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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第八章・制空権を奪取しよう。

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第177話 吸血姫は眷属の行動に驚く。


 それは夕食時の事。

 ユウカの弟、ユウキが船内に現れた事で周囲は別の意味で大騒ぎだった。ユウカはニコニコとした表情でユウキを隣に侍らせ、苦笑するショウ達と共に夕食を頂いていた。

 ショウもそこまで気にしていないようだ。

 自身の身体に関しては少し複雑そうだが。

 そして、その大騒ぎの大元は──、


「誰だあのイケメン?」

「あんな奴、船内に居たか?」

「知らないのか? ユウカの弟だと」

「は? どういう事だよシロ?」

「ユウカって男嫌いだったはずだろ?」

「男嫌いでも例外があるんだろ・・・」


 シンとケンというエルフ二人組みとシロの間で起きた。三バカの内・・・彼女待ち(・・)のシロは興味無しという状態だったが。

 シン達は無念という素振りで突っ伏す。


「例外か」

「クッ・・・俺等のチャンスが消えた!」


 シロは呆れながらもフォークを咥え──


「チャンスって。相手は上でみつけたらいいだろ。お前等は長生きなんだし。いつかみつかるさ。それか身近な、アキを受け入れるかだな」


 食堂脇でお代わり中のアキを見る。

 シン達も決められた席に向かうアキを見る。

 その視線は可哀想な者を見る目だった。


「アキの・・・顔と身体はいいんだがな」

「アキは無いな。あれは無い。変態だし」


 直後、アキがきょとん顔で三バカの元に来る。


「呼んだ?」


 両手の間には山盛りパイが盆に乗っていた。

 シン達は苛立ちを浮かべ、揃って突っ伏す。


「「呼んでないからあっちで飯くってろ!」」

「そう? まぁ・・・いずれ良い事があるよ、きっと。それと・・・ごめんなさい!」


 アキはそう言うと顔を真っ赤にさせて自席に戻る。あら? 心境に変化があったのかしら?

 なぜか謝られた二人は途端に顔を上げる。


「「!!?」」


 シロはニヤニヤ顔でシンをみつめ残念がる。


「あらら。会話を聞いてたみたいだな。シンは脈ありだったのに・・・残念だ」

「はぁ!?」

「ど、どういう事だよ!」

「知らないのか? アキはシンが好きだったんだぞ? これは(ユキ)からの情報な!」

「う、うそだろぉ〜!」


 それを聞いたケンは叫び声を上げる。

 周囲はうるさいとでもいうように睨むが。

 シンは席を立ちアキの元へと駆け寄った。

 しかも服を一瞬で脱いで全裸土下座した。


「ア、アキすまん! 許してくれぇ!」


 するとアキは満面の笑みとなり──


「冗談だよ〜。シンは許しちゃう!」

「ほ、ほんとか!?」

「もちろん! さ、一緒に食べよう?」


 シンを立たせて座るよう促した。


「というか服着たら?」

「お、おう」


 シンは換装魔法を行使し、元の姿に戻る。

 この瞬間・・・エルフのカップルが成立したため、一人叫んだケンは唖然(あぜん)となった。


「なん、だと・・・」

「これもマキナへのセクハラが原因だろうな」

「おぅ・・・というか、お前だってマキナのおっぱい揉んでただろうが!」

「あれは事故だろ! 大体、俺は彼女が居るからな!」

(ユキ)はまだ転生前だろうが!!」

「それでもタツトみたいな可能性を夢見たっていいじゃないか! クルルという綺麗な嫁が出来たんだからな!」

「お前等うるさいぞ! クルルが綺麗なのは同意するが」

「もう! タツトったら〜」

「いつからこの船は惚気が多くなったんだ?」


 これは他の面々を起こすしかないようね?

