第174話 騒動を掃除していく吸血姫。
それはルーとフーコに罰を与えたあとの事。
今度はコウまで毟ってと願ってきたため、私は仕方なく羽根を毟り──、
「「見て見て〜!」」
「おぉ!?」×3
「!?」
ルーとコウは真新しい羽根を広げ、有翼族達の目の前でお披露目していた。
上下のセパレート水着を着たまま交互に腕を組んで身体中の羽根を一同に示していた。
ルイは姉の変化を見て絶句し、キョウは興味本位が勝ったのかコウに問い掛けていた。
「どうしたのよ・・・それ?」
「羽根を全部毟ってもらった〜」
「え? どういう事なの?」
「毟った事で生え替わったの〜」
「生え替わった? 先ほどまではモサモサだったよね? 羽毛がお尻の方に余ってて」
「うん! それも全部無くなって〜、きれいさっぱりになったの〜」
「わ、私はほら? 罰だったけどね?」
「そ、それで、そこまで変化したの?」
「「うん!」」
「わ、私も毟って貰おうかな・・・」
これも本来なら反省を促すために行った事だったが、先ほどの一件を忘れる辺り、ルー達も鳥頭だという事を思い出した私であった。
この分だとキョウもお願いに訪れそうだわ。
交互に行う羽繕いではきれいに出来ない部分もあったから。抜くだけで痛みが出たりね?
きれいな雌でいたいのは元人間の価値観が根付いているのも要因だろう。
一方、きれいになった銀髪等を靡かせたフーコは素っ裸のまま船内を悠然と練り歩く。
「どう? きれいでしょう!」
よほど嬉しかったのか、野郎共の視線を浴びても有象無象として処理するフーコだった。
フーコを見た三バカは微妙な顔をしていた。
「フーコの羞恥心はどこ行った?」
「あそこまで堂々としてるとエロくないな」
「だな。体型的には魅力的ではあるが・・・」
「少し恥じらいがあった方がそそるんだが」
「俺は雪一筋だから興味ねぇわ」
恥ずかしいという素振りがない者には興味すら湧かないという事だろう。船内の誰もがフーコの姿にスルーしていたから。
むしろ頭が沸いたとさえ思う者が多かった。
これも元々百合女子という事もあって相手にされない認識が先んじたようだ。
それもあってか話題がマキナに転換した。
「嘘つけ!?」
「マキナの胸を揉んだって聞いたぞ!」
「あ、あれは事故だ! 確かに・・・柔らかかったな。こう、弾力があって押せば返す的な」
「事故で揉むとか、なんというラッキースケベだよ! 俺なんて普通に触れるだけで頭が何度も潰されるのに!」
「う、うらやまし過ぎて血の涙が出るわ!」
「わ、私をネタに大騒ぎしないで!」
「「「おぉう、マキナ居たのか?」」」
「船橋に戻ろうって時に聞こえてきたの!」
マキナの性癖はドMであってもノーマルだ。
異性への羞恥が存在し女性には興味がない。
これも色々拗らせた私とは真逆なのよね。
マキナの性癖はシオン譲りでもあるし。
今も顔を紅潮させて三バカを怒鳴っていた。
§
ともあれ、そんな罰にもなっていない光景を示された私は二番船を通常速度に戻し、通常航路から外れた海域で一度停泊させた。
「各員、通常シフトに戻すから交代で寝るように。それと今日の哨戒は不要だから全員羽根を休ませなさい」
「『了解!』」
時刻は深夜零時。煌々と照りつける太陽が存在する昼間の時刻。それは誰もが眠りにつく頃合いではあるが、私は有翼族達の追跡もなくなり、急加速の件も相俟って総点検の予定を急遽入れた。
ナギサやマキナを含む船員達が船橋から居なくなり、個々の部屋に戻った事を把握すると、テーブル上の水晶板を箱状に立ち上げて立体映像に切り替える。
「船底は異常なし、全船側も異常なし、各魔法陣も問題無しね」
それは船体メンテナンスの装置でもあった。
魔力経路を通じて破損箇所を把握するための専用魔具ね。通常は海図や戦況を映し出す道具でもあるが物質として存在する以上破損は切っても切れない関係にあるため用意した物だ。
その後、各監視カメラで船内外を注視する。
「バラスト部・・・ローナはおねんね中っと。リリナ達姉妹も一緒に寝てるのね。弾薬庫の補給は追々として、第二格納庫・・・あら? ハルミ達ったらそんなところで寝て・・・まぁ自動二輪を走らせる機会は無かったものね。跨がったまま幸せそうな表情で寝てるわね」
私は船橋内のシステムを監視モードへと切り替え、脇の扉から外デッキへと出る。
周囲を眺めつつ外階段を降りていく。
「さて、続きでも行いますか」
そして左甲板脇にあるエレベーターを稼働させ第一格納庫へと降りていく。この格納庫は船内からも移動可能だが内部が無駄に広いため、エレベーターから降りた方が早い。
格納庫の内部には部品倉庫やらメンテナンス室が存在しており、錬金術士以外は入室許可が下りない。今は私だけが許されているけどね?
私は中程にある扉を開けて灯りを点ける。
この部屋は私の工房そのものだ。
そこには灰色の円柱塊が鎮座していた。
数は二つ。これも追々用意する予定の魔道具部品である。甲板の長い揚陸船ときて、次にくる物は大体決まっているけどね?
