第181話 吸血姫は行き先に迷う。
その後、新規で増えた人員に対し、リンスによる各種教育・・・もとい勉強会がコウ達が住まう第七十浮遊大陸・ログハウスにて開かれた。
これも、数日の間に様々な出来事が起きたため勉強会を開くどころではなかったからだ。
「いいですか。これから皆さんには後々に開拓される予定の未開大陸、その地を統べる王族となるための各種教育を受けて頂きます!」
「お、お、王族〜ぅ!?」×11
なお、ユウキはユウカの記憶を継承している関係で勉強会の参加は不問となった。というよりユウカが手放さなかったのよね。旦那を取らないでという重い愛を振りまいていたから。
その所為でユウカの百合もなりを潜め、ショウがしょんぼり顔でナディにあやされていた。ショウも刺激を変化させれば本能が目覚めるかしら? ユウカみたいに・・・。
一方、勉強会を開くダイニング脇では──
「ツーちゃん。楽しそうね〜」
「キャッキャ!」
コウは生まれたばかりの男の子をあやしながら懐かしそうに眺める。
その男の子はゴウに良く似た有翼族の赤子だった。コウは子供を初めて見た瞬間より母性に目覚め、今は楽しげに子育てしていた。これも子供が生まれる瞬間、刷り込み対策として母親を工房へと呼び寄せて居たのだけど赤子よりも母親の方が刷り込みされてしまい・・・今に至る。
有翼族は鳥かと思ったけど普通に自分の母親が誰なのか判別していたわね。
その証拠に二人目の女の子が生まれた瞬間、コウを見て違うと判断したようでキョロキョロと遅れてやってきたクウを探していたから。
この時のクウはゴウを引き剥がすのに手間取ったらしい。子供達を俺にも見せてくれと、腰に掴まって放さない父親と化していた。
ちなみに、コウの子はツヨシと名付け、クウの子はカオリと名付けた。これもコウとゴウの前世名が由来なのだけど長男長女として扱うなら仕方ないと受け流した私である。
そしてミュウの子は──
「勉強よりも・・・アユミの相手していい?」
「ダメです。今は乳母代わりのコウさんが相手をしているでしょう? これは誰もが通った道ですので、諦めてください」
「うぅ・・・」
アユミと名付けたらしい。なんでもその名はリョウの本当の妹の名前だそうで忘却しないための措置らしい。ミュウは勉強嫌いかしら?
子育てに逃げようとしてリンスから首根っこを掴まれ、引っ張られていたから。
レベル差がここでも出ている件について。
§
何はともあれ、急遽増えた人員達の事は置いといて、私達は私達で次なる寄港地探しを行っていた。今は帝国船籍と楼国船籍を同時に表し種族選択方式に変更した。一々船籍を切り替えると魔王国の状況が読めないからね?
とはいえ、状況が読めるようになっても有翼族達の追跡は執拗に続き、私達のストレスも最大になりかけていた。
そろそろどこかしらで休まないと船員のストレスが限界突破しそうなのよね?
今回はストレスが原因で子供を作った者達が居ただけに油断出来ないと判断した私だった。
「魔王国の港・・・吸血鬼族が領主である地に寄るべきか、小国連合の西端に寄るべきか」
「途中で合国船を救助していたところを目撃されているでしょうから、西端は避けるべきでは?」
「そうね。捕虜として『その者達を引き渡せ』とか言いそうよね・・・殺したも同然だから、船内には居ないけど」
「居ないと言っても突っぱねて捜索するでしょうね。甲板以外は入れませんが」
私とナギサは海図を開き、これから立ち寄る地を選んでいた。船は停泊させているため、これ以上先に進む事はないが。
一応、船橋にはリリナ達も待機している。現地を知る者が居ないと、私達だけでは判断出来ないから。
「というか一つだけ吸血鬼族なのね」
「古来より住まう一族のようです」
「という事は新参者が周辺を囲っているのね」
「ある意味で偵察向けの者達ですからね。二千年もの間に重用した結果でしょう」
そう、私達は寄港すべき港を探す。
一つは魔王国の港、魔王に連なる眷属が領主のソミュテルなる港街。
一つは小国連合の西端、私が合国との火種を巻き起こした、ニラント島なる小島だった。
小国連合は数多くの小島からなる小さな国家群の集まりで、合国とは異なり国家間で話し合いの場を持ち意思統一の決議を行う国家群だ。
それも最近までは分裂していたのよね。
敵が出来た事で再統一したようだけど。
すると、黙って話を聞いていた──、
「なぜ迷うのですか? これほどの軍備を持つ船ならば、天敵など全て一掃すればいいのでは? そのうえで適当な寄港地に寄れば済むのではないですか?」
リリナ達に浮かせられた半裸のローナが会話に割って入った。彼女も転移門経由なら行き来が可能だものね。船内移動は亜空間の門があちこちにあるから不死者以外は行き来出来ないけど。
ただ、今のローナは顔色が悪くやつれていた。
人魚族にもストレスという物があるらしい。
今は気晴らしで上がってきたようね。
でも、ローナの言葉は少々物騒よね?