 ダークエルフでいいなら近いうちに目覚めさせる予定だけど。ケンの好みと合致するか私でも分からない。マキナも分からない? そう。

 ちなみに、今日の夕食はミートパイである。

 牛肉は例の極上肉でレリィとミーアが共同で用意した家庭料理の一つだ。ここ最近はミーアも腕前が上達し、リンス達の舌を唸らせる料理を用意出来るようになってきた。

 これも船内に王族が居る事で、良い結果を招いているのだろう。とはいってもローナはバラスト部からの移動が出来ないでいるため、ナディとショウが釣った魚で餌付けされているが。


「お、お魚は美味しいけど・・・ここはどこなのですか?」

「今は・・・ニーユ魔王国の北部海上ですね」

「え? あの危険地帯?」

「そうです。それよりもローナ、食事はお淑やかに」

「は、はい。リリナ姉上」




  §




 そして夕食後。

 私は人化したルーと共に甲板へと向かう。

 時刻は深夜の手前。本来なら哨戒も有翼族(ハーピー)達が行うのだが、周囲を魔王国の有翼族(ハーピー)達が彷徨き、ルー達も思い思いに飛べないでいた。しかもルー達を拉致しそうな雰囲気を全員が宿し・・・物騒な網を背負っていた者も居たのだ。

 私は操縦席を単座から複座に切り替え──


「ルーは後部座席に取り付けた魔道具を操作して。操縦は私が行うから」

「分かりました!」


 浮遊魔法を行使して操縦席に乗り込んだ。

 私の専用機は設定で単複の変更が可能だ。

 ルーも後部座席にジャンプだけで乗り込み、シートベルトを装着する。有翼族(ハーピー)だから足腰がしっかりしているのよね。

 私はエンジンを始動させつつ待機場から発着場へと移動する。その間に主翼と尾翼の稼働チェックを行い、ルーへと指示を出す。


「今日は魔王国上空を飛ぶから、ルーは国内の通信・・・念話を傍受して全て記録していって」

「ぼ、傍受ですか?」

「そうよ。未だに顔の見えない魔王が居る国だもの。端っこの領主の暴走を放置しているのは少し困りものだからね。作戦で動いているなら丸裸にして回避すればいいし、もっと奥に入り込んで・・・魔の女神に丸投げしてもいいしね」


 私はそう言いつつ、スロットルレバーを最大に動かし、急加速で甲板から発進した。

 ルーは飛び立つ直前まで静かだったが──


「そ、それが出来るのはカノンだけじゃ?」


 上空に着いた途端、ボソッと呟いた。

 表情は見えないが苦笑しているのがわかる。

 今は自身で飛ぶのとは訳が違うため、キャノピーの外をキョロキョロと見ているようだ。


「だからよ。お陰でこの機体を表に出さないといけなくなったし、ルー達も飛べなくてストレスを溜めてるでしょ? 最近では〈希薄〉すら使わない者が増えたもの。他者に見られる事に快感を覚えてそうだしね?」

「それは・・・まぁ・・・そうですが・・・あ、快感は・・・無きにしも非ず、ですが」


 私は光信号を明滅させながら二番船と距離をとる。念話でのやりとりでもいいが、底部に取り付けた念話傍受の魔道具と干渉するからね。

 そして会話しながら魔王国上空へと進路変更した。話題はコウの恥ずかしい話だけど。


「その証拠にコウが」

「あ・・・ですね。あれには驚きました・・・」


 ルーは思い出す。コウが乱れた日の事を。

 それはここ数日の間、魔王国の偵察隊が頻繁に船の周りを飛び回り同胞が居ないかと探っていた。有翼族(ハーピー)達は警戒して第二格納庫から外に出ず、甲板に出る時は人化するという手段しか執れなかった。

 人化すれば吸血鬼族と思われるだけだしね?

