の風味を壊しているというか料理とはなんぞやと学ばせたくなる物が多かった。レリィとコウシを派遣しても良いが下手をすると勧誘されそうなので控えていた私である。ウチのシェフ達は渡せないわ。


「マキナの言うのは私でルーナの言うのはリーナの事だって分かるけどね」

「いえ、周囲で耳を(そばだ)たせている者達の事です。間諜とも言いますが、彼等には違いが分からないと思いますので」

「そういえば居たのね。有象無象として気づかなかったわ」


 いや、ホントに。

 確かにチラホラと見えるわね。

 一つは楼国(ろうこく)の間諜だから私達に気づいて会釈していたが、残り二つが不明だった。おそらく他の二つもゴブリンと夢魔族だったから他に存在する魔族国家の者達だろう。

 レベル的に低すぎて戦闘にならないと放置していたけどね。

 すると、その瞬間──、


「わぁ!? なんなのこの轟音!!」

「凄い音ですね・・・あ、消えた」


 船から機体の一機が飛び出していった事が分かった。ルーナ達にはまだ示していない代物だが、この辺を嗅ぎ回る間諜が居るという事は、そういう事なのだろう。現地からは船の先端しか見えないしね? 近づこうとしては迎撃もとい場所を攪乱されて戻ってくる者が多数だ。

 私とマキナは有象無象を無視しつつ双眼鏡を取り出して離れていく機体をみつめる。


「クルルとタツトが偵察に向かったみたい」

「休息中でも小国連合の動きは把握しないといけないからね。本来の目的が叶うか否かは精密に集めた情報次第だから」

「今日の予定は確か?」

「地下神殿の探索ね。場所は迷宮神から示されているけど詳細は語ってないから」


 〈遠視〉スキルは相変わらず使えなかった。

 これもティシアとの国交が樹立しない事には無理のようね。周囲の間諜者達が使っている事から国交が無いと許可が下りないらしい。

 私とマキナは双眼鏡を片付けつつ、海上にボートを浮かべる。転移は地点発覚しやすいから使えないのよね。探索魔法を回避するステルス船とはいえ、転移対策は行っていないから。

 私達が頻繁に使う空間跳躍(くうかんちょうやく)もスキルである以上は使えないしね。

 ただ、その際に周囲の間諜がザワついた。


「とはいえ・・・」

「そうね・・・尾行するのはいいけど、少々多すぎるわねぇ」


 ザワついたってレベルの数じゃないわね。

 楼国(ろうこく)には詳細を報告済みなので、楼国(ろうこく)の間諜はこの場には居ないが、それ以外の数が多かった。

 中には変装した人族までも紛れこみ、まだ居たか・・・という心境に駆られた私達である。

 私はマキナと目配せし──


「ルーナ、マイカ、黒い船に直ぐ乗って!」

「「え? あ、はい!」」

「マキナも先に!」

「はい!」


 マキナが二人の乗船を手伝い、私が殿(しんがり)を行う事とした。


「さて。有象無象の皆様方、ここに居るのは死にたいから居ると認識していいわね?」

「なぜ気づいた!?」


 私の問いに応じたのはゴブリンの間諜だった。他の間諜は驚愕のまま動けないでいた。

 これも魔力感知を持つ者と持たぬ者の差か。


「気づかないとでも思ったの? 隠形魔法で隠れている者が多いけど、魔力隠蔽が杜撰過ぎるわね。自分からそこに居ますって示してどうするの? 吸血鬼の魔力感知を舐めすぎじゃないかしら?」

「つっ!?」


 ゴブリンの間諜だけは完全に舐めていたらしい。旗色が悪くなったからか、今度はスキルの〈隠形〉に切り替えた。バカ過ぎるわぁ〜。

 そのうえで船に乗り込もうと動きだし──


「はい。ざんねん。消滅確定ね?」


 私は横切るバカを視界に収めないまま〈無色(むしき)魔力糸(まりょくし)〉を打ち込んだ。ゴブリンも割と風味がいいのね。

 風味が緑黄色野菜かと思ったわ。緑だけに。


「な!? なんだと!?」

「隠せると思ったのだろうけど、経験の差が現れたわね〜。そのまま消えるといいわ。転生は出来ないから、諦めて死になさい」

「は?」


 ゴブリンの間諜も最後はきょとん顔のままこの場から消え去った。これは〈触飲(ドレイン)〉と魔力還元の同時行使ね。元々が間諜だもの。消え去ったとしても他国の国民を虐殺した事には当てはまらない。殺される事を覚悟したうえで覗き見を行っているのだから。


「さて、一人は消えたけど・・・残りも死にたい者から掛かってきなさいな? 私は寛大だから痛みを感じる間もなく消し去ってあげるわよ? 当然、次の転生なんて期待しない事ね? 貴方達の生死は私の手のひらの上にあるのだから」


 そう、殺気を含む満面の笑みで返すと一人二人と脱兎のごとく逃げ出した。それはレベル鑑定で見えないと気づいた者、称号鑑定で〈生死の女神〉と気づいた者、湧き出る魔力に気づいた者が大半だ。まぁ魔族はそんなものよね。