「エンジン自体は出来ているから・・・」
私は近くに置いたテーブル上で図面を引く。
「次は機体ね。操作系は異世界で得た知識を流用しましょうか。形状は最新型でいくか旧式でいくか・・・悩みどころね。簡単に作り出せる物にすると鹵獲されたあとが大変だし」
図面上では円柱型と二等辺三角形があった。
円柱型ならエンジンは一つで済むが、動きそのものを回転式に変更しないといけない。
二等辺三角形ならエンジンを二つ載せる双発機となり、現状維持で済む。
「墜落・・・いえ、片翼でも飛行可能にするなら双発が無難か」
今回用意したエンジンは円柱型であり、内部を空間魔力が通過する事で内側に刻んだ風力操作陣が稼働し後部より爆風が発生する物としたのだ。これは魔力が薄い下界でも飛ばす事の出来る代物で主に実験的な扱いで用意している飛行機である。飛空船とは異なり緊急時以外は浮遊魔法を使わず純粋な揚力のみで浮かぶのだ。
しかもこれには上空1万メートル近隣まで上昇すると自動的に吸引が止まり、滑空するように高度が下がる仕組みを設けている。
エンジン自体には鹵獲対策があるのよね。
私は図面をサラサラと書き起こす。
その後、ツナギに着替えたのち──
「二等辺三角形で用意して尾翼は二つ。機体には船と同様の素材を使いましょうか」
イメージ通りの骨組みを亜空間に用意する。
そしてそれぞれの部品を格納庫へと取り出し、一つ一つ組み立てていった。
「破損を考慮して今回はネジ止めとしましょうか。溶接出来る場所は溶接でもいいけど・・・簡単に脱落しないよう留め具を忘れずに」
なお、この格納庫は船体の幅を軽く超えていた。これも空間魔法のなせる技であり二番船一隻で数百機は止められる広さを持っていた。
この一番機は試験機なので複製こそしないが、需要があれば量産機を用意する予定だ。
試験機だから複数の不具合があっても不思議ではないからね。乗るのは当然、私だけど。
「完成したわね・・・〈創造〉スキルがあって良かったわ。普通なら手間暇がかかる物だけど」
私は完成した機体にタラップを寄せて操縦席に乗り込む。ヘルメットも一応作っておいた。
不死だから死にはしないけど用心のためね。
「充填魔力で起動、エレベーターへ移動開始」
外側隔壁を開けたのちエレベーターで甲板まで上昇する。本来なら誘導員が必要な部類だが今回は船橋システムとリンクさせたため、自動的に誘導灯が稼働するようになっている。
元々用意する予定で組んでいた物だしね。
「エンジン始動、主翼と尾翼の稼働確認・・・完了。試験飛行・・・行きますか!」
私は軽い感じでスロットルレバーを最大に動かし操縦桿を手前に倒して甲板から発進する。
これも加速前は充填魔力が割り当てられ、加速すると空間魔力に自動的に切り替わるのだ。
「重力魔法の稼働確認完了! やはり飛ぶならこれが一番ね。異世界以来かしら? 空を飛ぶの。これは追々複座式にするのもアリね。マキナが乗りたがるだろうし」
ただね? 甲板から爆音が響いたため──、
「えぇ!? ひ、ひ、飛行機が飛んでるぅ!」
監視台で舟を漕いでいたユウカが大絶叫していた。そういえば今日の担当だったわね。
私はユウカの叫びを余所に上空1万メートルまで急上昇した。
「えぇ。空高く上っていった・・・どゆこと?」
灰色の機体は雲間を次々と突っ切る。
高度は9千メートル。そこから機体の向きを水平に切り替え、機体状況を確認する。
「破損は・・・無し。積層結界様々だわ〜」
そして高度を徐々に上げ1万メートルに達するか否かの時点でエンジンが止まり、滑空モードに切り替わった。ここから数千メートルまでは操縦桿が自動的に動いて安全圏まで移動するのだ。鹵獲対策の稼働も確認したわね。
ミアンスの驚き顔が目に浮かぶようだわ。
⦅な、なんなんですか、それぇ!?⦆
おっと、驚きながら念話してきた。
他の女神達も驚いているようだ。
なお、某三女は──、
⦅あとでステルス機の融通よろしく〜!⦆
欲するかのようにお願いだけ飛ばしてきた。
まるで知っているかのような物言いよね?
⦅姉上も知ってるのぉ!?⦆
⦅うん、知ってるけど?⦆
⦅これは・・・お説教が必要ね!⦆
⦅なんで!? お、お尻はやめて〜!⦆
⦅うりうり! 教えなかった罰よ!⦆
私は女神達のじゃれ合いを余所に〈希薄〉させつつ海上へと戻る・・・のだが二番船との距離は数千キロもあった。結構、離れたわね。
現地は小国連合の西端。
そこは数ヶ月先にたどり着く場所だった。
「あら? こちらでも戦争が続いているのね」
ただそこは内紛とでもいうような争いが続いていた。それは帝国寄りと洋上国寄りの国々の争いだ。中立国家群も内部は分裂しているようだ。海上を占拠する邪魔と思える争いよね?
私は先々を見据え──、
「航路上で邪魔だし、片付けましょうか」
両翼真下の亜空間庫の蓋を開け二対の還元ミサイルを時間差でパージした。直後、急降下で落ちる還元ミサイル。それは海上で睨み合う両国の旗艦を一瞬で消し飛ばした。今回は魂諸共消す指定だったため転生する者は存在しない。
「ゴミ掃除完了! さて、帰還しますか」
私は旗艦が消えた事で呆然となる兵達を眺めつつ飛行機を急加速させた。〈希薄〉が作用しているため轟音は一切響いていなかった。
これが〈希薄〉無しなら爆音が響いて空まで炎弾が飛んできたでしょうね。届かなくとも。