 ただ、余りにも執拗な追跡が行われ続け、最後はコウが苛立ち気に酒を呷り、酔った勢いで自室で眠るゴウを襲った。今は血縁こそ無いが妹が兄を襲うという珍事が巻き起こったのだ。

 翌朝のコウは襲った事など覚えておらず、ゴウは脈ありと思い込みコウの尻を追う。

 今はクウがゴウを押さえ込み、コウの元へといけないでいるが、これも時間の問題だろう。

 私は結界上部に着くと偽装結界に干渉し──


「コウは嫌い嫌いって感じかしら?」

「そうですね。割とゴウさんの事が好きですよ。素直じゃないだけで・・・」


 ルーと会話しつつ魔道具を起動させる。

 あとは上空移動と共に真下の念話内容を全て記録していく。この後は真っ直ぐ南下し大陸全土を丸裸にするだけである。

 終わったらUターンするだけね?

 片手間で行えるのも自動記録の魔道具のお陰よね〜。結界干渉で拾えるので大助かりだ。


「そうなのね。まぁ執拗な追跡が原因というのもやりきれないけど」

「コウも『私は中古だ!』と言いたくなったのでは? 嫁候補というなら私自身もそう思う事がありますし。丁度良い相手が居るなら襲いたいですよ・・・今は居ませんが」

「だといいけどねぇ。以前も言ったでしょ? 互いが求めない限りって話・・・」

「ああ。そういえばそうでしたね・・・でも、それがなにか?」

「それがって・・・貴女達はね。求めない限り回復するのよ。羽根や髪の毛と同じでね?」

「羽根や髪の毛・・・あ!」

「思い出した? ルーにもいずれ現れると思うけど互いに求めた時だけなの。ルーの場合、有精卵という意味になるけど」

「そういう事でしたか・・・じゃあ中古にはならないかぁ〜」

「そうね。クルルやレリィ、ニーナもそうね。ユウカも今晩辺りハッスルしそうだけど、全員回復するわ。なにがとは言わないけど」

「そ、それは・・・なんというか」

「希少性も有り難みも無い話ね。仮に一人産んでも元に戻るわよ? 現にリンスの母上を検査したら」

「したら?」

「完全回復していたから」

「・・・」


 ルーも最後は絶句していた。

 つまりはそういう事である。

 その間も傍受は続けられ、私はルーが黙り込んだのを口実として念話を聞く事にした。

 沈黙に耐えられないというのもあるけれど。


⦅近日中に魔王様が北部視察に出られるので準備を行うように⦆

⦅なに!? そ、それは不味い・・・⦆

⦅どうした? なにを焦っておる?⦆

⦅い、いえ、なんでもございません。早急に準備致します⦆

⦅そうか頼んだぞ⦆


 それは中央から北部への命令だった。

 暗号化されていない? ああ。傍受と同時に復号化されたのね。流石はユランス提供の魔道具だわ。丸裸という意味がよく分かる話ね?


「北部の言う不味いってどういう意味かしら?」

「さぁ?」

「まぁ考えても仕方ないわね。続きを・・・ポチッとな!」

「・・・(カノンて時々おっさんみたい)・・・」

「おっさんて思わないように。それはフーコの専売特許だからね?」

「ヒッ!? す、すみません!」


 全く、こんな美人を相手におっさんなんて失礼しちゃうわ〜。フーコがおっさん女子なのは今に始まってないけど。

 一方、念話の再生は自動的に始まった。


⦅魔王様、用意が整いました⦆

⦅うむ⦆

⦅ではこちらのお召し物を⦆

⦅・・・おい。なんで女児物なのじゃ?⦆

⦅なんでと仰有(おっしゃ)いましても⦆

⦅もう少し威厳ある衣装を用意出来ぬのか?⦆

⦅なにを仰有(おっしゃ)います! これが魔王様の愛くるしい姿を最大限に引き出す⦆

⦅もうよい! 我が自力で用意する!⦆

⦅それはなりません! 国が滅んでしまいます⦆

⦅そのような事で滅びるか!⦆

⦅では、魔力鍛錬の講義には出ておられるのですか?⦆

⦅ぐっ・・・そ、それはじゃな・・・⦆


 なんだろう? 魔王様って子供なのかしら?