 だが、人族はそうでは無かった。

 強欲もここまでくれば極まれりね。


「はん! たかだか吸血鬼が偉そうに!」

「光の精に焼かれてしまえ!」

「銀の鎖で縛ってやる!」


 人族達はそう口走ると三方向から私を囲み、二人が光属性の魔法詠唱を始める。一人は銀の鎖を振り回し、私を束縛しようと放り投げた。

 私はそんな有象無象をみつめながら──


「そ? なら貴方達が焼かれてしまいなさい」


 離れゆくボートに浮遊魔法で飛び乗ったのち、三人の頭上に光属性の太陽を顕現させた。

 それは二人が行う魔法詠唱と同一の物であり、与えた魔力量が倍以上の代物だった。

 銀の鎖を持った者は高温を浴び、銀が溶けた事で大火傷を負っていた。


「ぎ、銀が溶けた!? 痛い痛い痛い!!」


 残りも魔法詠唱に集中しすぎていたためか、気づいた時には、三人纏めて炎に包まれた。


「「「ぎゃー! 熱い熱い・・・!・・・!?」」」


 最後は喉を焼かれ断末魔を上げる事なく、港の一角に黒い消し炭を残して消えた。

 それは魂諸共焼き尽くす聖なる炎だ。

 私は離れゆく港を眺めつつ呟いた。


「転生なんて期待しない事ねって・・・聞こえて無かったのかしら?」


 するとマキナが苦笑しつつもツッコミを入れた。


「お母様、日本語で話したんじゃ理解出来ないと思うよ? ギリギリで翻訳出来る言葉が伝わっただけだし」

「???」

「そうですね。小国連合の言葉で『一人は消した、死にたいなら掛かってきなさい。私は寛大だから一瞬で殺してあげる・・・』までしか聞こえなかったですね。あとはよく分からない音声が聞こえただけで」


 きょとんとするルーナはともかく、マイカもそのように聞こえたようだ。なるほど失念していたわ。海の側に出たら小国連合の言葉になるよう指定したままだったから。女神に関する言葉もミアンスの権限で封じられたのだろう。

 瞬殺が確定した者達だったから。


「そう聞こえたのね。とりあえず、ルーナは語学の勉強をした方がいいわね。これから先、人族国家にも出向く事が確定しているし・・・」

「え? 人族国家に出向くの!?」

「最初からそう言ってるでしょう?」

「ルーナ様はどこに向かうと思っていたのですか?」

「えっと・・・冒険の旅とだけ思ってて」

「確かに似たり寄ったりだけど、それはついでだからね? 本命を片付ける合間にちょっとした冒険を行っているだけだから」

「というより本命がちょっとした物で、冒険が主になっているでしょうね。現状を鑑みれば」


 ルーナは冒険目当てで付いてきていたのね。

 私とマキナはルーナのきょとんを眺めつつボート内だけを時間停止結界で覆い異物が無いか把握した。あら、困ったものね〜。


「こんな物まで用意して・・・他のゴブリンが退散したのはこれがあるからか。地点情報送信用の小石魔具ねぇ」


 私は手のひらサイズの小石を鑑定魔法で把握しつつ中身を書き換えた。場所を小国連合の東端という扱いでね? 物理的に地点情報を誤魔化し小石は海に捨てた。これは一種の発信機みたいなものね。誰の知恵なんだか。

 マキナも数個の小石を発見し、同じく地点情報を書き換えて海に捨てていた。合国港とか洋上国港とかね。マキナが行ったことのある場所を手当たり次第で書き込んでいた。流石だわ。


「時間停止のお陰で機能してませんが・・・」


 するとマイカが苦笑しつつ相手国を口走る。


「流石は帝国領に居を据えるセイアイ魔国の者ですね・・・用意周到というかなんというか」


 だが、私達には別名称に聞こえてしまい──


「ぷっ! なにその名前?」

「セ、セイアイって性愛の事?」


 苦笑するマイカに問い掛けた。

 マイカとしても反応に困る名称のようだ。


「そうともいいますね。淫魔族の女王の国家ですので」


 だが、主が誰か知った時、私達は納得出来てしまった。元々がそういう手合いなら納得せざるを得ないもの。淫魔族の女王ねぇ。

 あの時、消したのはそちらの精力だったか。

 おそらく楼国(ろうこく)民のフリして祖国に情報を流していた手合いだろう。この情報は楼国(ろうこく)にも共有しないとね。


「なるほどね。じゃあ、ゴブリン共は」

「無駄に精力の有り余る種族でもありますから、餌代わりで使われているだけですね」

「人族の女性を犯して苗床にするって話かぁ」

「こちらでもそのような手合いなのね?」

「「???」」


 ゴブリンは異世界では空想上の存在だからかマキナの発した言葉にはルーナ達もきょとんだった。合ってはいるが、なぜ知っているのかという感じね。魔王国ではゴブリンの生態は未知なる者という扱いらしい。楼国(ろうこく)にもゴブリンが居たけど隠していたみたいね。