私達もしたくても出来ないのが本音だけど。
私はナギサと目配せし、居住まいを正したナギサがローナに応じる。
「ローナ姫殿下の御提案は魅力的なものですが、それは無理な相談です」
ローナはナギサが首を横に振りつつ否定した事で引き攣りつつも問い掛ける。
「む、無理って・・・なぜですか?」
姫殿下という立場で物申しているからか少し高慢ね。これも他国の王族たるリンスがこの場に居ないから出来る事でもあるけれど。
ナギサは私を一瞥しつつ──
「それはこの船が魔族国家の船籍で航行しているからです。あちらが攻めてくるのであれば迎撃はします。ですが今は探りを入れてくるだけで攻めてはいません。彼等も分かってはいるのです。攻めれば友好関係を結んでいる楼国との戦争になる事を。我らも同じ選択はしたくありませんから(主の神罰は除く)」
ローナの問い掛けに応じた。
ナギサの思考は苦笑する内容だけど。
ローナはナギサの返答を受け、思案する。
「そ、それは・・・祖国を護るため、という事ですか?」
ただね・・・ローナ自身はナギサ達がリンスに仕える者と認識しているようだ。祖国と捉えられると少々違うのよね。リンスも楼国が祖国とは言ってない。楼国王の祖国の姫であると明かしているから。
ナギサは思い違いに気づきつつ訂正した。
「祖国というと語弊がありますが・・・私達はあくまで同族同士の争いを望まないのです。まぁ彼等からすれば変異した同胞を確保するという目的が主のようですが、その変異がどういう意味を持つか知らないため、あのような暴挙に出るのでしょう。度し難いことですがね・・・」
そう、自嘲するかのように言葉を締めた。
だが、この訂正もローナの耳には入っていなかった。ローナは自身に危険があると感じているからだろう。船橋にも居るものね? 有翼族が。
ルーがジト目でローナをみつめていたから。
「そ、それなら・・・」
「いえ。それは出来ません。ホンス領では主様自らの発布により追っ手は手を引きました。ですが・・・噂というのはどれだけ対策を練っていようともひとり歩きするのです。他領は無知故に我らを執拗に追いかけています。その先に自らの死滅が待っている事にも気づかずに・・・」
終いにはナギサまでも苛立ちを表した。
あら? ナギサもストレスマックス?
これはローナが言おうとした言外の内容に怒ったともいうけれど。
船内の天敵を全て引き渡せってね?
それは無理な相談よね。
ともあれ、ローナもナギサの苛立ちに気づいたのか最後は沈黙した。主であるリンスに知られると、この後の条約締結が霧散すると思ったようだ。ナギサ達の主は私達なんだけどね。
私は両者の沈黙を余所に──、
「とりあえず、船体が南に向いているから、このままソミュテル領を目指しましょうか。魔王も数日中には訪れるとの事だしね。寄港後に御尊顔を拝むのも面白いでしょう?」
「了解!」
操舵を行うルーに命じた。本来なら操舵はリリカが行う事なのだが今はローナの面倒をみているからだ。シオンも上界にある有翼族達の集落に挨拶しているしね?
将来の長となる者達の子育て応援として。
その後の私達は微速のまま前進し寄港地を目指した。その間の船橋はローナが居るにもかかわらず笑いが飛び出るほどの騒ぎに発展した。
現在の船橋にはフーコとルーが居り──、
「魔王の御尊顔かぁ〜どんな子だろう?」
「すごい可愛かったよ?」
「ルーは知ってるの?」
「うん。金髪のマキナって感じだった。顔立ちは少し違うけど、マキナのように身体付きが凄いエロいの! ロリ巨乳って感じ?」
「へぇ〜。それは凄い興味ある〜!」
マキナが私の隣に座っていた。
実質、自動航行を追加したお陰で船橋内は人員削減状態となっているが、その分・・・指揮所の方に割り当て人数が増えている状態だ。
甲板誘導関連で追加されたともいうけれど。
「エロい言うな! というか金髪の私ってどういう意味?」
「金銀で対となす見た目ね。ツインテールの時のマキナに似てるって意味よ。身長的にも体型的にも」
「それはそれで超微妙・・・」
「というよりキャラ被りそのものね」
「「マキナとキャラ被り!?」」
「ツ、ツインテール、やめようかな・・・?」
マキナのキャラ被りが魔王として現れる。
マキナとしては如何ともしがたい気分だったようだ。もしかすると・・・いえ、あれは小柄のシオンを元にユランスが用意した子なのかも。
顔立ちを少しいじって愛嬌のある姿に変じていたし。今のマキナが美少女なら、あちらは美幼女だろう。それくらい似ていたから。