 声音を聞く限り、妙に幼児っぽく思える。

 もしかすると、代替わりしたばかり?

 口での会話ではなく念話なのは魔王城での不穏な動きを察知しての事かもしれないが。

 私とルーは上空より声の主を〈遠視〉する。

 そこには愛くるしい姿の同族が居た。

 身長はマキナと同程度。

 胸はリンスよりも大きく、ツインテールの金髪がピコピコと動いていた。

 吸血鬼族の年齢は有って無いようなものなので〈鑑定〉してみない事には分からないが。


「へぇ〜。リンスよりも年上じゃない。元々地上に居る一族かもしれないわね。シオンの系譜って訳ではないみたいだし」

「そのような者達も居たのですね」

「女神が別に用意した者達でしょうね。シオン一人で賄いきれるものではないから。レベルは210か。そこそこ強いという感じね」

「カノンからすればそうかもしれないけど」

「ルーもそろそろでしょう?」

「それはそうだけど・・・」


 というか、この国も吸血鬼族が主体なのね。

 王都を見るとかなりの数の吸血鬼が日傘を差して活動していた。夜の世界の住人か・・・。

 シオンの眷属(けんぞく)ではないから分け与える事は出来ないわね。残念だわ〜。

 とするなら以前の領主の言ってた言葉は?

 ルイに対する暴言は問題発言よね?

 ルーもその点に思い至ったらしい。

 私は操縦しつつも思案する。


(もしかすると・・・クーデターでも行うつもりとか? 幼い魔王に国を任せたくないから?)


 私は操縦を自動に切り替え〈遠視〉しながら魔王の体型を計り、素っ裸のままうろうろする彼女に威厳ある衣装を転送で送りつけた。

 異世界式の下着も込みで!

 威厳が無いから不安視させるのだもの。

 それなら威厳を持たせた方が良いでしょう?


⦅わぁ! な、なんじゃ!? この着心地の良い衣装は!⦆

⦅!? ま、魔王様がお作りになったのですか?⦆

⦅そんな訳なかろう! 突然現れたのじゃ!⦆

⦅突然・・・ですか? 見たところ、仕立ての良い極上の生地が使われているようですね⦆

⦅うむ。これが我の求めていた物そのものじゃな!⦆

⦅しかし、一体誰が?⦆

⦅魔神様じゃろうな。あの方は気まぐれ故⦆


 案の定、ユランスも定期的に行っているようで今回の事は受け流してくれるだろう。

 と思ったらユランスがあっさり暴露した。


⦅吸血鬼族の長ですよ〜。衣装提供したのは⦆

⦅⦅はいぃぃぃぃぃ!?⦆⦆

⦅同じ長として心配されたのでしょうね〜⦆

⦅!!? お、長とはなんですかぁ!⦆

⦅傍系の長たる貴女とは直接的な関わりが無い長です。常陽(じょうよう)を歩く完全なる不死者。楼国(ろうこく)の同族達も恩恵を得て今や夜のみで生きる者は居ませんよ⦆

⦅⦅!!?⦆⦆


 流石に暴露しすぎじゃないの?

 裏の立場を明かしてないからいいけど。

 直後、ルーは私が行った事に気がついた。

 背後から(いぶか)しげな視線が突き刺さる。


「カノン?」

「こ、これで威厳が保てるなら万々歳でしょう。今回は見た目だけの衣装だし」

「付与はしてないの?」

「操縦しながらは流石に無理よ」

「それもそっか・・・」


 その後の私達は傍受した念話を聞きながら魔王国を南下していった。南極手前まで大陸があるなんてね。大きすぎるわ、この国家。

 ちなみにこの時の速度は音速を超えている。

 途中で何度も衝撃波が発生し、結界外には最初の音を聞きつけた有翼族(ハーピー)達が現れ、ものの見事に吹き飛ばされていた。

 ルーはそれ等を見て拝んでいた・・・南無と。





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