 それはともかく──、


「!? え? なにこの船・・・」

「木造船ではない?」


 船が徐々に見えてくるとルーナは呆然とした様子で前方をみつめていた。マイカはひとめ見ただけで木造船との違いに気づいたわね。まぁ明らかに色合いで判別出来るし、木の継ぎ目自体が皆無だものね。今は〈希薄〉を施した状態で近づいていたから、周囲を進む船にも呼び止められる事はないのよね。

 実は停泊中の船にも〈希薄〉を代替適用する魔具を設置しているの。停泊場所を誤魔化すのは主にこの魔具のお陰でもある。

 今はシオンも居ないし私も出ているもの。

 眷属(けんぞく)達でも船体をカバー出来る程のスキルレベルに達している者はマキナ以外は居ないので、数回の行き来の間に設置したのだ。上陸前後で間諜達も騒がしかったしね?

 そうして船へと徐々に近づいてくると二人の目が点になる。その異様な姿と大きさに。


「「・・・」」

「やっぱり驚くかぁ」

「一応、大型船だからね。港に入るには海底を掘削しないと停泊できないもの」


 私とマキナは驚愕する二人の背後で世間話のように語り合った。その直後、遠方から轟音を伴ってクルル達が戻ってきた。


「!!? と、飛んでる・・・」

「て、鉄?」


 クルル達は私達に気づき、手を振っていた。

 旋回しつつ私達の目と鼻の先の船首より甲板に着地した。船尾から入ってもいいのだけど、船尾側に岸壁があって視認されやすいのよね。

 この機体は上界の一部と楼国(ろうこく)のみが知っている偵察機だから、必要以上に知られる訳にはいかないのだ。過剰装備過ぎて。

 マキナは驚く二人を余所に簡易桟橋へとボートを接岸させた。接岸も空間魔法による接岸だから海流で流される心配がないのよね。


「乗ったら更に驚く事になると思うけど、今は慣れるしかないよ? この国というか世界にはここしか存在しない類いの物が溢れてるから」 


 マキナはそう言いつつ桟橋に片足を置き、ルーナ達に手を差し出した。ルーナとマイカはマキナの手を借りて桟橋上へと移動した。


「こ、こんなに大きな物が浮いてる・・・」

「こ、これは・・・金属ですか?」


 私も桟橋へと移動しボートを片付けた。

 そして桟橋以外になにもない事を把握しマイカの質問に応じる。マキナは先んじてタラップを登り甲板で待つ者達に指示を出していた。


「ええ。大まかな部分は金属で外装は魔法無効を宿したドラゴンの鱗の塗料を塗っているの」

「魔法無効? そ、それって・・・シャイン・ドラゴンでは? 光属性のドラゴンの固有結界だったはずですよ? レベル300からでしか倒せない災害級の魔物・・・」

「そうなの? そういえば・・・ドラゴンの種類までは気にも留めてなかったわね」


 一番船はダンジョン内で狩った魔物だった。

 だが今回は合国で狩った魔物だと思い出した私だった。オリハルコンの弾で撃ち抜いたドラゴンの鱗が同じだったから利用したまでね?

 私はマキナの手振りに気づき、桟橋から動かないルーナ達に移動を促す。


「それよりも登るわよ? 踏板から海上が見えるけど気にしないでね。海風を素通りさせる物だから」

「は、はい。ルーナ様?」

「う、うん・・・ひゃあ! た、高い」


 あえてキャットウォークとしているためか、ルーナ達は怯えながら階段を登っていた。上を見ながら歩けば大きさに圧倒され下を見ながら歩けば恐怖に彩られる。ほんとに大変よね?

 私達にとってはいつものことでも、下界の子達にとってはなんでも初見になるという事ね。

 というか魔王時の雰囲気が完全に霧散しているわ。今は年相応の女子にしか見えないわね。


「さ、あと少しよ」

「ひゃい・・・」


 マイカもルーナの背後から介助しつつ登っていく。二人とも生まれたての仔牛みたいだわ。


「ルーナ様、頑張って下さい」

「う、うん・・・」


 それからしばらくして──


「「登り切ったぁ〜! へ?」」


 二人は無事に甲板へと立った。そこにはマキナを含む船員達が待ち構えていた。私とシオン、そして人族船員を除く総勢五十五人が。


「マキナ(さん)にソックリ!?」×54

「だから違うって!!」

「でも、シオンさんがモデルだもんね?」

「そ、それは違わないけどさ」


 ルーは(すで)に会っているからルーナの容姿を知っているが他の者達は別だった。

 リンスも王女様の姿で待ち構えて居るわね。

 子育て中の者達も。泥酔明けのシオンに子育てを丸投げしたようだ。ざまぁみろって事で。

 いえ、おっぱいが出ないのに子供達に吸われて感じているから・・・ざまぁではないわね。

 シオンにはあとで別の罰を与えますか。





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